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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
122/306

113話 続群長たち

「コホン。非常にやりにくいが…、俺様はリラ。申群長だ。もうこれだいいよな。先も軽くだが話したからな」

「ミーはあれでいいの?と言いたい」

「良い」


 ギロリと睨みつけるようにカプラさんを見る。



「はぁー。イラス爺に負けずお前も不器用だしな…。とりあえずこいつは力が強い。俺っちみたいに軽いやつじゃないけど何故かやらかす。そんな奴。俺っちからは以上」


 サンコプさんがめちゃくちゃ言っている気がするが…、睨む気がないのに睨んでいるように見えたから的を射ているんだろう。



「オレが話してもいいのか、リラ?」

「ああ。サンコプのせいでやらかしたのが勇者一家にバレた。もはや俺様はこれ以上恥を晒したくはないのだ…」


 天井を仰ぎ見るリラさん。これ以上は触れない方がよさそう。



「コホン。オレは酉群群長クヴォック。とはいえ、オレもリンパス同様に上で喋ってるんだよな…」


 クヴォックさんは何かを考え始めた。俺らにアピールすることを探しているんだろうけれど…、「一発芸大会ではないんですよ」と言いたくなる。変な方向に走るからねぇ…。



 バァン!



 机をたたくような音。そして椅子を蹴り上げてリンパスさんが立ちあがる。あ。マズイ。本人(リンパスさん)とクヴォックさん以外がそう思った時には手遅れで…、彼女の口は雄弁に語り始める。…リンヴィ様を精神的に甚振る言葉を。つらつらと語った後で、



「クヴォック!貴方のリンヴィ様への愛はそんなものなのですか!」


 と締める。流石のクヴォックさんも呆れ、困惑する。



「はぁ?オレにあるのは愛じゃなくて忠誠だ」

「似たようなものです!」


 いや似てないから。それ一緒にしちゃだめだから。愛から子供は生まれ得るけど、忠誠から子供は生まれ得ないはずですよ!?



 だけど、俺はもとよりその場にいた人の「似てない」という心の中のツッコミは二人には届かないようだ。何故かしきりに頷いている。あ、これは止めないといけないやつだ。



「リンヴィ様!次行きましょう!」

「私達は十分クヴォックさんがどういう人か知ってますから!」

「ああ!」

「はっはっは!甘いですよ。皆さん!クヴォックの魅力を一つ言ってみてください!」


 何で高笑い!? どうして今空気読まないの…。リンパスさんは、リンヴィ様の秘書的立ち位置の人のはずなのにね! だけど、それくらいならすぐあげられる。さっさと終わらせよう。



「「忠誠心溢れる人材!」」

「ふむ…。まぁいいでしょう!」


 何の許可かよくわからないけど終わった。この人なりにクヴォックさんのことを知ってほしいが故の行動だろうけど…、頭のネジが数本逝っちゃったようにしか見えないからやめて欲しい。…演説を止めれなかったのは…、ごめんなさい。



「次」

「わしはレディック。戌群長をしておる」


 先ほどまでの空気を完全に無視して話始めたレディックさん。彼の金色の眼が俺らを捉え、キリッと引き絞られ…、



「最後に時間が欲しい。よいか?」


 チラッとレイコとガロウをそう見て言った。俺としても四季としても、二人の扱いについての話は望むところ。むしろ言い出してもらわなければこちらからお願いした。だから、いちにもなく頷く。



 レディックさんは少しだけ線の細い、ブチ模様のついた体を寄らしながら満足げに頷くと、顎で続きを促す。



「えーと、今のでいいの?まぁ豚はいいけど…。えーとね。豚はスーラだよ!亥群長だよ!それはさておき、どんぐり食べる?」


 はい? どんぐり? 何で? 訳が分からないんですけど…。あまりに訳がわからないのでとりあえず見渡してみる。



 …誰もかれも「またか…」という目。ひょっとしてこれいつもの事なの?



「どんぐり食べる?」


 ツイッとピンクの手にどんぐりをのせて差し出してくるスーラさん。…え。どうしたらいいの? どんぐりなんて食べたことないけど。というかいつ立った?



「…もらう」


 え!? ちょ。アイリ!?



