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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
107/306

98話 続VSハールライン

レイコ視点です。

「ガロウ。過保護すぎー」


 カレンお姉さまがズバリ言い切ると、ガロウは図星を突かれたのか苦い顔に。



「ガロウだけじゃない的な事、おとーさん、おかーさんが言ってたような気がするけどー、それは置いておくよー。まぁ、それが悪いとは言わないけどー。流石に行きすぎかなー」

「でも…」

「反論は今聞く気ないからー」

「え?」

「時間がないからー」

「あ。はい」


 有無を言わせない迫力にガロウはやり込められて黙りました。



「で、ここからが本題なんだけどさー」


 お姉さまの目がわたくしを捉えます。思わず体がこわばります。



「レイコさ、自分の記憶に蓋をしているでしょー?」


 カレンお姉さまの言葉はぐさりわたくしの胸を抉りました。



 おっしゃる通りなのですから。先ほどのわたくしの醜態。その原因はただ、わたくしの罪──わたくしがガロウを攻撃した──に押しつぶされそうになって、にっちもさっちも行かなくなってしまった。言葉にしてしまえばただそれだけだったのですから。



 押しつぶされそうになった時、わたくしに出来た唯一の行動はただその記憶から目を逸らすように頭を抱えることだけでした。そりゃ、醜態も晒します。自分の愚かさ、弱さにいっそ笑えてきますね…。



「レイコ。責めたいわけじゃないよー。むしろそれはー、普通の反応だと思うよー。たぶん。でもねー。だからといって、折角の力まで使えなくしちゃっているのはー、もったいないと思うよー?」


 力? …一体何の話なのでしょう? そのことを聞こうと思うと、ガロウが口を開きかけて、カレンお姉さまに威圧されているのが目に入りました。



 「聞いていいのでしょうか?」という気持ちが沸き上がってきますが…、聞かなければなりません。わたくしの現状を打破できるかもしれないのですから。



「あの…、力とは?」

「自分でもわかってるでしょー?それがハールラインがレイコに固執する理由なんだからさー。そうでしょー?霊孤(レイコ)


 カレンお姉さまは優しく、楽しそうな、けれども言い聞かせるようにそう言いました。



「ですが…、わたくし、力と言われてもまるで見当がつかないのですが…。」

「ガロウに聞いて。ボクは悪いけど知らないよー。」

「え゛。」


え…。どうしてガロウなのでしょう?というよりも先ほどまで口を開くことを許さなかったのに…。



「ごめんねー。ボクはハイエルフであるけどねー。知識がまるでないんだよー。だから、レイコが何となくシャイツァーに似た力を持っているような気がする。ってことぐらいしかわかんないんだよー。おとーさん達と一緒に行った図書館でもあったかどうかすら微妙だしねー。ごめんねー」


 わたくしの胸中を察したのか非常に申し訳なさそうにカレンお姉さまが顔を伏せます。



「ぬぅう…」

「あ。起きちゃったねー。治療もしてたのかなー?面倒だねー。ガロウ。後はのことはお任せだよー。その代わり足止めは任せてー。あ、でも、加勢は出来るだけ早くぅー」


 テッテとハールラインに向かって返答を受ける前に走っていくカレンお姉さま。その横でガロウがガシガシと頭を乱暴に掻きむしっているのが目に入りました。



「そうそうー。レイコは多分使いこなせてないだけだよー。だから大丈夫ー」


 「言い忘れちゃったー」とばかりに言うと、上空に一射。矢はギュンと軌道を変えて飛んでいき、ハールラインにシャイツァーである弓の弦を向けて飛びかかっていきました。



 根拠がないのに、何故だか励まされますね…。それがお姉さまの魅力なのでしょう。



「姉ちゃん…。居場所を伝えるためだろうけど、そのために父ちゃん達に『ターゲッティング』しなおしたの…。それに、弓は弦で相手の首を切るという使い方はしない…」


 ガロウが何か言っていますが、わたくしはそれどころではありません。カレンお姉さまの言葉をゆっくりと咀嚼します。



 使いこなせていないだけ…? 何のことだかさっぱりです。ガロウの方を見てみると、頭をわしゃわしゃと触っています。



「ガロウ」


 ビクッと体が跳ねました。



「話してください。わたくしが忘れていることも、思い出したことも全て。わたくしがわかるように。貴方は何を今まで隠してくださっていたのですか?いえ、貴方は何からわたくしを守ってくださっていたのですか?」


