表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
121/306

112話 群長たち

「客人の前ですよ。しっかりなさい」


 聞き覚えのある凛とした女性の声が響く。というか聞き覚えがあるのは当たり前、だってさっきまで聞いていた声だもの。だけど…、



「何故リンパスさんがここに…?」


 疑問が口を突いて出た。さっき仕事に行くって…言ってたよね?



「習君。あれって、クヴォックさんじゃないですか!?」


 四季が出来るだけ声を抑えつつ、だけれども驚きを隠しきれない声で言う。四季の目線の先には、先ほど上空で見たキリッとした顔で、少し細身だけどカチッとした体躯と特徴的な羽を持つ男性がいる。



 たぶん四季の言う通り、クヴォックさんで間違いないはず。だから頷く。



「オレがクヴォックで合ってる。よくわかったな。何故だ?」

「「勘です」」


 間を置かずに答えるとクヴォックさんは目を丸くした。きっと、「勘ってなんだ…」と思っているんだろう。



「皆さんの言いたいことはわかっています」


 俺が再度「何故ここに?」と言う前に手で制するリンパスさん。



「皆様の疑問は「私とクヴォックが何故ここにいるか」ですよね?」


 合っているので頷く。ここで頓珍漢なことを言われなくてよかった…。



「答えは簡単です。私が副群長だからです!」


 ? 安心したのがいけなかったのか? 答えになっているようで答えになっていない答えが返ってきたぞ…?



「リンパス。それでは足りていないぞ。お前が副群長なのにここにいられるのは、群長であるリンヴィ様が首長であるからだろ?」

「ハッ。そうでしたね。忘れていました」


 何かを成し遂げたようにしきりに頷く二人。…最初、俺が質問の内容間違えたのかな…。欲しい答えが来ない。



「大丈夫です。お父様。わたくしはちゃんと意図を把握しておりますから」

「本当に?」

「はい。お父様がお伺いしたいのは、「何故、この会議に参加できるような身分の方が、リンヴィ様をわざわざお出迎えしたのか」ということですよね?」


 おお…、あってる。レイコなのに…。何故かこの子抜けているイメージがあるから少し感動する。



「その上、皆さん(獣人達)が群対立を避けようとする傾向から考えるに…。群長が出るならば、お出迎えは12人全員でやるはずですから、何故お二人だけだったのかというのm「それは簡単です!」「相手がリンヴィ様だからだ!」」


 四季の声を耳聡く聞いたのかそんなことを二人が言った。何故か何か成し遂げた的な雰囲気を出して。俺的には何も成し遂げてないんだけど。それにしても…、既視感があるような…。



「…どうしても出迎えたいなら、「辰、酉群の飛行警備隊を同伴せよ」と言っておるのにな…」


 リンヴィ様が本当に小さい声で、近くにいる俺と四季が『身体強化』して聞こえるかどうかという声でぼそりと呟いた。



「リンヴィ様をお出迎えする栄誉!」

「他の下々の者に与えるわけには参りませぬ!」


 突然二人が声を出してさらにリンヴィ様賛歌を始める。リンヴィ様がつぶやいた直後と言う芸術的タイミングだけど、偶然のはずだ。たぶん。



 チラッとうちの子たちを見る。さっきの既視感はあの二人がうちの子らに似ている気がしたことによるもののはず。だけど、流石にここまでじゃないはず。…うん。たぶん。きっと。気持ちが高ぶって下々とか言わないはずだし。



 …ベクトルが、信仰対象者(俺ら)の安全重視か、自分の対象(リンヴィ様)への信仰重視かの違いだけな気がしないでもないけど。



「敵は不要!」

「オレらで十分だ!」


 賛歌を聞いている限り、あの二人が信仰重視なのは間違いなさそうだ。



 とはいえ、そもそもリンヴィ様自体が通常時から強いし、あの二人もそれを言うだけの強さがあるから信仰重視でも問題ないだろうけど。というか、下手な護衛はむしろ邪魔。護衛を組むのもただではないし。



