表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗カササギの超常騒動  作者: 春花
ターゲット 守護のアンタレス
13/17

速人と桜のお出かけ

 ついに最終ストーリーです。バラバラだったお話もちょっとは繋がっていたんですよ~。まあ、ちょっとだけですけど。

 朝から島にサイレンが鳴り続け、パトカーと警官がせわしなく動き、救急車が病院を幾度も出入りする。

 そして、混乱する島内を父である健と祖父である戦が駆け回っている。

 健は島にはった結界を維持しつつ、海岸線近くで邪気にあたって倒れた人の介抱をし、戦の方は町中で、邪気に犯されて凶暴化する人をひそかに祓っていた。

 二人は見る人が見れば紫色に見える空を見上げ、さらに邪気が濃くなっていることを察知する。

『急げ! 速人、瞬、タマ! おまえ達だけが頼みだ!』

 島の上空に渦巻く邪気。それは島のとある建物から噴き出している。そこに速人達の因縁の相手……悪魔アイムがいる。



「ねえ、速人。どうして速人は霊能力がほとんどなくなったッスか?」

 夕食の場の突拍子もないタマのセリフで、瞬は咳き込みかけた。そして、この頃家では常に携帯しているハリセンで、タマの頭を叩いた。

「あんたにはデリカシーってものがないの!? そういうこと食卓の場で聞く、普通!?」

「う~、霊能力に関して普通を疑われてぶたれるのは、なんか腑に落ちないッス」

 確かに、と家族は思った。

「それに瞬が教えてくれないから、速人に聞くしかないって思ったんスよ」

「じゃ、食後にでも教えるよ。隠すことでもないし、『護』のタマには知っておいてもらった方がいいかもしれない。いいよね、瞬?」

 速人は瞬にも確認を取る。事情を話すと瞬の後悔にも触れることになる。

「……いいですよ。私も同席します」

 そして食事が終わると、家族は気をつかって居間を空けた。

「さてと、それじゃまずはこれを見てほしい」

 と、おもむろに速人は上着を脱いだ。現れた体はしなやかに引き締まっており、無駄なものがないと思わせられる。ただ一点、左胸の上あたりに大きな傷跡だけある。

「おお~すごいッス」

 なぞるようにタマの指先が傷痕に触れ……瞬の眉根が動いた。

「兄さん、なに少しドキドキしているんですか。タマが変身しかかっていますよ」

「……いや、まあね……えっと~、ごめん」

 速人は手早く服を着直して、傷を隠す。

「七年前、今の怪我を負ったせいで俺は生死の境をさ迷って、目が覚めた時には霊能力のほとんどを失っていた。じいちゃんが言うには、精も根も使い果たしたんだろって話だ」

「それってアレッスか? 社に封じられていた悪魔を倒した時の話ッスか?」

「うん。悪魔アイムね」

「よく倒せたッスよね~。速人が一人で戦ったんスよね?」

 その質問に、瞬は暗い影を落とした。

「……うん。あの日、不慮の事故で社の封印は解けた」

 桜が社の倒壊事故だったと思っている事件。あの日、本当に起こったこと。

 それは速人と瞬が味方してくれなかったことにショックを受けた桜が、勢いよく社に飛び込んだことで、中の何かを破ってしまったのだろう。それで、社に封じられていた悪魔アイムが出てきたのだ。

「何とかなったのはたぶん、アイムが長年封印され続けてかなり衰弱していたからだと思うよ。実際アイムは、俺達三人を食べようとしたからね。お腹が減っていたんだよ」

「何とかなったのは、運や相手のコンディションのおかげではありません」

 いきなり声を出した瞬に、二人の視線が向けられる。硬い表情をしているが、しっかりとした声だ。もう、事実を受け止めきっている。

「兄さんは私が他人と違う霊能の力を嫌っているのを知っていて、私の分も除霊・退魔の勉強をしてくれていました……私に普通の時間をくれるため。だから、元々の才能も相まって、当時ですでにかなりのレベルの術師になっていました。だから、倒せたんです。でも、私は何もしてなかったから、手伝うどころか自分の身も守れなかった」

 速人に会ったら当時の英雄譚を聞くのを楽しみにしていたタマだが、そういうことが起こっていたのだと知ると、詳しく聞くのははばかられた。

 それを察したのか、速人は苦笑して後ろ髪に手をやる。

「俺も必死だったから、アイムとどう戦ったのか覚えていないんだよね。脳みそを使って動いている暇がないっていうか……なんかあやふや。まあ、アイムが大蛇だったのは覚えているけどね。でも、最後に至っては傷を受けたショックか、まるで記憶がないし」

