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後日談 ダブルデート!?

文化祭が終わって一週間ほどが経ったある土曜日。

志田元晴と田中千花は、多少緊張した様子で駅前に立っていた。


「ねぇハル・・・何も聞いてないの?」

「うん。何も」

「そう・・・」


会話も少なく、待つ二人。

始まりは昨日の帰り際、将生のこの言葉からだった。


「なーなー、明日の午後、ダブルデートしようぜー!」

「は?」「へ?」

「駅前に15時集合!じゃあ後でねー」


それだけ言って、将生はどこかへ消えてしまった。

3人は中学からの友人だが、将生に最近彼女ができたという話は全く知らない。

将生の性格からいって、隠し立てはしなさそうなのだが・・・。


「ちぃちゃん。マサキが宇宙人を連れてきても、笑顔で迎えようね」

「ハル、さすがにそれはないんじゃ・・・」

「二次元だったらどうしよう。いやむしろ、妄想の彼女で実際には何もいないところに向かって話しかけたりしてたら手に負えないな」

「ハル・・・マサキ君には厳しいよね・・・」


でも一体、誰を連れてくるんだろう、と千花が考えていると、当の本人がやってきた。


「おっまたせー!」


将生は一人で来た。千花は一瞬、先ほど元晴が言っていた『妄想の彼女』を考えそうになったが、誰かが将生の後ろからひょこっと覗いたのでほっとした。


「お初にお目にかかる。田中殿、ハル姫殿」

「あれ?木本さん!?」


将生が連れてきたのは、先週の文化祭を見事盛り上げ、我が校で歴代最高の集客数を達成したという、文化祭実行委員長の木本愛実であった。


「えっえっ、マサキ君のお相手って木本さん!?」

「・・・お相手とは?」

「デートのお相手」


千花が答えると、愛実はピシッと固まり、そして将生の方をゆっくり向いた。


「・・・将生殿?私たちはそんな関係ではないはずだが?」

「えー、時間の問題かなって」

「そっそんなことはない!」

「ほら、キスまでした仲だし」

「あ、あれは!将生殿が!勝手に・・・!」

「はいはいそーですねー。でも検討してくれてるんでしょ?」

「それは・・・」

「はいそんなわけでー。知ってると思うけど木本愛実さんでーす」


愛実との会話を打ち切って、将生は、愛実を2人に紹介する。完全に将生のペースだ。

元晴と千花は、状況を把握する。


なるほど、将生がべたぼれ猛アタック中か。


真っ赤になって「ぐぬぅぅ」とつぶやいている愛実に、千花は自己紹介をする。


「ちゃんと会うのは初めまして、かな。田中千花です。よろしくね、木本さん」

「志田元晴です。木本さん、厄介なのに目付けられちゃったね」


しみじみという元晴に、「どういう意味だ!」とチョップをかます将生。それをひらりと避けながら元晴は言った。


「で、どうして急に呼び出したのさ?」

「愛実さんがねー、2人にお礼が言いたいっていうんで、待っててもらったわけ」

「お礼?」


将生の言葉に、元晴と千花は首をかしげる。


「そうだ。2人のおかげで、今年の文化祭は盛り上がったからな。実行委員長として礼を言う。田中殿、ハル姫殿、ありがとう」


深々と頭を下げる愛実に、慌てて千花は言った。


「いえ、私たち何もしてないよ!あ、ハルはお姫様やったけど・・・」

「まあクラスの出し物しただけだし。わざわざお礼を言われるほどのことではないよ」

「いやいや、田中殿とハル姫殿のお力があったからこそ・・・」

「それより、『ハル姫殿』ってやめない?」


元晴が笑いながら言った。


「なんだか、今度は戦国時代の姫をやらされそうで嫌だな。元晴でいいよ、木本さん」

「あ、私も私も!田中っていっぱいいるし!千花って呼んで!」


そういう2人に、


「では元晴殿と千花殿と呼ばせていただこう」


と、愛実は少し嬉しそうに言った。


「さぁて、じゃ、行きますかね!」


ずっと黙っていた将生が口を開ける。


「行くってどこに?」

「そりゃあダブルデートっしょ!」


元晴の問いにさらっと答え、愛実と千花の背中を押そうとして・・・将生は元晴の刺すような視線に気づき、千花の背中を押すのはやめておいたのだった。




「じゃーんここでーす!」


着いた場所は広い公園で、将生が指差した先にはクレープ屋のワゴン車が止まっていた。


「わ、クレープだ!」


甘い物好きの千花は喜ぶ。

愛実はというと、黙ってはいるが目が輝いている。


「好きでしょ?甘い物」

「な、何故それを!」


将生に指摘され、愛実は驚く。そんな話はしたことなかったはずだ。


「ちょっとリサーチすれば分かることだよ。俺結構好きなんだー、調べるの。好きな相手のことなら尚更」


その言葉で少し赤くなる愛実を可愛く思いつつ、将生はワゴン車に向かった。


「さーて、何にする?」

「んーどうしようかなー。ハルは?」

「僕はストロベリーカスタード」

「俺は腹減ってるからソーセージピザにしよっと」

「迷うなぁ・・・。ねえ木本さんは決まった?」


千花に聞かれ、メニューを真剣に見ていた愛実はびくっとする。


「し、しばし、時間をいただけないだろうか・・・」

「大丈夫だよ木本さん。一つずつしか作れないから慌てなくても。悩んでるの?」


千花は、愛実の隣で一緒にメニューを見ながら聞いた。

男性陣は先に注文している。元晴が出来上がったストロベリーカスタードを受け取っているところだった。


「じ、実は・・・チョコバナナブラウニーとアイスキャラメルミルフィーユのどちらにしようかと・・・」