 真剣な目で見つめ続けると、ガロウが大きなため息をつきました。



「……わかったよ。もう隠す意味もないしな」


 ガロウはわたくしの目を様々な感情が入り混じった目で見返すと真剣な顔になってポツリポツリと、言葉を紡いでいきます。



「あれはいつだったか…、まぁどうでもいいな。それは大事じゃない。ある日の晩。いつものように外に出たくなった俺達は、こっそりといつもいたところから外へ抜け出した。空の月を眺めたり、川の流れを二人で見たりした。まぁ、いつも通りだった」


 そんなこともありましたね…。あら? わたくしの記憶ではある日を境にガロウの纏う雰囲気がピリピリしだしたような…。



「でも、しばらくすると異変が起きた。いつもは何もなかった場所。強いて言えば綺麗に月が見えるぐらい。その道を通っていた時に」


 ガロウがそこで言葉を切りました。フゥと息を吸い込むと…、



「魔物が出たんだよ。(獣人)じゃなくて魔物だ。さっきも言ったが俺やお前が道を間違えたわけじゃない。はっきり言って理解できなかった」

「…それは戌群の警護の関係で、ですか?」

「ああ。過信しすぎていたのかもしれない。俺も幼かったしな…。だが、見回りもされていたはずだし、当日も二人で見張りから姿を隠したりしたから、見回りはされていたんだ。ま、俺達に危害を加えるような生き物はいないはずだったんだ」


 ガロウの言葉からは隠し切れない後悔が感じ取れます。そして、彼の纏う雰囲気が変わりました。



「だから、俺はあいつに聞いたんだよ。あの下種に。魔物はお前が持ってきたのかって」


 憎悪の宿った目。ですが、わたくしを思ってのものなのはわかっていますから怖くはありません。



「ガロウー、脇道に逸れ過ぎー。早くしてくれないと、しんどいよー」

「わかってる。これで本筋に戻る」


 突然飛んできたカレンお姉さまの言葉で、怖い雰囲気は霧散しました。ガロウはこちらを見る余裕のある、カレンお姉さまに少し嫉妬しているのでしょうか? それとも、遮られて少しムッとしたのでしょうか? もしかして、自覚があったのに言われたから八つ当たりをしているのでしょうか?



 いずれが正解なのかはわかりませんが、少しだけ言葉に棘がありました。



「兎も角、魔物が出たんだよ。今の俺なら余裕で倒せる、でも当時は勝率3割ぐらいの…、『ウルス』が」

「『ウルス』…。火を噴くガロウみたいな魔物ですよね?」

「俺みたいって…。まぁ、確かにそうだけどさぁ…。赤いやつだぜ」


 …ああ! 頭を金槌で殴られたような衝撃とはこういうことを言うのでしょう。返答を聞いた瞬間に、当時の記憶がパタパタと橋が架かるように一気につながりだしました。



 やはりわたくしはとんでもないことを…。ガロウをわたくしは…。



 フラッとバランスを崩したわたくしをガロウがそっと支えてくれました。瞳には心配の色が浮かんでいます。



「ガロウ。わたくし…」

「言うな。あれは事故だし、荒療治なんだ」


 荒療治…? 慰めるために適当に理由をでっち上げてくれているのでしょうか…? わたくしの内心を察したのか、ガロウは慌てて言葉を繋ぎます。



「荒療治だぜ。だって、俺もお前を守ろうとして背中に火を受けたからな。ちょうど消火になったぜ」

「消火ですか?」


 自分でも間抜けだと思えるほど間抜けな声が出ました。消火と言われましても…、でっち上げでなさそうだということは伝わりましたが…。わたくし、自分の力をそもそも理解できていないのですが…。



「あ。すまんかった。確か氷か何かを思いっきりぶつけられたはずだぜ。…そのせいで凍傷気味だが…」


 氷? イメージがまるでつきませんね…。聞き取れなかった後半部分にヒントがあるのでしょうか?



