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怪盗カササギの超常騒動  作者: 春花
ターゲット ブリージャの山猫
11/17

ブリージャの山猫 怪盗

 事件を聞いた瞬は、登校前に美術館によることを決めた。

「タマも行くッス」

 連れて歩きたくなかったので「ダメ」って言おうとしたが、タマが速人の昔話をした時のことを思い出した。離れていても不穏な気配を感じ取れるらしいので、もしかしたら瞬では感じ取れないものにも気づくかもしれない。

「いいわ。一緒に来て」

 こういったことには役に立たない速人を待たず、瞬はタマを連れて家を出た。

 美術館の前に行くとパトカーが二台あり、

「獅子姫さん?」

 警官と話をしている桜を見つけた。声をかけると、話していた警官に会釈をして切り上げ、

「おはよう、瞬にタマさん」

「おはようッス」

 普通に朝の挨拶をかわす二人を見て、瞬はこっそり桜に耳打ちする。

「変に思ったりとかしないんですか?」

「人の趣味やファッションに口を出せるほど私も気をつかっているわけじゃないし、最近の神社は集客のために色々やっていると聞く。頑張っているのね」

 優しいまなざしとフォローに瞬は「そっか。今カササギ神社はこういう風に見られているんだ~」とどこか他人事のように思うようにした。

「で、獅子姫さんがいるってことは、怪盗カササギが出たんですか?」

「う~ん……その可能性は低そうね。私も場所柄そうかと思ったけど、話を聞けば盗まれたものはなく、警備員が怪我をしただけですって。ただの傷害事件のようだし、警察に任せればいいわ」

「そうですか。ちょっと怖いですね。犯人は捕まったんでしょうか?」

「まだらしいわよ。でも、防犯カメラに何か残っているだろうし、被害者も落ち着いたらちゃんとした証言をするはずよ。すぐに捕まるわ」

「ちゃんとした証言ですか?」

「そう。どうやら少し錯乱していて化け猫に襲われたとか言っているらしいわよ。そんなことあるはずないのにね」

 桜は事件のことを警察から聞いていたので、信用がおける情報を瞬はゲット出来た。

 一緒の登校を誘われたが、タマと用事があると言って桜と別れた。

「で、何か感じた? 私は昨日見て回ったけど、特に怪しい気配は感じなかったんだけど」

「外からだと分かりにくいッスね。でも、ものに宿るんじゃなく、潜む奴は気配を消すのが上手いス。瞬が気づかなかったってことは、そういう奴だと思うッス」

「なるほど。警備員さんは化け猫に襲われたって言っていたから……」

 瞬は昨日のパンフレットを広げて展示物を見直す。

「この『ブリュージャの山猫』が怪しいわね」

 タマにパンフレットを渡して、

「叶お姉さんか伯父さんに言って、タマも美術館に行って実物を確かめてきて。もし何かよくないものが潜んでいるなら、これ以上被害者が出ない内に祓うから」

「分かったッス!」

 そして、母に美術館に連れて行ってもらったタマは、瞬が予想した『ブリュージャの山猫』を入念に視た。

 その結果、その日の内に怪盗カササギの予告状が美術館に届けられた。

『明日の九時に『ブリュージャの山猫』をもらいにいくで』



 予告された当日、美術館は警察によって厳戒態勢が取られた。富良野警部も気合いが入っており、拳を固く握りしめる。

「怪盗カササギめ、今度は『ブリュージャの山猫』を狙うとは!」

「ちなみに、この物品の逸話は何ですか?」

 帯剣している桜の視線の先に、柱を模した台座にのる『ブリュージャの山猫』が、アクリルケースに入れられて展示されている。

 お座りのポーズで作られた銅像で、高さは三十センチほどだ。

「こいつは王家の守り神でして、暗殺者や刺客から王を守っていたそうです。深夜に断末魔が聞こえて駆けつけてみると、この像の前で暗殺者は息絶え、像の口元は血塗られていたとか。そうやって食い殺した人数は二百を超えるそうです」

