111話 バミトゥトゥ
「バミトゥトゥに戻る。それでいいか?」
リンヴィ様がその場にいる全員に聞く。イッギュさんとアーロンゲさんは即頷いた。俺らはまだ同意できない。その前に聞いておかないといけないことがあるからね。
「レイコちゃん。体の調子はどうですか?」
「この場を離れても大丈夫そうか?」
もともとこのニッズュンに来たのはレイコの治療のため。…シュガーがいたせいで影が薄くなっている気がしなくもないが。だから、彼女がある程度は治っていないとここに来た意味がない。
「私ですか?私は大丈夫ですよ」
「本当か?俺が見る限り、レイコまだしんどそうだぜ?」
ガロウがそう言えば、レイコはガロウを「余計なことを言わないでください!」と言わんばかりの眼で見る。…うん。その行動が如実にレイコの様態を示してるよね。本人気づいてないと思うけど。
「リンヴィ様。貴方はどう思いますか?」
「我か?我は医者ではないぞ?」
「知っています。ですが、貴方はある意味で同族です」
神獣という繋がりがあるし。もっとも、種族的には狐と龍で違うけれど。
「顔を見せてくれ」
ぬっとリンヴィ様がレイコの顔を覗きこみ、リンヴィ様の瞳にレイコの全身が映る。
しげしげと見渡して一言。
「確実ではないが…、大丈夫だろう。ここには及ばないが…、神気の多いところはバミトゥトゥにもある」
「それは何ですか?」
「聖地だ。我らはそう呼んでいるが…、一言で言えば『穴』だな」
図書館で記述を見かけた穴のことだろうか? バミトゥトゥの近くにあったのか…。
「ねぇー。穴って何ー?」
「図書館で俺らは見たけど…、カレンは見てないか?」
「うんー。蕾の時見たよーな気がしないでもーない、だけどー、ぜーんぶ見れているわけじゃないよー」
体をいっぱいに使って言うカレン。どことなく子供らしい活発が溢れていて可愛らしい。
「穴は確か…、『シュファラト』神が、『チヌリトリカ』を串刺しにしてできた穴でしたよね?」
「そのはずだよ。一応調べる対象にしてたやつだね」
「…その神話聞く限り、二人の探している帰還魔法は…」
「ないでしょうねぇ…」
「だろうね」
だから「一応」って言ったんだよね。だけど、何度も言ってるような気がするけど、やっぱり自分の目で見ておかないと。
「では、バミトゥトゥに移動する方針でよいな?」
「はい。問題ないです」
「レイコちゃん。もし辛くなったなら言って下さいね。センに走ってもらいますから」
「承知しております。わざわざ私のためにありがとうございます」
レイコは満面の笑顔で俺らに対して頭を下げる。「いいよ。きにしないで」と二人で手を振っていると、ガロウも視界の端で頭を下げているのが目に入った。やっぱり、ガロウはレイコのこと好きなんだなぁ…。
ガロウに睨まれた。何故だ。あれ? 何か言っている…? えーと、「好きなのは認める。この気持ちはだれにも負けない。ただ二人、父ちゃんと母ちゃんを除いて」…か?
猛烈に頷いている。正解みたい。…どう反応するのが正解なの? これ?
否定すれば、俺が四季のこと好きじゃないみたいで嫌だし、肯定すればいつもいちゃついていると言われたようなものを肯定したようで嫌なんだけど!?
