12話 後始末
「もしもし、大丈夫ですか?何がありました?」
んー。眠い。誰の声だ…?
「もしもーし?息はあるんですよね…」
目を開けると美人さんの顔が目に入った。
「おはようございます。大丈夫ですか?何があったんですか?」
「おはようございます。え?え?」
困惑しながら周りをみると武装した人がたくさんいる。この人は女性か?いや、男性か。騎士っぽい鎧を着ている。とりあえず質問に答えよう。眠いけど…。
「旅の最中で、夜中に魔物出て、殲滅しました」
答えると同時にその人の顔が引きつる。なんかあったっけ?
あ、蜂の群れを殲滅したか。後片付けは…、してませんねぇ!ちくしょう。眠くても昨日のうちにやっとくべきだった。たぶん途中で力尽きたけど。後、体液らしき液体で服変色してるし。
周りを見渡してみると、四季に尋ねている女性…、女性だよね?あ、女性だわ。こっちの人のほうが美人さんだけど。も顔をひきつらせているので、同じ地雷を踏んだっぽい。
「えーと、つまりこの数を、ですよね?」
「あー、そうなりますかね?」
再び絶句する男の人。
周囲には冗談みたいに木が横一列に3mぐらい倒されていたり、地面が5メートルぐらいえぐられていたり、一部黒く焦げている穴があったり、謎の亀裂が誕生していたりする。挙句、見渡す限りの蜂の死体。木の上とかにも引っかかってるな。そして、蜂の山。
どう見ても大災害ですね!ありがとうございます!はぁ…。
前から順に『ウインドカッター』、『ウォーターレーザー』、『ファイヤーボール』、『アーラ・クワシュルス』。あと、最後のアレの産物。全部俺らのせいである。
クイーンの被害もちゃんとあるよ。目立たないけど…。仕方ない、開き直ろう。これ片付けるのを手伝ってもらおう。そんで逃げよう。
「あ、これ片付けるのを手伝ってもらえます?」
「え?あ、はい。持っていきますか?」
「魔石以外は処分してくれてもいいですよ」
「もったいないので、持って行ってもいいですか?ていうか、もっていかせてください」
お願いします!オーラがひしひしと伝わってくる。
「?俺たちは要らないのでどうぞ。かさばりますし」
「素材を買うということで、お金を渡しますので、ついてきてくれますか?」
「嫌で」
す。まで、言い切れなかった。顔を見ると、目がウルウルしていた。
これは断れない。断れる奴がいたらある意味で勇者だ。どっから見ても美少女だからな。
「あ、はい。わかりました」
反射的に答えてしまった。
「本当ですか!助かります」
そういって涙ぐむ騎士さん。さっきのウルウル目演技じゃなかったのか…。
四季も同じことをされていたみたい。こちらもガチで泣いてる。
アイリは「二人に聞いて。」と言った後、べっこう飴を食べていたようだ。ずるい。
「ソーネ!戻りますよ!ついてきてくれるそうです」
「アレム!お嫁さんからも了承はもらったわよ!」
「そうですか!なら、急いで戻りましょう!」
即断即決。かなり急いでいるみたい。
「あ!お三方はこの馬車に乗ってください。私とソーネがいろいろ説明しますので」
一瞬こっちを忘れていたな…。まぁ、いいけど。
「はい、わかりました。セン、騎士の人たちの言うことを聞いてしっかりついてきてくれ」
頼むと、「任せて!」とでもいうかのように鼻を鳴らした。うん、大丈夫そうだ。
「センも大丈夫そうです。行きましょう」
「賢いお馬さんですね…」
「そうなんですよ。すごく賢いんです」
会話を交わしてから俺たちが馬車に乗り込むと、続いてさっきの騎士さん2名が乗り込んできた。そのまま出発。
移動しながら説明してくれるらしい。
「要請を受け入れてくださりありがとうございます。私は『フーライナ第一騎士団長』のアレム=ルジアノフと申します。それで、こちらが妻の」
「フランソーネ=ルジアノフです。よろしくお願いいたします。副団長をやっております」
言いながら頭を下げる。
「習です」
「四季です」
「…アイリーン」
「「よろしくお願いします」」
「…します」
俺らも頭を下げ返す。
「我々がここまで急いでいる理由は、蜂のせいです」
「蜂の?」
「はい。この蜂は厄介でして、刺されると7日で死にます」
「はぁ…」
