114話 群長たちとのお話
「さて、『ニッズュン』で起きたことを話そう。…とはいえ一言で済むが。そこの夫妻が神殿内で爆発を引き起こした。それだけだ」
雑!? びっくりするぐらい雑です! ありとあらゆる過程を省いて簡潔に言っちゃえばそれだけですけれど、それにしても雑ですね!?
…それなのにどうして皆さん頷いているんでしょうか。
「どうしても何も…。あんたら勇者なんだろう?だったら力があるのはわかってるんだよ。俺っちたち」
「サンコプの言う通りなんだよねー、勇者様だったらまぁそんなこともあるよねー。あ。どんぐり食べる?」
「とはいえ…、私の記憶にある限り、皆さまのお力は上位レベルだと思いますがね。ここまで爆発音が届いているのですから」
「「「間違いない」」」
完全にスルーされたスーラさんを除いた11人が頷く。
…そう言われても、どう反応するのが正解なのだろう? 素直に喜んだらいいのか? それとも、怖がられそうと怯えたらいいの?
「…どっちでもいい。…二人が無闇に力を振るうことはないでしょ?」
「そーだよ」
「そうですよ」
「うんうん」
相変わらず子供たちの信頼が重いなぁ…。ま、元から勇者としての力 (物理)をやたらめったらと振るう気はなかったけれど…、信頼に応えられるようにしないといけないね。…力 (権力)もだけど。
「なあ。皆。僕さ。少しだけあの夫婦が怖いんだけど」
「アタイは勇者に悪い人はいないと思っているんだけど…、確かに同意せざるを得ないねぇ」
「そうですか?私は結局力を振るう人や、環境、状況次第だと思うよ?」
「ぼきゅ、本で読んだ。ちょっとひぇんな勇者しゃまのきょと」
「多少人格破綻していようとも、俺様達が群長をやれていることが何よりの証明じゃないか?」
「キャンギュレイも、ハーティもリラも何かズレてる気が。」
「そーかな?レディック?まー、難しいことはいいじゃん。どんぐり食べよ?」
「まぁ、オレの時からわかるように、家族関係で地雷を踏み抜かなきゃ大丈夫だ」
「それは確かにね。僕に煽られたときのあの二人の親密さと、それを見ていた子供たちの目から間違いないと言い切れる。じゃあ大丈夫か。うん」
「だが、誰かが踏み抜いた場合はどうする?下手すれば国を亡ぼしかねんぞ。あやつら」
「そんなもん踏み抜く方が悪いっしょ。その後で真剣に対応すれば矛を収めてくれる。俺っちみたいに」
「真剣に対応しないなら?」
「そいつにとって最悪で、夫妻にとって一番最善な目にあわされる」
「一番が被ってますが…」
「リンパス。んなもん、二人が自分達を優先するからに決まってんだろ?相手からしたら二次、三次の嫌な目にあうこともあるってことだよ。察しろ」
「無理ですよ…。ですが…」
? どうしてだろう、力は正しく振るおうと決意しただけなのに、いつの間にやら皆さんからの視線が集まっているんだけど…。
「まぁ、よほどのことをせん限り大丈夫だろう。わしらはわしらの為すべきことを為せばよい。
「だよねー。じゃー、どんぐ「続き」うわーん」
スーラさんの言葉をぶった切ったリンヴィ様。だけど…、続きって何? 今の場合、リンヴィ様が雑な説明をして終わっているから、続きなんてないですよね? 完結しちゃってますよね?
