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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
第一章 『神機』:護りし者
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第五話

「そうだとしても、レオンさんが凄えのには変わりねえですよ!」

 ジョンは少年に戻ったかのように、目を輝かせてレオンを賞賛する。

「どうもね」

 さして嬉しくもなさそうに、そう返事をしたレオンは、

「ところで、君たちに訊きたいことがあるんだけど」

 自分の手を握りしめている少女を一瞥(いちべつ)し、ジョンとネイサンにそう訊ねる。

「あっ、はい」

「この子を追いかけていた理由は何だい?」

 一見、先ほどまでのさわやかな笑みのままに見えるが、有無を言わさぬ確かな圧力を感じた。

「俺らは単に、捕虜が逃げたから捕まえろって言われたんですよ」

 はなから乱暴目的とか、そういうのではないです! と、ジョンはネイサンを必死でフォローする。

「なるほど。じゃあもう1つ質問だ」

 嘘ではないと判断したレオンは、人差し指を立てそう言った。

「キャクストン公爵邸が、襲撃されたのは知ってるかな?」

「いえ? というか下っ端の俺らが、知るわけないじゃないですか」

 2人とも袖の階級章が、『王国』の軍曹のものだった。

「だよねえ……」

 そうか、見当違いだったか……、と、つぶやいたレオンは、腕を組んで悩むようにうなる。

「あの――」

 そんな彼に、少女が話しかけようとしたが、

「これはまずい!」

 ちょうどそのタイミングで、レオンの『レプリカ』が警報音を鳴らした。

「君たち! 僕に続いて走れ! 弾が飛んでくるぞ!」

「きゃっ!?」

 彼は、失礼、と言って少女を小脇(こわき)に抱え、自分の機体の方に走った。

「うげっ! マジかよ! ネイサン走れ!」

 急に蒼い顔になったジョンは、スクワットの要領で立ち上がり、レオンが言うとおり彼に続く。

「えっ?」

 少し反応の遅れたネイサンも、ジョンに続いて全力で走り出したが、

「――あっ、べっ、ばっ?」

 無情にも爆風とともに無数の鋭い鉄片が降り注ぎ、それが彼の身体を(えぐ)って辺りを真紅に染め上げた。

「ネイサァァァァン!」

 一方、レオンが自機を遠隔操作で動かして盾にしたことで、ネイサン以外の3人は死のシャワーを浴びずに済んでいた。

「おいおい……、非人道兵器じゃないか……」

 あ然とした表情を浮かべながらも、レオンは目の前に広がる光景を少女に見せないよう、彼女の目の前に立って視界を遮る。

 どこからともなく飛んできた弾は、着弾寸前に空中で爆発して大量の鉄片をまき散らす

ものである。これは多くの『神機』に元から装備されていて、規制が厳格ではない『帝国』ですら、あまりの殺傷能力の高さからその使用を禁止している。

 同僚の死体にふらふらと近寄ろうとしたジョンを、

「待つんだジョン君!」

 レオンは強い口調でそう言い、彼の肩をつかんで制止する。

 その直後、イセエビを人型にしたような、深い紫色の『神機』が降り立った。

 装備は左右の腕の先にある機銃と、大きな頭の左右にある砲で、胸部には放射状のシャッターのようなものがある。

「おや、弾を間違えたようですね」

 危うく『部品』を壊す所でした、とそのパイロットの男は、鼻にかかったような高い声でそう独りごちた。

 それを見るやいなや、機体のハッチを開いたレオンはジョンの手錠を外し、再び少女を抱えてコクピットに駆け上がった。

 操縦席の後ろにある補助席を展開して、少女をそこに座らせた彼は、4点式のシートベルトを締めるよう彼女に言う。

「傭兵ごときにそのザマとは情けないねぇ。偵察要員のジョン・フォード軍曹?」

 まあ、ネイサン・ブロック軍曹はもっと酷いが、と地面に転がっている、その頭をためらいなく踏みつぶした。

「――ッ!」

 言葉が出ないほどに激高したジョンに、『神機』のパイロットの男は、モニター越しににらみつけられた。

「おやぁ? フォード軍曹、その反抗的な目は何かなぁ?」

 それが気に入らない男は、機銃の銃口をジョンに向けて発砲した。

「危ない!」

 その弾はジョンに当たる前に、彼と銃口との間に割り込んだ、レオン機の盾によって弾かれる。

「ジョン君! 早く乗り込むんだ!」

 レオンはコクピットの中から、直接外のジョンに向かってそう叫ぶ。

「はい?」

「死にたくないだろう? さあ早く!」

 わずかな間だけ躊躇した彼は、その言葉に従ってレオン機に駆け込んだ。

 それと同時にハッチを閉めると、レオンは男の『神機』に向かって、弾頭がチャフと煙幕のミサイルを発射した。

 男が戸惑った隙に、レオンは機体を回れ右させ、アクセル全開で逃走を開始する。

「逃がすものかぁ! このクソ傭兵めぇ!」

 男はバイザーの裏で口角をつり上げ、ピエロのような表情になった。

「……」

 そんな彼の後ろには、人が1人入れそうなほどの黒い箱が、ファンの音を(かす)かに鳴らしながら鎮座していた。

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