そうだったのか…。アイリは刺されてないし、俺たちは刺される以前の問題だったからよくわからん。センは…刺されてたっぽいけど、何も言ってこないし大丈夫。たぶん…。まぁ一応後でこっそり解毒しておこう。できるでしょ。
「で、一番肝心な点は、この毒を解毒するためには、この蜂の死骸が必要なんですね。だから、急いでいるんです」
なるほど。
「あ、じゃあ、私たちのところに来た理由って…?」
「そうです。蜂を倒して薬を作るためです。できれば蜂の巣の殲滅と。まぁ、もっともお三方が壊滅させたみたいですけれども…」
落ち込む美少女の図である。ただし、男性。鎧で分かる。…なんか四季の目線が怖い。
「えっと、どうしたの四季?」
「何もないです」
頬を膨らませる四季。でも、ワザとらしいからたいして怒ってなさそう。
ここはあれをやってみよう。溜まっている空気を抜くような感じでプスっと軽くついてみる。
「何するんですか!?」
若干顔を赤くしながら驚く四季。かわいい。
なるほど、やってみてわかったが、結構恥ずかしいなこれ。って、まだ付き合ってないのに…。やっちゃったか?あ、セーフっぽい、よかった。
「お二人ともどうされました?」
アレムさんが問うてくる。
「…持病。気にしないで」
「あ、はい」
「じゃあ、説明続けますよ?そんなわけで急いでいるわけです。で、お三方についてきていただいた理由なんですけど…」
「できれば、東の害虫の駆除も手伝ってほしいのです」
ん?『東の』?
「『東の』?ということは…」
「あ、ばれますよね」
四季の追求にばつが悪そうな顔をしたけど、一瞬で顔を引き締める。
「そうです。『東の』です」
「今、この国は東西南北どの方向でも、害虫、害獣に苦しめられています」
「東はバッタ。『アべスホッパー』。酸をばらまくうえ、作物を食い荒らします」
「西はイノシシ。『プロスボア』。やたらと突進してくるうえ、こいつも作物を食い荒らします」
「北がスズメ。『アロス』。こいつらは、上空から突撃してきますし、作物を食い荒らします」
「南が蜂。『キラービー』。毒を持ってますし、やっぱりこいつも作物を食い荒らします。お三方がやっつけたやつです」
へぇ、あれ『キラービー』でよかったんだね。偶然の一致。
で、イノシシは『プロスボア』で、鳥が『アロス』と。名前がわかってすっきりした。
「今度は何です?」
「…さっきとベクトルが違うけど持病」
「何を考えていらっしゃるんですか?」
「…たぶん、蜂の名前合ってたなーとか、イノシシとスズメの名前そんなんだったんだ。とか」
「「うわぁ…」」
「…ね?」
ん?二人が凄く頷いている。何かものすっごく失礼なことを言われていた気がする。
「あの…。お二人とも、今何か失礼なこと考えていませんでした?」
「いえ、ただ、このお嬢さんと仲のいいご両親ですね。と言っていただけです」
フランソーネさんも首がとれてしまいそうなぐらい頷いている。声が若干上擦っているけれど。
「そ…そうですか」
そういって四季は顔を手で覆う。可愛らしい。
「習君も顔赤いですよ?」
「え、本当に?」
「ええ」
そう言って四季はクスクス笑う。見ていた二人は口の中に砂糖をぶち込まれたような顔になっている。
「…で、どうするの?」
「バッタ?どうしよう?」
「話聞く限り、面倒くさいですよね…」
「そこをなんとか!」
「お願いします!」
馬車の中で勢いよく土下座をきめる二人。
「報酬は払いますので!」
「でもなぁ…。あ、じゃあ、ガーツってある?」
「ガ、ガーツですか…」
「とりあえず外、見てもらえます?もう穀倉地帯なので」
「?まぁ、わかりましたけれども…」
俺らは走る馬車の中から顔を出す。風が気持ちいい。しかし、俺たちの目に飛び込んできたのは、まぁ、話の流れからわかるわな。黄金の小麦畑!とか、青々と茂る葉野菜!とかじゃないことぐらい。
穀倉地帯なのに、凹凸。しかも一部剥げている。これはひどい。
「こういうわけです」
「なので備蓄分しかないんです…」
「えぇ…。どうしようか?」
「もともと、ガーツ買いにトヴォラスローグル目指していたんですよね…。」
「…ねぇ。二人とも。いるのは砂糖じゃないの?」
!確かに!
