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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
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105話 ニッズュン

「どうしました?」


 何故かドアの前で遊んでいるように見えるカレンに四季が尋ねる。



「むー。入れない!」


 カレンは体をグーッとドアのあったところに押し付ける。が、まるで見えない壁がそこに横たわるかの如く、カレンの顔がつぶれる。つぶれたせいで不細工だ。ものすごく不細工…というわけではなく、ぶちゃいくというレベルですんでいるあたり、地の違いをひしひしと感じるけど。



「カレンちゃん。おやめなさい。顔がつぶれちゃいます」

「むー」


 渋々引き下がるカレン。そして後ろから泳いできたアイリと交代。アイリもそっと手を伸ばしてみるが、やはりこちらには届かない。ダメか…。


「……」


 アイリが無表情をいつもより深めて、見えない壁を睨みつける。そして、息を思いっきり吐くと、突如として巨大化させた鎌を出現させた。



 「ちょっと待って。短気はやめよう」なんて言う前に、見えない壁に向けてアイリは俺達には絶対当たらない位置めがけて鎌を振り下ろした。



 …が、鎌はドアのあったところを滑るように撫でただけ。音も何もなく、本当にツーっと鎌が滑らかに動いた。



 アイリはドアのあったところに近づくと手を伸ばす。が、やはり謎の壁があって通れない。



「…無理」


 見りゃわかる。斬れば入れるかな? と思ったんだろうけど少々脳筋すぎる。



「ボクたちは入らないでー。ってことかなー?」

「…かもね」

「だったらー。二人で行ってきたらいーよ。ねー?」


 カレンがアイリに同意を求める。けれども、アイリは返事をしない。どうしたんだろう? が、声をかける前に先に彼女が動いた。



「…何があってもわたしは二人の長女。…だよね?」


 泣きそうな声が飛んできた。その言葉はあまりにもアイリの毅然とした顔とは乖離していて、だからこそ、その毅然とした顔が、強がりであることは明らかだった。



 アイリの声はある意味で俺達にすがろうとするもので、この世界で生きることに疲れてしまった、自己主張をほとんどしないアイリの、唯一といってもいい助けを求める声だ。



 その声に、俺も四季も改めてこの子が強いように見えて、実は繊細であることを思い知らされずにはいられない。この子は間違いなく俺らが消えれば何のためらいもなく消えるだろう。最近はカレンやガロウ、レイコがいるからマシになったとは思っていたけど…。まだダメか。足りない。俺らだけ依存するのは健全とは言えないんだろうけどね…。



 アイリの不安に揺れる瞳。そこから判断するに、この子が心配しているのは、俺らが先に行ってアイリの見ていないところで死ぬこと。だけど、それが全てではない。



「大丈夫。帰れても皆を置いては帰らない」

「皆が一緒に行きたくないというなら別ですけどね」


 アイリの頭とカレンの頭、二人の頭に手を伸ばして笑って話しかける。俺らの手は見えない壁には阻まれない。



 誰が置いていくものか。一緒に行くと聞いているのに。子供たちが心変わりしない限り、俺達はそのつもりで動く。



 アイリはそれを聞いて、俺らの目を見ると安心したように力を抜いて、小さく「…ごめん」と言った。



「大丈夫。子供は親に迷惑をかけるものだ」

「逆も然りです」


 完全に俺と四季個人の考えだけど。親子とはそういうものだと思う。



「…ふふ。だね」


 アイリは嬉しそうに笑った。だが、…何故だろう。どう考えても他意はないはずなのに、言外に「いつもいちゃついたと思ったら自爆しやがって」という波動のようなものを受け取ったような気がする。



「…どうかした?」

「うんうんー」


 不思議そうに首を傾げる二人。やっぱり気のせいか。



「…行ってらっしゃい」

「ボクたちは街を見てくるよー!」

「ああ。任せた」

「お願いします」


 言葉を交わすと、二人は後ろを向いて神殿外へ泳いでゆく。



「…あ。当たり前だけど、水の中だよ?…それを忘れないでね」


 蚊と思うと、くるりと振り返って念押し。頷きを返すと、今度こそ、こちらを振り返ることなく外に出ていった。



 無駄に透明度の高い水のせいで水中なの忘れそうになるけど、泳いでるから忘れないよ? 信用されてないわけじゃなくて、水中では動きにくいから気を付けてね。的な意味なんだろうけど。…たぶん。



