ブリージャの山猫 日常
鳥治島は首都から見て北東の方角にある。つまりは鬼門の方角だ。そのせいか良くないものが集まりやすい土地であり、古くからそういったものが首都に入り込まないよう、守護・撃退する役目を担っている。
その役目を主に担っているのが「カササギ神社」であり、『神依り』と『護』である。
そして、当代の『神依り』は瞬であり、『護』はタマである。
七年前の夏休み、カササギ神社の近くにある公園で、
「おまえ、幽霊が見えるんだろ」
「気持ち悪い」
「っていうかウソだろ。そんなんいるわけねえし」
「お化け女!」
少し押された拍子に、幼い瞬は涙を我慢できずに泣き出してしまった。
駆けてきた子どもが軽快にジャンプし、瞬をいじめていた男子の一人を蹴り飛ばした。
重さを感じさせない無音で着地し、野球帽をかぶっている子どもは他の二人を睨みつける。それにおののいて散り散りに逃げ、蹴飛ばされた男子も遅れて逃げた。
「レオ。ケンカはやめた方がいいよ。親がうるさかったら面倒なんだから」
幼い速人が現れると瞬は駆け寄り、しがみついて服に顔を押し付ける。涙や鼻水で濡れるのも構わず、速人はポンポンと頭を撫でてやる。
レオと呼ばれた子どもは納得してない、ムスッとした様子で速人を見る。
「イジメをする奴は最低だ。そんな奴を退治して、どうして文句を言われなくちゃいけない」
「そういう常識が通用しないのが、モンスターペアレントってやつなんだよ」
「それじゃ速人は、瞬がイジメられていても何もしないつもりか?」
「いや、背負って逃げるよ。俺、足速いもん」
その弱気なんだか強気なんだか分からない言葉に、レオはぐしゃぐしゃの線を頭上に浮かべる。
「相手を調子づかせるだけだ。悪はこらしめ、しっかりと報いを受けさせる必要がある! それが正義だ!」
「はいはい」
そろそろ瞬が泣き止むというタイミングで、速人は適当な感じで話をしめた。
「兄さん……私、気持ち悪くなんてありません!」
涙声の必死な訴えにレオは慌てふためき、
「だ、大丈夫だ、瞬! 僕が調べた所、多感な時期はそういうものが見え……見たと思い込んでしまうことがあるらしいが、年齢を重ねると共にそういったことは無くなるらしい。心配しなくても、数年も経てば普通になる!」
何とか慰めようとするが、効果は薄く、まだ瞬は鼻をスンスンとならしている。無力感でレオはティッシュを手渡すので精一杯だった。それを受け取って鼻をかむ瞬に、
「俺は瞬と同じものが見える。俺のこと、気持ち悪い?」
瞬はブンブンと力強く首を横に振る。その一生懸命さに、少し速人は笑ってしまう。
「俺も俺のことは気持ち悪いと思っていないよ。だから、俺と同じものが見えている瞬のことも気持ち悪いと思っていない。だろ?」
「見事な三段論法だ」
レオが速人の援護に力強く頷くが、泣いて一杯一杯だった瞬はいまいち理解していないようなキョトンとした顔つきをしている。
上手く励ますことに失敗した二人は、ついに強硬手段に出る。
「僕らは瞬のことが大好きってことだよね! 速人!」
「そうそう! 山よりも高く、海よりも深くね!」
何とか挽回しようと殊更に声を大きく出した。
瞬は吹きだすと、声を上げて笑った。
そんな風に十歳の夏休みを三人で過ごし、夏休み終了間際に速人は生死の境をさ迷い、レオは姿を消した。
そして七年後の現在。最近の瞬の日課――朝起きたらまず、タマに割り当てられている客間に彼女を起こしに行く。大抵いないので、駆け足で速人の部屋へドアを蹴破るほどの勢いで乗り込む。
カーテンを引き開けて日光を入れれば、やっぱりタマが速人に添い寝していた。
「いい加減にしなさい! 毎日毎日ふしだらな! 我が家の風紀が乱れるでしょ!」
瞬の怒声で速人が飛び起き、隣でタマが寝ていることで事態を把握する。
寝る時に服を着ることを嫌がったタマだが、瞬が食事のおかずを人質にとったことでちゃんとパジャマを着ている。
「お~い、タマ。起きろ~」
