第三話
「少将にも、そんな頃があったんですか……」
レイラはかなり温厚な人物で通っていたため、副官は不良娘じみたそのエピソードに驚いた様子でそう言う。
「今思えば、あの頃の私は、周りが見えていませんでした」
彼には、散々迷惑をかけてしまいました、と言うレイラは、申し訳なさそうに笑っていた。
「彼と出会わなければ、今の私は無かったでしょうね」
コーヒーを啜った彼女は、向かいの壁に飾ってある、自分とレオンが写った写真を懐かしそうに眺める。穏やかな表情で写るレオンに対して、レイラの表情はガチガチだった。
「……なるほど。それでその内に恋心が、という運びになる訳ですね」
そんなレイラの表情から、彼女がレオンへと向ける、敬愛を超えたモノを感じとり、あえて真顔でそうからかう。
レイラはその発言に動揺してむせ返り、組んでいた脚を机で強打する。
「なっ、なんでそうなるのですかっ!?」
彼女は早口で、必死にそれを否定しにかかるが、
「あら。図星でしたか」
顔が熱した鉄の様に真っ赤になっているので、語るに落ちる状態だった。
「じょ、上司をからかうのはやめなさい……っ」
ニヤニヤしている副官に、レイラはむくれ面でそう言う。
「申し訳ありません」
可愛らしい反応を見せる彼女に、副官はにやけるをこらえながら、そう言って頭を下げる。
まったくもう……、とため息交じりに言ったレイラは、
レオンは今頃、どうなされているのでしょうか……。
彼を最後に見た時の、哀しみを押し殺したその笑顔を思い出す。
「……また会えますよ、少将」
寂しそうな表情を見せるレイラを、副官はそう言って励ました。
「だと、良いのですが……」
浮かない顔をするレイラは、ほぼ空になった手元のカップを見て、深いため息を吐く。
レオンが何も言わずに消えてしまった事を、レイラはその日からずっと引きずっていた。
「さてと、休憩はこの辺りで終わりにしましょうか」
心の中のモヤモヤしたものを押し流す様に、彼女はレオンから貰ったカップを置くと、そう言って立ち上がった。
後片付けを終えて、いざ書類との格闘に戻ろうか、というタイミングで、
「ッ……!」
レイラのデスクに置いてある、有線の据え置き型通信機器から、緊急事態を知らせるブザーが鳴り響いた。
「何事ですか?」
『しょ、少将……』
続いて、この世の終わりの様な表情でそう言う、通信兵の顔がモニターに映った。
彼は、山間部の土砂崩れの復旧作業に当たっていた部隊が、『帝国』軍の『レプリカ』部隊を発見した、と報告をしてきたこと。そしてそれ以降、その部隊との連絡がとれなくなったことを報告した。
「何ですって?」
「そんな、はずは……っ」
通信兵の報告を聞き、レイラと副官は揃って驚愕の表情を浮かべる。
その部隊が作業していたそこは、4000メートル級の山々が連なる、北部ディアマンディ山脈の麓で、挟んで向こうにある『帝国』が侵攻してくるはずが無かった。
状況がまるで掴めないものの、レイラは領内の全基地に至急で戦闘配備をするように指示した。
その直後、基地の全ての無線通信が一斉に遮断された。
「ジャミング……? こんな広範囲で……!?」
画面は砂嵐で埋め尽くされ、音声すら一切聞こえなくなった。
その報告があった位置から、西北領東部のレイラ達のいる基地までは、通常の装置では到底ジャミング出来ない。
その事を考えると、結論は一つだけだった。
「もしかして、『神機』が投入されている……?」
独りごちる様にそう言ったレイラの額から、冷や汗が流れ落ちた。
時を同じくして、『帝国』軍は『大連合』中央政府へ一方的に宣戦布告し、南部領へも侵攻を開始。後の『233年3ノ月戦争』が勃発した。