 俺らは俺と四季は『身体強化』してなきゃ石が頭にあたっただけで死にかねない。だから信仰重視には成り得ないね。



 …一瞬、リンヴィ様並みの頑丈さがあれば、うちの子らもああなりかねないと思ったけど……、うちの子らなら頼めばやめてくれるはずだ。



「習君」


 クイクイっと俺の服の袖を引く四季。これをやられるたびに思うんだけど…、この動きって小動物的でかわいらしいよね。軽く上目遣いになるのが特にいい。



「習君?」

「あ。ごめん。何?」


 頑張ってさっき考えていたことを誤魔化す。声は上擦ってないから大丈夫のはず。



「さっきから、あの二人の会話噛みあってないですよね?」


 未だに賛歌を続ける二人を指さした。よし、バレてない。



「そうだね。そんな気がする。さっきの「敵」が云々あたりから噛みあってないと思うんだよね」

「ですよね」

「…クヴォックの言う「敵」は文字通り。…危害を加えうるもの全て」

「リンパスはー」

「恋敵…、という意味でしょうか?」

「だろうな…。だって、俺、あの人の言う「敵」って、全部ライバル」って聞こえるんだぜ…」


 全員の視線が二人に改めて集中する。他の群長は何も言わない。慣れているのもあるし、彼らもリンヴィ様を慕っているから参加を止めたくない、もしくは、止める気にならない。のかな?


 まぁ、それは置いておこう。おそらく、リンパスさんの言う「敵」が恋のライバルを指していることに気づいていないのは、三人だけ。すなわち、リンパスさん、クヴォックさん、そして「いい加減やめぬか…」などと、小さく言っているリンヴィ様だけ。



「恋敵って、それっていーのー?」

「カレン、それって「恋敵とか言ってて、護衛として許されるの?」ってことだよね?」

「そー。さすがに、ボクだってー、あの人が真面目なことぐらいはー。わかるー」


 真面目なことぐらいはって……。いや、確かにこの光景を見ていたら確かに真面目に見えないけど! それはあんまりな気がする。…暴走するあの二人が悪い気がしないでもないけど。



「許されるのは、リンヴィ様自体が強いですしねぇ…」

「リンパスさんもたぶん強いしね…。それこそその辺の雑魚なら鎧袖一触の可能性もある」

「…もしくは、それが許されるくらい平和か」


 平和…ね。あり得るかもしれない。たぶん戦争なんてないだろうから。ハールラインとかいるけど、ああいうのはだいたい郡内で処分されるだろうし、引きこもりのおかげで種族間戦争もなかったはずだ。人間VS魔族と違って。



 それはさておき…、



「そろそろ助けよっか。リンヴィ様」

「ですね。いい加減不憫です」


 マジで誰も止めない。というか止めようとするそぶりすら見せないの。忠誠心が高いせいだろうけど、逆に嫌いなんじゃないかと思えてくる。まぁ、そんなこと言ったら、噛みつくように否定される未来しか見えないけど。



 不憫と四季は言ったけど、「うちの子らでも同じ状況になりそう」という恐れから、「そうなった時の自分を見ているよう」と考えたことも理由の一つ。俺らが悶える理由は自爆だけでいい。



 …自分で言ってて悲しくなってくるね。自爆は避けられそうにないことと、そこまで信頼と言うか依存されていることが。慕われているのは嬉しいのだけど。



 さて、やるか。



「お二人とも。装飾が多すぎてよく伝わりません」

「簡潔に、要約してください」

「「リンヴィ様最高!」」

「「簡潔で何よりです」」


 かなり棒読みだったけど、四季とハモッたから誤魔化せたか? というより、俺らが声をかけて返答が返って来るまで1秒もかからなかった…。「伝わらないのはマズイ!」そう思ってくれたんだろうけど、怖い。



「自己紹介!順はリンパスから時計回り!よく人柄も知っているであろうから」

「「「畏まりました」」」


 機会を逃すまいとリンヴィ様が言えば、異口同音に返事があった。



 対立が起きないようにもっともらしい理由をでっち上げるリンヴィ様もすごいけど、「対立?なにそれ?リンヴィ様の方が大事だよ?」的な状態の12人もすごい。



「では、僭越ながら私から。先ほどお話ししましたので簡潔に。名前はリンパス。辰群副群長を任されております。リンヴィ様を愛する気持ちは誰にも負けません!」


 キリッと言い切るリンパスさん。今のタイミングでそれを必要もないのにぶちこんでくるその精神力よ。俺もこの恥ずかしげのなさが必要なのかな…。



「習君」

「え、ちょ、何?」


 ハシッと手を掴まれて、腕を引っ張られて無理やり振り向かされた。え? 何?



