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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
105/306

96話 待機

少し時間が戻ってガロウ視点。

 父ちゃんと母ちゃん、それにアイリ姉ちゃんが馬車に乗って走っていった。…俺達の望みを叶えるために。



 にしても、何が父ちゃん達を駆り立てているんだろうか? ……考えてみてもさっぱりわからねぇ。レイコだけが大事…というわけではないんだよな。俺のこともちゃんと気にかけてくれているのはわかってる。



 ……まだ、俺はあの二人の呼び方慣れているわけじゃねぇのにな。



 口は、レイコに即怒られてしまうからそう呼んでいるだけ感がある。思考の中ではなおさら。



 思考の中でやってるのは、素が出たときにレイコに怒られてしまう。それだけは嫌ってことに過ぎない。



 …怒ったレイコは怖いからな。あの時のあの目の迫力がにじみ出るから嫌だ。それに、背中の傷が何故だか痛む。



 ……ダメだ。意識しないようにしてはいたが、どうもカレン姉ちゃんがチラチラと目につく。護衛だけじゃ嫌なんだろうが…、やめてくれ。完全に視界の中に入るか、出てくれ。視界の端で不満を隠そうと努力してくれているのはわかるんだが隠しきれてないから。



 視界の端っこをぴょこぴょこと出たり入ったりするのはやめてくれ。ちょっとうざい。護衛しているのか、していないのかわからない謎軌道だ。その場でくるくる回ったと思ったらしゃがんでジャンプ。まるで意味が分からんぜ!



 俺が顔をずらしてもいいが、それをすると今度は守りがな…。俺は姉ちゃんに比べれば弱いけど、索敵能力は多分上だ。…それすら負けてたら姉ちゃんに勝てる要素がないが!



「あの…、カレンお姉さま」

「何―?」

「それほどまでに、お父様方のお手伝いをされたいのなら、そうされたらどうですか?」


 カレン姉ちゃんは驚いたように目を見開いた。



 いや、その反応にこっちがびっくりだわ、姉ちゃん…。ていうか、うちは皆露骨すぎるんだよ…。感情がちょくちょくモロに出る。まじめな時は驚くほど真面目なんだが…。それ以外がひどすぎ。父ちゃんも母ちゃんもな。カレン姉ちゃんは論外だ。



 唯一わかりにくいのはアイリ姉ちゃん。まぁ、アイリ姉ちゃんも父ちゃん、母ちゃんが関わる時は普段に比べるとわかりやすくなるが。…後は食い物ぐらいか。アイリ姉ちゃんがわかりやすいの。それ以外は鉄壁だぜ…。



 父ちゃん母ちゃんはわかるらしいが、一緒に居始めて1ヶ月らしいのに謎だ。



「いーのー?」


 言葉の意味を噛みしめていた姉ちゃんは確認を取るように問う。ただ、目には隠し切れない興奮と嬉しさが。



「はい。わたくし達の分も含めてお願いいたします」

「ガロウはー?」

「え!?ああ。どうぞ」


 その目は反則。レイコがおねだりするときの目と完全に一致してんじゃねぇか…。狙ってやっては…ないな。



 カレン姉ちゃんには悪いが、姉ちゃんには絶対狙ってやるのは無理だ。アイリ姉ちゃんなら場合によるけどやりそうだぜ! 父ちゃんと母ちゃんの狂s…ゲフンゲフン。二人が大好きだからな!



「じゃあ、『ターゲッティング』も終わったし行くよー」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「ガロウー。万が一の時は守ってあげなよ?」

「わかってる」

「まー、ボクも気にかけておくけどねー。じゃねー!」


 カレン姉ちゃんは一切の躊躇もなく流れるように自分の放った矢で、黒煙溢れる空へと消えていった。



「カレンお姉さま…。お父様とお母様を超える活躍をしてくださいね!」


 レイコが祈るように言う。



 なんかもう、あちこちにツッコミどころ……自分で自分を射出するとか、黒煙溢れる空に飛んで行って生きれるのかとか、そんな環境で狙撃できるのかとか、そもそも空中でどうやって矢を射出しているんだとかあるけど、まるっと無視するみたいだぜ! レイコも他の姉ちゃんのこと言えないんだよな…。



 まぁ、気にしたところでどうしようもねぇぜ! はぁ…。



「レイコ。周りの確認はしておけよ…」

「む。わかっていますよ。カレンお姉さまにご負担をかけるわけには参りませんもの」


 目がキラキラしているが…、空回りする予感しかしねぇのはたぶん間違いではない。







______


「何事もありませんね…」

「だな…」


レイコの言葉に相槌を打つ。体感時間ではかなり待った。ずっと気を張っているのも疲れてきた…、ん? あの人影は!?