 困っているのを察したアイリがスッと俺らの前から差し出されたどんぐりをひったくって口に運んだ。



「…渋っ…。…あく抜きはした?」

「あー。はずれだね。もう一個食べる?」

「…いらない。…わたしはもうもっと美味しいもの知ってるから」


 アイリは俺らの動揺を無視してそっとポケットを漁って何かを取り出し、手の上に置いた。あれは…。俺らが作ったべっこう飴? …恥ずかしいことにちょっと火加減ミスって焦がしたやつだけど。



「それがどうしたの?豚も見たことがあるけどー」


 おずおずと眺めるスーラさん。だけど、それを可愛らしく頬を膨らませて「あげないよ」と言ってぶった切り、口の中に飴を入れた。



 飴を舐め始めた途端、幸せそうに頬を緩める。…あれそこまで美味しくないと思うんだけど。だけど、そんな可愛い顔をしているアイリを見て、スーラさんは一瞬ぶるっと震えた。何故。



「むー。むむ…、どんぐり…」

「おい豚。諦めたほうが身のためだぜ?」

「知ってる。だけど、どんぐり布教は豚のアイデンティティなのだよ。蛇ぃ」

「さいですか」


 あ、サンコプさんが諦めた。震えてたように見えたのは錯覚だったのかな? …もうこの人のどんぐり関係は、口癖と思って適当に処理しようか。要らないと言いまくってればいいでしょ。それより…、



「アイリ。大丈夫か?」

「…どんぐりのこと?大丈夫だよ。…あく抜きをすれば普通に食べられるよ。それに昔よく食べていたしね…。あれは渋かったけど」


 どんぐりって食べられるのか…。知らなかった。てことは地球でも食えるのかな?



「…ただ、おんなじどんぐりばっか食べていたらお腹壊したことあるけど」


 だめじゃん…。何かの成分が悪さをしたのだろうけど…。昔、というなら孤児院時代の話だろう。この子が満腹になろうとするとかなりの量食べなきゃならないから、普通の人よりも中毒量を超える可能性は高いし……。



「あんまり食べない方がいいよ?」

「スーラさんも毒は出さないでしょうが、あのどんぐり、どこか怪しい気がしますし…」

「…わかってる。それに、食べようとは思わないよ。…二人が作ってくれるものの方が美味しいし。飴もあるしね」


 満面の笑顔。こちらもつられて顔が緩む。嬉しいことを言ってくれる。そんなに真面目に料理したことないのにね。何もかも調味料が少ないのが悪い。



「スーラは満足したか?「してn」そうか。よかった。次」


 あ。「してない」って言われそうだったからゴリ押しした。こっちもアイリに何で飴だしたのか聞こうと思ったんだけど、まぁいいか。「人の好みはそれぞれ」的なことを言いたかったんでしょ。



 …あれ? じゃあ、何でスーラさんが震えた? …もしかして、飴の出来が悪いことを言おうとしたから? あの子そんなことするはずが…、ある。あるわ。



 あの子の中の食糧ランキングの圧倒的一位は俺らが作る飴だろうから、ありえなくはない。ただ、怒るには証拠がないので怒れない。後で覚えていれば聞こう。…戌群長レディックさんと話さないといけないから忘れそうだね。



「えーと、話していいでしゅか?」

「あ。ごめんなさい」

「お願いします」


 俺らが的外れなことを考えていたからか、子群長がおずおずと切り出してきた。サンコプさんが笑いをこらえるように頷いているのは…、俺らが忘れそうと思っていたことがツボに入ったのか、それとも、俺らのアイリについての考えが合っているのか、それとも無視されたスーラさんがどんぐりを喰いだしたからか…。どれだろうね?



「いいですきゃ?」

「あ。どうぞ」

「ごめんなさい」


 気が弱い人なんだろう。まず、話し出すまでが長いし…。それに、話しかけられている方の人が別のことを考えたりして注意が逸れたりすると、不安になってしまってしまうのか、末尾の方で噛んでるし…。



