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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
113/306

104話 湖中

 俺と四季、アイリは端っこに到着すると、競うように湖をのぞき込み、眼前に広がる風景に揃って言葉を失った。



 湖底にはおよそ直径1 km。それほどの大きなモノクロの街が眠るように横たわっている。しかも、モノクロと言っても、およそ他のモノクロ作品には存在するであろうグラデーションが一切存在しない。



 この遺跡は、他の色の存在を許さず全てを染め上げるような力強く荒々しい、だけど寄り添うような温かさを感じさせる白。他の何物をも包み込み、単一色に染め上げてしまう一途で優しい、それでいて頑固さも含有する黒。



 このたった2色で街全てが染め上げられていて、街のいたるところにはっきりと色の境界がある。



 あたかも古い道路を工事した後に残る古いアスファルトと、新しいアスファルトの境がしっかりとわかるように。さながら、雨漏りを応急修理した時、元の屋根と塞いだ穴の境目が一目瞭然であるように。



 ──ああ、俺が感じた異様な雰囲気はこの2色のせいか。この2色はきっといつまでも、どこまでも混じりあわない。無理やり混ぜ合わせようとすればするほど分離していく。そんな色。



 おそらく、悠久の時間をかけてじっくりとゆっくりと根気強く混ぜ合わせれば、完全に混じりあい、この白黒の美しさを兼ね備えた、美しくも力強い、荒々しくもまっすぐな灰色になるだろう。



 だが、悲しいかな、この街で2色は混じりあっていない。例えるなら…天敵とまではいかないまでも、知り合い? といった距離感だろうか。だからこそ、この2色が混じりあうわけがない。そんな感じがひしひしと伝わってくる。ゆえに異様。だからこそ、言葉を失ったんだ。



 四季とアイリの顔を窺う。ん?



「アイリちゃん?」

「…んあ?…ああ。ごめん。ちょっとボーっとしてた」

「アイリが?珍しいな…。」

「そういうこともあるでしょうけど…、疲れた、しんどいは、早めにいって下さいね?ただでさえ、アイリちゃんは頑張りすぎるきらいがあるのですから」

「…わかってる。ありがとう」


 ニッコリと可愛らしくほほ笑むと、気合を入れなおすかのように頬を叩いた。そこまでする必要あったかな?



「…色がダメだね」


 街を滑るように眺めたアイリがこぼす。



「だね。街の色がおかしい」

「私もそう感じました」

「そーなのー?わかんなーい」


 首をコテッと傾げるカレン。



 自分の顔が引きつったのを感じる。同時に、視界の端で四季も引きつらせている。この完全な二色構成に違和感を感じないだなんて…、これはもしかしなくても…。



 あ、でも、ひょっとしたら違うかもしれない。自分でも絶対にないと思いながらも、確認せずにはいられない。



「四季。こんなこと聞くのも失礼だし酷だけど…、芸術のセンスある?」


 サッと逃げるように顔を逸らした。あっ…。



「大丈夫。四季。俺もだ」


 絶対に慰めになってないよね。なんて思いながらも肩を叩かずにはいられない。たぶんカレンのこの感覚のなさはきっと遺伝? なんだろうな…。



「…他人の服を選ぶセンスはあるのにね」

「?他はないのー?」

「…絵の方面はダメっぽいね…。…でも、カレン。あなたも人の事言えないから」

「え?どーして?あの街綺麗じゃなーい?」

「…だからだよ…」


 二人して慰めあっていると、クイクイと服を引かれる。



「「どうし(まし)た?」」

「おとーさん。おかーさん。あれ綺麗だよねー?」


 と湖底の街を指さす。……。



「「お世辞にも綺麗とは言えない(です)」」


 一拍。



「そーなの?」

「「そう(です)」」


 コテンと首を傾げながら聞かれても答えは変わらないよ。カレン…。かわいらしい動作だけど……、この街ばかりはきっと誰もが同じ印象を抱くと思うよ。



「…あ」


 もはや俺達のこういうやり取りをいつものことと流しているのか、それとも街が気になるのかわからないけど、湖底を見ていたアイリが声をあげた。



「どうした?」

「…この街、生き物がいない」


 目を見開いて言うアイリ。



「?普通じゃないですか?」

「だよな。目に入るぐらいの生き物がいないなんて遺跡ではままあること」


 そんなに驚くことだろうか?



