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真夏のaku-mu

作者: YUU_PSYCHEDELIC

 すべては突然変わってしまうものだ。誰も予測せず、誰にも気付かれないまま。


 偶然という言葉ですべてを表すことが出来るならば、こんなに楽なことはないだろう。この物語は、今日の夕方に“わたし”が見た不思議な夢を基として書いたものである。一部に不自然な要素などが存在するかもしれないが、そこは留意してみなさんにはこの物語を読んでもらいたい。それでは、不思議な物語の始まりだ。

 2017年7月某日、わたしは学校が終わったあと、古びたアパートで扇風機の風を浴びながら、昼寝をしていた。風鈴が聞こえる、日本の古き良き夏を思い出される趣きある情景。「ずっとこんな日々が続けば良いのに...」なんて思いつつ、一人でグダグダしていた。時に両方の足を絡ませながら、こんな独り言をつぶやく。


「今日はデートの約束もしてないし、久しぶりに暇だなぁ...」

「かき氷食べたい。なんで、こんなに暑いのにクーラー点けないの?」

「テストも終わったし、夏、満喫するぞー!」


 なんなんだろう、この人。とか思われた方もいるかもしれないが、他にもこのようなことをしている人はきっといるはず...だと信じたい。しかし、わたしの何気ない日常はあまりにも簡単に崩れ去ってしまうということをこの時の“僕”は知る由もなかった。


「!?!?」


 突然、家が揺れ始めた。たぶん、地震だ。僕はとっさにすぐ傍の机の下に身を隠した。かなり強い地震。家具などが部屋には散乱して、大変なことになっている。一瞬、この世の終わりを想像してしまった。いやいや、そんなことを考える暇なんてない。地震が収まったら、真っ先に外へ避難しなければ。スマホの準備もしなきゃ。充電器も。この後のことを咄嗟に思案しているうちに、地震は収まった。



 僕は、スマホと充電器と下着と財布だけをリュックに詰め込んで、家を飛び出した。街は逃げ惑う人々で溢れている。人々の脳裏にはおそらく、あの震災のときの恐怖が刻み込まれている。だから、今度は同じ過ちを繰り返さないように最善を尽くす。僕らの街は海から僅か1kmしか離れていない。僕は500m先の近くの高校へ走った。人の群れをかき分けて、僕の生命を守るために。


 高校に着いた。既に、人はいっぱいだった。僕は五階に避難した。30分後、-ここから見る限りでは30cmくらいだろうか-津波が僕らの高校を通り過ぎていった。人々はホッとした。街は流れていかなかった。しかし、ホッとしていたのは束の間、もう一度、地震はやってきた。


「これはやばい!!」


 僕は、多くの人々がまだ残っている高校を飛び出した。明らかに、最初の地震より強い。遠くに見える大きな山を目指して、僕は瓦礫が散乱した街を走り始めた。少しだけ疲れてきた頃、中学校時代の教師に出逢った。教師は安堵の表情を浮かべながら、“僕”にこう言った。


「ショウタ、無事だったか!良かった。でも、安心してる場合じゃない。さあ、逃げるぞ。」


 僕は教師と手を繋ぎ、必死に逃げた。多少疲れてしまったときは、必死に励ましてくれた。信号もない。電気もない。すべてのライフラインが途切れてしまった世界。現代人の僕にこんな状況で出来ることは何もない。僕は生きる希望を失いかけていた。だけど、僕が悩んでいるうちに、山の近くの公園が見えてきた。ここまで来たら、もう後のことは考えずに、ひたすら走るのみである。そのとき、教師は奇妙な行動を起こした。大人がいなくなって、子供達が自由に駆け回っている公園に向かって、靴を投げ入れたのである。