「そうだ。砂糖でもいいんだった」
「むしろ砂糖のほうが楽です」
「砂糖…。ですか?確か備蓄はいっぱいあったはずです。どれくらい要ります?」
「くれるだけください」
「あ、はい。何に使うかは聞きませんが、足りない分はお金でいいですか?」
俺も四季も頷く。アイリもそれに追従する。
では、協力しますか。
______
二日かけて、無事にトヴォラスローグルについた。結構遠かった。今は夜の9時くらいだろうか。
道中の敵は、騎士の人が弓や魔法で始末した。数が多ければ、俺らも手伝ったけど。機会はあまりなかった。
トヴォラスローグルは典型的な田舎ではなくて、穀物の集積地みたいな感じが漂う町だ。
行ったことないけど、シカゴとかエドモントンが近いんじゃないかな?と考えていると、
「私は解毒薬を作ってきます。」
「私は、バッタ狩りの団編成をしてきます!」
と言って駆けて行った。薬を作りに行ったほうがフランソーネさんだ。
「え、これ俺たちどうすればいいの?」
「さぁ…?」
まさかのここにきて放置プレイ?ひどくない?
「すいません。えーとシュウ様とご家族様ですか?」
いかにも貴族です。という風体のイケメン男性が声をかけてきた。
「はい」
「私はあのルジアノフ夫妻の部下。リベール=クランスキーです。あ、自己紹介は不要ですよ。『資料を読んで』存じ上げておりますので」
「資料を読んで」を強調するリベールさん。
「あの人たち、頼れるんですけどね。どっか抜けてるんですよねー。あ、こんなこと、お聞かせする話ではありませんでしたね。ついてきてください」
今ので察した。この人苦労人だわ。かわいそうに…。どこからか「おまいう」と聞こえてきたが気のせいだ。
こら、アイリ。「…やっぱり…。二人とも無自覚…」とか言うんじゃない。
「宿に案内いたします。明日の朝、いろいろ用意が終われば、『私が』お呼びしますので…。だいたい、2の鐘が鳴るころに。『私が』来る。と思っていてください。そのころには、宿にいてくださいね?お願いしますよ?」
「私が」のところがやっぱり心なしか強いし、どこか「頼むから、これ以上面倒ごとは増やさないで!」という、切実な願いが実体化したような何かを感じる気がする。
目がクワっとなっているのがわかる。怖い。
「あ、そうそう。センさん?ちゃん?は先に『私が』宿に連れて行っています。後で、様子を見てあげてください。本当にあの子はいい子ですね!」
いい子のところに実感がこもりすぎていてちょっと引く。
引いていたら、リベールさんが立ち止まった。そして、雰囲気のいい建物を指さし、
「宿はここです。『収穫期』。いい宿ですよ。『私が』がんばって宿を押さえました。
では、私はここで。あ、私は町の中央の駐屯地にいるので、何かあったら来てください」
言うだけ言うとリベールさんは嵐のように去っていった。うん、不満を隠しきれてないね。ていうか、あの二人抜けすぎ。ん?また同じ幻聴が…。
宿の外観はとりあえず、高そう。ただ、「この辺りでは」という注釈がつく。東京とか、観光地とかにある、びっくりするぐらい高いホテルほどではない。けど、いい宿なのは間違いない。
「…とりあえず、入ろう?」
「ん」
ドアを開けて入店?する。
「いらっしゃいませー!あ、シュウ様とご家族様ですね。部屋の鍵です」
「えっと…。一部屋ですか?」
渡されたカギは一本だけ。だから一部屋なのだろうけど…。女将さんがキョトンとしてる。
「?家族旅行中でしたよね?」
何故?という顔をしてる。確かに。家族設定であれば一部屋のが普通だよね…。
付き合ってもないのに、同じ部屋。違和感が……あまりないな?これまで(野営中)と変わらないじゃん。
「お金は、リベールさんが「後で、どうせ『私が』持ってきますので、いい部屋に案内してください」と言われているので、気にしないでください」
「リベールさん。なんですね?呼び方。」
「そうなんですよね…。偉い方なんですけれども、なんというか…こう、あれです。あれな魅力があるでしょう?」
わかる。でもあれって何だろう。適切な言葉が見つからない。なんだったっけ?
「そうですよね!わかります。あれな魅力がありますよね」
「ですよね!あ、晩御飯、できていますけど食べられます?」
俺が考えている間に話が進んでいた。確かにお腹がすいている。
「食べましょうか?」
「そうだな。そうしよう」
「…ん」
というわけで食堂へ。食堂の中には、老年の夫婦っぽい人や、中のよさそうな子連れの家族。それと、カップル。男女ペアばっかだな。あ、それを言ったら俺らもか、アイリいるけど。
「ここは落ち着いていて、私がいうのもなんですけども、そこそこのお値段ですからそういう人が多いのですよ」
と女将さん。その言葉通り、木でできたシックな感じのする室内は非常に落ち着く。
さて、今晩のメニューはハンバーグとサラダ。あと、パン。全部挟めばハンバーガーだ。で、お酒。
お酒!?
