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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
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109話 進歩

 …ッ、ふぅ、よかった、意識が戻った。



 自分でやったんだけど…、痛かった…。まさか、俺らが作った『壁』の破片で体中に打撲、切り傷を負うとは思わなかった。



 まぁ、『壁』を消そうにも、吹き飛ばされていてそれどころじゃなかったから、消せなかったんだけど。それはそうと、瞼が重い…、喉も微妙に変な感じがする。



 ん? 喉…? ……ひょっとすると、俺、衝撃で喉がつぶれてた?



 …よく呼吸出来たな。我ながらそう思うぞ。でも、流石に喉がつぶれた(物理)で呼吸はできないはずだから…、アイリとカレンが俺らを抱きかかえてくれた時に、『回復』をしてくれたんだろうな。



 呼吸することで頭がいっぱいいっぱいだったから『回復』には気づかなかったけど。おそらく間違いない。だって、俺らがいくら頑張ったところで、あの傷だったら皆に会えた安心感で即落ちしていても何もおかしくはなかったわけだし。



 それにしても、ひどい目にあった。何故遺跡探索であんなのと戦わないといけないのか。



 確かに、遺跡探索と言えば冒険みたいなところはある。某インディ博士の冒険譚みたいなのとかあるわけだけどさ…。



 まぁいいか。一応無事なわけだし。ただ…、シュガーは倒しきれてないだろうなぁ…。



 何故かあの壁の回復効果は外傷だけにしか効果がないみたいだから、大ダメージではあるだろうけど、あの規格外生物ならば自然治癒するだろう。



 はぁ。探索したけど得たものは特になし…かな? 情報に関しては。四季が成長…、言葉があってるかどうかはわかんないけど、とりあえず、『複製』出来るようになったのがあるから、得たモノがないわけではない…と。後で会話すれば何か得るものがあるかもしれないから、情報に関しても成果ゼロは早計か。



 にしても…、体が重い。瞼もだけど、体がやけに重い。疲れているのかな? このまま二度寝しようかな?



 まだ瞼も閉じているし…。…ん? あれ? これ、体がだるくて重いんじゃない。この体の重さは物理的なもの。何で? だるいけれど頑張って目を開ける。



 …何だこの状況。



 目に入った光景に思わずそう思うアイリも、カレンもレイコもガロウも、皆一様に俺と四季の上でグデッと死んだみたいに倒れてる。ちゃんと呼吸しているから生きているけど。



 こんな状況で周りは大丈夫なのか? 焦燥に駆られて周りを見回してみると、気を張ってあたりの警戒をしているリンヴィ様がいた。



 どう声をかけようか…、あ。視線があった。えーと、目で訴えていることを読み取ると…、「無事でよかった。警戒は我に任せよ」かな?



 そんな確認の意味を込めてリンヴィ様を見つめれば。彼は頷きをもって返事をした。



 ついでに、「わかっているだろうが、子供らに過度の心配をさせるな」という忠告が、無言のうちにヒシヒシと伝わってきたけど。



 わかってはいます、やりたくもないんですけど…、そうはいかないこと、時もあるんですよね。



 子供たちに目をやる。皆スヤスヤと心地よさげ。髪が呼吸するたびに上下にゆっくりと動く。…ああ、何でこんなことになってるって、答えは簡単だったな。というか、この子たちなら、当たり前。そういえる。



 推測するに…、俺らを心配して、『回復』をして傷を癒し、『水中服』を切ったためにずぶ濡れになった服を乾かして……なんかのあれこれをやってくれて、それでも心配で俺らの周りにいたらそのまま寝ちゃったのか。



 俺と四季、二人とも湖から上がったと同時に意識を失ってうんともすんとも言わなかったはず。だから、不安だったはず。例え俺らが息をしていていたとしてもね。



 その証左だろうか、皆の顔はいつもの寝顔と違って、緊張からか強張っている。緊張度合いは皆酷い。その中でもやっぱりアイリが一番ヤバい。



 …健全な、もしくは普通の親子関係なんてものは俺にはわからない。これはたぶん四季も。というよりも、万人が等しく思い浮かべる普通の親子関係なんて、個人差があるせいでないだろうけど…。