速人がタマの肩を揺り動かすと、タマはのっそりと起き上がって寝ぼけ眼で欠伸をする。
むにゃむにゃとまだ夢見心地のようだ。そんなことはいつものことなので、今日の瞬は秘密兵器を用意しておいた。
スパンッとハリセンがいい音を立ててタマの頭に炸裂した。迫力のある音と小気味いい衝撃で、寝ぼけていたタマは見事に覚醒した。
「な、なんッスか、今の音は!?」
キョロキョロ見回すタマに、ビシッと瞬はハリセンを突きつける。
「開戦を告げる福音のラッパよ。よろしい、ならば戦争ね」
「何を言ってるッスか!? 朝から迫力ド満点で怖いッス!」
「私にだって我慢の限界があるわよ! 居候の狐狸妖怪のくせに図々しいのよ! どうして毎日兄さんの布団で惰眠をむさぼっているのよ!」
「タマが来てから瞬も随分と元気になったね」
なんかその感想は間違っている気がするが、渦中に行きたくない速人は出来るだけ気配を消す。怪盗カササギの本領を発揮して、その場にいるのに存在が希薄となった。
「居候じゃないッス。ちゃんと『護』の仕事と神社のお手伝いをしてるッスよ。それで疲れるから、速人のそばにいるッス。不思議と速人の近くにいると調子がよくなるス。疲れも取れてグッスリ眠れるッスよ」
「疲労回復肩こりに効く磁気じゃあるまいし、もっとマシな言い訳はないの」
「ホントッスよ!?」
だが、瞬はタマの訴えを取り合わず、ハリセン以外にも用意しておいた一枚の札を取り出し、タマの額に張りつけた。
「? なんッスか、これ?」
「ちょっとした呪よ」
一瞬札の字が光って、それで終わりなのかピッと札を取った。
「これで、兄さんかタマのどちらかが性的に興奮したら、タマがタヌキの姿に戻るようになりましたから」
その発動トリガーと結果に、気配を消していた動物アレルギーを持つ速人が慌てた。
「そんな! 俺タマといる時、けっこうドキワクで興奮しているんだけど」
「平常心をやしなってください。何事にも動じない柳のような平常心を」
「…………もしかして俺にも怒ってる? だってしょうがないじゃん、この部屋鍵なんてないんだし」
「他人が自分の寝床に入りこんで来て、気づかないような兄さんではないと思っていましたけど」
痛い所を突かれた速人は視線をそらした。普段はのほほんとしていても、裏の顔は怪盗カササギである速人だ。瞬の言う通り、寝ていても布団に入るほど人に近づかれれば勘付く(そのせいで、瞬も寝ている速人に滅多なことは出来ない)。
つまり、速人もタマの来訪を甘受しているのだ。これが許せようか、いや許せない。たとえ何もしていないとしても。
「……兄さん」
瞬はあっち向いてホイの要領で、速人の顔の前でタマの方を指さした。
思惑通り速人はタマの方を向く。そこにはピンクを基調にしたチェック柄のパジャマ、タヌ耳タヌ尻尾をピョコピョコさせ、首を若干斜めに傾げ、上目使いで速人の方を見る、ベッドの上にペタンと女の子座りをしたタマがいた。
その瞬間、ボワンッと白い煙がタマの姿を隠し、晴れた後にタヌキが現れた。
速人の姿は消えていて、遠ざかるクシャミの音が聞こえた。
ピシピシと頭にいくつもの怒りマークを張りつけながら、瞬は腕組みをして笑う。
「しっかりかかっていますね」
それから、ギロリとタマに視線をやる。
「で、どうしてタマはそんなに兄さんに懐くのよ」
ただ『護』の役割としてそばにいるだけとは思えない。最初からタマは速人を知っていたようだし。
「それは当然ッス! だって速人はこの島を救ったヒーローッスよ!」
「どうして知っているのよ!?」
驚く瞬の前で、タヌキ姿のタマは得意げに腕組みをする。
「あれを知らない島の妖怪はいないッス! じっさまとか長く生きている人はみ~んな、あの悪魔の復活を感じ取って、天地がひっくり返ったように慌てたッスよ。でも、すぐに悪魔の気配が消えたス。タマが様子を見に行ったら、重傷の速人がお父さんに運ばれて行ったッス」
「あなた、あの場所に来たの!?」