「そうなんスか?」

「うん。瞬も呆気に取られていて覚えていないし、父さんとじいちゃんが来た時には俺達三人が倒れていただけだって言うし。悪魔アイムがどうなったのかは、実は分からない」

「うぅ~ん、それはちょっと気になるッスね」

 タマの小難しく何かを考えている顔を初めて見た瞬は少々驚いた。そんな顔も出来るんだっと。

「何が気になるのよ? あなたも悪魔の気配が消えたのを感じたんでしょ? 兄さんが悪魔を滅したに決まっているわ」

「それにしては、消滅するのが早すぎるッス。じっさまから、高位の悪魔はか~なりしぶといって聞いているッス。今の感じだと最後は、速人とアイムは相打ちのように両方倒れて、おじいさんとおじさんが来て速人を手当てしたッスよ」

 ピッとタマは速人の左胸を指さす。

「そんな大怪我をして助かったってことは、手当てが素早く適切だったからッス。なら、相打ちしてすぐにおじいさんとおじさんは来たはずッス。悪魔が消滅する所くらいは見ているはずッス」

 なるほどっと、速人も瞬も思った。

「つまり、タマはあの悪魔アイムがどっかに隠れてやり過ごした可能性もあるって考えるわけだ」

「う~ん……でも、その場合だと駆けつけたおじいさんかおじさんが気づいたと思うッス。よっぽど感知されにくい場所に隠れる必要があると思うッスけど、山の中にそんな場所があるとも思えないス」

 タマが頭を悩ませても仕方がない。なにせ、見ていたはずの二人が覚えていないんだ。なので、これ以上考えてもしょうがないと、タマは楽観的に切りかえる。

「悪魔の気配が消えたのは確かだからよかったス。じっさまに聞いた話だと、島にいられたらとんだ迷惑ッスよ」

「そうなの?」

「あの悪魔は元気な時が一番迷惑ッス。悪魔アイムは自分の邪気があり余ると周囲のよくないものに分け与える性質があるッス。それで生まれる悪霊やおこぼれをもらおうとやってくる悪魔が増えると、島が縄張り争いやいざこざで大変なことになるらしいッス」

「そんな魑魅魍魎が跋扈する島はやだね」

 初耳の情報に速人は苦笑するが、瞬は何か引っかかった感じだ。でも、釣り針にかすった程度で、引っかけることはできない。逃したくなくって一生懸命頭を動かしていたが、

「そういうわけで、俺には霊能力がなくなったんだ。そのため、幽霊を見たり触ったりするぐらいは出来るけど、攻撃は道具を使わないとできない。だから、洋の東西を問わず、魔除けの道具をたくさん持っているんだよ」

「そうだったんスか」

「今は俺なんかより立派になった瞬が島を守っているよ」

 速人に褒められた瞬間、瞬はボンッと頬が真っ赤になって頭も動きが止まる。

 そう話は締めくくられたが、三人は末尾が「続く」で締めくくられていたのを知らなかった。七年越しに話は動き出す。いや、動き出していた。



 日直当番の桜は先生に言われ、みんなのノートを社会科準備室に運ぶよう頼まれた。

 ちょっとだけ逡巡してからノートを持とうとして、

「手伝うよ」

 声をかけてきた速人に振り返った。

「これぐらい平気よ。大丈夫」

「重さの問題じゃなくって、場所が分からないんじゃないかな~って思って」

 ズバリ図星をさされた。桜が転入してきてまだ一ヶ月経っていない。色々と人に話を聞くために校内を回っているが、まだ職員室や写真部部室などの頻繁に出向く所しか覚えていない。社会科準備室など何階にあるかも分からない。

 ばれているなら取り繕うつもりもない。ありがたく速人の申し出を受け入れて、案内だけでなくノートも半分持ってもらった。

「集中して覚えようとすれば、すぐに覚えられるんだけどね」

 負けず嫌いな言い訳に速人は笑う。

「何で笑ったのよ?」

「いや、変わってないなって思って。駆けっこのこと思い出したよ」

 子どもの時、桜は駆けっこだけは速人に勝てなかった。でも、それを絶対に認めなかった。ストレートのコースではダメだと思い、ぐねぐね曲がるコースにしたり、障害物があるコースにしたり、あらゆる手段で勝とうとした。結局勝てなかったけど。

