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文化祭準備1

二作目は少し長くなったので、本編3部構成の予定です。


※平成28年7月24日 改題しました。

木本愛実きもと まなみは、入学当初から、その優秀さを発揮していた。

受験をトップで合格し、入学式では新入生代表の挨拶。学級委員となり、クラスを盛り上げ、まとめていった。感情の起伏があまり大きくない愛実がクラスをうまくまとめられたのは、彼女が誉め上手だったことが大きな要因だろう。他人のよいところを的確に言葉にし、さりげなく伝える彼女を慕う生徒は多い。そのため、彼女を生徒会長に据えようと言う動きがあったが、本人が辞退した。本人が「私は文化祭実行委員長になりたい」と言ったからだ。


そんな彼女の希望が叶い、今まさに、初めての文化祭実行委員会が開かれようとしていた。


「ただいまより、第一回文化祭実行委員会を開きます。委員長 木本愛実より挨拶があります」


進行役の委員の紹介を受けて、一人の女子生徒が立ち上がる。

頭脳明晰、品行方正、公明正大な彼女だが、眉目秀麗の四文字は寄りつかなかったらしい。彼女は非常に子どもっぽい外見だった。


黒髪を常に後ろで無造作にしばり、丸い黒縁メガネをかけている。身長は148cmと低く、18歳になるというのに、女性らしい身体の凹凸がほとんどなかった。その姿は、高校の制服を着ていなかったら小学生に間違われるほどだ。


そんな彼女を、谷口将生やぐち まさきはぼんやり見ていた。


「ただいま紹介に預かった、3年4組 木本愛実だ。文化祭は10月だが、準備に時間がかかる。しかしかけた分だけ、得られるものは大きいだろう。一学期のうちから委員の皆で力を合わせ、周到に準備をし、文化祭を盛り上げていこうではないか」


愛実は女子高生にしては珍しい話し方をしていた。何故か、妙に時代がかっているというか、文学的というか、偉そうというか。その独特な口調と誉め上手という二点から、愛実は『でリスト』という異名をつけられていた。

彼女の存在は一年生の時から知っていたが、そのようなあだ名があるのを知ったのは、比較的最近だ。


「愛でるって、小動物とかを可愛がるってイメージがあるんだけど。上から目線な単語じゃない?」


愛実の話を教えてくれた友人たなか 田中千花ちかに、将生は言ったことがある。


「愛でるには、可愛がるの他にも褒めるとか感動するとか、そういう意味もあるらしいよ。あとは、木本さんの名前にかけているんだろうけど」


『愛実』だから『愛』でリストってことかと将生が納得していると、同じく友人かつ超美人な志田元晴しだ もとはるが言った。


「ちっちゃくて小動物っぽいのに、口を開くと武士みたいで隙がない感じの人だよね」


確かに、隙がない愛実は、他人から慕われていたが、どこか一線を引いた人付き合いをしているように将生には見えた。


将生が頭の中で友人との会話を思い出している間にも、会議は進んでいく。


「クラスで出し物を決めるときの注意点として、委員の皆には叩き台となる案を考えておいてほしい。その案に賛成か反対か、そこがきっかけとなり、クラスでやりたい方向が導けるだろう。何もないと、ただ考えるだけで時間が過ぎてしまうからな。案を考える際には、昨年以前の出し物などを参考にするといいだろう。もし何も思いつかなければ、個別に私のもとへ来てくれ。相談に乗る」


出し物決めの際の注意点、委員内の係決めなどを行い、第一回委員会は終わった。


「叩き台・・・難しいな・・・」


お祭り騒ぎは好きだが、考え出すのは得意ではない将生は、そうつぶやきながら委員会室を後にした。




数日後、まだ将生は悩んでいた。


「やばい・・・まったく思いつかない・・・」


自分なりに昨年の文化祭のパンフレットを見てみたが、ピンと来るものがない。クラスでの話し合いは明日に迫っているというのに。


「仕方ない・・・委員長に相談に行こう」


放課後、3年4組を訪ねてみると、愛実は委員会室に行っているとのことだった。


(こんな早くにつまづくことになるなんて・・・。委員って大変かも)


