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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
外伝 3 『神機』:自由へ駆ける少女達
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最終話

                     *



「どう見てもあれ、何人か正規兵じゃなかったわよね」

「うん。ウチの私兵だったね。顔を何回か見たことある」


 運転席のエリーナと助手席のジェシカは、前を向いたままやや声を抑えてそう言い合う。


 国境へ向かう途中で、マリリンが用意した大型トラックで、彼女が話を通した商人の一団に紛れ込み、『王国』と『自由』の境界をあっさり超えてしまった。


 2人とも地味な作業服の中年女性に変装していて、国境検問所職員に紛れていた私兵は一切疑う様子もなかった。


 彼女達の行き先は、『公国』の飛び地にある傭兵ようへい組合の事務所で、こちらもマリリンが話を通している。


 やがて、国境が地平線の向こう辺りに消えた辺りで変装を解いた2人は、どちらからともなく、クックックッ、と笑い出す。


 次第に声が大きくなって、実に痛快そうな様子の高笑いを文字通り高らかに上げる。


「あー、おかしい。あんたの親父おやじさん、ひっどい顔してたわねぇ」

「父様があんな風な顔するのなんて初めて見たよ」


 激昂げきこうしていたブレットは、娘の告発と宣言を聞いて焦りに満ちた顔となり、冷や汗をだくだくと流していた。


 その様子を思い出して、さらにカラカラと笑い合った後、2人はサムズアップしたお互いの拳を、コツン、とニヤケ顔で突き合せた。


 ややあって。


「それにしても、良くボクが結婚させられるって思いついたね?」


 今日に至るまでの事をエリーナに聞かせてもらったジェシカは、一発で連絡を遮断された理由を当てられた訳を訊く。


「大層な理由なんかないわよ。直感でそう思ったの」

「なるほど。離れてても通じ合ってるんだね、ボクらは」

「当たり前でしょう? 何年一緒にいると思ってるのよ」


 エリーナは格好付ける事など一切せずそう言って、少しがたついてきた道を慎重に進んでいく。

 その言葉通りの表情で言われる、というその特別感のなさが、ジェシカにとってはこれ以上にないほどに幸福で、


「――。あはっ! 愚問だったね! あははっ! あはははっ!」


 彼女は目を輝かせて、どこまでも明るい笑い声をあげた。


「……エリーナはさ、いつだってボクを新しい世界につれだしてくれるんだね。ありがとう」

「良いのよ別に。半分は私のワガママみたいなものだし、ね」


 言葉にならないほどの、愛おしげな視線を向けてくるジェシカに、エリーナは少し照れくさそうにそう言って、わざとらしく笑いながら自嘲じちようした。





 マリリンが持たせてくれた金のインゴットで、中古の『レプリカ』を買った2人は、傭兵組合で傭兵登録を済ませ、さあ自由気ままな傭兵生活だ、となった矢先、


「な、なんでこうなるのよ……」

「あはは……。まあ、最初から上手くはいかないものさ」


 翌日の初仕事で散々な目にあって敗走するハメになった。


「まあ、2人とも無事なんだし良かったじゃないか。ひとまず食事にしよう」

「そうね。そういえばお腹減ったわね」


 今となっては代名詞の、ポジティブなジェシカの言葉に従い、エリーナは近くの無人ステーションに乗り入れた。


 そこで足元の収納スペースから、インスタントのマカロニスープを2カップ取り出した。


「お母様に、お湯注ぐだけのこれ貰ってるのよね」

「おお、懐かしい。今こんなのになってるんだね」

「そういえばあなたと見るの、昔こっそり食べて以来ね」

「だね。じゃあ早速食べようじゃないか」


 思い出話と共に、砲撃手席下に設置された濾過ろか給湯器から伸びる、金属製の蛇腹チューブの先についた、トリガーノズルからカップに湯を注いだが、


「……これ、ほぼ水じゃない?」

「うん。ぬるいね」


 その中からは、一切湯気が立ち上らなかった。


 履帯を川に落とした衝撃で、保温機能に使うケーブルが断線してしまっていた。


「本当に幸先悪いわね……」

「後でまとめてガーンとやられるよりはマシさ」

「まあそうなんだけど……」


 アンニュイな表情のエリーナを励ましながら、ジェシカはぬるい水でコーヒーを淹れてそれをすすった。



                    *



「それがボクには、一生分エリーナを支えるだけの理由なんだ」

「そんなに? 私が勝手しただけじゃないの」

「ふふっ。君のそういう誇らないところ、愛してるよエリーナ」


 靴を脱いで素足になって、自身と向かい合って座っているエリーナの足を手にとったジェシカは、流れるようにそのつま先に口づけしようとする。


「――。ちょ、そういうのやめなさい……っ。私達に上も下もないでしょうっ」


 とろん、と甘くとろけた表情で流されかけたが、我に返ったエリーナは足を引っ込めて止めさせた。


「えー、ボクは構わないけどなあ」

「私が構うのよ。全くもう……」


 ニシシ、と笑うジェシカに、にわかにやって来ていた睡魔が消し飛ばされたエリーナは、


「これ以上至れり尽くせりじゃ、本当にダメになっちゃうじゃない」


 耳の先まで真っ赤にしながら、上目遣いに彼女へ言う。


「……ねえエリーナ。襲っても良い?」


 ご飯を目前にして、「まて」を指示された犬の様に、目を輝かせてジリジリと近づきながら、ジェシカはそう訊ねる。


「あなた、そういうの隠さなくなったわね……」

「嫌いになったかい?」

「そんな訳ないでしょ。――おいで」


 しょうが無いわね、といった様子を醸し出しつつも、実際には求める様にそう言った。


「あっ、一応言っとくけどセーブはしてね!」

「任せてくれよ」


 操縦席のコンソールでモニターを暗くしてから、ジェシカは待ち構えているエリーナの元へ向かいながら答えた。


 その翌朝。


 近くの町から出張してきた、工房のスタッフにギアのパーツを交換して貰い、足回りは正常通りに動く様にはなった。


「エアベッドパーツは1週間後になりますが、ご予定の方は問題ありませんか?」


 しかし、あまりにも興が乗りすぎて、今度はエアベッドを片方ダメにしてしまった。


「ああ。突発的な仕事がない限りはね」


 ジェシカは何事も無かったかのように、スタッフとやりとりしているが、


「何をどうやったらあんな頑丈な物が壊れるのよ?」

「訊かないで……」

「というかジェシカ、あの子なんであんなにピンピンしてるの?」

「分からない……」


 少し離れたところのベンチに座るエリーナは、腰を痛そうにさすりながら、呆れた様子の視線をシャーロットに浴びせられていた。

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