 言われて真っ赤になった桜は、

「だ、だって、あのぐらいの時って男子は体力自慢でいばるじゃない? だから、そんなので負けてたまるか~って」

「対抗意識燃やし過ぎ。おてんばどころじゃないね」

 速人は「そんなんだから男子だと思われていたんだよ」とは言わなかった。怒られるから。

 社会科準備室にノートを運び終え、二人は教室に戻る。

「速人、明日空いてる?」

 いきなりの質問に、速人は小首を傾げる。

「別に予定はないけど、どうして?」

「…………」

 桜は言い方に悩んで言葉につまった。精一杯平静を装って、

「ちょ、あああ……ンン。ちょっと、遊びに行かない? 別に深い意味はないけど」

 言ってしまってから、最後のは余計だったかなっと桜は自分に凹んだ。それでは深い意味があると言っているようなものだ。

「……ああ、いいんじゃないかな。獅子姫が戻って来てから遊びに行っていないし、瞬も一緒に三人で遊ぼうか」

「あ! いや! そういうのは今度で! 明日は二人きりがいいわ!」

 今度は自分の頭をハリセンとかで叩きたくなった。

 何を力強く宣言しているんだ! 聞きようによってはデートのお誘いに取れる言葉を(っていうか、デートのお誘いにしか聞こえない)、こんな休憩時間の廊下で叫んでは大注目間違いなし!

 転校初日ぶりに、速人の腕を引っ張って桜は周りの視線から逃げた。もうすぐ次の授業だというのに、速人と桜は校舎の外へ出てしまった。

 肩で息をついている桜を、速人は頬を指でかいて気まずそうに見る。

「え、え~っと」

 何か聞こうかと思ったけど、必死な桜を見て、速人は質問を呑みこんで答えだけを声に出した。

「うん。それじゃ、二人で遊ぼうか」

「いいの!?」

「いいよ」

 問いただして言質をとった桜は、ホッとした。

「何をしたいのかまだ聞かないから。明日の楽しみに取っておくよ」

「え?」

「ほら、授業が始まるから早く戻ろう」

 駆け足で戻っていく速人の背中を追いながら、桜は窮地に陥っていた。

 二人で! と限定しているので、速人はもう、桜が明日のプランを決めていると思い込んでいる。

 だが実際に桜は、おしゃべりをするとしか考えていなかった。家に帰ってから必死になってお出かけ(決してデートではない)プランをネットと本を使って調べ、どうにか十時前に決まったが、そこから着て行く服を考えていないことに気づいて慌てた。奇跡的に日付が変わる前にベッドに入れたが、結局ドキドキして中々眠れなかった。



 次の日は土曜日。学校がないので、速人と桜は十一時に島の大通りにある十字路。その一角の緑がある待ち合わせ所で待ち合わせをしていた。

 ジーパンに無地の赤いシャツ、その上に半袖の上着を着た速人は五分前にそこに現れた。すると、すでに桜が待っていた。

 襟首があいた五分丈の服に、足の細さが際立つパンツ。活動的な桜にあっている、身軽そうな私服だ。

 声をかける前に、速人は腕時計で時間を確認する。遅刻してはいない。

「早いね。待った?」

 後ろから声をかけると、桜はシュパッと素早く振り返った。

「いや、全然よ!?」

 元気そうだが、少し目元が疲れている。寝不足なのかもしれないけど、そこをツッコむのは野暮だろう。怪盗カササギ関連で忙しいのかもしれないし。うんうん。

「瞬は大丈夫だった?」

「うん。どうやら仕事があるみたいだよ。タマと一緒にやることがあるって、俺より前に出て行った」


 待ち合わせに桜は「全然」と答えたが、実際は四十分も前に来ていたことを、一時間前からこの場所で張っていた瞬とタマは知っていた。


 帽子をかぶり、メガネで変装している二人は、裏のベンチに座っている。

 なぜ今日のことを瞬が知っているかと言えば、昨日学年中で噂が広まっていたので知らない人の方が少ない。そして、待ち合わせ場所と時間は、速人が風呂に入っている間に携帯を盗み見て把握した。