 やはりこの子の緊張感のすさまじさは俺らへの依存があるはず、俺としては、慕ってくれるのは嬉しいけど…、何とかしたほうがいいと思う。



 カレンやレイコと仲良くなれば…なんて思ってたけど、ダメだったな。時間が足りないだけかもしれないけど、それでも足りないなぁ…。



 というか、今考えてみるとこの考え最初っからダメじゃん。依存対象増えるだけじゃん。依存対象増やしてどうするのさ…。



 となると、それ以外だ。…それ以外って何さ。「生きる意味」? そんなもの知らないよ。答えなんて出るわけない。だから、俺自身、俺が生きる意味を考えるのはやめてる。



 生きているから生きる。少なくとも自分が幸せに生きられるように。もちろん、よそ様に迷惑をあんましかけないで。「絶対にかけない」というのは人間である以上無理でしょ。



 最近はそこに、大切な人達(四季と子供達)と生きられるように。という文が増えたけど。それでも、ある種の思考放棄に見える。そもそも哲学なんて、これも個人差在るんだからどうしようもない…。



 ダメだな。疲れているからか、頭が回らない。大切なことだけど今は脇に置いておこう。今は生きていることに、腕の間に大切なものがあることをかみしめていよう。



 一番近く、顔がこわばっているアイリを撫でよう。そう思い立って手を伸ばすと、誰かの手と当たった。



 誰? そう思ったが、すぐに誰かわかった。誰って言ったって、みんな寝ているし、リンヴィ様は遠い。四季しかありえない。



 二人で一緒にアイリの頭を優しく起こさないように撫でる。



「…ん。んん…。」


 あ、起こしちゃったか?



「…んんぅ…」


 …セーフ。寝言だった。顔をあげたから完全に起きたかと思った…。アイリは顔を少し下に向けていたが、完全に横を向いた。



 その顔は俺らの手が触れたからだろうか、緊張が取れていつも通りの…、いや、いつもよりも幸せそうな、嬉しそうな顔になった。



 控えめに言って超かわいい。猛烈に撫でくりまわしたい衝動に駆られる。だけど、だけど…、起こしたくないから自重しよう。四季は四季で手を伸ばして引っ込めたりを繰り返しているから同じような葛藤を抱いているのかもしれない。



 あ。やめた、自重が勝ったようだ。あ、アイリの顔の緊張が撫でて取れた。だから、他の皆も取れるかもしれない。



 そう思ってカレンの頭に手を伸ばすと既に四季が撫でていた。四季の顔から推測するに…、自重したけど撫でるのはやめれなかった。かな? たぶん。



「む。私も習君と同じ気持ちで撫でてますよ?そりゃあ…、習君の想像通りの動機もないこともないですが」


 と言って拗ねるように顔を背ける四季。何でバレたし…。



「ごめん…」

「怒ってませんよ。さ、一緒にやりましょ」


 2人で3人の頭を撫でる。うん。皆いつもの顔になったね。…寝ながらでも俺らの手は皆の頭に余裕で届いた。ということは…、皆かなり顔のそばで待機していたんだね…。どれほど心配をかけたんだろうか…。



 心配かけてごめんよ…。そのまま寝ている皆の頭を出来るだけ優しくゆっくりと撫でる。



 全員、触り心地がいい。アイリとカレンの髪は四季が手入れしてくれているからだろう。ガロウとレイコは…、レイコの分は四季がやって、ガロウはレイコがやってるのかな?