「行きましょうか」


 だね。相変わらず単一の二色で構成された建物を奥へ。



「ところで…、先ほどアイリちゃんと会話しているとき、私達が強制的に帰らされる可能性もあるはずですが…、話題になりませんでしたね」

「だね。まぁ、それはする必要がないと思ったんじゃない?」

「強制的に帰らされた場合、もう一回戻ってくると考えたのでしょうか?」

「たぶんね。俺達が自分の意志でおいていく可能性は明確に否定したわけだしね」


 逆に言えば、アイリは、ひょっとするとカレンも、「俺達が自分からおいて行かないかぎり、何があろうと迎えに来る」と考えたという事だ。



「その信頼感は私達が二人を撫でたときの言葉、態度から沸いたものですかね?」

「どうだろう?元からあったのが、さらに補強されただけな気がするけど?」


 単に今回は物理的に壁があって離されてしまったから不安が強くなっただけで。なんてことは言わなくても俺の雰囲気で察したのか苦笑いを浮かべる四季。



「あとは…、ここの神様がこっちの世界に来るときは強制だったのに、帰りも強制にはしないと考えたのかもよ」


 だから強制帰還は話題に出さなかったんじゃないかと思う。わざわざ聞くことでもないから聞く気はないけどね。



「来るとき強制でしたんですけどね…」

「まぁそれは…、「俺らの世界(地球)など知らない。だけど、私達の世界(アークライン)の困っている人たちを助けて欲しい」そう言うことでしょ」


 わざわざ口に出して「傲慢な」等と言ったりはしない。そんなことわかりきってるから。神と人は価値観が違うのだから。



 召喚されなければアイリたちに会えなかったわけだし、四季といつこういう(恋人)関係を築けたかわからない。その点は感謝しよう。だからと言って完全に許しはしないけどね。



「あ、分岐がありますよ」


 指さす先には十字分岐。正面には馬鹿みたいに大きなドアがあって、左右にはそれに比例するように大きな口を開けた廊下がある。



「さて、どこから行きます?」

「一番怪しい中央から行こう。きっと罠はないはずだ」


 罠がない根拠はない。勘だ。



 さて、まずは扉が開くかどうかだけど…。多分開く。さっきも開いたし。ドアの大きさは先ほどと同じくらいで、およそ10 m。



 二人でドアに優しく触れると、先と同様にドアは元からなかったかのようにスッと消える。さて、何があるか…。って、待って。なんで生き物いるの? 今までいなかったのに!



 クイッと俺の手が四季に引かれる。それで俺は動揺を抑えられた。四季に腕を引かれながら、音を立てずに廊下へ!



 ふぅ…。一安心かな? 周りを見る限り何もいないし、音も気配もない。



「四季.ありがとう。でも…、いつまで掴んでるの?」

「あう。失礼しました」


 小声で驚いてワタワタする四季。小声で驚くってまた高等な…。こういう時なんていえばいいんだろうか? 「別にいいよ」だと素っ気ないし…。むしろこういう触れ合いは嬉しいんだから。でも、「ずっとつかんでていいよ」だと変。というか流石に動きにくいわ。



「コホン。あの生き物は何ですか?」

「さぁ?ちゃんと見てない。生き物ってことだけだね」


 悩んでいると四季が話題を変えた。触れて欲しくないんだろう。とはいえ、あの生き物のことは大事だ。



「確認してみる?」

「ですね。ですが、再びあの前に体を晒すのは…」


 嫌だな。そもそもあの生き物自体、何か変な雰囲気を纏っていたし…。



「まぁ、魔法だね」


 この程度の距離なら何とかなるでしょ。鏡に反射させれば見えるだろう。



「だから、紙ちょ…、あ。ありがとう」


 言い切る前に渡された。四季も説得するまでもなく同じような結論に至ったのか。書く言葉は…、『反射鏡』でいいかな。『反射』とつけたのは気分。わざわざつけることでこちらの意図をより反映してくれる気がする。