「では、私から質問です。皆さんは神殿…、いえ、街に入れたのですか?」
リンパスさんからの助け舟。やっぱり有能だ。
「はい。入れましたよ。レイコとガロウはリンヴィ様と待機していましたが.…」
「私、習君、アイリちゃん、カレンちゃんの4人は街に…、ああ、命が一つもない領域にも入れました」
「神殿にはお二人で?」
俺と四季を指さして問うてくる。だから、俺も四季も頷く。
「もはや聞くまでもないことなのですが…、確証を得たいのでよろしいですか?」
「おい。レディック爺。夫妻と子供の年齢。それに人間という種族であることを考えれば、それは聞かなくてもいいだろ!?わかってんだから!」
「それではダメだ。わしは確証を得ねばならぬ。例え、それが礼節を欠いていようとも、夫妻や…、嬢様方を傷つけることになろうとも」
「しなくても、僕がさっき確認したよね?しかもそれに同意していたはずだよね?爺さん。耄碌したの?」
「耄碌などしておらぬ。だが、わしが確認しておかねばならぬ。結果如何でこれからの行動が変わる」
…質問される内容が「アイリたちが俺らの実子であるか否か」だってことは会話から予想出来る。だけど、一体何を確認したんだ? えっと、シールさんだよね…。……自爆した記憶しかない。
「わかってないみたいだよー」
「ですね」
「姉ちゃん。どうするんだ?」
アイリは少しだけ悩むと、ほほ笑んだ。…教えてくれるのかな? …なんか複雑。だけど、素直に教えてもらおう。
「…さっき、二人いちゃ…」
うぐ。他の人は兎も角、アイリに言われるよりキツイ。
「…コホン。キスしてたでしょ?」
「仕方ないなぁ」という慈愛のある目で俺らを見て、言葉変えてくれた。あんまり変わってないどころかひどくなった気がする。けど、事実だし、余計に手間をかけさせるわけにもいかない。耐えよう。
「…その時、わたし達の方なんて見てなかったでしょ?」
「互いしか眼中にn「…カレン」ごめんなさーい」
アイリがカレンを一睨みして黙らせる。…アイリには悪いけどほとんど意味ないけどね! だって、絶対にカレン、「互いしか眼中になかった」って言うつもりだった。
…うん。ぐうの音も出ない。事実その通りだったもの。それでも改めて指摘されると恥ずかしいけれどね。頑張って耐えよう。追い打ち喰らったけど耐えれるはず。
「…その時にね。群長たちは二人を見ていたけれど、ちゃんとわたし達を見ていた人もいた」
「ちn「…カレン。シールだけ、ほぼ二人しか見てなかったとか言わなくていいから」わー」
「お姉様…」
「そりゃねぇぜ…」
「おねーちゃん天然?」
頭の上に? を浮かべて首をコテリと傾げるアイリ。カレン、アイリおねーちゃんは天然だよ。流石に悶えている俺らを見たら天然でも察するだろうけれど、わざわざ悟らせる必要はない。耐える。平常心、平常心…。その情報は要らなかったとだけは思うけれど、平常心…。
「…よくわかんないけどいくよ?…わたし達を見て、わたし達が二人を慕っている事、好きで二人といる事。…それと、二人といれば幸せに…、少なくとも不幸せにはならないことを確認したみたい。…あ。これはわたしも思っていることだよ」
「ボクも」
「私も」
「俺も」
「…ふふっ、二人を見ていてわかっていたけど…、自分の気持ちをちゃんと伝えるのって恥ずかしいね。でも…、わたしも皆も二人が…」
「「「「大好き。」」」
子供たちは俺と四季の眼を正面から見て、声を揃えて、語尾はバラバラだったけれども…、満面の笑みを少し紅に染めて言ってくれた。
心の中にじんわりと温かいものが広がる。…よかった。心の中に安堵とともにそんな言葉が沸き上がる。
やはり、言葉にしてもらえるのは嬉しい。直接言われるとこっぱずかしいけれど・
普段から、皆「一緒に入れて嬉しい」というオーラを出してくれている。けれど、それでも、心のどこかで「俺の思い上がりなんじゃないだろうか?」なんて考えることがあるから…。
「双方、いいか?」
リンヴィ様の声。もう少し感慨に浸っていたい気もするけれど…、話を進めないとね。
「はい。俺達は大丈夫です」
「爺さん。本当に聞くのか?」
「さっきから言っているだろう。わしは聞く。聞かねばならぬのだ」
「はぁー。もう夫妻も子供らも察しているみたいだしいいか…、地雷でもなさそうだしなー。はぁ」
「どん「いらねぇ」え。食べてよ。「いいから黙ってろ」だよねー。重いの壊す配慮は要らなかった?「要らねぇから黙れ」わかったー」
スーラさんが断固として話しませんとばかりに口を手で塞ぐ。
「勇者様。わしが聞きたいのはただ一つ。不躾な質問であるのは百も承知。であるが…」
「レディックさん。謝罪は必要ありませんよ。どうぞ。お聞きください。どうしても必要なのでしょう?」
「私達の繋がりはそれくらいでは切れませんから」
このまま放置すると延々と謝罪の言葉が続きそうだったから割り込んだ。聞こうとしてくれているのだから、答えになりそうなことを言うのはあえて避けた。レディックさんは頷き、目を伏せるとこちらをまっすぐに見る。
「その黒髪のお嬢様はお二人の実子ではないですよね?」
やっぱりね。