「お願いですから、あれは見習わないでください。後生ですから。私、あんなの恥ずかしくてたぶん死んじゃいます。本当にお願いします」


 困惑する俺を無視して早口で言い切った。必死だね…。



「ああ、わかったよ。」

「絶対ですよ?」

「うん。絶対。」


…この状況で「絶対なんてない」なんて言えない。さっきの俺の思考を読んで焦って言ってきたんだろうし。とりあえず、落ち着かせるために四季の腕を握る。



「…自分から褒めないでと言うんだね…」

「だねー」

「これって完全なお母様の惚気ですよね…」

「間違いない。「恥ずかしげもなく褒められると死ぬ」なんて、父ちゃんが褒めてくれると言ってなきゃ言えねぇぜ…」


 子供たちが何か言ってるけど再びリンパスさんのせいでざわざわしだしたので残念ながら聞こえかった。ただ、リンヴィ様の引きつった顔と、子供たちのいつもの温かくて呆れたような顔が印象的だった。



「次!次だ!巳群!」

「うわぉう。リンパスの熱烈アピールの後かよ…。まぁ、やらせてもらいますがね。俺っちはサンコプ」


 と立ち上がる男性。巳群だからか、全体的に体が細い。だけど折れそうという印象を与えない。でも、たぶんこれより細いとアウト。そんな絶妙な細さ。



 体のところどころに硬そうな紫の鱗が生えていて、上半身が人間で、下半身が蛇。境目のところは鱗の密度が上がっているからどこに境目があるかはわからない。顔の周りにはヒレ? みたいなのがついていてパタパタと動いている。…コブラなのかな?



 時々、舌なめずりをするように二股の舌がチロチロと口から出ているのが少し怖い。でも、足がないっぽい。獣人は人間に似ていると思っていたんだけど……。蛇族の特徴かな?



「そうだな。ちなみに、人間のような足を持っているのは、トカゲ族だよ。お二人さん。ついでにあっちは尻から尻尾生えてるよ」


 揶揄うようにアメジストの眼を光らせながら言うサンコプさん。…あれ? まさか…思考を読まれた…?



「ああ。思考を読んだわけじゃないよ」


 え…、じゃあ何で?



「ハハッ!ほんとあんたら面白い。揶揄いがいがある!さっきから夫婦そろって同じことばっか考えてやがる。ったく、妬いちゃうねー」


 !? 思考が似ているのはもうすでに知っているけど、改めて指摘されるとなぁ…。恥ずかしいな…。



「ハハ。二人そろって赤くなっちゃってー。少し仲良すぎてむかつくかもしんね。ま、カラクリは簡単だよ。こんな風にいじるのが好きだからだいたいの思考は読めるのさ!」


 うわぁ、ヤな人。



「また二人とも同じこと考えてー、俺っちのことをヤな奴だと思ったでしょー。ま。その通りなんだけどね!あ、俺っち、回復が得意なんで」


 こんな嫌な人が? えぇ…。体の色的に毒だし…、それに…、



「蛇なら蛇らしく毒を…」


 !? 驚いて首をあげると、サンコプさんと目が合った。完全に思ってたことバレてる。先手打って口に出してきた。何でそんなこともわかるの…。



「んー。今回は勇者様方の中には、蛇と言えば毒!的なイメージがあることを俺っちが知ってたってのもデカいかもねー」


 もうやだ。何で注釈いれてくるの…。



「諦めるタイミングも同じ…。と」

「そろそろ次」

「畏まりました」


 助かった。ありがとうございます。リンヴィ様。そんな感謝を込めてそちらを見ると、「我関係で暴走したら頑張って止めてくれ」と彼の眼は言っている気がする。



 頑張ってみますが…、たぶん無理です。うちの子らよりも暴走度合いが酷いので。そんな目で見たからか、リンヴィ様の目が死んだ。



 サンコプさんがそんな俺達を見て口を開きかけたが、隣の人が赤い眼で睨み黙らせ、立ち上がった。



「次は儂じゃ。儂はイラス。この巳群長サンコプの隣の午群長をやっておる。以降宜しく」


 ペコリ一礼。慌てて俺達も立ち上がって礼をする。



 体つきは一人称の割にがっちりしていて、この中でも、群を抜いて硬そうな皮膚を持っているように見える。顔に生えたとトレードマークであろう角はかなり硬いと思う。『シャリミネ』とかあったけど、あれに匹敵するんじゃないかな? …さすがにないか?