「すいませーん」
「はい!なんでしょう?」
「これってお酒ですか?」
「はい、お酒ですよ?あ、この国では16歳から飲酒できますよ」
俺たちは17歳。間違いなく超えている。けど…。
「けど、娘さんはまだたぶん越えておられません…よね?ですから果実水なのですが」
あれ?俺らの心配されてない…って、そりゃそうか。いかにも血縁ありますって風貌の娘がいたら普通大人と思うよね。
「もしくは、お二人が下戸です…か?」
それは不明です。が、お酒…お酒かぁ。でも、ここは日本じゃないし…。
「美味しいですか?」
「美味しいですよ。そこまできつくないですが…、お嫌いなら変えますよ?」
なるほど。美味しいのか。なら、
「「このままで」」
「フフッ、では、このままで。また、何かありましたら、お呼びください」
一礼して、別のテーブルに向かって行った。
アイリがまたジトっとした目をしている。
「…美味しい物好き?」
「「大好き」」
「あ、うん…。だよね…。聞いたわたしがバカだった…」
そこまで落ち込まなくても…。
とりあえず、食べよう。
パンは白いパン。外はパリッと。中はふわふわ。味はしっかりとバターの塩気が効いていて、美味しい。
ハンバーグも口に入れると肉汁がジュワっと広がる。食感も適度にあって非常にジューシー。
サラダはとれたてなのだろう。外の耕作地の状況はよろしくないけど。宿だし、まわってきているのかな?それはともかく、とてもみずみずしくて美味しい。
全部美味しい。
「「美味しい!」」
叫んで、二人で女将さんに親指を立てる。このしぐさの意味は日本と同じ。喜んでくれている。アイリは黙々と食べているが、頬の緩み具合を見るに、相当美味しいと思っているっぽい。
後はお酒。アイリはちなみにブピラジュース。向こうでいうブドウのジュース。お酒もこれでできてるらしい。だからこのお酒はワインになるのかな?
とりあえず、飲んでみよう。なるべく優雅に見えるよう飲む。ワインっぽいし。
シュワシュワしていて炭酸のよう。ワインというよりワインの炭酸割りになるのかな?でもその奥に、しっかりとブピラの味がする、この甘くて苦い感じ。最高!
「おいしいな」
「美味しいですね」
二人ともお代わりを頼んで、味をゆっくりとしっかりと味わうように飲んだ。
「…飲みすぎないでね」
わかってる。でも、ありがとね。
______
「…馬鹿なの?」
「こら、アイリ。仮にも母親に向かってバカとはなんだ」
「…でも、酔いつぶれるまで飲む?」
「初めてだから…。ね?」
案の定というか、なんというか、四季が酔いつぶれて寝た。アルコールに弱かったようだ。
俺はまだ大丈夫っぽいけど、さすがにこれ以上はまずい。
「…がんばれ。部屋は最上階だよ?」
「うげぇ、マジか。先に行ってくれていいぞ。あ、お風呂沸かしておいて。後で、入るから」
「…好きだね」
「好きだよ」
アイリは呆れた顔になってとっとと上に上がっていった。最上階は7階で、今は3階だ。
それにしても、疲れる…。重いって言ったら失礼だから言わないけど…。
もっと酔っていたらやばかったかもしれない。いろんな意味で四季をおんぶしているから。お姫様抱っこは、階段上るし意識がない人にやる分には危険なのでやめた。
その結果がこれ。四季の胸が…。理性がゴリゴリ削れる。
俺の葛藤も知らず四季は幸せそうに寝ている。襲われるとか考えないのかね?
「まぁ、俺はそんな四季が好きなんだけど」
「私も…好きです。習君…。」
!?え!?いや、落ち着け。
「えっと、四季…。起きてる?」
俺はぎこちなく尋ねる。しかし、返って来るのは規則正しい寝息だけ。
寝言か…。
でも、そっか、好きかぁ…。
もとから告白の成功率は高そうだと思っていたが…。今ので確定した。100%成功するだろう。問題は…、タイミング?何なんだろう?
そんなことを考えていると、いつの間にか部屋についた。けど、答えは出ないままだった。
言うまでもないことですが、今のところ日本での飲酒可能年齢は法律上は20歳からです。
飲むのも飲ませるのもダメです。
二十歳を超えていても飲みすぎ注意です。