「行ったスよ。残ったおじいさんに話を聞いたら、速人が退治したって言うじゃないッスか! あんな子どもだったのにすごいッスね」
「そうね」
興奮気味に話すタマと違い、瞬はどこか居心地が悪そうに視線をさ迷わせて短く返事をした。
「でも、そんなにすごかったのに、どうして今の速人からは霊能力がほとんど感じられないッスか?」
「あ、いけない。こんなのんびりしている暇はなかったんだ。ほら、タマも。早く出て行かないと兄さんが戻ってこれないでしょ」
そそくさと瞬は速足で部屋を出て行った。タマは質問の答えを知りたくって追いかけたが、結局うやむやに流された。
昼食の時間、速人と瞬は写真部の部室でお弁当を食べているが、その場に桜もいる。
食事をする三人の話題は砕けたものだ。
「いやさ、獅子姫。昨日アルバムを見直して思い返してみたけど、子どもの時の獅子姫は男前過ぎるよ。恰好も男子っぽかったし、勘違いしていてもしょうがないと思う」
「そうかもしれないけど! 私と子どもの時の私が同一人物だって気づいたら、普通に子どもの時も女の子だったんだって分かるでしょ。どうして私が外国で性転換したって方へ考えるのよ!」
桜がレオだと確認を取った時、速人と瞬は話の流れで桜に勘違いの経緯を白状させられた。外国で性転換したんじゃないか、と聞かされた時の桜は、怒りとか呆れとか通り越し、魂が口から出かかった。
「すみません。頭からレオが」
「だから、その名前はやめて」
「えっと~……慣れませんね。頭から獅子姫さんが男の子っていうイメージがあったもので、そうとしか思えなかったんです」
「というか、どうして本名を名乗らなかったの?」
「だって、この島で「獅子姫」の名前は有名でしょ? 子どもの時はそれがちょっとわずらわしかったのよ。だから、名前を聞かれた時躊躇って、思わず「ごにょごにょ」と名乗っちゃったのよね」
獅子姫の家は島の開発・観光を担って成功しているだけあって、ホテル業を中心にかなりの利益を上げている。山の近くに豪邸があり、島の誰もが名前を知っている。
しかし、三人が生まれる前の話だが、島外から来た桜の父親は当初、あまり歓迎されなかったらしい。島の自然を守りたい人と開発を進めたい人の間で、少なくないトラブルがあったのだ。
過去にそういったこともあり、娘の桜は島の学校ではなく、本土の学校へ通っていた。
「そっか。あの時か……」
三人の初めての出会いは、小四の夏休みだ。桜が留学の準備のため、島に戻っていた時のこと。
瞬を背負って男子から逃げていた速人を、散歩していた桜がたまたま目撃して、男子を悪と判断した。そして、正義感から二人を助けた。それが縁で、二人とはよく遊ぶようになった。
「綺麗な飛び蹴りでしたよね…………獅子姫さん。やっぱり女の子だったって思えないです」
「あの時、一日に三回は獅子姫の飛び蹴りを見ていた気がする」
「そんなにしてなかったでしょ!?」
こういう話をするから、教室でお弁当を食べられないのだ。その時に桜が成敗した男子がクラスにも何人かいる。まあ、速人と瞬ですら桜とレオを結びつけるのに時間がかかったのだから、彼らが気づくとは思えないけど。
「で、あれから瞬をいじめようとするバカはいなくなった?」
「まだ少しいましたけど、夏休み終わり頃から私もしっかりしようって思うようになりまして、いじめられても泣かないで頑張ったら、いつの間にかなくなりました」
「強くなったんだね」
そばで守れなくなってその後を心配していたが、いらない心配だったようだ。それが嬉しい。
心配が消えると、桜の中にイジメっ子に対する思い出し怒りが沸々とわいてくる。
「でも、どうしてあの時期の男子ってああもバカなのかしら。気を引きたいのにあんなちょっかい出したら嫌いにしかならないのに」
「え? あれってそういうことだったんですか?」
「当然でしょ。瞬は当時から黒い艶やかな髪が綺麗な、可愛い女の子だったんだから」
そんなことを大人びた桜に言われ、瞬は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにはにかみながら、顔を俯かせる。