 まぁ、それはそれとして、あれで突進されたら間違いなく死ねる。それだけは断言できる。



「この爺さん。まぁ、愛想ないが、俺っちに免じて許してやって」

「サンコプ、お主余計なことを…」

「爺さん。愛想なさ過ぎて子供に怯えられるの気にしてんでしょ?勇者夫妻の子供らに怯えられたいのか?」

「む…、だが、あの子らは儂ごときに怯えるような精神はしてないぞ…」

「…確かに。狐ちゃんと狼ちゃんは微妙だけど、エルフちゃんと鎌ちゃ…」


 二人がギギギっと音が鳴りそうなほど硬い動きでこちらを見る。



 彼らの目をジッと見かえす。間違いなく俺らの眼は笑ってない。



 アイリは…、あの子は自分の鎌が嫌いだ。だからその呼び方は、その系統の呼び方だけは許容できない。クイクイッと俺の服が引っ張られる。



「…お父さん。お母さん。ありがとう」


 アイリは振り向いた俺と四季に、得難いものを確かに得た喜びをかみしめるような。嬉しそうな顔で言った。その顔を見て、ちょっと落ち着いた。



「…あの人を許してあげて。…わたしがもうそこまで気にしてないことで、今の殺気を叩きつけられるのは…、流石にかわいそうだよ」

「そこまでだった?」

「でしたかね?」

「…ふふ。やっぱり二人はこういうところは自覚が薄いね」


 向日葵が咲くように微笑むアイリ。それはどういう意味なんだろう?



「そこがー、いーところなんだよー」

「そうですよね。そういうところがあるからこそ、わたくしもあの時、お二人を「お父様、お母様」とあの時お呼びしたのでしょう」

「俺はどうだったかな?あの時は…、反抗心しかなかった気がする」

「…今は?」


 アイリの問いにガロウはプイと首を背けた。



「ねぇ皆。つまりどういうことなのさ」

「私達、完全に置いてけぼりにされちゃってるんですけれど」


 俺と四季がたまらず声をあげると、「わかってない、そんな二人が好き!」というニュアンスの言葉が返って来る。教えてくれる気はないのね…。あ。そうだ。



「サンコプさん。さっきはすみませんでした」

「私もごめんなさい」

「いや、俺っちも知らなかったとはいえ悪かった。揶揄ったからほら、お相子だ。…誉め言葉だと思ったんだけどなぁ…」


 慌てて取り繕うようにまくしたてるように言い切った。そんなに怖かったのかな? …それとも、まだ怖がられているのかな? いや、それよりも…、誉め言葉?



「次。次だ!」


 空気が悪くなったからかリンヴィ様が続きを促した。助けてくれるのは嬉しいですが、少し間が悪いです!



「このタイミングでミーですか…。いえ、やりますよ。順番ですしね。ミーのお役目ですから!ええと…、ミーはカプラと申します。未群群長をやらせていただいています。えーと、これだけでは少ないな…、ええと、ミーの自慢はこのフカフカな毛並み!…かな?とりあえず触ってみます?」


 おずおずと立ち上がって出てくるカプラさん。目は赤色、顔は可愛い感じの顔。体は本人の言う通りふっかふかの白い体毛で覆われている。そのため、体のラインが毛のせいでまるで分らない。やばい、顔でも、体のラインでも男女の判断できないぞ…。



「触られて嫌な場所ってあります?」

「ミーですか?ええっと…、皆さんにならどこを触られても我慢します!」


 …嫌な場所はあるけど言わない。…と。どうしよう。子供達なら、まぁ変なところ触ってもまだ許される気がする。だけど、俺はどう考えてもアウト。



「四季。悪いけど確認頼める?」

「はい。お任せください」


 フカフカの毛でおおわれた胸をハシッと掴む四季。「はわっ!?」とカプラさんが声をあげた。



「…習君」


 悲しそうな顔から察するに…、わからないんだね…。四季ぐらいあればおそらく毛があってもわかっただろうし、ちょっとでもあれば掴めば感触で分かるはず。…女性の胸なんて触ったことないけど。