 ガロウが自分でやるとは思えないし、だからと言って、ガロウが四季にやってもらうのは想像できない。



 だから、レイコだろうけど…、それでいいのか、ガロウ…。ああ、でもガロウはレイコが好きだから…、いいのか。ガロウが自分からレイコにいちゃつくような人間には見えないし。こういう機会でもなければ触れ合う機会は少なそう。



 俺も人の事言えないけど。というか、俺なら断るだろうな…。いい歳なのにやってもらうのは忍びないとかいう矜持がだな…。



 でも、こういうところ見習ったほうがいいのかな。レイコは好意に気づいていてわざとガロウと遊んでいるように見える。ガロウはいちゃつきはしないけど、進むときは進むから…。



「無理はしなくてもいいのですよ?」

「え?」


 思いがけず四季から声が飛んできて、声が出た。自分でも声が大きいと思って、「あっ。声が大きかった!」とさらに大きな声で言いそうになった。だけど、それよりも早く、「シーッ!」と子供に言い聞かせるように口の前で指を立てた四季。



 ああ、うん。わかってる。驚いただけ…。でも、止めてくれてありがとう。



「…何で俺の考えていたことが分かったの?」

「何となく。です。しかしですね、ガロウ君とレイコちゃんをジッと見つめた後に、チラッと私の方を見れば、大体は察せますよ」


 顔をわずかに桃色に染めて言う四季。



 なるほど。そりゃ察せる。ただなぁ…、四季のほう見たのは無意識だったんだよなぁ。自分でも気づかなかったし…。



「ま、まぁ、私もこう言ってはいますが、あれですよ、あれ。えーと、先に進むことを望んでないというわけではないのですよ。ええ。決して。あ。でも、せかしているわけでも…」

「落ち着いて。皆起きちゃう」


 顔を真っ赤にして手で顔を覆う四季。「言っちゃった…」そんな感じかな。今の行動も、俺が何も言わないもんだから、俺に何か変な誤解をされたと思って、焦った結果か…。



 今の行動からも、四季が俺のことを想ってくれているのがはっきりと伝わる。というか、今のを見て自分に気がないと思うやつは鈍感すぎる。そう思えるくらいに親愛の情があって、可愛らしく、愛おしい。



 今の恋人関係から一歩先に…、本当の家族関係…、すなわち婚約関係へと、俺が前に進めることが出来ないのは俺に意気地がないからか。



 「もっと好きな人が出来るかもしれない」とは四季と出会ってから思ったことがないし、これからも思うことはないだろう。だって、四季以上に俺と気が合って、魅力的だと思える人はいない。それに、俺はこの人と一緒に生きて一緒に死ぬんだろうな。という確信がある。



 じゃあ、何でだろう? 婚約したら流れ流れてやらかしそうだから? それはないとは言わないけど俺の中での理由としての比重はちっぽけなものだ。



 じゃあ、一番重い理由は何だろう? とりあえず、俺が今現在、「せめて、関係を進めるときはちゃんと区切りをつけて進めていきたい。そうでないと、この関係が流れで始まって、流れで行きつくところまで行きついた。そんな感じになってしまう」と危惧しているのは確か。



 空を名前も知らない鳥が飛んでゆく。ニッズュンのはるか上空を悠々と。この食物連鎖の地獄たるニッズュンの上を自由に。



 ピチャンという音とともに、湖から魚が飛び出し、水球を吐いた。「お前も混じれ」と言わんばかり。



 だが、鳥は「嫌だよ」とでもいうかの如く旋回し避けた。「何でこの場所の流れに縛られなければいけないんだ」とでも言うように小さく、されど高く鳴いた。何故か、その鳴き声は我儘に聞こえた。



 俺はそれをジッと見ていた。だからだろう、ストンと自分の考えが腑に落ちた。なるほど。俺は嫌なんだ。なんて俺は我儘なんだろう。自嘲するような笑い声が口から漏れた。



 恥ずかしいのもある。勇気がないというのもある。だけれど、それ以上に、俺らの意識の中で「この関係――愛し愛される関係――が、流れによって形作られ、流れによって完成した」そうなってしまうのが本当に本当に、たまらなく…、この上なく嫌なんだ。



「習君…?」


 声を出した時から不思議そうこちらを見つめていた四季。考え中だったから軽く無視することになってしまった。赤かった顔は既に元に戻っている。…どうせ俺のも、四季の顔もこれから主に染まる。赤いままであってもよかったのに。