「はい。お嬢様どころか、誰一人として血縁はないですよ。ですが…」
「私達は本当の子供のように接しているつもりです。接した時間は短いですが」
「その接し方は変わりませぬか?例え、お二人が子供を作られたとしても?」
「それは実子ですか?」
「「「は?」」」
あれ? 変な事言った? 大事な事じゃ…。何で皆ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔をしているんだ…?四季…。四季もわかんないか。二人そろって首を傾げる。
「…二人とも。血の繋がりのない子供なんてそうそう増えないよ。…それこそ孤児院を経営しているとか、…子供が好きで子供を引き取るのが好きとかでもない限り」
「「あ」」
それもそうだった。しかも、アイリのあげた例もかなりのレアケース。そりゃ、血縁関係にある子供の事指すよね…。
こっちに来てから1年もたってないのに既に4人増えているからそのあたりの感覚が…。ま、いいや。いや、よくない。けどどうしようもないや。置いておこう。
ええと…、となると、子供出来たときの話ね…。要するに四季とコウノトリを呼ぶ儀式をした後…と。うう…、真面目にその時のことを考えると、恥ずかしいことこの上ない。そりゃいつかは欲しいけど…。今じゃない。今は足場がぐらぐら過ぎる。
今はそれ考えてる場合じゃない。子供が出来た後のこの子らの扱いね…。そんなもの分かり切ってる。
「子供が出来たところで変わりませんよ。皆への態度は」
「むしろ、子供たちがよそよそしくなったり、遠慮するようになれば。私達の方から止めにかかります」
偽らざる本心だ。レディックさんは俺らの眼をじっと見つめると、満足そうに頷いた。
「すみませぬ。リンヴィ様。後と言われていたのに…」
「いや、構わんよ。今のを皆に見せる意義はあった。さて、他。他の質問は?」
「どn「黙れ豚」いったーい。シリアスをー。「黙れ。そんなにくいたきゃ自分一人で食ってな」ふきょーできないよー。「知らないよ。黙りな」げふぅ…」
「ゴッ」とかいう頭と頭がぶつかる音ではない音が3回響いた。ズィラさんの頭突きはくらうと本当にシャレにならなさそう。本人は全くこたえていないから、構造からして違うんだろう。
「俺っちとしては、さっきの話が聞きたいな。神殿の中で何があったかをね」
俺らを見てウインクするサンコプさん。無駄に絵になるな…。地味にうざいけれど。
「はい。もとよりそのつもりでしたから」
「何かあれば最後にまとめてお願いいたします」
チラッとスーラさんを見て四季が言えば、俺達の無言の「今は頭を抑えてもんどりうっているスーラさんが、やたらとどんぐりを喰わせようとしてくるのを阻みたい」という主張は通じたようだ。
わざわざ無言でアピールしたのは、スーラさんに直接言おうものなら、すぐに立ち直って「ひどーい」とか言われて延々終わらなくなりそうだから。無視した上で、「うざい」なんて直接言うのはかわいそうなんて気持ちはスーラさんに限ればもはやないも同然だ。
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「…以上です」
「何かお気づきになったことはありませんか?」
シュガーとの戦闘や、神殿内部の模様、神殿に2回目はなぜか入れなかったこと等の真面目な話から、シュガーの名前の由来とか、廊下でしていたとりとめもない話なんかの割とどうでもいいことまで包み隠さず話した。
「…ねぇ。シュガーの由来とか、鏡の件必要だった?」
どう考えても必要なかった。だけどね…。
「お嬢。何を言っているんだい。必要だったじゃないか。微笑ましくて」
こんな風に言ってくるシールさんとかの圧があったんだよ…! 屈する必要はないけれど、「いいの?何かあるかもよ?」なんて顔されたら話さざるを得ないでしょうが…!
「それは置いておけ。何か言う事あるか?どんぐり以外で」
露骨にスーラさんが落ち込んだ。あの人どんぐりしかないの? というか、頭の中どんぐりで染まってるの?
「では、私が。私の記憶にある限りでは…、あの神殿に入った人は誰もいなかったはずなのです。それこそ、人間、獣人、魔人、エルフを問わず。それなのになぜ一回は入れたのでしょう?」
何故って言われても…、生まれてから今まで、何か変なことをしたなんてことない。強いて言うなら勇者召喚されたけど…。それぐらい。でも、二回目に入れなかったから、関係ないはず。
…わからない。過去の勇者もやってそうなことぐらいしかやってない…。あ。そうだ。
「リンパスさん。他の勇者はどうなのでしょう?勇者で入った人はいますか?」
「勇者様ですか?申し訳ありませんが、私、詳しくは存じ上げておりません。他の皆は…」
リンパスさんがぐるっと辺りを見渡す。俺もつられてやってみた。けれど、誰も知っていそうな顔をしていない。
「申し訳ないですが、皆知らないようです。獣人領域に来る勇者様方は、私の知る伝承では、基本定住することを決めた方々でしたから…」
「もしくはただ通り抜けたかっただけの人だね」
そりゃ、神殿眼中にないよね…。俺ら以外の勇者のサンプルはない…か。一体どうして入れたんだろう?