 速人と桜が移動してから、瞬とタマは立ち上がる。

「何でこんな尾行なんてするッスか?」

 タヌ耳と尻尾を隠し、巫女装束でもないタマが当然の質問をする。服装は瞬のものではなく、母が買っておいたタマにあわせた私服だ。

「兄さんもタマも危機感が足りないのよ。相手は獅子姫さんとはいえ、立場は怪盗カササギの正体を暴こうとしている人なの。何の探りをいれるための計画だか分かったものじゃないわ。必要なら偶然を装って合流して、獅子姫さんの計画を挫かなくっちゃ」

「ただのデートに見えるッス」

「それは違うわよ!」

 これをデートと認めない人がここにも一人いた。


 速人と桜はまず、大通りを下って海の方へ歩いていく。海に面した通りには観光客相手の店や、若者向けの飲食店が多い。時間からして早めの昼食をするつもりだろう。

「大体にして、兄さんはこの前まで獅子姫さんのことを男だと思っていたのよ。いい? 男の親友だと思っていたレオが獅子姫さんだったの。そう簡単に見る目が異性になって、好きだ嫌いだになるわけがないじゃない」

「それは速人視点スよね? 相手の桜はずっと女の子で、ずっと男の子の速人を覚えていたなら、好きになっていても不思議じゃないッス。今日のことを企画したのが桜なら、その可能性はかなり高いと思うッスよ」

 瞬は苦虫を噛みつぶしたように口を波立たせた。さすがは百年を生きるタヌキの妖怪だ、中々に鋭い。

 速人達がある店に入ったので、瞬達はその店の前を通り過ぎた。その時に店の看板をさりげなく確認し……『本日カップルデー』という宣伝に瞬はつんのめった。

「さて……と、手近な浮遊霊を憑代に使って、簡易式神を作ってポルターガイストでも起こしますか」

 やさぐれた暗闇を背負う瞬を、タマが慌てて止める。

「いやいやいや、落ち着くッス! こんなのあれッス! サービスを受けるためにカップルの振りをするだけスよ。瞬だって今度出来るッス」

 バタバタとしている外に気づかず、中では速人と桜が注文をして料理が来るのを待っている。

「速人はどうして写真部に入ったの? 足が速かったんだし、陸上部に入ればよかったのに」

「運動系の部活はどうも苦手なんだ。それに足が速いって言っても、体育の記録では一〇〇メートル十四秒代だから、本気でやっている人には勝てないよ」

「部活をやってなくてそのタイムなら十分速いわよ。中学からやっていれば、十秒代とかいけたんじゃない?」

「そんな順調にレベルアップするとも限らないよ。獅子姫は部活やろうとか思わないの? 騎士なら剣道部とかいいんじゃない?」

「高二から運動部っていうのもね……それに、私が習った剣術は剣道とかなり違うし」

「そっか…………あ、なら、写真部に入らない?」

「写真部に?」

「うん。今年一年生が入ってくれなかったから、部員が三人しかいないし。何より、人を撮れる人がいると助かるんだよ。学校行事の際に学校や新聞部から写真撮影を頼まれることもあるから」

 写真部の部長は超常現象専門。速人は動物専門。瞬はよく知らない人を撮るのに抵抗がある。

 思い返してみると、すごい部だな。

「大丈夫なの、写真部?」

「けっこう歴史ある部だし、最近だと写真甲子園入賞っていう実績もあるよ」

「へ~、意外」

 そこへ、二人が注文していたパスタが運ばれてくる。

「まあ、気が向いたら入部してよ。歓迎するから」

 そして食事に入った。カップルサービスとして、食後にストロベリーのアイスがついた。


 建物の影でオニギリとお茶という昼食をとった瞬とタマは、お店から出てきた二人を再び尾行する。

「二人は中で何を話していたッスかね?」

「きっと、明日の株価とかの話よ」

 そんな有意義な話をランチタイムにする高校生の男女とか、日本の未来としては明るそうだが、二人の未来としては灰色そうだ。

 店から出た後、海岸を眺めながら散歩をして、海岸から離れて町の方へ戻る。次に入ったのはファンシーな雑貨屋さんだ。

「ふふふ、愚かなり獅子姫さん。兄さんは動物好きだけど、ぬいぐるみはそこまでじゃないのよ。好きだったら、部屋が私以上に女子の部屋になっていただろうけど」

 なんか普段ならしない尾行という状況に悪ノリして、悪役風味をきかせてきた。

 そういえば、速人の部屋には動物の写真集とかはあっても、ぬいぐるみの類は一つもなかったな~っと、タマは思い出した。

「それなら猫耳のヘアバンドとかも、速人は興味ないッスか?」

「…………偽物として割り切っているから冷めているわね。でも、だからこそこだわりがあるっていうか、偽物なら偽物としてせめて品質に気をつかい、装着者もしっかりとキャラを作りこまないとダメらしいわ」