 …あの図体、この森と全く調和しない無駄に主張する金色の毛並み…。それにあの目つき…。間違いない。ハールラインだ! なんでこんな所にいやがる!? いや、それよりも…。



「レイコ!下がれ!」

「ふぇ!?」


 これはダメなやつだな! 腕をガッと掴んで後ろに引く。



「すまん。レイコ!」

「いえ、ありがとうございます」


 謝りながらも俺は彼女を庇うように前に立つ。



「レイコ?何を言ってるんだね。君は?彼女は我らの神、レーコ様だぞ?全く、君は彼女と長い間一緒にいるとはいえ…、「黙れ。糞野郎」おお、怖い怖い」

「俺はお前が嫌いだ。その声も、顔も表情も。一から十まで全部!」

「ほぉ。それは大変だ。俺は素敵だからな」


 嘲るように言うやつの言葉を遮ってみたらこれだ。やっぱ話通じねぇなこいつ…。まともに意思疎通を計るだけ無駄。



「ガロウ。わたくしあの人嫌いです」

「だろうな。あいつの仲間なんて、馬鹿(あいつの同類)か、馬鹿(口車に乗せられた奴)しかいないからな」

「どちらも同じでは…?」

「根っこが違う。でも、どっちも馬鹿だぜ!」

「俺を馬鹿呼ばわりか。馬鹿め!馬鹿と言うやつが馬鹿なんだぞ!」

「?貴方今、馬鹿と3回いいましたよ?」

「そっちの白いのよりは少ない!」


 変にプライド高いなこいつ…。レイコの天然煽りに乗ってくれた。このまま時間を稼ぐ。流石に、俺とレイコと、どこにいったかわかんねぇカレン姉ちゃんだけじゃ、しのぎ切れねぇ! 3人のうちの誰かが戻って来てくれればいいんだ!



「ちょっと待ってくださいね…。数えてみますね。…ガロウは2回です。貴方よりは一回少ないです」

「なら、馬鹿と言われた回数が多い奴が馬鹿だ!」

「「えぇ…」」

「うるさい!ばーかばーか!」


 子供か…。だが、時間稼ぎができる機会だ。



「馬鹿馬鹿馬鹿」


 やばい。既に何で俺、時間を稼ぐためとはいえ、こんな阿保みたいなことしてんだ…って

気になってきたぞ…。でも、レイコにこんなこと言わせるわけにはいかない!



 言いながらもポケットに入れた紙を握り、『身体強化』発動。目を、鼻を、耳を強化して、五感のうち3つを研ぎ澄ませ、周囲を探る。こいつだけとは限らないのだから。



 ……あ? 何故こいつだけなんだ? まぁ、こっちとしては好都合だな…。この低レベルすぎる争いに付き合っていても問題ない! やったぜ! ……でも、既に精神的に疲れてきた。



 こんなのでも家柄はいいんだよなぁ…。あいつ。嫌になるぜ…。



 父ちゃんや母ちゃんを見習うべきじゃないか? あの人らは一般人…? だ。たぶん。あ、違う。勇者だったぜ。でも、礼節はわきまえてるぞ。



 時々常識なかったり、威力のおかしい魔法を放ったり、ほぼ常に二人とも幸せオーラを放っている気がするけど。



 俺も出来たらレイコとそうなれたら…、いや、あそこまではいい。うん。一緒になれればそれでいい。って、恥ずかしいな…。



「ばkっ!」

「フハハハ!どうやら俺の勝ちのようですねぇ!」

「ばっかじゃねぇの!?」

「ハハハ!舌を噛みましたからな!」


 勝負内容変わっているが、んなことはどうでもいい! 脱線していたらこのざまか! 時間稼ぎ大失敗じゃねぇか、糞が!



「さて!俺の勝ちも確定したことですし!さっさともらうものもらって、退散するとしますかね!」

「退散?」

「おお!耳聡いですね!気のせいです!ええ!気のせいですとも!」


 うぜぇ。



「やることはやらせていただきますよぉ!」


 雰囲気が変わった…。来るか!?



