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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
10/306

10話 蜂

 いつまでもぼさっとしていても仕方ない。皆、センから降りて、馬車に乗る。



 道中、アイリにカモフラージュの御者を任せっぱなしにしておくのはあまりにも申し訳ない&情けなさすぎるので、俺と四季、四季とアイリ、アイリと俺、でローテーションしながら進む。



 道中、フラグが乱立していたためか、イノシシや鳥、ゴブリンの群れとかにたびたび襲われた。しかも全部魔物。



 しかし、数が少ないときはアイリが鎌を勢いよく投げれば、それだけで終わったし、数が多いときは、俺らの魔法を使って一気に薙ぎ払った。



 それよりも数が多いときは…。まぁ、1回しかなかったけど。『火』の紙を触媒にして威力を上げて対処。うち漏らしはほとんどいなかったけど、残ったやつはアイリが鎌で切り、センが撥ねた。



 威力が高すぎて、危うく山火事になりかけた。これが一番危険。



 道中では、そんな戦闘しかなかった。だから、一番面倒だったのは死体の後処理。面倒になって途中から全部焼いた。ここで『火』の触媒魔法を使わなければよかった…。と思ったけど、一戦一戦の間隔がそこそこあったので、魔力的にも全く問題なかった。



 だから、野営準備中に、



「今日は楽だったな」

「後処理のほうが面倒でしたね」


 と言ってしまうのもおかしくないと思う。


 でも、アイリはそうではないらしい。



「…この二人頭おかしい」


 と一言。目ざとく聞きつけた四季が、



「む、悪口はダメですよ」

「…この二人ド天然」

「変わってなくないですかそれ?」


 アイリとミニコントを繰り広げている。俺は二人の会話をよそに、野営の準備をする。



 今日のメニューは…



「…なんで魔獣と魔物の肉がいっぱいあるの…?」

「食べたことないから」

「です」


 アイリは閉口した。なんでまずいって言ってるのにわざわざ食べるの?という顔。食べてみないとわからないからね。仕方ない。



 メニューはゴブリンと鳥の肉だ。イノシシはまずいことがわかってるから燃やした。あと、主食のパン。まだ、異世界来て1週間たってないけどお米食べたい。



「後で、米探さない?」

「いいですねそれ。賛成です」

「…任せる」

「じゃあ、後で探そう」


 即決。探すといっても、当然帰還魔法重視。



 肉の調理は相変わらず焼くだけ、素材の味が、以下略。



 だが、味は魔包丁使ったけどまずかった。特にゴブリンがひどかった。ものすごく臭い。俺はまだ平気だったが、四季は若干涙目になりながらも、



「残すのは、ゴブリンに申し訳ないです」


 と食べてた。そうだよね。作ったからにはアレルギーとかでもない限りできるだけ食べないとね。



 アイリはまずくても普通に食べた。まぁ、あのジャーキー食べていたしねぇ…。ジャーキーのほうが今日のよりまずいし。アイリにも食べなくていいとは言ったが、「料理されているから食べる」と言って普通に食べ切った。



 無事?完食。



 そして、アイリが寝た後、俺たちは紙に余った魔力で字を書いておく。今更ながら、光源がたき火しかないことに気づいた。買っておけばよかった…。



 あ、作ればいいじゃん。じゃあ、やろう!



 コツン。


 ん?衝撃を感じたので振り返ると、センがいた。どうやらセンに軽く頭突きされたらしい。



「どうした?あ、ご飯か。ごめんごめん。あまりにまずくて忘れてたよ」


 四季を呼んで、昨日と同様に魔力をあげる。



 センは俺たちの手を一本ずつ同時に咥える。そして、口をはむはむと動かす。昨日と同じくらいかな…。と思っていたらすぐに離れた。え…?それだけ?一回しかされてないよ?



「ぜんぜん減ってないけど…。いいの?」


 センは頷く。



「すごい低燃費ですね!」


 間違ってないけど…。どことなく違和感が…。



 それはともかく、明かりを作ることを四季に相談すると、すぐに了承を得られた。



 思い立ったが吉日と作って、さっそく発動。



「「『『明かり』』!」」


 それだけで、明かりというよりも、むしろただの火の玉がまばゆい光を放ちながら、ビューンと暗闇へ飛んでいき、野営していた場所からすこし離れたところの岩山に直撃。「ドーン!」と、大きな音を立てた。