「恋人関係にあるものと一緒に入る必要があるとかじゃないかい?」
「む…。確かに、シュファラト神は少々嫉妬深いと聞くが…」
「レディックさん。それと何の関係が…?」
シュファラト神が嫉妬深いからって、それだけで夫婦限定はどうなんだろう? むしろ逆に、「リア充爆死しろ!」ってなりそうなものなのだけれど。
「知らぬのか。愛の女神ラーヴェの夫が戦神シュファラトなのだ」
「ニッズュンを作ったのもその二人らしいよ」
「レディックとズィラの言ってることは間違ってないですよ。私も本で読みましたから」
「オレも読んだ」
これだけ証言があれば間違いないか……。神でも嫉妬するのな。
「でだ。嫉妬するという記述があるのは確かだけどさ。ラーヴェ神が他の男に靡いて欲しくないんだったらさ、はなから神殿に入れるのをさ、女の子に限るほうがよくないかい?アタイならそうするぞ?なあ、シール。そこんとこどうなのさ」
「え。僕に聞くの?」
「そりゃそうさ。あんたが言い出したんだろ?」
「ごめん。白状するよ。僕、軽く二人を揶揄いたかっただけなんだけど…、赤面してくれたら微笑ましくないかい?」
この人、筋金入りだ。スーラさんのどんぐりに対する謎の執着ほどじゃないけど、俺らが恥ずかしがる光景、彼が言う、幸せそうな光景を見るために全力投球。
「僕だってさ、「子供が一緒にいるのに入れないのはおかしい」とは思ったさ。ラーヴェ神がいるんだしね」
「む?儂は、シュファラト神が子供に嫌な思い出があるのであれば、入れないのは当然じゃと思うが…。嫌なら断固としてシュファラト神は通さぬじゃろうし、ラーヴェ神も妥協するじゃろ」
「お、イラス爺が言うと、説得力があるな」
「黙れ蛇」
「あ?事実だろ爺?」
「まぁ落ち着いてください。二人とも。イラスおじいさん。血圧上がって早死にしますよ?私はおじいさんに長生きして欲しいんです」
「キャンギュレイ…。まぁ、そうじゃの」
「そうだよ。どんぐりt「いらぬ!」えー、そんな言い方してると血圧上がるよ?」
イラスさんは黙り込む。それは正しい。だってスーラさんだから。「お前のせいだろ!?」とか言おうものなら、脱線間違いなしだ。
「話を戻しましょう。何で恋人とか夫婦限定なのでしょう?」
「それこそ、夫妻がバカップルだからじゃないのかい?あ。今回は真面目だよ。僕ほどじゃないだろうけれど、神は美しいらしいが…。この仲の良さだと、僕を前にシキさんは断言したんだ。二人とも、神に見惚れはしても、惚れはしないさ。だから安心するんじゃないかい?」
「ミー思った。それだと、シュウがラーヴェに惚れるのもダメじゃない?」
「えー。それって狭量すぎなーい?」
「知らないよ。勝手な想像だよ?会ったことないしね」
「ラーヴェ神が男性や女性に惚れるのを警戒していらっしゃるのかもしれませんよ?」
「どういうことだ、キャンギュレイ?」
「万が一、ラーヴェ神があの神殿に入ってきた男の子や女の子に惚れても、恋人がいればすぐに諦めるはずでしょう?愛の女神なのですし。それも私達の前で…、あら、やめた方が良さそう。恥ずかしいのかお二人の顔が真っ赤になってしまっているわ」
「…キャンギュレイ。もうちょっと早く気付くべきだった」
「おーい。おとーさん。おかーさん。生きてるー?」
生きてるよー。「私達の前で堂々といちゃつける」って言われる想像をして恥ずかしくて悶えそうだけど普通に生きてる。話も聞いてた。
「重症だな」
「ですね」
「どうしてここまで恥ずかしがるの?ミー不思議」
「…仕方ないね。わたしが知っている限り、キスをしていたのはさっきで2回目」
「嘘…だろ!?」「ナッナンダッテー!」なんていう声が響く。やっぱりアイリ天然だ! この子無自覚にまた俺らにトドメ刺しに来た! 言ったらそんな反応返って来ることぐらいわかるでしょ!