「む?俺、結構迫力には自信があったんですけどねぇ…。まぁ、いいですよぉ!」


 真っすぐ俺に…、というか、レイコめがけて突っ込んでくる! レイコを掴んで放り投げるのは間に合わねぇ! 迎撃だ! 腕を奴の振り下ろす腕を遮るように割り込ませる!



「ガッ!」


 腕がいてぇ! こいつどんな硬さしてやがる!? こちとら『身体強化』しているのにな!



「ふむ…。子供にしてはなかなかといったところですかね!いただきましょう!」


 !?力が…、いや、魔力が抜かれている!? チッ! 『身体強化』を切る!



「むむっ!なかなか思い切りがいいですね!ですが、それでは抑えきれないでしょう!」


 ハールラインが力任せに押し込んでくる。うわ、きっついぜ…、最初ほどの衝撃はないとはいえ耐え切れない! 口角をニヤッとあげてやがるのが余計に腹立たしい!俺が勝てないのわかっていて嬲るためにこうしてやがるな!



  …なら、その油断を突く!父ちゃん達の『身体強化』と、自前の『身体強化』。タイミングを合わせて、一瞬に全てをかければ押し返せる! ……はず!



 力任せだから力の加わり方にムラがある。時折、受け止めている俺の腕で滑りそうになっているから、そのタイミングを狙う!



 って! 思ってたよりそのチャンス来るの早いな!? 技能なさすぎだぜ…。アイリ姉ちゃんと比べたらカスもいいところじゃねぇか!



「死ねぇ!」


 間抜け面を晒す奴に、渾身の一撃を!



「おっと、危ない。いいですねぇ!俺も少しは欲しくなるぞ!」


 !? またか!? 俺が自分でかけた『身体強化』からは一瞬で魔力が抜かれた。父ちゃん達のはそれほどではないけど、それでも持ってかれた…!



「うん。美味い!レーコ様ほどではないでしょうがね!」


 舌なめずりしながらレイコを見る。俺のことを見てすらない!



 不意を撃ったつもりだったが、軽く受け止めやがった! こいつ、技能のなさを全部、体格差で、反応速度で補ってやがる!



「ほらほらぁ!もう先ほどの手は通じませんよぉ!天才ですから!フハハハ!ほらほら、どうするのですか!打つ手なしですかぁ!?」


 うぜぇぇぇぇ!あるにはあるが、紙は父ちゃん達から預かっているものだし…、さっき使わせてもらったけど。それでも、こいつに手のは晒したくない!



 けど、ああああ。無理。無理。絶対無理! さっきよりも出力あげて来てんじゃねぇぞ! 糞が! さっきよりも滑っている回数は増えているのに、それを力でねじ伏せてやがる!



 さっきまで全力じゃなかったわけではないはずなのに! …ん? ピカピカとハールラインの腰の辺りが光っている気がする。何だ? あれは…。先っぽが尖ってる…、フックか? 何でフックなんか…。あ!



「ハハハ!気づきましたか!素晴らしい洞察力ですね!」


 何かを感じ取ったのか喜色に溢れた声をあげるハールライン。



「これは俺のシャイツァー!『強奪魔鉤 グリック』ですよ!」


 強奪!? やっぱりか!



「ついでに察してそうですので、教えてあげましょう!これの本懐は奪う事!相手の魔力を奪って、自分のものにしますよ!奪った総量によって俺も強化されるっていう寸法なんですよ!」


 うわ、誰も聞いてねぇのに言いやがった! 普通黙っとくもんだろ!?



「もしかして…、お仲間がいないのはそのためですか…?」

「ハッハッハ!少しだけですけどもらいましたよ!なあにちょっとですとも!屑ばっかで、木偶ばかりでしたが、数が多ければ何とやら、こういうのは何というのでしたっけね?えーと、そう!『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』ってやつですよ!」

「違うと思いますよ」

「じゃあ、何ですか!?」


 問答するのか!? 別にいいけど。



 確か、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」は、俺みたいな下手糞が矢を撃ちまくってたらいつかは当たるというたとえだったはず。…俺はちゃんと矢を引けねぇが。レイコは言うまでもない。



 …カレン姉ちゃんはいい意味で頭おかしい。というかずるいので意味ない。どこに撃っても当てるぞ。後のみんなは知らん。たぶんそこそこ出来んじゃないか?