 初対面の人と話すとき、緊張するからよくあることだけど。話題も見つからないし。



 あ。だめだ。これでは話してくれない。「話を待っているよ」そんなことを考えて、ジッと彼を見つめるとようやく口を開く。



「ぼきゅはハーティと言いましゅ。えーっと、子群群長をやらせてもらっていましゅ。後ひゃ…」


 あ、テンパりだした。彼の赤目がグルグル彷徨っているし、象の鼻がブルンブルンと回転しているし、彼の青に近い灰色の皮膚は緊張からかジトっと汗で湿っている。



 あの汗は緊張で出るやつだ。…「無理しないで!」と言ってあげたい。だけど、話そうとしてくれているのに俺がその腰を折るべきではないはずだ。



「あの…。ハーティ様はあれで群長が務まるのでしょうか?」

「俺もレイコと同意見なんだけど…、あの図体なのに、話すことが見つからなくて気絶するぜ?あれでいいの?」


 小声で声をかけてくる二人。確かにそう見える。だけど、そう見えるだけだ。



「群長に求められるものが何かは知らないけど…」

「あの人は少なくともある一点において突出していますよ」


 二人は思い当たることがないらしく、不思議そうに眼を瞬かせる。確かに想像つかないよね。俺も自分の見立て違いかな? と思ったぐらいだし。四季の言葉聞くまでは。だけどね。



「あの人は戦士だ」

「ええ。戦闘において無類の強さと、カリスマを発揮するでしょう。そこに皆さん惹かれているんでしょう」


 ドシーン



「倒れたねー」


 倒れたね…。皆不思議そうについに目を回してしまったハーティ様を見る。俺らの言っていることを疑うような目の色はない。…疑ってくれてもいいのよ?



「それにしても、彼のあの性格、油断させるという意味では最適ですね」

「だね。天然だと思うけれど…、万一見立てが外れてたとすれば…」


 間違いなくあの人はヤバい。強いとかいうレベルじゃなくなる。日常から油断させる策を実行しているわけだし。まぁ、あの性格が天然でも強いのは変わらないけど。



 ああ、タクがいればなぁ。あいつなら確実にそこまで見切れるだろうに…。



「象は豚が座らせておくよー」

「わしも」

「頼んだ。スーラ。レディック。次」

「了解です。アタイはズィラ。丑群長をしている。頭を下げるのは勘弁ね。下げたらあなたたちにぶつかっちゃう」


 と舌を出す。揃って「気にしないでください」的なことを返しておく。



 確かにズィラさんは首が長く、頭を下げれば俺ら当たりそうだ。たぶんキリン族なんだろう。



 放つ雰囲気は勝気なお姉さん。そんな感じ。体つきもね。リンパスさんと同じくらいにスタイルがいい。リンパスさんは秘書のようだからか、全体的にシュッとしていてちょっと冷たい感じがするけど、こっちの人はちょっと丸みがあって温かい。



 …じろじろ見てると失礼だからそろそろやめとこう。



「アタイは…。うーん。頭と首が物理的に硬いぐらいしかないなぁ…。まぁ、イロモノしかない中にまともなのが二人はいてもいいよね」

「二人って誰?豚?」

「んなわけあるか!俺っちでしょ!」

「いや、儂だ」

「はぁ?俺様に決まってんだろ?」


 誰がまともかの不毛な言い合いが始まってしまった。ズィラさんは「やっちまった…」と天井を仰ぎ見ている。早く止めないと…!



「馬鹿げたことを言うな。二人とはオレとリンヴィ様に決まっているだろう?」

「何を言っているのですクヴォック?私、リンパスとリンヴィ様に決まっているでしょう?」


 あ。信者が参戦した。…止めるのは不可能だろうね。



 面白い、というかある意味当然なことに、彼らの中ではリンヴィ様はまともで確定しているみたい。後の一枠が誰かで言い争っている。



 うん、割とどうでもいいです…。俺からすると皆さんズレてます…。…でも、レディックさんとズィラさんは自己紹介してもらった人の中ではまともかな?



「そんなことよりどんぐり食べよ?」

「「「うるせぇ!」」」

「みんなの方がうるさい。どんぐり食べろ」


 スーラさんが口の中にどんぐりを投げ込む。



 狙い違わず口の中に飛んで行ったどんぐりは、口に入ると破裂。その瞬間、皆口を抑えて悶えだす。必死に魔法…、たぶん水魔法を詠唱しようとするけれど、辛さに詠唱を続けられない。…あれがどんぐり?