「後半部分が聞こえなかったのですけど…」

「ん?もしかしてわからない?」

「はい。さっぱり」

「だよなー。それくらいで使えるようになったらなぁ…」

「えー?ボクは産まれたときから使えたよー?」

「それは姉ちゃんのがシャイツァーだからだろうがっ!」

「あー。それもー、そうだっ、ね!」


 カレンお姉さまが受け答えしながら、おかしな弓の使い方をしているのは見なかったことにいたしましょう。何故弓の弦で攻撃を受け流せるのでしょうか? 何故弓の本体部分で撲殺しようとしているのでしょうか…。当たっても痛くないと思うのですけど…。



「…見るか?その傷」


 緊張感が吹き飛んでいましたが、ガロウは言いにくそうに、苦虫を噛み潰したような顔で切り出してきました。当然です。一二もなく頷きます。



 トラウマの悪化や気絶。それらを心配してくれているのでしょうが…、わたくしはもう、ガロウやお父様、お母様達に守っていただくだけなのは嫌なのです。成長も致しました。ですから…、わたくし、乗り越えられると思うのです。



 そんな気持ちの籠った目でガロウを見ていたからでしょうか、ガロウは頷きを返しても行動をしてくれなかったのに、心底仕方ないといった様子で来ていた服から腕を抜いていきます。



 思えばガロウの裸体を久しぶりに見る気がしますね…。



 準備してくれている彼を正面から見ると、うっすらとですが肩のあたりに傷があるのがわかりました。わたくしはそれを見た記憶が欠片もありませんので…、やはりわたくしを思いやっていてくれたようですね…。



 などと考えていると服でさっと肩を隠しました。…どぎまぎしているのでわたくしが肩の傷を見ても大丈夫かどうか考えてくれているのでしょうね。…既に見た後なのでは内緒にしておきましょう。



 その優しさが嬉しくもあり、やはり、わたくしは彼にとっての庇護対象であることを思い知らせるものでもあり、一抹の寂しさを覚えます。



「ガロウー!レイコ既に肩見てるよー!」

「え゛!?」


 あら、カレンお姉さまが言ってしまわれましたね…。フフ。



「ほら!レイコ見てみなよー!っと!ガロウが面白くって、笑ってるー!」

「うわ、ほんとだ…」

「貴様!俺を相手にして…、余所見とは余裕だな!」

「中身のない。捌くだけでいい技ならー、そこまでしんどくはないから余裕はあるかなー。倒せないけどー。それに、ガロウがだいぶ貴方を疲れさせてくれてたみたいだしねっ!」



「レイコ…、いくぞ?」

「はい。お願いします」


 カレンお姉さまとハールラインが戦っていますが、わたくしわたくしの為さねばならないことを為しましょう。



 無意味に溜めるようなことをせずに、一気に後ろを向いたガロウの背中。その背中には痛々しい傷跡が。



 ッ――!



体を高所から打ち付けたような衝撃。それが全身を駆け巡りました。ですが、ダメです! 気絶してはいけないのです…。逃げるわけには…。逃げてはダメなのです! わたくしは…、変えたいし、変わりたいのです…!



「レイコ?大丈夫か?」

「はい…。何とか」


 ガロウの心配そうな声。ですが彼は首をこちらに向けるだけ。その場から動きません。



 …ありがとう、ガロウ。これはわたくしが乗り越えねばならないことなのですから。わたくしは一歩一歩ガロウに―傷に―近づいていきます。…何かを感じるような…、感じないような…。ですが、確実に何かが変わろうとしているような気がします。



「触っても?」


 コクリとガロウは頷きます。…許可を貰ったはいいですがやはり怖いですね…。おっかなびっくりですが手を伸ばしましょう。…このようなものでも、やらないよりはましだと思うのです。きっと。



 あと少し…、後少しなのですが、怖いです…。ですが、覚悟を決めて一息に行きましょう。ゆっくりではいつまでたっても進展できない気がするのです。



「一息で行きますよ…」

「ああ」


 手をガロウの背中に勢いよく突き出します。ガロウの傷にわたくしの手が触れます。ガロウの体温を感じる間もなく、数多くの情報が一気にわたくしに流れ込んできます。先ほどのあれがまるで前哨戦だったとでもいうかのように。



 心が言語化不能なほど激しく悲鳴をあげます。ですが、わたくしは…、これを超えたいのです!



「レイコ。俺がそばにいるから。じっくり消化すると良い」

「えー!それはっ、困るよー!急いでくれなきゃー。ボクだけじゃこいつッ、倒しきれないよー!?」

「鬼畜か!」

「事実だよー!」


 冗談なのかどうかはわかりませんが…、軽い二人のやり取り。それが不思議と心の痛みを和らげてくれます。



 …あのときのわたくしには完全に信頼できる相手がガロウしかいませんでしたから…、この後悔や、懺悔、それに混じった自分への怒り。これらを受け入れられずに潰されてしまったことも納得できます。



 ですが…、わたくしは今なら受け止めきれるはず…、いえ、受け止めてみせます! 覚悟を決めて、黒い感情の奔流と不快な記憶の暴風に向き合います。すると、意外にもそれはすっと通過していきました。



 …もしかすると二人のやり取りを見ている間にほとんど過ぎ去ってしまっていたのでしょうか?