 一度猫耳ヘアバンドをつけて、淡々とダメだしをされてケンカに発展したのは、瞬の黒歴史だ。

 そこは三十分ほどで出てきて、何かを買ったらしい桜の手には買い物袋があった。

「速人がプレゼントしたッスかね?」

「それはないわね。兄さんはお金にキチッとしているから、彼女でもない人に奢ったりとかはしないはずよ。おそらくさっきのお店だって割り勘のはず」

 除霊をしていて悪霊の恨み言第一位が金銭問題なので、速人と瞬はたとえ誰が相手でもお金の貸し借りはしないと決めている。お金によって友情や愛情が壊れることもあるのを二人はもう知っている。

 その次はショッピングモールにあるボーリング場に行ってボーリングをし、終わったらイートインでお茶を飲んだ。どうやらボーリングで負けた方が奢る勝負だったようで、速人がお金を出していた。タダで奢ることはしないが、その程度の遊びはする。

 そして最後に二人が来たのは、三人でよく遊んでいた公園だ。

「懐かしいわね」

「いや、家の近所だし」

 正直な速人が何だかおかしかった桜は、少し笑った。

 ベンチには腰掛けず、適当に園内をぶらついているので、瞬とタマは下手に中に入れない。

「ねえ、速人…………速人は、怪盗カササギを、どう思っ――」

「ぬっわあうあ~!」

 いきなり叫び出した速人にビックリすると共に、桜の予想を超えるオーバーリアクションで、怪しいかどうかの判断も逆に出来ない。

「え、あの、速人?」

「ん? あ~……いきなりどうしたの?」

「いや、それはこっちのセリフのような……後ろに何かいるの?」

 と、振り返りそうになった獅子姫の頬を速人は手で挟んで自分の方に向けさせた。

「えっと、怪盗カササギをどう思っているかだったよね。前も聞かれたけど……えっと、それは、ほら、お調子者なのは間違いない。物品を盗んでおきながら返すってことは、獅子姫が言っていたように愉快犯じゃないかな」

 挙動不審な速人が何を目撃したかというと、桜の背後にうごめく多数の幽霊だ。なぜかそこら中から集まってきてしまったようだ。桜が幽霊を見えるかどうかは分からないが、暗闇にも怖がるぐらいだ。慣れている速人ですらその数に思わず声が出てしまったから、見せない方がいい。

 急に頬を触られて間近に近寄られ、嫌ではないが桜は少し頬を染めつつも速人に怪訝な視線を向ける。

「……速人、何か私に隠している?」

 隠しているけど、おそらく桜が疑っているのとは別のものです。

「いや、別にそんなことはないよ」

 平静を装いながら桜の頬から手を放す。自分に疑いの目を向けていれば、背後を振り返る心配はない。

 それにちょうどその時、コソッとやってきたタマが手で扇ぐようにして幽霊を追いやってくれた。こっそり瞬とタマがくっ付いてきているのに速人は気づいていたので、それには驚かない。安心した。

「怪盗カササギに関して、俺は好きでも嫌いでもないよ。部長とかは変なシンパシーを感じているけどね。島を盛り上げてくれるのはいいけど、もうちょっと手段を選べばいいのにね。ゴフォッテ!」

 最後に吹き出すように咳き込んだのは、追いやられた幽霊が何か一つにまとまっちゃって、悪霊化してタマを追いかけ始めたからだ。

「速人……どうも怪盗カササギの話題になってから挙動がおかしいわね」

「いや、ほら、うちってカササギ神社でしょ? 怪盗カササギが現れ出した時、名称から関係性を疑われて大変だったんだよ。だから、嫌な思い出があってね」

 無音でタマにツッコミを入れに出てきた桜が、札を使って悪霊を祓い出した。これでもう心配はないだろう。

「本当にどうしてカササギってつけたんだろうね? うちがカササギ神社であるように、カササギはこの島の守り神なんだよ。いわゆる土着の神様。それだけじゃなく、カササギって日本では縁起のいい鳥なんだ。「勝ち烏」って言って、勝利を運んでくる鳥として。だからさ、盗みだけをして島に迷惑をかけるような怪盗が名乗るのは、ちょっと違うような気がする」