 そんな考えが頭によぎった。四季は俺がまだ無言なことに不安の色が浮かんだ瞳で俺の顔色を窺っている。



「四季。さっきの話だけど…」


 ビクッと四季の体が跳ねて、すぐに薄く紅色に頬が色づく。声を出さないあたり、俺より上手だ。



「四季のさっきの話が。せかしてないことはわかってる。でも…、それでも進めないのは、いや、進まないのは俺の我儘なんだよ」

「我儘…ですか?」


 不思議そうに顔を傾げる四季。抽象的すぎるのは承知の上。だから、俺はさっきの考えをうまくまとめて四季に話そう。既に顔が少し梅色になっているのは自覚している。これから話そうとしていることが既に「婚約してくれ」と言っているのも同然なことも。それでも、言わなければならない。直接、言葉にしなければならない。



 こんな関係になった原因はどこにあるのかわからない。だけど、進めないのはどう考えても全て俺が悪いのだから。



顔が羞恥でトマトのように赤くなるのを自覚しながら言うと、四季も俺に負けないぐらいに顔を染めて「フフッ」と楽しそうに笑って頷いてくれた。



 戦いのときは良く俺の考えを察してくれている。だから、俺が四季の事が「どうしようもなく好きな事」は手に取るように伝わっていると思う。



 だけど、今は言葉にしよう。俺の我儘に理解を、賛同を示してくれた彼女に。俺の一番好きな人に、たった一言。わずか2音節の言葉、なのに、普段は恥ずかしくて直接伝える事の出来ない言葉を。



 改めて四季の方を見る。頬は紅潮していて目は潤んでいるように見え、たまらなく可愛らしい。



「四季。俺は四季が好きだよ」


 四季の眼を見て、噛むことなく、言い切れた。頭に血が上って体温がさらに上がっていくのがわかる。



「習君。私も好きです」


 透き通るような笑顔とともに、間髪入れずに言葉が返ってきた。「私もです」で済ましてくれてもよかった。それにもかかわらずわざわざ、「(四季)貴方()が好き」と言ってくれた。そのことが猛烈に嬉しくて、こそばがゆい。顔はますます赤くなる。きっと燃え盛る火にも負けないぐらいに。



「…動けなくてよかったね」


 ボソッと言葉が漏れた。だって、動けたら恥ずかしさで転げまわっていただろうから。



「ですね。…ですが、私は少し残念です」


 小声で、俺に聞こえるかどうかぐらいの声量で隠すように、消え入るような声で言うと頬を桜色に染めた。



 …キス出来ないことかな? それとも…。まぁ、いいや。さっきの精神状態ならきっとできた。流れは嫌だって言ったばかりなのに。…そりゃ、どうせ俺のことだから流れがある程度ないと進めないだろうけどさ!



 でも、キスぐらいは…、いいと思うんだ。物理的に今は出来ないけど。



 まぁ、既に雰囲気の魔法は解けているけど。後に残されたのは、燃え盛る太陽よりも紅に色づいた顔をした俺らだけ。



 かなり恥ずかしくて、この空気に耐えられそうにない。だから誤魔化すように、顔も見ないで、どこまでも高く続く青い空を見て、



「ねぇ、皆重いね」


 と言った。



「ですね…。ですが、これは幸せの重さ。というものではないでしょうか?」


 また恥ずかしいことを…! チラッと四季の顔を見ればますます顔は赤くなっている。真っ赤な血よりもさらに赤い。



 …でも、俺もそう思う。きっと普通では…、一般的ではないかもしれない。だけど、少なくとも俺と四季は、これが幸せで…、皆と生きていられることがたまらなく嬉しいのだ。



 そっかぁ。幸せって重さがあったんだなぁ…。皆に押しつぶされたままそう思う。…帰って俺の家族に会って、皆を紹介できればもっといいのだけれどね。



「…ふわぁ…。…寝ちゃってた…。…あれ?……空気が甘い」


 起き抜けに言い放つアイリ。俺と四季は恥ずかしくて揃って遠い目をした。

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