 …顕微鏡の反射鏡になりそうだ。だけど、意図を反映するにはその形が一番よさそう。ササッと書き上げる。



「今更ですけど、水中でよく書けますよね」

「シャイツァーだしね…。台は壁があるし…。なくても四季からファイル借りればいいわけだし」


 そういえば、四季のファイルもなかなか謎だ。クリアファイルのように簡単に折れ曲がる時もあれば、台や盾の代替品としても使えるほどしっかりしているときもある。



 そんなことを考えていると、特に言うべきこともなく普通に書き終える。それをドアに向けて無造作に放り投げる。紙は放物線を描…かなかった。



 投げられた勢いを水の抵抗で急速に失って、2 mくらいのところにふよふよと落ちた。



「…水中だったね」

「ですね」


 水の中じゃ、地上とはちがう挙動をするよなぁ…。もうちょい奥に行って欲しかったけど…。



「ですが、逆によかったのでは?3 mより離れてしまいますと、魔法は発動しないわけですし」

「ああ、制限ね。あったね…」


 という事は、俺の考えたみたいに、ドアの中央、つまり廊下から5 mのところに着地されると発動しないわけだ。



 四季から「習君…」と言わんばかりのジトっとした視線が注がれる。仕方ないじゃん。使わないもの! 前使ったの、綿菓子作りだよ!?



「『反射鏡』」


 逃げるように口にすると、紙が消えて、俺達に部屋の中が良く見える角度で鏡が現れた。



 鏡が小さくて少し見にくい…。けど、全身入ってなくない? でも、これは…。



「鯨ですかね?」

「見た感じは」


 色は相変わらずの黒と白の二色。威圧感はきっとこの色のせい。体の上半分が黒で、下半分が白。…見えている部分はだけど。



 辛うじて目のようなくぼみが確認できて、それはぴっちりと閉じている。寝ているのか?



「慎重に覗いてみます?」


 提案してくる四季。四季も寝ていると思ったのかな? 気になるし…、覗くだけなら、体全体を晒すわけじゃないから大丈夫…かな? 鏡にも一切反応をしていないし。



「よし。覗いてみよう。体を晒す面積は出来るだけ最小にね」

「わかってますよ」


 さて、ここは幸か不幸か水中。だから、小説や漫画でありがちな、覗こうとして人が多すぎて壁、もしくは人垣が倒壊して対象にバレる! …なんてことは起きない。顔だけ並べられるから、向こうから見たらトーテムポールみたいに見えるだろう。



 二人で上下に並んで目を出す。



 …デカいな。鏡の時点でわかってたけど、それでもデカいな。鯨が邪魔でろくに部屋が見えないぐらいにはデカい。



「この子、この扉くぐれますかね?」

「無理じゃない?」


 扉は横10 m。高さは…およそ20 m。とかなり大きい。だが、鯨はそれをはるかに上回る。

縦の時点で既に15 mほど、横は30 m。胸鰭を横に広げればおそらく50 mはいく。長さは不明。そもそも見えない。当然数値は目算だからいい加減。



 だが、圧倒的な巨体。大きすぎてこちらのサイズ感まで崩壊する。文字通り化け物。



 正面から見る限り、この鯨は上半分が黒、下半分が白と綺麗に二分されている。そして、これまた街と同様、白黒にグラデーションは存在しない。白黒は口のところできっちり分かれている。



 さっきのくぼみはやはり目だったみたい。目に当たる位置にくぼみが二つ。両方閉じている。



「この子…、生きてます?」

「どういうこと?」

「何と言いますか、こう…、あれです。呼吸していないように見えるのです」


 ?



「うちの世界の鯨と同じだったら、哺乳類だから、呼吸していないのは普通じゃない?あ。ああ。なるほど」

「わかっていただけましたか」

「うん。たぶん。言葉にしにくいね…」


 言葉にしにくい。俺がそう言うと嬉しそうにしきりに頷く。



 四季の言いたかったことはこの鯨が、ありとあらゆる生命活動をしていないように見えるという事だと思う。…うん。わかりにくい。アイリたちにどう説明すればいいのだろう? …ただ死んだようにそこにある(・・)。いるのではなく。ある。これで伝わるだろうか?