「…わかってたけど何故か言わないといけない気がした」
どんな気!? 「言う事を強いられているんだ!」とかそんな気かな? そんなものポイして、ポイ!
「あにょ…」
この声は…、声をした方を振り向けば、鼻を小さく上にあげているハーティさんがいた。一斉に視線が集まったから、少し彼は飛び上がったけれど、すぐ持ちなおす。
「皆しゃん、先ほどからはいれりゅことを前提でしゃべっていましゅが…。本当にそうなんでしょうか?」
「えーと、つまり、俺らが入れた理由ばかり考えていないか?ということですか?」
「そうでしゅ。ひょっとしゅると、実はしょもしょも入れるようにしておきゅつもりはなかったんじゃないきゃって…」
そもそも入れるようにするつもりはなかった…? それなら2回目入れなかったのも納得がいく。けれど…。
「そうなるとシュガーはどうなる?それだと、あそこにアレがいた意味がなくなるぞ?」
「ですよね。俺も四季も子供達もそこが不思議なのです」
「というか皆だろ?」
ズィラさんが問えば皆頷く。
「誰かが入ってくる前提じゃないとシュガーの存在価値がなくなってしまいます」
「そー?あるよー?」
何? と誰かが言う前に得意げに胸を張って言った。
「神しか入れないなら神のサンドバックと言う役目があるじゃなーい」
「つまりお前か。」
「ひどーい!」
「事実お前、皆の言葉のサンドバックだぞ?全然堪えてやがらねぇけどな!」
「酷いのわかってるなら、言うなよと俺様は思う」
「そもそもラーヴェ神が許さないだろうな…。慈悲深いらしいからな」
「あ。それだ。オレ、あそこは召喚された勇者様の修行施設なんだと思う」
「突破したから入れなくなったと?あ、あるかもね」
…倒せている気がしないんだけどな。シュガー。こっちの人たちは勇者を、俺らを過大評価している気がする。
「…そうでもないよ。少なくとも二人はわたしの親になってくれた」
「だから、自分を卑下しないで」無言でそう訴えかけてくるアイリの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「よしんば倒せてなかったとしても、事実、強くなったはずだぜ?」
「だね。サンコプ。少なくともミーはそう聞いた。『複製』?とかいうの」
そう考えると一番矛盾がない…か? でも、割とどこでもシャイツァーは成長するんだよね…。目立った成長は気絶後とかに多いような気がするけど。
「こんなところでおいておこうよ。壁の模様はどうだい?アタイは知らないけど」
「見たことがない模様ですね」
「少なくとも我は知らぬ」
「豚もしーらない」
辺りを見渡してみても…、あ。ダメだ。全滅だ。
「少なくとも、何か意味があるのは間違いないと思う」
「あ。でも…、私にはシュガーのいた部屋の最奥を除く壁・天井・床と、最奥・廊下は別のことやってると思うよ」
「キャンギュレイ…。そのことは俺様でも察せているから皆察せていると思うぞ」
「わかってます!言ってみただけです!最奥が回復。廊下と壁が…何なのでしょうね?」
「何かの空間的なものなんじゃなーい?」
「どうせ、神域に行くためとかのだろ?たぶんあってんだろうけど、入れないんじゃ意味ねぇよな…」
まるでわからない…。
「陰鬱な雰囲気忘れてましぇん?」
「覚えてる。でも、ミー含め、皆思い当たることがない」
「落ち込んでいるときに作った。と俺様は考える」
「愚考するだったら褒めた。そんな単純じゃねぇだろ」
リラさんが落ち…こんでない。なんかもう開き直ってる感がすごい。スーラさんを見習った? 見習うべきじゃないと思うな…。
「ねぇー。お腹すかない?」
話題の人の声。…確かに空いている。だけど、頷いていいのかな? 絶対話が終わっちゃうけど。確認を取るため四季を見れば頷いた。子供たちを見ると…、平常運転だ。任せてくれるらしい。
「確かに空いてきましたね」
「あまりお力になれていませんが…、よろしいので?」
「仕方ないです。手詰まり感がありますし…。そもそも、もう神殿に入れませんもの」
「そうですね…。では、夕食にいたしましょう」
「やったー!どんぐり!」
「そんなわけないでしょう。我々が出来る最高の料理を提供いたしましょう」
リンパスさんは「きっと満足していただけますよ」と聞こえてきそうな程、自信にあふれた顔でそう言った。