ただおもしろそうという理由と、高校生活最後の思い出作りにと文化祭実行委員になった将生は、早くも後悔していた。


委員会室に着いた将生は、ドアをノックする。


「どうぞ」


声がしたので、中に入ると、愛実は一人で、何やら書類とノートに目を通しているところだった。


「谷口殿か。どうした?」


愛実は他人を「殿」付けで呼ぶ。女子高生にそう呼ばれるのは、全くもって異様だ。


「あのー、クラスの出し物の叩き台案が全然思い付かなくて・・・」


そう言うと、愛実は少し意外そうな顔をした。


「相談に乗ってもらえるとのことだったんで、お願いしようと思いまして」

「・・・そうか。谷口殿は真面目だな」

「・・・え?」


俺の?どこが?と思っていると、愛実は続けた。


「過去の出し物などで適当に選ぶ生徒が多いのだ。まあ、叩き台だしな。ああは言ったが、実際に相談に来た生徒はいない」

「でも、その適当な案が採用されちゃっても、全然楽しくないじゃないっすか。自分もやる気出ないし」

「そういうところが真面目なんだ」

「そうっすかね?ただ本気でばか騒ぎがしたいだけっす」


将生がそう言うと、


「バカ騒ぎ真面目だな。実行委員向きだ」


愛実は口元だけでフッと笑った。

将生はつい、そのささやかな表情の変化を見つめてしまう。


「さて、谷口殿のクラスか。確か、あのハル姫がいたのではなかったか?」

「へ?あ、志田元晴っすか?」


慌てて思考を出し物に戻しつつ、将生は友人の顔を思い浮かべた。人当たりがよく、超美人な元晴は、昔から『ハル姫』と呼ばれ、多くの人に好かれている。


「そうだ。学内外にファンが多いだろう。彼が協力してくれれば、集客は望めそうだが」


確かに、昨年度の文化祭でも、元晴が接客をしていた喫茶店は長蛇の列となっていた。

何てことだ、こんなに身近にヒントが落ちていたとは!


「あー、でもあいつ、客寄せパンダとか嫌がるかな・・・」

「もちろん、本人の同意は必要だな。無理矢理というわけにはいかないだろう」


(元晴ね・・・元晴を使って、何かおもしろそうな企画・・・おもしろそうな企画・・・)


「あ!」

「何だ?」


自分のアイディアにニンマリしながら、将生は愛実に今思い付いたことを話した。


「こういうのって、アリですかね?・・・」




いよいよ、出し物を話し合う当日。

将生は自分の案に自信をもっていた。


(絶対これはおもしろい!これ以上おもしろい案があったらそれでもいいけど、きっと出ないだろうな)


とは言いつつ、一人で考えて決めるのはフェアではない。昼休みに生徒たちを回り、ホームルームで出し物を話し合うことを伝える。

例の元晴と千花も、「最後だし、思いきり関わって楽しみたい」と言ってくれた。


ホームルームで、実行委員の将生が話し合いを進める。


「何かやりたいことはありますか?」


クラスはざわつくが、なかなか意見は出ない。


(そうだろうそうだろう。出し物考えるって難しいからな)


自身もさんざん悩まされたことである。やりたくないものは言えても、やりたいものはなかなか言えないものだ。


「無ければ俺から。こんなのはどうかな?」


そういうと将生は、ホワイトボードに文字を書き始めた。

きゅきゅきゅっと綴られる文字を見て、クラスのざわめきは一層大きくなる。


「マサキ!何、これ!?」


元晴が将生の案を見て叫んだ。

『ハル姫の王子様コンテスト』。


「がっつり関わりたいって言ってたじゃん」

「それを言ったのはちぃちゃんだよ!」

「そうだっけ?」


(そうか田中だったか。まあ田中も関わってもらうことに変わりはないかな)


将生は自分の案に自信がある。ここは押すしかない。


「まあ気にすんなよ。最後だぜ。一肌脱げよ!」

「やだよ!」

「大丈夫、女装なんて慣れっこだろ?」

「そこの問題じゃないよ!というか、そんなコンテスト、先生たちから反対されるに決まってるよ!」


やりたくない元晴は必死だ。


「それがな元晴、委員長に確認済みなんだが、たぶん許可をもらうことは可能だろうって。過去、男装・女装コンテストもあったらしいから」

「なんでそれで許可下りたの!?」

「もっともらしい理由があればいいんだよ。男装・女装の時は、『現代における社会的ジェンダーを捉え直すことによってなんたらかんたらー』って理由があったらしい」


これは委員長の受け売りだ。同じ疑問を将生も考え、事前に委員長に聞いておいたのだ。

委員長に王子コンテストのことを話したときには、「劇とまではいかなくても、映像作品などで来ると思ったら・・・谷口殿の考えは斜め上を行くな」と、褒められたのかどうか分からないことを言われたが。