 この鯨の威容はおそらく色だけでなく、この在り方にもあるんだろうな…。



「ここは後で見ようか」

「ですね。もし、帰還魔法がここにあるなら、門番のようにこの子置きませんよね」

「ああ。だから、俺達のいる廊下をこのまま進もう」

「そうしましょう」


 顔を引っ込めて廊下の先へ。およそ400m泳ぐと四季が口を開く。



「あ。右へ道が折れていますね」

「え?本当?あー。本当だ。わかりにくいな…」


 白黒のせいだな。距離感がわかりにくい。



「道の先は…?」

「手っ取り早く紙投げましょう。シャイツァー投げるよりは魔力的にエコです。ということで、ほいっ」


 可愛らしい声で投げられた紙は折れた道へ飛び出す。10秒カウント。…何もなしか。安全ぽいな。でも一応…。心配なので四季の手を取って進む。



 嫌がられるかと思ったけど、大人しく手を掴まれてくれた。



「ツッ!?」

「どうしました!?」

「頭打った…!」


 なんで折れた瞬間に壁なんてあるんだよ!想定外だよ!



「『回復』!大丈夫ですか?」

「…ああ。痛みは引いた」


 この壁は粉砕したいけど。…やらないよ?



「なんで折れた瞬間に柱があるのでしょうか?」

「柱?壁じゃなくて?」

「デザイン的には柱だと思いますよ?三角柱ですし」


 四季のいるところから壁を見る。…確かに柱っぽい。



 でも、だとすると、すぐ真横に分厚い壁があるのに何故? 支えるだけなら壁で十分のはず。意味が分からない。



「習君。この先、見てください。この先もずっとランダムに柱がありますよ?」

「え?」


 少しうんざりするような声に惹かれて、まだ、紙がひらひらと漂う空間に身を押し込む。



「うわぁ」


 思わず声が漏れた。なんで廊下にこんなに柱が林立してるんだ…。ますます意味が分からない。太さも、柄も(当然のように白黒の2色だが)、そして壁から柱の中心までの距離も、で形も、円。楕円、四角とバラバラ。統一感ないな…。



 例えば、今目の前にある二本の柱。仲のいい兄弟、もしくは恋人の如く、引っ付いて存在している。形も柄も全く同じ。かと思えば、その少し奥に四角で真っ黒の柱。一言で言ってカオス。



「柱の陰の確認がやたらと面倒だな…」

「それでもやらないといけませんけどね…」


 わかってる。少し憂鬱になっただけ。



 再び俺達は泳ぎ始める。ランダムに柱があるせいで自分たちがどれほどこの廊下を進んだかわからない。それは、柱のせいだけじゃない。床、壁、天井、柱…、至る所にもはや見慣れた白黒で構成された幾何学模様があって、それのせいもあると思う。



 柱の模様がコロコロ変わるのは、まだ納得できる、だけど、何で全部変わるかな…。そのせいで、さっきみたいに激突したことが数回あった。



 そして…。



「っ!」

「『回復』」


 四季からの回復。何回目だったか忘れた。けど、余りにスムーズに回復できているからそれくらいぶつかったんだろう。



「盛大に行きましたね」

「だから痛い。回復のおかげでマシだけど!」

「道。右に折れてますね」


 最奥ではないのか…。また、相変わらずの白黒柱地獄。



「こんなに進みにくいと、帰還魔法がない気がしてくるよね…」

「私も一瞬思いましたけど…。わかりませんよ?」


 何故? という顔をしたからか、四季はそのまま言葉を繋ぐ。



「だって、私達しかこの神殿に入れなかったのですよ?となると、勇者関係で何かあるんでしょう。それも、召喚された勇者関係で」


 それはわかるけど…。やっぱり、ここを進むのは気が滅入る。頭を打っているだけではない…と思いたい。



 何故かはわからないけれど。雰囲気が陰鬱なんだよね。というかこの『ニッズュン』全体がそんな感じ。



「それでも進むしかないでしょう」


 四季の眼には強い光が宿っている。だね。



「探さなくて後悔するほうが嫌だしな」

「そうですよ。気合で何とかしましょう。適当にお話ししていればきっとすぐです」


 会話をすると時間を忘れるしな。盛り上がってくると猶更。



「じゃあ、話題は?」

「あの鯨のことはどうです?って、また右に折れてますよ?」


 言いながらぺシペシと壁を触る四季。確かに壁があるようだ。



「また右?」

「はい。右です。どっからどう見ても右です」


 ここは右にしか曲がらないという法則でもあるのか? ひょっとして、柱の陰に何かあったのを見逃した? …いや、そんなことはないはずだ。ちゃんと見たし、『身体強化』もしていたから魔術的なものの見落としもないはずだ。