「先生、何してるんですか!?」

「この子たちも、大切な命だ。死なせるわけにはいかんだろう。」

「でも、今は僕らが生きなきゃ...」


 教師は僕の言葉を遮って、言った。


「俺はもう退職したとはいえ、この街のために働いた公務員だ。だから、この街の人々を守るのが使命なんだ。」

「先生...」

「お前は、家にいろ。家と運命を共にしろ。」

「それって、どういうことですか?」

「俺を信じろ。俺はこう見えて、昔ヒーローだったんだ。」


 あまりに突飛な話すぎて、僕は頭を抱えてしまった。


「お前の家に、お前の友達が集まってくる。物事はそう動くようになっている。」

「でも...」

「何も喋るな。俺はこの子供たちを避難させる。だから、お前はお前の命を全うしろ。きっと、良い方向に向かってくるはずだ。」

「わかりました。」


 僕は教師に命を託した。そして、教師を信じることを決めた。来た道を全速力で戻り、家にたどり着くと、最初の地震のときより滅茶苦茶になった“僕の部屋”があった。こんなときに、こんなことをしてる場合なんだろうか...命がなくなるかもしれないほどの危機が迫っているのに。そんな気持ちを押し殺して、僕を待ち受けている運命にひたすら願った。


「ショウタくん、無事ですか?わたしだよ。」

「ナツミちゃん?」

「うん。ジャックとホシノも来てる。」


 扉を開けた。ナツミはいつもと同じだった。メイクはばっちり、ヘアスタイルも完ぺき。ジャックはナツミの家の居候だ。ホシノは僕の友達。皆とても良い子で、仲良くさせてもらっている。


「物が散乱してるけど...それでも良ければ。」

「すごい地震だったからね。」


 散乱したモノを少しだけ片付けて、ちゃぶ台を出して、皆を畳に座らせた。ホシノが口を開く。


「俺、ラーメン取ってもいい?」

「こんなときにラーメンなんか、やってるの??」

「じゃあ、電話してくるわ。」

「そもそも、繋がるかどうか...」


 ホシノは洗面所で電話した。どうやら、繋がったみたい。アフロヘアーと濃い顔が特徴的なジャックが、ココアシガレットをくわえながら、つまらなさそうにホシノの方を見つめてる。


「ナツキの家ってさ、今回の地震大丈夫だったの?」

「いや、大丈夫じゃなかった。」

「家族とか、心配してないの?」

「マキノ先生に様子を見てきてほしい、って言われたから。」

「実は、僕もマキノ先生にこう言われたんだ。家に戻れって。」


 マキノとは、先ほど登場した教師のことである。つまり、ここにいるメンバーたちは、すべてマキノの思惑通りに行動しているのだ。


「津波が来るかもしれないのに、こんな呑気にしてて良いのかなぁ...」

「大丈夫。マキノ先生の言うことを信じていれば。きっと、ね。」


 取り留めのない話を続けていると、インターホンが鳴った。ホシノが応対する。


「ありがとうございます。」


 机の上には、スタンダードな醤油ラーメンが四つ。僕は暇つぶしも兼ねてラジオを点けた。電気は通ってないから、電池で動く持ち運びの出来るモノを。危機的な状況で食べるラーメンは、やっぱり美味しかった。さっきまで疲れていたのも、きっと昼ごはんを食べていないからに違いない。たちまち食べ終わってしまった。


「ホシノ、ありがとう。」

「こういうときは、慌ててもしょうがねぇからな。」


 ジャックが別の周波数に放送局を合わせた。そういえば、彼はブラジル人と日本人のハーフだったっけ。


「ジャック、何踊ってるの?床抜けたら困るからさぁ...」

「気にしない。抜けないから。」

「抜ける時は抜けるんだぞ。」

「ショウタくん、まあ、いいじゃない。」

「ナツキまで...」


 皆、踊り始めた。謎すぎて言葉が出ない。まるでB級映画のワンシーンのよう。僕は独り唖然としていた。

 “わたし”が見た夢はここで終わった。そのあと、彼らがどんな結末を迎えたかはわからない。今日の夜、また同じ夢を見るかもしれない。もしかしたら、この夢の続きを見ることが出来るかもしれない。あくまでも“わたし”の推測ではあるが、あの四人は助かったような気がする。不思議な教師・マキノはどうなっただろう。それはこの話を最後まで読んだあなたが考えてほしい。

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