「…それって、手入れされている(・・・・・・・・)遺跡だよね?」

「「あ…」」


 言われてみればそうだ。観光名所化している遺跡に保全処置を行っていない遺跡などないはずだ。



「…後、わたしの言ってる生き物って、人間とか、犬猫っていうものじゃないよ。…そんなのいない方が当然。…でも、湖の中だったらいても…、ううん。生えていてもおかしくない植物までないんだよ?」


 …え?



「見間違いじゃないのか?」

「見落としているのでは?」

「…ううん。遊んでいる間にちゃんと見たけど見当たらなかったよ?」


 アイリの目は真剣だ。アイリの横から再び湖をのぞき込み、「生き物」という観点で遺跡を詳しく見ていく。



 ……あれ? マジでいない ?いや、そんなはずは…。同じ色で同化しているのかもしれない。もっと注意深く…。



 …………。



「ほんとだ。一匹たりとも、」

「一株たりとも命がないですね…」


 口からため息とともにこぼれたのはそんな言葉。俺らの周りはさっきから魔物がいないから除外するとしても、俺らから遠く離れたところでも小魚一匹、藻すら見当たらない。いや、正確にはその表現は間違いかもしれない。



 あたかも一定の高さに侵入を拒む壁があるかのように、くっきりとある高さで隔てられているというべきか。当然、藻などの移動不能な……、魔物化していたり、水流に乗ったりしていれば別だが…、ものすらいない。



 …ああ。だからか。だから2色だったんだ。色自体に違和感はあるが…、それでも完璧に2色に見えた理由は分かった。



 となると、何故だ? 何故、魔物や植物でさえ近づかない、もしくは近づけないんだ?



「謎は解けたー?」


 無邪気に聞いてくるカレン。



「いや、わかんない」

「わからないですね…」

「そっかー。ボクは怖くないのにねー」


 怖くない? 一体どういうことだ?  そういえば、この子、俺らに教えてくれた時、街並みが綺麗とは言っていたけども…、雰囲気については特に何も言ってなかった。この子には、それは特筆すべきものじゃなかった。という事か。となると…。



 四季とアイリを見る。ああ、全員わかったみたいだ。生き物がいない理由。それはきっと神社仏閣に通じるものがあるから。…もちろん、森などの自然と一体となって独特の空間を作り上げている寺社もあるが。だが、これは寺社と違うようで似ている。



 この街は、この遺跡は、最初から他の生き物を排除することで作られている。そんな設計思想で作られた『神域』だからこそ、生き物がいないんだ。



 俺達――特にアイリ――が圧倒されたのも、おそらくこの設計思想があったから。カレンは『ハイエルフ』で、そもそも誕生にガッツリと、『ラーヴェ』だったかな? とにかく、神が絡んでいるから平気だったんだろう。