「なるほど」

 そういったエピソードには興味無さそうに、桜は素っ気ない返事をする。

「実は、もしかしたら警備員もこいつに襲われたんじゃないかって話ですよ」

「そんなことはありえません。関節が動くこともないただの銅像ですよ」

 何気ない会話にマジレスと冷めた視線が返ってきて、富良野警部は大きな汗を流す。そのため、「ゴホン」と仕切り直して、

「で、今日はどういった仕掛けを?」

「今日は靴跡の確認です」

 台座の周りに、今度は無臭の塗料が塗られている。

「怪盗カササギがあれから靴を変えたかどうかです。前回と同じものなら、何かしらのこだわりがあると思われます……あの靴跡に関して何か分かりましたか?」

「靴のサイズは二六センチ。メーカーはメジャーな運動靴メーカーでどこにでも売っている類のものです。この島のデパートでも売られています。ありふれたものですので、靴から特定するのは難しいかもしれません」

「そうですか。まあ、どこで何が役に立つか分からないのでしっかりデータは取り続けましょう」

 そして予告時間が近づいてきた。

 前回と違って今回は防犯がしっかりとしている美術館。侵入することすら容易ではないが、相手は怪盗カササギ。油断は出来ない。

 各員が緊張感を高めていると、部屋の一角で大きな物音が響いた。

 驚きの中そちらへ目をやれば、鳥を模した縦置きの棺桶の蓋が床に転がっていた。だが、その棺桶の周りには誰もいない。つまり、勝手に蓋が開いたのだ。そして、中からミイラが歩み出てきた。

「我の眠りを妨げる者は誰だ~」

 警官の絶叫が館内にこだまする中、剣を振り上げて飛び掛かった桜がミイラを一刀両断する。

「なんや、今日は可愛い悲鳴を上げないんやな」

 斬り捨てられた包帯の中から現れたのは、学帽に学生服、赤いマフラーをなびかせ、白い仮面を装着した怪盗カササギだった。

「ミイラに化けたんなら、ちゃんとその口も縫い合わせておきなさいよね」

「お~こわ」

 切っ先を向けられる前に、カササギは桜から距離を取った。

「いや~、意外にそれっぽい展示品が一つぐらい増えとっても、気づかれんもんやね」

「あんたは大英博物館に勝手に作品を展示した、バンクシーなの!」

「さっすがヨーロッパ帰り、ナイスツッコミや!」

 笑いながら、カササギは懐から取り出したボタンを押す。すると、彼が潜んでいた空っぽの棺桶から巨大な風船が膨らみ始めた。

「耳塞いでおかんと、鼓膜が破れるで!」

「真に受けないでよ! カササギが山猫に近づいているわ!」

 みんなが膨らむ風船に気を取られた瞬間、カササギは凄まじいスピードで動揺している警官の間をすり抜け、山猫へと迫る。警官達が動こうとした時に風船が破裂し、何人かは音の大きさでつんのめった。

「この柔道六段のワシに任せておけ!」

「血圧上がるでぇ、警部さん」

 カササギは左手からワイヤーを射出し、山猫のケースに取りつける。

「バカめ! ケースは台座に固定されている。引き寄せることなど出来んぞ!」

「知っとるよっと!」

 カササギはワイヤーを巻き上げながらスライディングをかける。磨き上げられた床によってさらにスピードが出て、富良野警部は足を引っかけられて転んだ。

 台座まで来たカササギは滑らかな動きで上り、山猫の上に位置取る。

「さて、お立合いや! この頑丈な宝箱に入っとる山猫を、どうやって出す?」

「出せるわけがないわよね!」

「そうでもないんやで。ホレ」

 カササギがケースに手を突っ込んですぐ出したら、手には山猫の銅像があった。そして、当然ケースの中は空だった。

「は?」

 桜だけでなく他の警官の目も点になった。

「ほなな」

「そんなバカな!」

 カササギと入れ替わるように桜がケースに張りつく。カササギが手を入れたらしき上部も固いアクリル板で穴など開いていない。

 桜はすぐさま台座横のスライドを動かし、ボタンに番号を入力する。すると、ケースが開いて山猫が現れた。瞬間、カササギのワイヤーがそれを巻きとった。

「ま~た~、王道な手に引っかかるんやから~。さっきのは偽物やで」

 美術館の中二階の手すりに腰掛けていたカササギの手に、本物の山猫が握られた。

「だ、騙したわね~!」

「一応、引っかからなかった時のパターンも考えとったんやけどな」

 中二階に配備していた警官が話しこんでいるカササギへ忍び足で近づき、背後からいきなり襲い掛かった。だが、それに気づいていたカササギは天井にワイヤーを取りつけ、手すりから滑り出た。