 実験してないから…。威力が馬鹿すぎる。岩ですんで良かった。



「何事!?」


 アイリが飛び起きてきた。…すらない時点であわてているのがよくわかる。



「「ごめん」」


 言いながら、元岩山を指さす。暗くて見えないから、アイリは木を拾って、たき火の火をつけて、簡易松明をつくってかざす。



 ここからでも岩の破片がボロボロと転がっているのがよくわかる。



「……………」


 ジト目が痛い。



「…?何か音がするよ?」


 アイリが言うと、センが俺たちの前に出てきた。珍しく興奮しているみたい。



「どうしました?」


 四季がセンの頭をなでる。なでられているうちにセンは少し落ち着いたが、まだちょっと興奮している。



 俺たちは警戒を強める。『身体強化』すれば、それによって鋭敏になった聴覚がブーンという断続的な音を拾う。



「元岩山からだな…」


 全員で元岩山に近づいてみると、その音はだんだんと大きくなる。



「ん?岩山の下に何かありますよ?」

「…本当だね。穴かな?」


 穴は暗くて見えないが、かなりの深さがある。



 よく目を凝らせば。その中から、白に若干の黒と黄色の混じった霧のようなものが立ち上っているのが確認できる。



 穴の中で火の光が反射したのか、金属のようなものがキラッと輝いた。



 嫌な予感がする。



「全員穴から離れて!」


 アイリの切羽詰まった声に、急いで穴から離れる。穴から十分距離をとると同時に、おびただしい数の蜂が穴から出てくる。先頭にいる蜂はかなりでかい。



「「『『ウインドカッター』』!」」


 大きな風の刃が先頭の蜂を狙う。が、ちっさい蜂が盾となって届かない!



「習君!あいつセンと同じやつがありましたよ!」

「チヌカの紋か!じゃあこいつら魔物か!」

「そうだね。でもわたしこいつら知らない!」

「俺らだって知らないよ!」


 異世界に来たばっかだし、本もそんなに読めてないし。



「…じゃあこいつら『キラービー』としておく?」

「なんでもいいよ!」

「じゃあ、奥のは、『クイーンキラービー』にしときましょう」


 確かに名前あるほうが呼びやすいけど!



 少し抜けた会話をしつつも、二人ともしっかりとクイーンを狙う。全部キラービーに防がれているけど!



「「『ウォーターレーザー』!」」


 イメージ通り高圧で噴出された水がクイーンに襲い掛かる。が、一列になった蜂がその威力を殺す。バラバラと蜂の死体が舞う。



「『ファイヤーボール』!」


 これもまたキラービーに包まれてしまい、霧散。燃え尽きなかった蜂の死体がまた舞う。



 その後、アイリが鎌を投げようが、俺たちが魔法をぶちかまそうが、全てキラービーによって潰される。



「ああ、もう!届きません!」

「そうだな…、触媒魔法を使うか…」


 俺たちの会話を遮るように、



「ビィイィイィイィ!」


 という不愉快極まりない音が響く。それは羽音か、声か。


 

 ともかく、それは穴のそばの地面にようやく着陸したクイーンが上げた音。やつらの必勝パターンに入った合図だったのか、全蜂たちが攻撃に転じる。



 夜空に銀に輝く一条の光。それはどんどん増えてゆく。流星群のようで美しいが、実態は全部キラービーの針。ただただうっとおしい。



 キラービー達には遠距離攻撃がないのか、愚直に飛んでくる。だから俺たちは背面に回られないように適宜後退して、排除していけば、前の攻撃を気にするだけでいい。



 アイリは鎌で、センは蹄で、俺たちは魔法で、群がるキラービーを排除する。



 時折、キラービ―の密度が薄くなるので、クイーンに向かって攻撃を放つ。しかし、奴は一切動かない。

 

 

 その代わりに、周りのキラービーがせわしなく動き、まるで彼らの女王を守るかのごとく黙って命を散らす。



 場当たり的につけた名前が割と的を射ているとは…。なんとも優雅な御身分なことで。羨ましい。



「ビィィイイイイイ!」


 先ほどとは微妙に違う音がこだまする。



 俺はその音が気になり、クイーンをチラッとみた。そのチラッとみた一瞬、クイーンのお尻がキラッと輝く。



 瞬間、キラービーを貫き絶命させながら、銀の針が飛んでくる!



「よけろ!」


 思わず叫べば、皆反射的にその場を離れる。



 バリバリッドサッ! という音とともに木はなぎ倒され、地面はえぐれる。刺さったところを見れば、毒のような液があふれている。



 …いや、違うな。これは毒そのもの。巻き添えをくらって、羽がもげただけのキラービーが突然苦しみだして、しばらくすれば息絶えたからな。



「ニートかと思ったが、そうでもなかったか!『ファイヤーボール』!」

「ニートのほうが、よかったんですけどね!『ウインドカッター』!」


 まさか、仲間ごと殺しにかかって来るとは…。マジでいい根性してるよ。まったく。

 

 

 さっきの音は回避を促す音じゃないのは確か。だからあれは…、今から攻撃にかかるが、そのまま攻撃を続行しろ。そういうことだろう。



 キラービーをよけさせてしまえば、俺たちの攻撃が通ってしまう。



 また、結果論だが、俺が音で思わずクイーンを見て、違和感に気づいたからよけられたが…。もしもそれがなかったとしたら、回避のためにキラービーの群れが変な動きをすれば、全員が気づいたはず。



 そういう意味では大正解なんだが…。いい気持ちはしない。



「ビィィイイ!」


 またか!