「これは、ひょっとすると…」

「ひょっとするかもしれませんよ」


 自然と声に喜色の色が溢れる。



「…でも、期待しすぎちゃダメだよ」

「わかってるよ」

「一応、勇者召喚の魔法の帰還条件が『召喚者の願いを叶える』ですからね…」

「ほっぽりだすのは許さないかもしれないしね」


 ここの神様のことだ。すがるような思いで勇者召喚して逃げられるのは悲しむだろう。



 …今回はすがってんのかどうかは知らない。俺の勝手な想像だとすがってないほうだ。ルキィ様怒ってたし。



「ま、帰還条件が勇者が絶対死ぬようなふざけたもののときの逃げ道ぐらいは用意してくれてるでしょ」

「ですよね。過度な期待はしませんけど」

「…そっか」


 少し悲しそうな顔をするから、アイリの頭にポンと手を置いて。わしゃわしゃと撫でる。びっくりしたような顔でこっちを見てきたのでニコリとほほ笑む。



 これで「心配してくれてありがとう」という意図は通じるはず。



「さて、後はどうやって突撃するかだが…」

「…いつものように魔法じゃないの?」

「まぁ。そうなんだけど」


 身も蓋もない。



「どこから行こうか?」

「あそこのおっきな建物じゃないのー?」


 ……。うん。まぁそうなんだけど。ここからでも、街の中心にある神殿のような建物から、周囲とはまた一段と異なった雰囲気を感じる。だから探すとしたらまずはあそこだ。



「で、どうする?」

「魔法使うなら、今使ってる『獣人化』切っときますか」

「だね。意外と持ったな…」

「…魔力を吸収していたみたいだけどね」

「うん。まほーの維持に、魔力取られてたよー」


 忘れないで! という感じで二人が言う。そこまで必死にならなくても感じてるよ。



「…ほんとに?」

「「本当 (です)」」

「…馬鹿魔力なのに?」

「「馬鹿は余計 (です)」」


 魔力はあればあるほどいいからいいじゃん。



 それはそうと、魔力を継続的に吸わせればだいぶ長持ちするな…。しかも、見てる限りまだまだ持ちそう。端っこが少し欠けて、紙質がザラザラになっているぐらいだ。



 勿体ない気がするが切るか。魔法の効果をなくし、元の姿に戻ると、紙は光に包まれて消えた。ちらっと眼を動かせば、元に戻った皆が視界に入る。



 獣人状態の皆もよかったけど…、やっぱり何もないほうがいい。こちらの方が落ち着くし、何より、皆も素材が悪くないからそれが生きてくる。…単純に俺の好みの問題だろうけど。



「…で、どう行くの?エラでも付けるの?」


 顔の横で手をぱかぱか動かすアイリ。エラの動きの真似かな? …というか、アイリってこんなことするんだね。勝手にしないもんだと思ってた…。



「…何か言ってよ」


 頬を朱に染めるアイリ。やっぱり恥ずかしかったみたい。ごめんごめんと二人して頭を撫でる。



「で、エラだけど…」

「機能がよくわかりません。あれ、どういう仕組みなんですかね?」


 知らない。おそらく、マグロのような活動量のある魚が止まると死ぬっていうことから、エラは、エラ中に水の流れを作ることで水中の酸素を取り込んでいるんだろうとは思うけど。詳しくは知らない。



 ま、それに…、



「間違いなくエラなんてつけたら可愛くないぞ。絶対。俺としてはそんなみんなを見たくない。折角綺麗だったり、可愛かったりと魅力にあふれているのに、わざわざ劣化させる必要があろうか。いや!ない!」


 ん? 何でクイクイと服を引かれているんだ? そちらを向くと、カレンとアイリが仲良く四季の方を指さしている。



 ……あ。勢いで言っちゃったな。恥ずかしい…。だけど、たぶん四季の方がもっと恥ずかしがってる。顔を見なくてもわかる。絶対赤い。だって、手先の時点で少しだけ赤いし。口もなんかパクパクしてる。きっとまともに口を開けたら、「不意打ちは禁止と言ったではありませんか!」と言われただろう。



 そういえば、四季は可愛いとか言われ慣れてないのだろうか? …ないか、こんなに綺麗でかわいらしいのに…。



「早くなれればいーのに」

「…無理じゃない?…好きな人に言われた、言っちゃったっていう補正がかかってるみたいだし。…特にこの二人は」

「そっかー」


 二人に色々言われているけど…、的を射てるから何も反論できない…! 補正か。そういえばそんなのもあるか。身内補正とか…ね。



 とりあえず、まずは落ち着くために深呼吸して…、よし。



「…仲良く深呼吸して復帰した」

「おー。またかなー?またかなー?」

「…こら。カレン。…二人が仲いいのはいいこと」


 もう一回頃神来るのは止めて! 目が面白がってる目じゃなくていつものやつ(温かい目)だから、天然だろうけどさ!