 そのまま弧を描いて窓へ行こうとしたが、跳び上がった桜の剣撃一閃で、ワイヤーが斬られて落ちた。

「うわああぁああ~!」

 そして、落下地点に警官が群がっていく。

「よし!」

 富良野警部は会心の声を上げて、山盛りになった警官の下敷きになっているであろうカササギを覗きこんだ。

「いない!?」

 あんな特徴的な服装の奴を見逃すわけもない。中に埋もれているのかもしれないと、上にいる警官を下ろそうとすると、

「待ってください! カササギは変装もします。警官に変装して脱しようとしているかもしれません」

「なるほど確かに……おまえら、ひとまずそのまま動くなよ」

「ですが警部。もしここにカササギがいなければ、この間にも彼は逃げているのでは」

「うっ」

 判断を迫られ、富良野警部は思わず呻いたが、

「いいです。もし怪盗カササギがここにおらず、今も逃げているのなら、そのロスタイムは致命的です。とても追いつけません。ならば、ここに怪盗カササギがいるとして、絶対に逃がさないことこそ、今は重要なのです」

 桜が下した理性的な判断に、富良野警部は頷いた。

「では、どうしますか? 下手にこの山を崩せば、怪盗カササギが自由になってしまうかもしれません」

 桜は口元に手を当てて考え込む。その間に、下の方の警官から呻き声が上がってきた。あまり時間はかけていられない。

「少しリスキーではありますが、山を崩しましょう。もし山から逃げる者があれば、それが怪盗カササギです」

「分かりました。おい、おまえら。山を隙間なく囲め」

 富良野警部の号令で警官が周囲を囲む。そして、緊迫した空気の中、山の上から警官が下りて行く。

 下りた警官は待機させ、次々に並んでいく。最後の一人が並んだが、見た目怪しい奴はいなかった。

 そして今度は一人一人の顔を引っ張っていく。単純な方法だが、効果的ではある。

 怪しいのはやはり下にいた方だ。何人目かの顔を富良野警部が引っ張った時、

「ん? 貴様どうしてドーランをつけている」

 肌触りの違いに気づいた富良野警部が、指についた肌色のおしろいを見ながらその警官に聞く。

 聞かれた警官は驚き、すぐには言葉が出てこなかった。そのせいで、周囲から疑いの眼差しを向けられる。

 その短絡的な反応を桜が注意しようとした。そんなもの、カササギが彼を囮にしようと、もみ合うどさくさでつけただけかもしれない。

 だが、その前に囲いの外で叫び声が上がった。

「何事なの!?」

 この場は富良野警部に任せ、桜は警官をかき分けて騒ぎの場所へ向かう。

 そこでは、二匹の黒猫が警官達に襲い掛かっていた。

「どこからこんな猫が!」

「ふれあいコーナーです! ふれあいコーナーの猫が二匹ほど逃げ出したみたいです!」

 警官達は黒猫達を取り押さえようとしているが、俊敏な動きに翻弄され捕まえられない。

「ちゃんと施錠しなかったの!?」

 苛立たしげに桜が叫ぶ。だが、ふれあいコーナーの黒猫は小さく人懐っこいはずだ。なのに暴れている黒猫達は凶暴で、警官に引っかき、噛みついている。

 血が乱れ飛ぶ中、一匹の黒猫の細い瞳孔が桜を捉えた。

 黒猫は威嚇の声を上げ、桜の喉元に喰らいつこうと鋭い牙を光らせる。

 桜は反射的にかばうように両腕を上げた。が、衝撃はこなかった。

「前回に続いて、今回も面倒なことになるんやから」

 桜が両腕を下ろすと、目の前に学ランの背中があった。


 桜と黒猫の間に割り込んだカササギ。彼の喉笛に、黒猫は喰らいついていた。


 衝撃的な画に、場が静まり返る。

 その場を破ったのが、カササギのくしゃみだった。その拍子に黒猫はカササギの胸を蹴って離れた。