「あ、じゃあ私どっちか頼むから、半分こしよっか?」

「え?」

「私もその2つ、気になってたんだ。だから、半分こ!どうかな?」


千花がそう言うと、愛実は陽の光が差したように、表情を明るくした。


「い、いいのかっ!?」

「もちろん。木本さんがよければ」

「では、よろしくお願い申し上げるっ!」

「木本さんったら、大げさだよー」


きゃっきゃっと楽しそうにはしゃぐ女子2人を見て、元晴は黒いオーラを漂わせていた。


「ちぃちゃんと半分こするのはいつも僕の役目なのに・・・!」

「おいおい元晴、女の子相手に嫉妬するんじゃねぇよ、みっともない」


クレープをぱくつきながら、将生は友人をなだめるのだった。




公園のベンチでクレープを食べ、4人は町中をプラプラしていた。

ゲームセンターの前にくると、愛実の目が突然輝いた。


「あ、あれは!『トライアングルの達人』ではないか!?」


店内の奥まったところに置いてある、アーケードゲームを指差す愛実。そこには確かに、『トライアングルの達人』と書かれている。


「あれっ、木本さん、『トラ達』知ってるの?」


千花の問いに、愛実は勢い込んで答える。


「知ってるも何も!あんな超マイナーゲームがアーケード化していたとは・・・。・・・はっ、千花殿、今、『トラ達』と?」

「私も大好きートラ達ー!一緒にやろー!」

「や、やらせていただきたいっ!」


愛実は目をキラキラさせ、千花と一緒に『トライアングルの達人』をプレイしに行った。

男子2人は、後からついていく。


「なぁ元晴、お前はやらないのか?」

「将生、ちぃちゃんはね、このゲーム、すごくやりこんでるんだ・・・。一緒にプレイなんて、恐れ多くて」

「ふーん?」


女子2人は楽しそうに曲選びをしている。選び終わったのか、「曲が始まるよ、チーン!」という言葉が聞こえてくる。

トライアングルを構えた女子2人の、雰囲気が変わった。そして・・・


ちんちんちんちちーんちちちちんちんちちちちちーんちーんちちちちちーん!


2人が高速でトライアングルを打ち鳴らす音が、ゲームセンター内だけでなく道路にまで聞こえている。

将生はあまりの音量に顔をしかめる。元晴はというと、涼しい顔をしているが・・・いつの間にか、耳栓を装着していた。


曲が終わる。


「はぁ、終わった・・・」


安心した将生の耳に、「次の曲を選んでね、チーン」という声が聞こえる。まだ続くらしい。

結局、3曲分演奏して、4人はゲームセンターを後にしたのだった。




「木本さんがトラ達名人なんて知らなかったー」

「いやいや、まだ名人を名乗るほどのものでは・・・。千花殿こそ、地獄モードで95%の成功率とは・・・」

「あはは、遊んでるうちに上達しちゃったー」


女子2人は、『トライアングルの達人』を通して、ずいぶん仲良くなったようだ。将生はちょっぴり千花がうらやましかった。


千花と愛実は盛り上がっているのか、横に並んで歩いている間も「あの中盤のトレモロが・・・」「そろそろマイビーターを買おうかと・・・」とそんな話をしている。


ちなみにビーターとは、トライアングルを打つ棒のことである。


「えっいいなー!木本さんち、家庭用トラ達あるの?」

「祖父がゲーム好きでな。私もその影響で始めたんだ」

「あれ、販売台数がすっごく少なかったら買えなかったんだよねー。いいなー」

「・・・よかったら、今度遊びにくるか?」


愛実が少し照れながら提案する。


「いいの!?ありがと!・・・あ、でも、受験生なのに遊びに行っちゃだめだよね・・・」


千花はシュンとなる。さすがに、そろそろ勉強もしなくては。


「では、勉強会にすればいい。勉強の息抜きにトラ達というのはどうだ?千花殿」

「それいいっ!木本さん、勉強も教えてねー!・・・と」


千花は、愛実の顔を見て言う。


「木本さん、『殿』つけるのやめない?」

「え?」

「なんかねー、『殿』があると、ちょっと距離があるみたいに感じちゃうの。せっかく仲良くなったから・・・『千花』って、呼び捨てして!」


笑顔の千花を見て、愛実はこくんとうなずく。


「わ、分かった・・・千花」

「うん!」


それを見ていた男子2人は、「なんか甘酸っぱいねー」「甘酸っぱいなー」と、完全に蚊帳の外になっていた。


「で、もしよかったら、木本さんのことも下の名前で呼んでいい?」

「・・・マナ」

「え?」

「家族からは、マナって呼ばれている。だから、その、千花、も、よかったら、それで」


少したどたどしく、うつむきがちに話す愛実。一生懸命言ってくれているのが伝わり、千花はついきゅんとする。


「わかった、マナ!今度おうち行かせてね!」


いつにしようかー、楽しみだねーと、今後の計画を話す女子2人を見て、将生はどんよりと沈んでいた。


「元晴ぅ・・・なんでお前の彼女が、俺の好きな人の好感度ギュンギュン上げてるんだよぉ・・・!」

「ちぃちゃんって、生粋のナイトなんだよねー。女子からの人気、かなり高いよー」

「田中ぁ!うらやましいぞチクショウ!そのポジション、俺によこせー!」

「おいおいマサキ、女の子相手に嫉妬するんじゃないよ、みっともない」


先ほどとは逆の立場で、元晴は暴れる友人をなだめるのだった。

この後日談がずっとずっと書きたかったのです。

結局のところ、千花ちゃんが最強なのでしょう。

がんばれ、将生!

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