「瞬は今、ボーイフレンドとかいないの?」
いきなり聞かれて、瞬は「え!?」と素っ頓狂な声が出た。そして、「いませんいません」と強く否定して首を横に振る。
「そうなんだ。まあ、島の男子にはろくな奴がいないし当然ね」
子どもの時の印象で、桜の男子に対する評価がやたらに低い。桜がクラスの男子に素っ気ないのも、昔のことが原因かと、ここにいる男子の速人は肩身の狭い感覚を味わいながら思った。
「ところで、二人は怪盗カササギについて何か知っている?」
ついに聞かれたその質問に、
「あまり興味がないからよく知らないかな。お調子者っていうのはよく聞く話から知っているけど」
「怪盗カササギについては私達よりも――」
「ん? 今日は随分と賑やかだな」
「部長の方がよく知っていると思いますよ」
タイミングよくやってきた部長に、三人の視線が向けられる。その部長は桜を見て目を見張る。
「ぬお! いつぞやの超常現象否定派!」
「……まだそんなこと言っているんですか。部長さんももう高三なんですから、少しは現実を見つめたらいかがですか」
その言葉がけっこうグサッときたのか、部長はのけ反るように胸を押さえた。
「瞬、残念ながら部長さんにはもう話を聞いているわ。大して有意義な情報は得られなかったけど」
「くっ、何だか知らんが侮られた気がする。しか~し! 決して常識と科学ではくくれない、奇想天外摩訶不思議な真実というものを見せてくれよう!」
そう言って部長はツカツカと机に向かい、空いていた机の中からアルバムを出した。それに合わせて、速人と瞬もそれぞれの机からアルバムを出す。
部長は取り出したアルバムを桜に見開きで見せ、
「どうだ? 枚数こそまだまだ少ないが、我が秘蔵写真の数々! どれもれっきとしたUFO写真と心霊写真だぞ。中には超常現象雑誌に載って、賞金をもらったものもあるんだからな!」
自慢げに言うが、桜は顔を背けて写真を見ようとしない。おそらく怖いのだろうと、速人だけが察する。
だが、部長も負けていない。見せようと桜が顔を背けた先でまた広げる。そしたらまた桜が顔を背け、また部長が動き……そのやり取りを何回かして、桜がアルバムを奪い取ってバタンッと閉じ、机の中にしまった。
見てももらえなかった部長は、寂しそうに隅で膝を抱えて陰鬱な影を背負った。
「速人と瞬はどういった写真を撮るの?」
「俺は動物専門だよ。人はほとんど撮らないね」
「私は専門って言えるようなものはないけど……その~……よく知らない人にカメラを向けられないの」
その話題のまま、桜は瞬のアルバムを手に取る。風景や植物が多い。ただ、彼女の部屋にある人に見せられないアルバムには、速人の写真が山ほどある。
そして次に速人のアルバムを見る。見事に可愛らしい動物ばかりだ。しかも、犬や猫なんてかなりの接写で撮られている。
「たしか速人って動物アレルギーじゃなかったっけ? よくこんなに近づいて撮れたわね」
「望遠レンズを使ったり、密閉マスクとゴーグルを使ったりして撮ったけど……俺が動物アレルギーって教えたっけ?」
「ほら、昔一度だけうちの犬を散歩している時に会ったでしょ? 挨拶前にくしゃみして逃げたから、どうしたんだろうって叶お姉さんに聞いたら、動物アレルギーだって」
「ホントに母さんは図々しいな」
友達にも「おばさん」と呼ばれたくないらしい。
「だから私、速人の家に行く前はちゃんとシャワーして、着替えて行ってたのよね」
「そうだったんですか」
「なんだ、三人は知り合いだったのか?」
復活してきた部長が、話から察して質問する。それで簡単に昔の知り合いだったのがこの前発覚したことを伝えた。
「ふむ。ならばちょうどよいかもしれないな」
と、部長はポケットから取り出したチケットを四枚見せる。
「島の美術館で『チットニーア遺跡展』が開かれている。そのタダ券だが四人で行かないか?」
「これどうしたんですか、部長? 部長の趣味とはちょっと違うような気がしますけど」