「そっか。ヨーロッパの方では「泥棒鳥」とかって言われているからストレートな名前だなって思っていたし、この島を中心に活動しているからカササギって名乗っていると思ったけど、守り神とはちょっと違うわよね」

 意外に悪霊が強いらしく、タマの幻覚で瞬の人数が増えている。タマに幽霊を任せていた間に瞬が公園周囲に結界を張っていたので、誰かに見られる心配はない。桜を除いて。

 ハッキリ言って、速人にかかれば怪盗カササギについて桜に取り繕うのは難しくない。だが、ここで疑いを完全に払拭してしまっては、後ろの騒ぎに気づくかもしれない。

 そして、あんなたくさんの瞬が飛び交っている除霊姿を桜に見られたら、誤魔化しは不可能。瞬はショックで不登校になるかもしれない。断じて後ろを向かせるわけにはいかない。

「そういう風に微妙に勘違いしている所もあるし、俺は怪盗カササギがこの島のことをよく知らない島外の人の可能性もあるかなって思うよ」

 そこまで言って、速人は肩をすくめて笑う。

「まあ、素人考えだよ。怪盗カササギの正体を暴こうとしている獅子姫に言うことじゃなかったね。余計な先入観を持たせちゃうかもしれないし」

「……うん。あまり気にしないようにする」

 とは言うが、桜はじっくり考えるように口元に手を当てている。そうやって押し黙ってしまったからだろうか、背後の物音に気付いたようで――。

「振り向くな!」

「どうして?」

「振り返られたら死ぬんだ、俺が」

「速人が!? どういう原理で!?」

「実は俺のばあちゃんの旦那の息子が――」

「それは普通に父親でいいのでは?」

「とにかく! 真のプロフェッショナルは背中に立たれたら条件反射で殴りかかったり、斬りかかったり、撃ってきたりすると教わった。つまり、俺が騎士の獅子姫の背中に立ってしまったら――斬られる!」

「加害者私!? いや、そんなことするわけないでしょ。今は剣も持っていないし、どこのスナイパーよ。一度じっくり両親と教育について話し合った方がいいんじゃない?」

 言い合っている内に、除霊が終わって二人がはけていった。ようやく、速人は人心地ついた。

 桜はやっと後ろを振り返ったが、当然何もなかったので首をひねった。

 そして、かなり遠回りしたが、桜は速人に聞きたかった質問をする。

「…………ねえ、もし速人が怪盗カササギだったら、私が捕まえようとするのは迷惑?」

「ぜひ捕まえてほしいね。それで、俺の身の潔白を証明してよ」

 すんなり出てきた答えについて、桜は考える。

「そっか。そうだよね」

 たとえここで速人を問いただして、「怪盗カササギ?」「うん」と答えてもらっても、証拠も説得力もない。何より、桜自身が信じたくない。でも、怪盗カササギを捕まえて正体を暴けば誰も言い逃れできない。桜も。

 結局は、捕まえるしかないのだ。それがハッキリと分かっただけ、今日はよかった。

「速人」

「うん?」

「今日はありがとう」

 スッキリした桜は別れ際、朗らかな笑顔で「また学校でね」と言った。


 最後に色々あって疲れた速人は、境内に上がるための階段を上るのも辛かった。

 それでも上り切って帰って来たら、

「兄さん!」

「速人!」

 先に戻っていた瞬とタマが猛烈な勢いで出迎えた。

「あ、二人ともさっきはありがとう」

「それどころじゃないッス!」

「し、獅子姫さんの、イヤリングに!」

「イヤリング?」

 言われて、速人はポワポワと思い返す。桜がいつも左の耳にしている赤い石が入ったイヤリング。今日もつけていたな~っと。

「あれがどうかした?」

「あれに潜んでたッス!」

「何が?」

「悪魔アイムがです!」

 ……………………。

 しばし速人は頭が追いつかなかったが、気づいた瞬間驚きの声を上げた。

 さて、ラスボスの登場です。こういうボスを用意できるのは便利です。怪盗ものだけなら正体がばれてる? とか、捕まりそう? をクライマックスにもってくるんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