「…諦めて」
「んー」
えぇ…。
「では、乗れ。アーロンゲ。イッギュ。そなたらへの説明は省略する。二度手間三度手間となるのでな」
「「承知」」
「だが、民を宥めるための説明に苦心するであろう。よって、我の名を用いてもよい」
「「ありがたく!」」
二人は立ち上がると森の中へ消えていった。名前を使っていいと言われただけであの反応…。そして、名前を使うだけで黙ってしまうのであろう民…。リンヴィ様、皆に心酔されすぎなような…。
「だから、後継が立たぬのだ…」
俺の心を読んだかのように心底嫌そうにつぶやくリンヴィ様。世代交代は大切な問題ですしね…。
「さて、出発だ」
憂いを吹き飛ばすように羽を広げ、羽ばたかせ空に舞い上がる。あっという間に地面との距離が遠くなる。
眼下に広がるは森ばかり。ところどころに木の密度が低いところがある。たぶんそこが集落。
「東方向に見えるのが未群の『ビード』、西方向に見えるのが申群の『バンダー』だ」
「『イークッティヌ』とほぼ同じサイズですね…」
「ああ。それら全てが群の核だ。」
要は州都だろう。米国ならニューヨーク州のニューヨークとか、カリフォルニア州のサクラメント。日本でいうなら…、州ほど地方の権限が強くないけど、愛媛の松山や、宮城の仙台にあたるか。
「私、これらの街のサイズが同じように見えるのですが、決めているのですか?」
「ああ。争いのタネは最大限潰しておきたい故。ただ、バミトゥトゥだけは我らの威信がかかっている故に巨大だぞ」
威信とか面倒だけど…、ある程度考えとかないと支障が出るからね…。
俺はそれを、地球で道場対抗試合があった時にそれで置いてけぼりにされたという事実で身をもって体験した。後、事前連絡の大切さも。
「大きさだけでなく街の外見も同じに見えますね」
町並みは自然とうまく調和した和風。時折、イークッティヌにあったような十重の塔があるが…、それもイークッティヌ同様に、雰囲気に溶け込んでいる。
「勇者伝来であり、実用的が故だ」
「実用的なのですか?」
「私達の故郷の気候に似ているのですか?」
「我はそなたらの故郷を我は知らぬ。だが、おそらくそうなのだろう」
リンヴィ様の返答を聞いて恥ずかしそうに頬を掻く四季。
…リンヴィ様があっちのこと知らないの忘れていたみたい。アイリの天然はひょっとして四季由来なのだろうか。…とりあえずそっとしておこう。
「…故郷の気候ってどういう感じ?」
「ん?俺らの故郷か?俺らのは…、季節があって、春秋はいい」
「ですが、夏は高温多湿でジメッとして鬱陶しく、冬は低温乾燥でカラッとしていて寒いです」
うへぇ…。という顔。あ。ちゃんとフォローしとかないと。なんだかんだで割と好きだから。
「でも、いいとこだよ」
「夏は…、まぁどうしようもないですが、冬は沖縄や南鳥島に逃げれば過ごしやすいですしね」
夏は北海道でも暑いしね…。逃げればいいと言っても、それが出来るようなお金がある人はそうそういないのだけど。
「あ、でも四季の美しさは誇るべきものだよ」
「えっ、あ。違いましたね。ごめんなさい」
顔を真っ赤にする四季。四季って言ったから勘違いした感じか。頬を赤く染める姿が愛らしい。そっと手を取って、
「四季。違わないよ。日本の四季に負けないほど、清水四季も美しい。というか可愛いよ」
「え、あ。ありがとうございます」
…俺、また勢いでなんか変な事言った。やばい恥ずかしい。すんごく恥ずかしい。真っ赤に染まった梅干しぐらい顔が赤くなっている気がする。
子供たちは嬉しそうに笑ってるし、リンヴィ様は黙り込んでしまった。四季は四季で、超小声で、「できたら、清水ではなくて森野の方が…」なんて言ってる。
俺は彼女に、「結婚する気はあるが、タイミングを計らせて」と頼んでいる。だからこその小声なんだろうけど、その配慮がまたぐっさぐっさと心を抉ってくる。…指輪の素材を探そうかな。こっそり作って渡せるように。