チケットを手に取って眺めている瞬に、部長は人差し指を立てて「チッチッチ」と横に振る。
「今週末までなのだが、知り合いが行けなくなったというのでもらったのだ。確かに我の趣味とは少し外れているが、展示されている物品の数々は遺跡から発見されたもので、中にはいわく付きと言われるものもあるのだ。どうだ? カササギが狙いそうだと思わないか?」
「なるほど」
カササギの名前で興味を持った桜も、チケットを手に取る。
「つまり! 怪盗カササギが狙う前に一目見ておきたいのだよ、ファンとしては!」
苦笑した速人もチケットを手に取った。どうせ放課後に予定はない。
島の美術館は交通の便がいい大きな通りに面した海近くにある。
入口に『チットニーア遺跡展』とポスターや看板が出ており、中に入ると古代の情緒あふれる内装デザインになっていた。
展示物は当時の生活様式の説明と道具から始まり、奥のメインギャラリーには遺跡の展示物があった。
ミイラを入れる棺桶や埋葬品の壺や宝石をあしらった装飾品。動物や人を形作った人形にスゴロク。レプリカで作られた壁画には象形文字と絵が描かれている。
それらを四人は固まって見て回っているが、
「この美術館は新しいわね。防犯がしっかりしているわ」
展示物よりも警備態勢が気になっている桜。
「おお~、この墓を発見した一人が謎の不審死を遂げているらしい。これはカササギの食指が動きそうだぞ~」
物品の逸話の方ばかりを気にする部長。
付き合いできた速人と瞬は、二人の様子を見て大きな汗を流す。
注意をしようかと思ったけど、おそらく無駄だろうと早々に諦め、好きにさせた。
パンフレットを見ながら展示を見ると、けっこう面白かった。部長ではないが宝石の名前の由来とか、ミイラになっている人物の一生とか、スゴロクがそんな古代からあったことや、ガーネットが当時太陽の石として王族しか身に着けることができなかったとか、知らなかったことを知るのは面白い。
「あ、本物の猫がいる」
「え? どこにです?」
キョロキョロ見回してみるが、瞬は猫を見つけられない。
「ほら、あそこ」
速人が指差す方を見ると、五十メートルほど先の出口近辺にふれあい広場コーナーがあり、小さな黒猫が数匹いた。
「何で猫がいるんだろう?」
「え~っと…………どうやらこの国では猫が守り神として扱われていて、多くの家で家内安全を願って飼われていたようですね。王家でも飼われていたそうです。それを取りいれて、美術館にも用意したとパンフレットに書かれています」
しかし、これほどの距離があるのに猫に気づくとは……速人の動物アンテナも桜のカササギアンテナに負けないほど高性能だ。
一通り楽しんだ四人は、美術館を出た。
「けっこう面白かったね」
「そうですね」
瞬としては、部長と桜が他のことに気を取られて、実質速人との二人で見て回れたのでとても満足だった。
「我は確信した。きっと怪盗カササギは王冠である『太陽の冠』を狙うだろう。見たか? あの禍々しい威風。怪盗カササギが狙うに相応しい一品だ」
「不吉なことを言わないでください。何事も無く終わるのが一番いいんですから」
四人は美術館の前で別れ、それぞれ帰宅する。その道すがら、
「で、何か気になったものはあった?」
「いえ、特にはありませんでした。確かに少々霊気や邪気が溜まっているものはありましたけど、長い年月が経っている道具ですから不思議でもありません。ですから、出番はないと思います」
「そっか」
桜と部長に負けず、ちゃっかり瞬も自分のことをしていた。
だが、その日の夜に美術館で事件が起きた。
巡回していた警備員が何かに襲われて怪我をしたのだ。怪我は大したことなかったが、襲われた警備員は「化け猫が襲ってきた」と証言した。
基本的に導入→怪盗→除霊って展開になるんですよ。この導入と怪盗にギャップを作るほど、じれったい展開に持っていけるんですけどね~。「なぜ気づかない!?」ってアレですよ。