「なぁ、四季。あんなどんぐり知ってる?」

「本でも読んだことないですねぇ…。爆発するどんぐりなんて。アイリちゃんは?」

「…知らない。…どんぐりと言う名の魔物なんじゃない?」


 残り三人も一応視線を向けてみたけど首を振った。やっぱり知らないか…。



「うん。皆どんぐり食べたね!」


 ハーティさんは椅子に座らされてはいるけど、下向いていたから食べてない。だけど、それを指摘できるものは12人の中にはいない。



「次」


 そう言うリンヴィ様の声は少し弾んでいる。スーラさんも暴走していたけど、他の暴走していた人たちが痛い目…、というか辛い目? にあって嬉しいみたい。褒められているのが自分だから下手に否定も出来ないですからね…。余計に皆、意固地になって精神がえぐられる。



「次は僕で…すが、ちょっと…、待っ…てください。馬鹿じゃねぇの豚…」

「豚は豚だよ?」

「ああ。うん。知ってたさ。君マイペースだものね!水下さい」


 要求にこたえてリンヴィ様がコップに入った水を彼の前に置いた。



「あ、ありがとうございます。…ふぅ。さて、僕はシール。寅群長をしているよ」


と首の周りの()をフサァっとなびかせる。さっきの醜態をなかったことにしているのだろうけど、そんなことよりも、鬣が気になる。そう、寅群長なのに鬣。どう見てもライオンです。しかも雄の。



「何だい?僕に惚れたかい?」


 いや、惚れません…。って、視線が違う。四季を向いてる。そして、そのままキラッと笑顔を見せる。む。四季が魅力的なのはわかる。けれど、何となく四季にそんな視線を向けて欲しくない。



 だから、そっと四季の前に移動する。これで隠せるね。と思ったけれど、四季は俺の手をそっと握ると、横に半歩移動して俺の陰から出た。どうするんだろう?



「いえ。私はただ見とれていただけです」

「ふぅん。みt「ですが」ん?何だい?」

「確かに私、見惚れはしました。ですが、それだけです。だって、私が惚れるのは習君だけですから」


 !?



「ふぅん」


 四季の言葉につまらなさそうに反応するシールさん。あの顔は…、かなり嫌な予感がする。ちょっと待って。やめて。それ以上は…!



「本当かい?本当に君が好きなのは、彼だけなのかい?」


 あ。言いやがった…。心の備えをしなきゃ。俺のそんな心の動きも知らないで、四季は真っすぐにシールさんを見つめると、



「ええ。私の心は習君に獲られていますので」


 まっすぐに言い放った。…ものすごく恥ずかしい。というか穴があったら入りたい。よく真顔で言えるよね。



「…お父さんも真顔で言い切ってるときあるよ?」

「だよねー」

「今、お父様がお母様並みの精神状態であれば…」

「「そして…。俺の心は四季に獲られていま」ぐらい言ってるぜ?」


 今そう言う情報要らないからね!? 確かに言いそうだけど…! 何故わざわざ似せてきたのさ…!



「ふぅん…。なぁんだ。つまらないね…。あ。そこまで言うならキスでもしたらどうだい?」

「「え!?」」


 俺と四季の声が重なった。



「あれ?さっきあそこまで言い切ったくせに出来ないのかい?」


 挑発的に四季に微笑み、そのままこちらを見て、



「君は君で子供たちにあんなこと言われてたのに?」


 と言う。煽られているのはわかっている、だけど…、俺のこの四季への気持ちを踏みにじられているみたいで腹が立つ。



 流れに流されるのは嫌だけど、キスは既に風呂で自分の気持ちでしている。それに…、いや。これはいいや。きっとなる気がする。だけれども、今これを考えるのはいささか打算的。



「四季」

「習君」


 声をかければ彼女の顔は存外近くにあった。そのまま顔と顔を近づけて、口をくっつける。柔らかいものが一瞬だけ俺の唇に触れると、余韻を感じさせることなく離れた。



 今俺の目の前に四季の顔がある。それは、ほのかに赤く色づいていて、瞳がすこし潤んでいて…、筆舌尽くしがたい魅力がある。俗っぽい言い方をすれば、ドストライク。



 半ば衝動的に四季を抱きしめる。四季は嫌がるどころかむしろ喜んで受け入れてくれた。さっきよりも四季の顔が近くになって、興奮で少し早くなった鼓動も感じ取れる。いつもなら気になるだろう胸の柔らかさも今は、四季の顔、反応の方が気になって気にならない。



 もう一度四季と抱き合い、そのまま、衝動のまま唇を彼女の口に押し付ける。本日二度目。だけれども、彼女の唇は先ほどよりも柔らかく熱い気がする。俺と四季はしばらく──それこそ永遠とも思える時間──そのままでいた。



 だけど、終わりは訪れる。四季は身長が少し俺より低い。だから自然と彼女はつま先立ちになっていて…、自然と俺の方に体重がかかり、さらに胸が潰れる。だけどそんなことになっても彼女の足への負担は変わらないばかりか、むしろ増す。



 四季が少しよろけ、俺が支える。



 その時に嬉しそうに笑うシールさんの顔が目に入った。…うん。何となく、2回目の口づけをするような気はしていた。だけど、キツイよ。皆の視線がキツイ!