「カプラはそんななりだが女だぞー。モフモフで超わかりにくいけどな!」

「ちょ、サンコプ!?いきなり何を言ってるんです!?」

「うるせぇ!モフモフしやがって!てめぇ、一人称で性別分かんねぇんだよバーカ!」

「えぇ…。ミーに言われましても、未群の一人称はほとんどの人が、一緒じゃないですか…」

「そうだったな!文句も言えねぇな!」


 サンコプさんの言い方から考えるに、彼女の一人称はきっと勇者のせいだ。文句を言おうとして口をパクパクさせたけど、それだけだったから。



 その人、きっとネタで決めたんだろうな…。そんな気がする。ひつじとも読める。おそらくこういう理由だ。…うん。しょうもない。



 何でそんな遠回しなのか。それなら巳群の方がふさわしかったような気がする。…その当時の巳群長がトカゲ人だったりしたのだろうか。



「そうだけどよぉ!俺っちやラリのような犠牲者を出す必要はねぇだろ?」

「おい。サンコプ。確かにやらかしたが、客人の前で恥を晒すのはやめてくれ…」


 いきなり巻き込まれた、ゴリラのような人…、というか見た目だけならほぼゴリラ。そんな人が声をあげた。


「俺っちも晒したから問題ない」

「いや、あるだろ…。俺様でもわかるぞ…」

「ないね!「フカフカだから触ってみ!」と言われて配慮が足りなかったような気がしないでもないがね!というわけで、男勇者触ってみ。他は触れてるし」


 あ。はい。サンコプさんが自爆して助けてくれたんだろうし…、やらせてもらおう。



「では失礼して…。背中でいいですか?」

「どうぞー」


 許可ももらったし、触らせてもらおう。優しくね。



 そっと指を通す。うわっ…。ふっかふか…。というか…フカフカ…。あ、やばい。語彙力が死滅した。いつものことかもしれないけど。



 けど、語彙壊滅も仕方ないよね、これだったら…。だって、これを一言で言い表すならば、もう「ふかふか」しかないもの。これに包まれて寝れば安眠は保証されること間違いなし。というか、もしこれに包まれて寝れば、起きる気が奪い取られて、そのまま永眠する。そんなレベルで気持ちいい。



 ぺシペシと俺の腰を叩く手。ちょっと痛い。誰だ…? フカフカするのをやめて顔をあげる。さっきまでフカフカしていたはずのガロウとレイコがジッとこちらを見ている。



「どうしたの?」


 …あれ? 何も言ってくれない…。



「どうしました?」


 四季が二人の顔の前で手を振ってみながら言っても反応なし。もしかして、妬いてる? ひょっとしてモフモフされるの好きだったのかな? とりあえずモフモフしてみよう。耳の辺りを包み込む感じで…、揉みこむ感じでモフモフ。



「…わたしも」

「ボクもー」


 何故かアイリとカレンも混ざってきた。一緒にやろうか。モフモフ…。二人とも何も言わないけど目を細めて気持ちよさそうだ。



「大丈夫だよ。二人とも。カパラさんは気持ちいいけど、死にそう」

「ですよね。暖を取るために包まるとそのまま命まで持って行かれそうです。ですが二人は…、」

「フカフカではないけど…、モフモフだし、二人の方が気持ちいいかな?触ってても死にそうという感じはしないし。一緒にいて安心する」


 俺らが言えば、嬉しそうに顔を摺り寄せてくる二人。やっぱり妬いていたみたい。モフモフではなくて、頭を撫でる。柔らかい人間ではない毛の感触が返ってきた。



「…突然置いてけぼりを喰らってしまったミーはどうすればいいのでしょうね?」

「笑えばいいんじゃね?」

「失敗した時の俺様達の如くな」

「そうですかでは。ハハハー。何ででしょう。虚しい…」

「実際にお前の毛並みで俺っち死にかけているからな…。社会的に」

「俺様もな。だから、死にそうという評価は覆せないな…」

「それ、ミーの毛並み関係ない…」

「はい!注目。収拾がつかなくなってきたので次行きましょう!」


 リンパスさんの一言で皆席に座りなおす。何でだろう、自己紹介なのに、リンヴィ様と俺らの心労が凄いことになりそう…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