「バミトゥトゥが見えてきたぞ」
「わー。おっきいねー」
カレンの声のしたを見ると、何故かカレンはリンヴィ様の頭の上にいる。
「ええっと…、頭の上に乗ってもいいのですか?」
「今は龍であるから問題ない。そなたらを信用しているしな」
つまり変なことをしたら殺すと。極めて当然だね。体の上で変なことされたら不快極まりないし。
「後、カレンはしっかり我に許可を取っている。怒ってやるなよ」
リンヴィ様の声に驚いて目を丸くすると、カレンは、「エヘン!」と得意げに胸を張った。おおう…。ちゃんと許可取ってたのか…。
苦笑いしながらカレンの方、すなわちリンヴィ様の頭の上に乗る。そして、カレンの頭をわしゃわしゃと撫でれば、カレンは嬉しそうに顔を綻ばせ、
「おとーさんも、おかーさんも。見なよー」
と誘ってkる。元よりそのつもりだ。よいしょっと。リンヴィ様の上から落ちないように気を付けながら身を乗り出す。
デカいな…。
眼下に広がるは大きい円状の街。アークライン神聖国首都『プリストカウタン』よりもまだ大きい。洋の東西を問わず、城に似た建築物はない。だけど、そのかわりだろうか、中央部に巨大な20層建ての塔が仲良く4本そびえ立っている。塔の周辺の建物は、今まで見てきた州都にあった家々よりも大きい。
あれは…、歴史か古典の教科書で見たような…。寝殿造りだったっけ? でかい建物があって、それが橋でつながれている。石造りの庭には川があって、池がある。 そんなところが似ているような。
「この街は大きいですね。リンヴィ様」
「ああ。聖地周辺に我らの先祖が集まってできたと言われている。森が多く、魔物がたまに出る故、細々と集落をいくつも成立させるよりも、一か所に集中して住む方が良かったのであろう」
何でここでも魔物が出るんだ…。聖地とはいったい何だったのか。まぁ、ニッズュンでも言えるけど。
「どうして集まったほうが都合がいいんだ?」
「ガロウ、簡単なことですよ。集まったほうが、強力な魔物が出た場合の対処が容易ではありませんか」
「でも、食料や、街の建設はどうするんだ?」
「人数がいれば狩りで何とかなるでしょう。きっと。お父様とお母様はどう思われます?」
え。俺ら? 唐突だな…。
「俺は、レイコと同じかな」
「私もですね。農業するにしても、人が多いほうがやりやすいですしね。「バサバサバサッ!」何でしょう?」
上から金色の羽が降ってきた。そちらを見ると大きな鷲が一羽飛んでいた。
「お帰りなさいませ!リンヴィ様!」
鷲がしゃべった!?
「ああ。今帰った。クヴォック。爆音は聞こえたか?」
ただの鷲だと思っていたけど、人だったみたいだ。姿は完全に白頭鷲。色合いが少しだけ金色になっているけど。チラッと見る限り体表に近い羽は焦げ茶色だ。おそらく魔法か何かで変身しているのだと思う。
金色の目がリンヴィ様の上にいる俺らを捉え、俺らを睨むようにキラッと輝いた。それと同時に、俺の横で、一瞬で殺気が膨らむ。出所は間違いなく子供達だ。
「ヒッ」
おびえたような声をあげるクヴォックさん。
「あー。上にいる者たちは勇者たちだ。それ相応の態度で接するように」
「え、ええ。畏まりました」
可愛そうなぐらいにクヴォックさんの声は震えている。尊敬する人の頭の上に何かよくわからない奴が乗っている。と考えれば先の態度は普通だ。
だから、謝ろうね。という顔で皆を見れば、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「いえ、オレの思慮不足でもありますので…。リンヴィ様、先の質問の答えですが、確かに聞こえました」
クヴォックさんが羽で汗をぬぐいながら答える。本当にうちの子らがごめんなさい。ッ!?