 気合でねじ伏せて、わざとらしく咳払い。二人も察してくれたのか何も言わない。



「ま、エラはない。ウーパールーパーみたいに外に出ているエラもあるけど、どっちみち機能がわからん」

「…ウーパールーパーって?」

「あっちの動物。両生類だ。この湖にもそれっぽいやつはいるんじゃない?」

「…なるほど」


 絵をかいて! と言わないあたり優しい。……少し寂しいような気がしないでもないけれど。



「というわけで今回は某ゲームを参考にしてみる」

「「?」」

「緑の勇者が冒険するやつに出てくる、青い服。着ればなぜか水中でも呼吸ができる。それを参考にする」


 シリーズによっては耐火能力のある赤服ともども、なかった気がするけど。たぶんあれなら水中でも会話できる。

 …もしあの作品みたいに黄金三角形があれば一発で帰れるんだけどなぁ…。



「…それ、原理わからないんじゃないの?」

「大丈夫。あの世界も魔法があるから、わかんないやつは全部魔法的なものでゴリ押せる」


 …そのあきれ顔やめて。本当に何とかなるはずだから。



「…顔の周りに空気作っちゃダメなの?」

「…その場合、服が濡れるから脱がなきゃならないけど?水着とかあった?」

「少々お待ちを。記憶を探ってみますね」


 と、思案顔で空を見る。まじめな顔は凛々しくていいなぁ…。



「確かなかったはずですよ」

「だよね。濡れるのは嫌でしょ?」


 見とれていたのを誤魔化すように言葉を紡ぐ。子供二人も気づかなかったのか、首肯した。



 …俺と四季が話している間に、二人して俺らを見て深く頷きあっていたのは気づかなかったことにしておこう。



 大方、「水着とか着たらしばらく使い物にならない」とか、「(事故だけど)風呂一緒に入ったのにね」とか言われているんだろう。うん。その通り。



 今更、「魔物すら避けるところに水着で行くのは嫌」とか、「今も視界の端っこでマンボウ?がシャコ?の甲殻を粉砕。そしてそのマンボウをクラゲが触手でぶっ刺しているようなところに水着で行きたくない!」とか、言っても言い訳にしか聞こえない。



 …あれ? 割と正当な理由な気がする…。

 ずずいっと紙を何故かアイリが押し付けてくるので、考えを打ち切る。言葉は…、『水中服』でいいか。十分通じる。はい。出来た! これを後、3枚書き上げる。



「出来たよ!って、早いね…」

「止めたんですけどね…」

「…実験台」

「だよー」


 いや、そんな成し遂げたような顔をされても…。纏っているのはただの魔力の膜。水中でも呼吸及び、会話ができるようにする力がある。ついでに着ている服が濡れないようにする効果もある。原理はさっきから言ってるけどわからない。



 …シャイツァーだから安全だろうけど、何故二人が実験するのか…。最初期のころによくわからないからっていろいろやらかしたのがまずかった?



 『明かり』で『キラービー』と戦う羽目になったことしかり、水でびっしょびしょになったことしかり…。でも、ひょっとしたら膜が空気まで遮って窒息する可能性もあったから、あんまりやってほしくなかったんだけどな…。



 二人も同じ気持ちでやっているのだろうけど。嬉しいような、困ったような…、複雑だ。



「行こうよー!」


 カレンがせかす。はぁ、ま、置いておこうか。水の中に…、あ。



「そうだ。最初に聞いとくべきだったけど、この中にかなづちの人いる?」

「…わたしは大丈夫。潜水もできる」

「多分大丈夫ー!」

「私も大丈夫ですよ。クロールで200 mは泳げますから…」

「了解。じゃあ、カレン以外は確実に大丈夫か」

「なんでよー!」


 むしろ何故、何も言われないと思ったのか…。俺、カレンが今まで泳いでいるところ見たことないよ? 心配するに決まっているじゃん…。



「ちなみに、お風呂では泳がせてませんよ。私達しかいないときでも、癖になって、変な時に泳がれると困りますからね…」

「了解。俺もその判断を支持する」


 そういえば、お風呂も泳ごうと思えば泳げるんだったね…。忘れてたわ。そもそも泳ぐところじゃないけど。だから、俺も四季の判断を支持する。今回は…、アイリに見ていてもらうか。



「「アイリ(ちゃん)」」

「…ん。任された」


 視線を送るとカレンに近づき、



「…来るなとは二人も言ってない。一緒に行こう?」

「むー。わかったよー」


 これでカレンはいいか。他は…、ちゃんと動くかどうかか。纏えることはわかったけど、水中の動作はまだわからない。これは俺が試したほうがいいだろ。



 カレンは別にしておくとして…、後二人は女の子だし。透けると悲惨だ。よし、じゃあ、手っ取り早く飛び込もう。せい!