「『ロックランス』!」


 キラービーを粉砕しながら飛んできた針は、岩の槍と激突する。



 俺は結果を見る前に回避。万が一打ち負けたら死ぬ。



 だが、心配は要らなかった。岩の槍は、針を真正面から打ち砕き、そのまま後ろのクイーンに向かって飛翔する。先ほどの針で、その間には一匹もいない。



 しかし、槍に気づいた数十のキラービーのせいで軌道を捻じ曲げられた。



「惜しい!」

「…もう少しだったね…。」

「どうする?蜂の数減ってるように見えないぞ!?」

「ビィィイイイイ!」

「畜生またか!『ロックランス』!」


 俺の言葉に四季が焦ったように、



「違います!さっきと微妙に違います!『ウインドカッター』!よけて!」


 と叫ぶ。四季の声を聞いて反射的にその場を飛びのく。



 先ほどの繰り返しのようにロックランスが針を撃ちぬく。が、その後ろにもう一本。それも粉砕すればさらにもう一本。それと相打ちにロックランスはつぶれる。



 ちょっと待って。まだある!?



 だが、四季のウインドカッターがそれを粉砕。そして、5本目の針の軌道を上向きに逸らして、消える。



 が、後ろから来ていた6本目を阻むものは何もなく、俺が立っていた地面に突き刺さる。



 危ない! 間一髪。



「助かった。ありがとう」

「どういたしまして」


 さて、どう倒すか…。



「ビィイィイィイ!」


 相談すらさせてくれないのか!



「…これもさっきと違うよ!」

「「了解!」」


 観察してわかったが、キラービーは断末魔をあげない。主の攻撃が敵に悟られないようにするかのごとく。だから、針で貫かれたキラービーの断末魔で方向はわからない。

 

 

 だが、本日何匹も針でつぶされた音を聞いて慣れてきている『身体強化』された耳は、しっかりと針が接近する蜂が砕け散る音を拾う!



「微妙に発射点がずれてる!」

「気を付けてくださいよ!」

「…わかった」

「ブルルルッ!」


 そういえばいたなセン。



 発射点がずれたことで、キラービ―の損害は増加した。かなり本数が多いが、問題ない。避けられないのだけをはたき落とせばいい。

 

 

 幸いなことにキラービーと激突して速度は落ちている。その上、針の液は何かに突き刺さったときに出る仕組みらしい。



 そうじゃないと、キラービ―に突き刺さった時点で液が出るからか?

 

 

 よくわからないが、ペンや、ファイルで軌道を変えてやるぐらいなら何も問題ない。鎌と蹄は言わずもがな。



 ただ量が多い! さっきみたいに隙を見て攻撃がしにくい!



 キラービー達も弾幕を前に立ちすくむ。一部勇敢(無謀)な蜂は針の前に出てきてこちらに攻撃を敢行しようとするが、すぐに針に砕かれる。



 賢明(勇者)な蜂は、針の届かないところを通って後ろまで回ってくる。が、哀れにも流れ弾や、アイリが狙ってはじいた針、適当に俺らがはじいた針に突き刺さって死ぬ。



「針の密度が減ってきましたね…」

「さすがに限界なんだろ。いつまでも打ち続けられるわけがない」


 さっきに比べて、落ち着いてきたので、少し話す余裕ができた。俺たちが慣れたのかもしれないが。



「…これ終わってもまた同じことの繰り返しだよね…」


 そうなんだよなぁ…。



 救いは心なしか、勇者(無謀)な蜂も賢明(勇者)な蜂も減っている気がすること。

まだまだ針が多いが…。このまま少ないままだと奴らにとって致命的なスキになるぞ…?



「大丈夫ですか?習君」

「ん?大丈夫。考え事」

「そうですか、『ウォーターボール』!ちょっと待ってくださいね。あった、『回復』!」


 わざわざカバンの中から杖を取り出して、疲労を取ってくれた。さらに、彼女は自分、アイリ、センにかけてゆく。



 疲労はなくなった。



 蜂の不自然な動き。これを利用すれば勝てるかもしれない。

 

 

 ただ、そのチャンスを利用しようと思うと、このいつ果てるともわからない針の弾雨を全員で生きて乗り越えてやる必要がありそうだ!

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