「リンヴィ様!皆…、いえ、私心配したのですよ!?あれは一体何なのですか!?」
「心配するなリンパス。説明するために当事者を連れてきたのだ」
「この人たちが当事者…」
いつの間にか目の前にいたリンパスと呼ばれた人…、というか鯱は俺らをまじまじと見つめる。視線は優しい。それを見て、体に入っていた力が抜ける。白黒がシュガーを彷彿とさせたからな…。
視線が優しい理由が、さっきのクヴォックさんの惨状を見ていたからか、それともこの人従来の性分かはわからないけど。俺の見立てでは後者だが。
「大筋は理解いたしました」
「後でまとめて説明する故、伝達を」
「「ハッ!」」
二人とも空中を泳いで降りて行った。
「私達はどうするのですか?」
「我らはあの広場に降りる。が、出迎えが揃うまで待機だな」
「見栄の問題ですか?」
「ああ」
大事なのはわかるけどやっぱりめんどくさいね…。
「リンパスさん、文字通り空中を泳いでいたね」
「ですね…。シュガーもあんな風に空中を泳いだりするのでしょうか?」
想像してみよう。大質量の鯨が空を飛んで、地面を抉りながら突撃してくる光景を。水の光線が上空から降り注ぐその情景を。
「…絶対に戦いたくないね」
「想像だけで嫌ですね」
あの機動力、破壊力で空中を飛び回られたらシャレにならないぞ…。地上では水中と違って、三次元的な動作出来ないし。
「そろそろ降りるぞ」
リンヴィ様は徐々に高度を下げる。
上から見ればリンヴィ様の着地予定地点から、中央の塔までズラッと人が並んでいるのが見える。そこまで距離はないけど、結構人がいそうだ。
地面すれすれで羽を一打ち。勢いを完全に殺し、強靭な足が地面を捉えた。
「降りよ。そして、距離を取ってくれ」
「わかっています。皆!馬車に乗って」
「セン。お願いね」
「ブルルッ!」
「任せて!」と言わんばかりに鳴くセン。馬車はゆっくりとリンヴィ様から降りる。それも初めての時よりも丁寧に。
「もうちょっと雑でもよかったんだよ?」
「ブルッ!?ブルルゥ!ブルルルッ!」
「え!?妥協はしないよ!二回目だし!」…かな? プロ根性だね…。その横でしきりにアイリとガロウが頷いている。顔的にこれは…。
「アイリ。ガロウ」
「物騒な思考はやめておきなさい」
俺ら言葉に「むっ」とした顔をする二人。俺らが、「とりあえず抹殺」という思考を察したって気づいたんだろう。でも、何で「お前らが言うな」という顔なの?
「始末だけではだめですよ」
「…例えば?」
四季。こっち見ないで。何で話題を振ったの。
「やめておこう。ね?」
だって、リンヴィ様を見に来た人たちにドン引きされたら悲しみを背負うから…。いきなりドン引きされると後が続かなくなる。クヴォッグさんでやらかしてるからこれ以上は要らない。
心の中で必死に言い訳していると納得してくれたようだ。よかった、この人ら不快そうな顔してたのも、クヴォックさんと同じ理由だろうし。
「思ったより人が少ないですね」
「だね。木が多くて錯覚したのかも」
「…それでも数百人はいる」
「253人だよー」
多いのか…? 小さめの中学校の全校生徒と同数と考えるとそこまででもないような…。
「ここにいるのは格の高い者ばかりだ」
「貴族ですか?」
「微妙に違うな。大筋は似ているが。彼らは希望者の中から試験で選出されたのだ」
???
「…試験ですか?」
「ああ。仕事に対する熱意や、能力などを面談で判断する」
まさかの面接…!? 国政なのにそれでいいの? そんな気持ちは通じたようで、
「国政は群長会議で決める。だから彼らは実行部隊とでも言えるか。基本コツさえつかんでいれば誰でも出来る。試験に通っているわけだからな」
と説明してくださった。国政はちゃんと専門教育を受けた人がやる。実行は彼らで、なおかつ、試験のおかげで無能が仕事に就くという事はないと。
「既得権益をできるだけ作らぬよう、「生涯この仕事」という事はないぞ。ここが貴族と違う。任期で切れる」
「…ですが、既得権益は出来ますよね?どうやっても」
「それで反抗されたりしないのですか?」
既得権益は人が人である以上絶対に出来るし、だからこそ腐敗するはず…。そう思っての質問だったが…、
「その心配は要りませんよ。最高戦力は群長会議が掌握しておりますし、戦力の筆頭がリンヴィ様ですので。物理的に黙らせられます」
突然スッと鯱のような獣人が割り込んできて物騒な答えをくれた。ええっと…、この人誰?
「失礼。私はリンパスです。先ほど上でお会いしましたよ」
ああ。あの鯱か。意外…、は失礼か。
あの丸っとした鯱形態? とは違って、出ているところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいてスタイルの良い美人さんだ。もはや死語と化しているけどボンキュッボン。顔は真面目そう。眼鏡をかけてクイッとしそうな委員長気質。これでタクとか、西光寺には通じると思う。
…何で四季、引っ付いてるの? え。待って。本当に何で? 何で俺の手を取って引っ付いてきたの? しかも当たってるし…! 何で?