 シールさんとサンコプさんがおもむろに拍手を始める。同調する人は誰もいない。だけど、そんなことは問題じゃない。やめてください。羞恥で死んでしまいます。



「シール。お前。嫌われるぜ?」

「僕が嫌われるなんてありえないでしょ。サンコプ。君じゃあるまい。」

「チッ。確かにそうかもな!俺っちと違って爽やかだしな!」

「ああ。それもあったね!」

「それもあるのかよ…!」

「僕は君みたいに嫌がらせが好きなわけじゃないし」

「無視するのかよ…!」

「無視じゃないよ。事実じゃないかい?」

「…確か、お前が好きなのは、他人、特に恋人もしくは夫婦が幸せそうにしているのを見ることだったか?」

「そうだよ。かつての勇者様は確か…、バカップルとか、砂糖吐き機製造機とか言っていたかな?僕はそれを見るのが好きなのさ。僕、見目と地位が良いからね。僕が本当に好きになれそうな人は現れそうにないからねぇ…」

「このナルシスト…」


 わざわざ漫才してトドメを刺さないでください…!慈悲があってもいいのですよ?



「それにしても、あの二人もやるよな。お前の煽りでキスするのは流れたみたいで嫌だとか思っていたようだが、まさか、2回目やるなんてな。信じられるか?あれ天然でやったんだぜ?「2回目やればいいじゃん!」なんて一瞬よぎったかもしれないが…、あの流れは完全に自分たちで作り上げたんだぜ?」

「理想形じゃないかい!愛の狩人たる僕にふさわしい!記憶に焼き付けておこう」

「「やめてください」」

「どうしてさ?」

「だよな。周りの「おおぅ…」とか、「仲のよい…」とかの声も耳に入ってないぐらいの素晴らしいものだったぜ?リンヴィ様すら止める気を失うぐらいに」

「それに、君たちの子供達も親の麗しい情景を邪魔しないようにと黙っていたじゃあないかい」

「次!次だ!」


 見かねたリンヴィ様の声が響いた。助かりました…! …あれ?リンヴィ様が汗を掻いている。俺らのせいでリンパスさんが暴発しそうだと思ったっぽい。…ごめんなさい。



「卯群長。キャンギュレイです。よろしくね?」


 全くさっきの醜態に触れないキャンギュレイさん。なんというか、この人には母親的な温かさがあるような…。誉め言葉かどうかなんてわからないから本人には言えないけど。俺は誉め言葉のつもりだけど。



 ただ、この人…、兎と言うよりはカンガルー的な外見だ。尻尾は兎というには長くてしなやかで、耳はちょっと短い。体も身長が高くて…、俺のイメージする兎人とは違う。それに何より袋がある。兎要素は目が赤いことぐらいか。



「あ。そうそう、私はカンガルー族だよ。それで…、昔はここ。この袋に赤ちゃんがいたよ。今はわたしの仕事を代われるようにって頑張ってるよ」


 昔は? じゃあ今は? 今は何が入っているんだろう? 子供の事よりもそっちの方が気になる。



「袋の中は内緒だよ。もう乙女って年じゃないけどね。大人の女性の秘密を探るのはよくないよ。二人とも。特に習さんはね。…あ。ごめん。こう言ったけど、二人とも結構年いってるよね?わかってることだったね。ごめんよ蛇足だったね…。ってどうしたの?」


 俺と四季が落ち込んでいるのを見て慌てるキャンギュレイさん。言いにくいのですけれど…。



「俺も四季も今年で18歳になるのです…」


 その場の全員が俺と四季を見て、子供たち、とくにアイリを見る。目が雄弁に「嘘!?」と言っている。



「リンヴィ様。まさか…」

「ああ。そうだ。彼らは召喚された(・・・・・)勇者だ。…レディック。話は全て終わった後でいいか?先に、『ニッズュン』であったことと、彼らが求める情報について話したい」

「はい。確実に時間さえとっていただければ問題ありません」

「皆、異存ないか?」

「「「異議なし!」」」


 仕込みを疑うほど、スムーズに話題が『ニッズュン』へ移行した…!?リンヴィ様の采配がすごい。

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