なお、今回の正解は『塵も積もれば山となる』だ。一個一個が小さくても集めたら大きくなるとか言うあれだ。説明してやらねぇが。都合よく時間を稼げているわけだからな。



「言ったのにわからないのですか!?」

「え。わたくしは違うと思いますと指摘しただけですよ?」

「はぁ!?舐めているのですか貴方!?指摘したなら代案を出してくださいよ!馬鹿なんですか!?」


 あ。



「おそらく違うと思いますが…。では、『ちr「あー!そんなんもわからねぇのか!馬鹿だな!」「あ゛あ゛!?」えぇ…』


 レイコごめん!でも、時間を稼げるか否かの瀬戸際!



「一回、俺に負けた分際で、俺を馬鹿にするとは…、いいでしょう!本気でいきましょう!」


 あ。だめだこりゃ。殺気が…。下手したらレイコに言ってもらってた方が長引いてたかもしれんぜ…。



「お前を特に意味もなくかぴかぴにしてやりましょう!」


 だが、やっと、俺をまともに見た。これでレイコの事の心配は要らない! 全力で俺が時間稼ぎを完遂すればいいだけだ! …尋常じゃなく難しいがな!



 前、下。右。左!ジャンプ、しゃがむ! さっきから掠ってる! 怖っ! しかも、下手に『身体強化』をしているとその魔力が抜かれて相手が強くなるというおまけつき。なんだこれ…。俺の集中力が切れるか、やつが疲れるのが早いかだが…。どう考えても適当に振ってりゃいいだけの奴の方が有利じゃねえかよ! 俺自身にそんな集中力ないことはわかってるからな!



 レイコの安全がかかっているのは理解しているが、それでももたない! 父ちゃんと母ちゃん、それと姉ちゃんたちが異常なんだよ!



 なんとかもたせたい。でも、いつまでもつかわからん…。どうにか抜かれる原理を解明できれば要所要所で『身体強化』できるんだが! くそったれ!







_____


 結構経った気がする。でも、たぶんそんなことはない。さっきから被弾も増えているんだよな…。意地でも『身体強化』は使ってやらないがな! あいつの悔しそうな顔が嬉しい。ざまぁ!



 と言いたいが…、もう無理。体のあちこちが痛い。自分でもなんで立っていられるのかがわからないくらいだ。レイコには手を出さないように言ってあるから大丈夫。大丈夫だ…、ハッ!? 意識飛びかけた! 水がかかって助かった!



 ハールラインも水で濡れている。だから何だって話だが。



 本当に! そろそろきっつい! なぁ! きつけにはなっても、根本的に改善されてねぇ! 後ろにレイコいないよな…。いなければ安心…はできないけど、俺のせいでレイコにダメージ入るとかいうことはなくなるな! どのみち、レイコだけでは逃げれないからな…。足遅いし。なんだかんだハールラインも狼だしぃいいいい! あああ!



「グッ!」


 何かよくわからねぇが今だ!今なら全力でやれる!



「死ねやぁ!」


 父ちゃんと母ちゃんの分も含めて、今度は腹を思いっきり蹴りつける! よっしゃあ! 通った! 魔力も吸われなかった!



 吹き飛んだあいつの腹を見ると、矢が突き刺さっている。だが、気づいたと同時ぐらいにフッと消えた。カレン姉ちゃんが撃った矢を消したんだろう。



 どっから撃ってくれたのかはわからないけど、助かった! ありがとう!



「ガロウ!これを!『回復』!」


 ああ! 余計なことしなくていいって言ったのに…!



 案の定、ハールラインの目の色が変わった。蛇が獲物を見つけた目…とでも言うのだろうか? あのぬめっとした目は。



「ハハハ!面白い!実に面白い!ますます欲しくなってきましたよ!あなたたちの全てが!」


 もはや隠す意味もないか。どのみち俺だけじゃ抑えられないのはわかり切っていたから、決壊が早まっただけとも言えるか。


「レイコ。手伝ってくれ。後ろから援護を頼む!」

「はい!お任せを!」


 俺達を守るように大量の矢がハールラインの方を向いて浮遊する。



「あっちは終わったみたいだな」

「先ほどの水はお父様とお母様ですね」


 なるほど、二人にも助けられてしまったのか。なんだかんだで助けられてばっかだな。俺。



「共同戦線ですね」

「カレン姉ちゃんもな!」

「行きますよ!全ていただきます!」


 俺達が構え、矢が威圧するように回転する。そして、ハールラインはそれらに臆することなく突っ込んでくる。だが、この分なら時間稼ぎもできると思う!

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