この後も元晴は反対し続けたが、他の生徒がほとんど賛成したため、将生の案に決まった。

よし!とガッツポーズを取りたいところだったが、さすがに元晴に殺されそうなのでやめておいた。


「じゃあ、具体的に詰めていこうか」


にやにやしながら進めるマサキを、元晴は暗い表情で見ていた。




ホームルームが終わると、案の定、将生は元晴に呼び出された。将生としては、一刻も早く、愛実に決まったことを伝えに行きたかったのだが。


「将生、お前どういうつもりだよ」

「も、元晴君、いつものラブリーな姫スマイルと姫ボイスがなくなってるよー」


元晴は素になると、低い地声が出る。口調も荒くなる。ハル姫ファンが聞いたらさぞがっかりするだろうけれど、幸いなことに、生徒がめったに来ない廊下の隅で、将生は元晴に詰め寄られていた。


「なんっであんなアイディア出すんだよ!決まっちまったじゃねーか!」

「うんうん、我ながらナイスアイディアだったよ」

「だぁかぁらぁ・・・」

「だってほら、田中がお前のために頑張る姿、見たくない?」


ぴたっと、元晴の動きが止まった。

将生は元晴の操縦法を知っている。『田中千花をうまく餌にすること』だ。


この二人はどう見てもラブラブなのに、実はいまだに『幼馴染以上恋人未満』らしい。


(田中は元晴を守る使命感で、好きなのを抑え込んでるっぽいしなー。まあ、こいつの美貌じゃ、釣り合わないって考えちゃうのも分からんでもないが)


中学からずっと見てきた将生には、二人の関係は筒抜けだ。これを、悪いが今は利用させてもらおう。


「田中もエントリーする気でいるぞ、王子コン。そしたら、まあ優勝候補だろうな。いまさら賞品のデートはいらないかもしれんが、間近で田中が奮闘するところが見れるぞ。お前のために頑張る田中。いじらしいねー」


将生は畳みかける。元晴は悩んでいる。

しばらく考えた後、元晴はつぶやいた。


「千花に危険が及ぶようなら、どんな手を使っても止める」

「それでいーよ。バレないようにやってくれれば」


よっしゃ落ちた!と、元晴は本日二回目のガッツポーズを、心の中でするのだった。




元晴との話し合い(?)の後、将生は委員会室に向かった。


(委員長に成果を報告しなくては!)


将生は浮足立って、生徒会室に向かう。

昨日と同じように書類やノートを見ていた愛実に、ホームルームでの様子を少し興奮しながら報告したのは仕方のないことだろう。


「そうか、決まったか。そうすると、谷口殿のクラスは中庭の中央ステージだな。希望クラスの数にもよるが、例年、あまり中央ステージを使うクラスは多くないから、時間はそれなりに割けると思う」


愛実はさらさらとノートにメモしながら、将生に言った。


「問題は、理由付けだな。それなりのものにしないと、さすがに教師陣の反対にあう。今日はそれを考えるか」

「あ、いや、委員長は何か仕事の途中だったんでしょ?俺、考えますから・・・」


将生が慌てて言う。すでに相談に乗ってもらっているのに、これ以上手間をかけさせるわけにはいかない。


「こういうのは、誰かと一緒に考えた方が早くいいものが浮かぶ。乗り掛かった舟だ、谷口殿」


申し訳ない気持ちもあったが、正直助かった。どういう理由を付ければいいのか、将生には見当もつかなかったからだ。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「ああ、そうだ。私と君は同学年だ。敬語は無しでいいぞ」

「あ、つい。何となく雰囲気で」


将生は頭をポリポリ掻く。そういえば、適当な敬語を使っていた気がする。


「じゃあ委員長。俺のことは下の名前で呼んでもらえる?周りのやつはみんなそうしてるから、名字だと反応しづらくって」

「分かった。では失礼ながら・・・将生殿。王子コンテストの理由付け会議を始めようではないか」


そう言って、愛実は少し笑ったようだった。

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