「危機一髪やん。この防刃繊維で編まれたマフラーやなかったら死んどるで」

 カササギはマフラーの上から喉をさするように触る。

 そして、一息ついたのも束の間、素早くしゃがみ込むと頭上を剣が薙いでいった。

「カササギ! やっぱり警官に紛れていたのね!」

「命の恩人になんちゅう仕打ちや!」

「相変わらず恩着せがましい。どうせその猫もあなたの仕込みでしょ! 事前にケージの鍵を開けておいて、騒ぎを起こしてそれに乗じて逃げるつもりだったんでしょ!」

「ならもう逃げとるやろ!」

 カササギはその場から飛び退く。

(あの黒猫達は明らかに何かの影響を受けとる。おそらく銅像の邪気やな。猫同士波長でもあったんか?)

 そう判断したカササギはチラッと、視線を壁際に向ける。落下した時、銅像を持ったままだと変装しても支障をきたすので、そこへ隠すように手放しておいたのだ。

 取りに行きたいところだが、黒猫で混乱する警官達はともかく、その人達に足止めを食いつつも虎視眈々とずっとカササギを視界にいれっぱの桜はどうしよう。

「ええい、ままやん!」

 とにかく、混乱する事態を収束することの方が先決だ。あの銅像に札さえ張りつければ黒猫達とのリンクが切れ、元の大人しい猫に戻るはずだ。

 ぐずぐずして、警官はともかく黒猫が怪我することになったら大変だ(カササギこと速人にとって)!

 カササギは警官の間をぬって進み、『ブリュージャの山猫』を回収する。

 その瞬間、カササギに向かってくる桜。

 壁際であるため、後ろには逃げられない。俊敏な桜が相手だと、たとえ横に逃げたとしてもついてくるだろう。むしろ、下手に動けば背中からやられるかもしれない。上に跳び上がるしかないと思った時、カササギを守るように彼の体を風が巻いた。

 強風に足を止め、目をつぶった桜が再び目を開けると、そこにカササギの姿がなかった。

「『ブリュージャの山猫』はもろうたで!」

 声の方に振り返ると、カササギが出入り口から飛び出していった。

 そして、暴れていた黒猫達はすっかり大人しくなってスヤスヤと寝ていた。

 すぐさま富良野警部は部下にカササギを追わせる。だが、それは今まで何十回も無駄に終わったことだからそれほど期待はしていない。

「すまない。まさかカササギが動物を使ってくるとは……」

 猫の出現で囲いはボロボロになり、せっかくカササギを閉じ込めていたのにまんまと脱け出された。

「……まあ、いい教訓にはなりました。一応猫のケージの中を調べておいてください。猫が興奮するようなものが仕込まれているかもしれません」

「わかった。指示しておこう」

 桜は『ブリュージャの山猫』の台座に近づき、またカササギの靴跡を取った。見た感じこの前の靴跡と同じなので、やはりカササギはお気に入りの靴を愛用しているようだ。

 しかし、そんなことより今回、桜は大きな手がかりを得てしまった。

 そんなことがあるわけないと、カササギを捕まえて否定したかったが、出来なかった。

(どうして、カササギは猫に噛み付かれた時、くしゃみをしたの? あの状況で普通、くしゃみなんて出る? どうしてなのよ!)

 ある可能性は……ちゃんと桜の頭の中に浮かんでいる。でも、必死に別の理由を探す。


 怪盗カササギが動物アレルギーかもしれないなんて、何の冗談だ。

 動物アレルギーがキッカケでマズイことになりましたよ。やばいですね~。まあ、探偵役に疑われるなんて当然通る道なので仕方がないですけど。

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