「あっ!「ボチャン!」」


 四季が咎めようとしたのか声をあげたけど遅く、飛び込んだ水音に遮られる。まぁ、咎められないように飛び込んだんだけど。



 ええと…、膜はあるけど魔力で出来てるし、服みたいだから泳ぐ邪魔にはならない。服は濡れてない…。目を開けてみても大丈夫そう。塩水ではないはずだから、失敗してもしみない。



 …やっぱり水が綺麗だ。まるで何もないみたい。肌というか魔法に触れている感覚で、確かにココには水があることがわかるけど…、逆に言えばこれがなければわかんないだろう。



 後は呼吸か。怖くて息を止めてたけど。確かめなきゃ。普通はやろうと思わないけどさ。しんどいだけなのわかってるもの。シュノーケルあっても初めてだと躊躇した記憶がある。



 だが、躊躇していても得はない! そもそも息苦しくなってきてるし! だから思いっきり吸い込む! …よし! 大丈夫!



「行けるよ!行こう!」

「「「……」」」


 水中から言ってみた。…あれ? 聞こえているはずなのに…。



 現実逃避はやめよう。顔が怒ってる。四季は、「危ないことを…」という感じで、アイリとカレンは「実験はわたし達がするのに!」という感じか。とりあえず浮上。



「ごめんね。皆にはやらせたくなかったから…。濡れると困るし。他人に見られたら嫌でしょ?で…、ほら、俺も他人に見せて欲しくないし」


 「濡れてもわたしは気にしない」とかいう感じの反論は潰しておく! 若干、独占欲的なものがにじみ出ているけど…、誉め言葉という事で許して。…全員嬉しそうに頬を赤く染めているから大丈夫のはず。



「って、誤魔化されませんよ」


 ジト目が俺に突き刺さる。やっぱ、ダメだよね…。



「でも、仕方なくない?誰かがやんなきゃいけないわけだし」

「ですけど…、何というかほら、やはり心配ではないですか」


 だよね。俺が四季の立場でも同じだし。でも、さっきの言葉が俺の本心なんだよね。



「…堂々巡り」

「だね。行くか」

「ですね……。行きましょう」

「わーい!」


 アイリの言う通り。どうしたって堂々巡り。互いが互いの身を案じて自己犠牲を選んでいる以上は。もっとも…、堂々巡りになるのは命に関わらないときだけ。



 この魔法もなんだかんだシャイツァー。だから、ものすごく痛かったり、熱かったりしても、死ぬ可能性、重篤な怪我をする可能性は低い。命にかかわる時は全員で乗り越えにかかるさ。誰かを見捨てるぐらいなら死ぬ方がマシだ。



「ところで、目指すのはあの神殿でいいのですよね?」

「うん。とりあえずはね」


 3人が水の中に入り、揃って水を蹴って湖の中を進む。街の色は相変わらずの純然たる黒と白。



 この遺跡が一番この湖の景観にあってない。食物連鎖の賑やかさとこの驚くべき透明度が売りのはずの湖なのに、遺跡の周辺だけ静まり返ってるとか、やっぱりおかしい。



「とーちゃーく!」


 カレンの声が響く。…考えていたからかもしれないけど、一切抵抗がなかった。



「正門は開く?」

「ちょっと、待ってくださいね…。えい。あ。開きました」


 四季が触れると、扉はなかったように消えた。…ここまで抵抗なしか。



「じゃあ、入ろうか。あ。俺らが前ね」


 不満を露わにされても、ここは譲らないよ。何事もなく門を通過。そして、中の光景が目に飛び込んでくる。が…、予想と違う。『アークライン神聖国』と同じような神聖で、荘厳な雰囲気だと思っていたのに…。ナニコレ?



「あれー?」


 戸惑う俺に、戸惑うようなカレンの声。でも、俺の声とは声質が違う。それを不思議に思って振り返る。



 …何やってんの? そこにはなぜか見えない壁と格闘しているようなアイリとカレンがいた。

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