四季はジッとリンパスさんを見つめている。目は俺の思い上がりでなければ、「あげませんから」と言っている。
手を組んでもいいよね。嬉しいし。指と指を絡ませるように手をつなぐ。いわゆる恋人つなぎだ。四季はこっちを見て嬉しそうな顔をした。
「それほどまでにお二人で仲の良さを示されずともよいのですよ?」
「…習性」
「なのー」
「お父様とお母様はいつも仲がよろしいです」
「だな」
またかよ。何度やっても恥ずかしい…。嬉しくなるとこう少しだけ暴走してしまう…。マジで習性じゃないか…。しかも今回、リンヴィ様とリンパスさん以外にもまだ人がいるのに!
「後、心配されずとも、私はリンヴィ様一筋です」
「まだ言っているのか?何故我以外を探さぬ?」
「リンヴィ様以上に素敵な方はいないかと。」
「いるだろう。我は………。もうよい。皆、行くぞ」
使い物にならないことを察しているのか、リンヴィ様は俺と四季の手を取ってずんずんと歩いてゆく。って。
「ちょっと待ってください。自分で歩けます!」
「そうですよ!私達は、怪我もしてないのですから!」
引っ張られるほうが恥ずかしい。そう思って二人で抗議するが、歩みを止めない。そして、優しげな声が降ってくる。
「本当に我らの間を歩いてゆけるか?皆、「仲のいい夫妻だな」や、「我らよりも仲が良いだと!?」等と言われて歩けるか?」
………。人間に見られるよりも辛いんだよね。視線の暖かさがヤバい。たまに、「俺らよりも仲がいいだと…!?」的な畏怖も混じってるし。
答えられずに黙りこくっていると引っ張られるのが少し早くなった。
「えっ。何故、話題を逸らすのです?リンヴィ様!?」
叫び声をあげるリンパスさんは無視である。ぎゃあぎゃあ言っている彼女を見ると、クリアナさんを思い出す。彼女とディナン様の関係にこの二人の関係が似ている気がする。
周りの反応的に二組とも引っ付くのは確定っぽいしね。リンヴィさんとリンパスさんはこっちが勝手に判断しただけだけど。
少なくともディナン様とクリアナさんは絶対引っ付く。クリアナさんはディナン様が好きだし、ディナン様も多分好きだ。「おっちょこちょいすぎて嫌」と言っているけど、ディナン様が下手な貴族と結婚して旗頭にされる危険性を考えると丁度いい。
…あれでクリアナさんが名家の令嬢だったらヤバいけど、その時はその時で結婚してくれたディナン様に迷惑をかけるぐらいなら軽く絶縁しそうだし問題ないか。
「…相手が決まっているのは二人もだけど」
「俺らは恋人だから問題ない」
「そうです。問題ないです」
「「それに好き」」
「…知ってる」
「知ってるー」
「存じ上げております」
「知ってるぞ」
「見ればわかる」
「ですね」
「見れば明らか」
「確定的に明らか」
ちょい待とう。家族と、リンヴィ様はわかる。何でリンパスさんまで混じったの!? まだそれは百歩譲って許すとして…、何で道路脇の人たちにも言われるの!?
引っ張られながら恥ずかしさに悶えていると空の色が青から茶色に変わった。建物の中に入ったようだ。建物の中は誰もいない。
「ここは会議場、および群長の宿舎として使用される。故に人がおらぬ」
「群長たちは会議場でお待ちです」
「わかった」
リンパスさんはそれだけ言うと、リンヴィ様と別れた。仕事をしに行くのだろう。リンパスさんはまじめな場面とそうでない場面できっちり分かれているな。クリアナさんとの違いが…。
「私だって、やりたくてやってるんじゃないんですよ!?」と記憶の中のクリアナさんが叫んでいるが、任務中に迷子になるのは流石に擁護できない。
「もっともですね!ちくせう!」
……。
「緊張は取れたようだな。ではいくぞ」
え。あ。そうだった。リンヴィ様に連れられていたんだった。少し待ってください。早いです。だけど、それを言う前に目の前の扉は開かれた。
「帰った。今から爆発音の説明する」
リンヴィ様が言う。聞くと不思議とシャキッとする。そんな力のある声だ。なのに、座っている12人は少々困惑している。
そりゃ、リンヴィ様が大人二人を引っぱってきて、その後ろから子供4人ついてきたらこうなるよね。