「レイコ?」

「おおー」

「レーコ様ァ!「うるさいよー」ゲフッ!」


 2人がわたくしを見ています。



「どうしました?」

「髪が…」

「髪?」


 ガロウの震える声。少し気になりましたが、そっと髪の毛を手に取ってみると、金色だった髪がガロウとおそろいの銀色に。これは…。



「フフッ、おそろいですね」

「あ、ああ。だが…、力が使えるようになったのか?」

「…おそらくは。心配しないでくださいガロウ。今度は下手を撃ちませんよ」


 ガロウはわたくしの言葉を聞くと目を見開くと、わたくしの言葉が意外だったのか頬をポリポリと掻きました。きっとがわたくしに少しおびえていたことを見透かされたことが恥ずかしいのでしょう。



 怯える理由は100%わたくしのせいなのが何とも言えませんね…。ものすごく複雑な気分です。



「本当に大丈夫なのですよ?」

「あえ?あ、ああ。わかってるぜ」


 絶対わかっていませんね…。



「もう。本当ですのに…。わたくしの力、まだよくわかっていませんが、確実に使える力があるのです。ガロウを撃った理由もわかりましたよ」

「え゛、あれ、わざとだったの!?」

「みたいですね。わたくしに制御能力がなかったわけではなく…。あの記憶の中にありましたよ。だからこそ、より当時のわたくしは動転したみたいですね。とはいえ、そのことすらも今の今まで忘れ去っていたわけですが」

「そうか…」


 説明しても信じてもらえる気が全くしないので実際にやってみましょう。



「カレンお姉さま!」

「準備できたー?」

「はい!わたくしを信じてください!」

「さいっしょっから、信頼してるよー!」


 嬉しさで泣きそうです。詠唱は…、…お父様とお母様を見ていたら要らないような気がしますが、詠唱しなければまた同じ轍を踏みそうなのでここは慎重に慎重を期しましょう。



わたくし、霊孤|《礼子》の名の下に、わたくしの力よ、わたくしの命ずるままに命を奪いなさい。『ガルミ―ア=アディシュ』!」


 わたくしが呪文を唱え終えると、目の前に球体が出現。それがスーッと戦っている二人の下へ。



「ちょ、レイコ!?」


 ガロウが焦ったように叫びます。当然ですね。球体はカレンお姉さまに命中しようとしているのですから。ハールラインはハールラインで吸収しようにもカレンお姉さまが邪魔でできません。



そして、カレンお姉さまに直撃…、



「え…?」

「グワァッ!?」


 せずにハールラインに直撃。一瞬のうちに赤く燃え上がりました。ガロウの唖然とした声と、ハールラインの声が響きます。



「こういうわけだったのですよ」


 ガロウに向かって微笑みかけると、ガロウは合点がいったようにしきりに頷きます。…頷きすぎではないでしょうか?



「つまり、レイコは…、射線に味方がいても無視できるのか?」

「そうみたいですよ。味方だけではなく、必要とあれば敵も」

「橋を落とすときとかに便利そうだな。それ。橋を守ろうとして肉壁になろうとする奴の献身も無意味に出来るんだもんな」


 何故に言い方が辛辣なのでしょう…。



「で、他は?」

「おそらく火や氷な気がします」

「雑だぜ!」

「よくわかりませんもの…」

「でぇい!俺の、邪魔を、するなぁ!」

「知らないよー」


 カレンお姉さまがバックステップしながら一射。ハールラインは吸収が間に合わず弾き飛ばしました。お姉さまはわたくし達の間に。



「レイコ。準備はいいー?」

「はい」

「ガロウはー?」

「ああ。万全ではないが、時間稼ぎぐらいならできるぜ」

「そっかー。でもさ、時間稼ぎなんてよりー、」


 カレンお姉さまはそこで言葉を切りました。そして好戦的な笑みを浮かべて一言。



「倒しちゃう方がおとーさん達喜ぶと思わない?」

「ああ」「はい!」


 力強く揃って即答します。



「じゃあ、倒しちゃおっかー。倒すのと、来てくれるの、どっちが早いかなー?」


 カレンお姉さまは体を低くして突撃していきます。わたくしも微力ながらお手伝いします!

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