「とりあえず、折れますよ」

「ああ」


 で、また柱地獄と。



「さて、鯨のお話ししながら進みましょっか」

「だね」


 陰鬱なのも晴れるでしょ。声が若干「またか」という感じで震えていたけど。



「で、あの子の名前ですけど…。何がいいでしょ?」


 名前か…。こっちの世界の図鑑には載ってなかった。鯨っぽい動物や、魔物はいたけどね。でも、あんなんじゃなかった。ああ、そういえば、獣人にも鯨っぽいのがいたな。何故か龍群だったけど。



「完全に真っ白とか、完全に黒だったら楽なんだけどね」


 名前つけるの。だからこそ、話題を鯨の名前にしたんだろうけど。



「ですねぇ…、白でしたら『モビー…』「ちょっと待って」」


 俺の静止に指揮はぱちくりと目を瞬かせる。



「それ原題あるよね?」

「ありますね。米国人の書いた作品ですよ。日本語訳では…、何でしたっけ?『白い鯨』でしたっけ?」

「確かそんな感じだったけど…。あの鯨、『ザトウクジラ』に見えたよ?その作品の鯨は、『マッコウクジラ』だったよね?やめておこうよ。紛らわしいし…」


 四季は「なるほど…」と呟くと下を向いた。わかってくれたようだ。よかったよかった。



「では、『シロナガスクジラ』か『ベルーガ』はどうでしょうか!?」


 目をキラキラ輝かせてこちらを見る四季。ああ。うん。その目、その表情。どれをとってもかわいくて魅力的だ。思わず頷いてしまいそうになるぐらいには。だけど四季。これだけは言わせてほしい。



「紛らわしいからやめようって言ったよね!?それに、あの子が完全に白色だったらって仮定の上での話し合いだよ!?何で完全に白い『シロナガスクジラ』、『ベルーガ』を持ち出してきたの?」


 俺がそう言い切ってジト目を向けると、四季は目をパチパチさせると、手で顔を覆ってしまった。天然か…。



 四季の腕を優しく引きながら一人で警戒、あたりを見渡しながら進むことおよそ10秒。



「では、どうしますか?」


 と四季。復帰早いな。誤魔化すつもりかな? えーと、名前ね…。



「あ、『ラックホウェール』は?」

「長くないですか?しかも、それほぼ鯨って言ってますよね?」

「うん。黒と白、鯨の英語を混ぜたからね。なんかダサいかな?」

「もうちょい考えましょう。あの子に合わないような気がしますし」


 合わない…。確かに。あの鯨に幸運(ラック)は合わない。それならまだブラックの方がマシだ。



「ドイツ語に直すとどうです?」

「黒が『シュワルツ』、白が『ヴァイス』なのは知ってる」

「奇遇ですね。私もです」


 ……ダメじゃん。既にダメじゃん。二人とも鯨を独訳出来ないじゃん。なんやかんや話し合って最終的に『シュガー』で落ち着いた。



 …センスがないのはわかってたことだ。うん。アイリにも、「…人の名付けだけ(・・)はまとも」と言われたしね。



 名前の由来は、『ザトウクジラ』を四季が噛んで『サトウクジラ』になった。砂糖を英訳した。それだけだ。うん。これは酷い。でも何故かしっくりきたから仕方ない。



「無事?に決まったところでまた右に折れてますよ?」


 無事 (センスのなさが改めて露呈)だけどね。無事でいいでしょ。それにしてもまた右か。



 紙を投げる。もはや慣れたものだ。何もアクションがないので折れる。



「お、柱が無くなった!」

「進みやすくなりましたね!って、習君あれ!見てください!」


 四季の指さす方を見る。あれは…。鏡!? しかも俺達が魔法で出したやつじゃない? ……ということは、一周しただけ。



「どのみち全部探すつもりだったから、手間が省けたとでも言うべきなのか?」

「そう思わないとやってられませんね…」


 まだ行き止まりの方がよかった。探索した感が出るから…。



「四季、少し休もう。それから入ろう」

「そうしましょうか」


 休息をとることは勿論、ご飯やなんやらを済ませないといけないから。

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