一週間前より
初投稿となります。どうぞお手柔らかに。
『魔族全体に通達する。 魔族全体に通達する』
某日。
冒険とファンタジーの溢れるゲームの世界に、一人の人間の声が響いた。
唐突に。
出し抜けに。
全世界という冗談みたいな莫大な範囲を指定して。
その上、この広大に広がる世界の何億とひしめく生物の中から、きっちり魔族だけを狙い撃ちにして遠隔通信を飛ばしてきた。
『先ずは唐突な通信を許して欲しい。本来ならば断りをいれてから遠隔の【思念通信】を行うのがゲーム上のマナーのはず。 …しかし、事は急を要する、今回に限りこのように強硬な手段を取らせてもらっている』
声は脳内に直接流れ込んでくるようである。
『更に言えばこの通信手段は一方通行。こちらから諸君らに一方的に発信する形になるが故、そちらからの声に関して我は一切応じることが叶わないということも先に断っておきたい』
そして届く。
波及する。
第一面の【始まりの平原】と言わず、中盤の難所【クリハァの神殿】と言わず、恒久平和なセーフティの【サンクチュエリア】と言わず。
そして一週目クリア後に現れる幻の大地【新天地】にすら。
その声は全ての魔族達にのみ届く。
『さて、いよいよ本題に入りたい』
声の雰囲気が微かに重くなる。
一瞬作られた沈黙は、まるでこちらの反応を伺うかのよう。
シンッ、と時間が止まる。
そして
声の主は先を繋ぐ
その一言は―
『我は魔王。魔界を統べる唯一無二の王とされているものだ』
―その一言は、再びこの世界を動かし始めた。
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【聖都・宿屋】
ドタドタドタドタ!!
けたたましい足音と共に城下を駆けてゆく小太りの男。彼こそが所謂大臣であり、このゲーム世界最大の都市である【聖都】の心臓部を担うお役人である。
普段の彼は聖都の王宮にて職務を全うする。その内容は政治であったり、王宮の管理であったり、王様の愚痴を聞いたりと、実に様々だ。
そもそも王宮内に兵士以外のまともな職業が設定されていない以上、大抵の雑務は彼が引き受けねば話が進まないのである。
苦労の人なのである。
さて、そんな彼がなぜ王宮を離れて城下の石畳を全力疾走しているのかと言えば理由は簡単。人探しである。
先日、魔族が再び人間達に侵攻する準備を整えているとの情報が入った。今までもそういった事はちょくちょくあったのだがどうやら今回は規模が違うらしい。噂によれば、二十年もの間沈黙していたはずの魔王が裏で手を引いているとか何とか。
たかが魔族程度ならば、聖都お抱えの『聖騎士団』でなんとでもなる。
しかし、相手が魔王となれば話は別。人間が手を出していい範囲を軽々超えている。
よって魔王に対抗しうる唯一の人材を求めて大臣は宿屋にひた走っているわけだ。
その人材とは誰か。言わずもがなである。
魔王に対抗出来得る対の存在。そんなもの一人しかいない。
この世界最強の存在にして無二の主人公。
並みの冒険者とはまるで格の違う選ばれし者。
『平和の象徴』と言われれば誰もが思い浮かべるシルエット。
先日の大幅アップデートで強化されまくって遂に『公式チート』とか呼ばれちゃった男。
(バタムッ!)「勇者よ!勇者は居るか!」
勇者、その人である。
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『―先日のこの世界の大幅アップデート。これは諸君等の記憶にも新しいと思う』
『レベルキャップ解放、全キャラクターへの固有スキル設定、魔族のリポップ廃止、新規マップ解放、調整諸々…。実に多くの要素が変更、乃し追加された』
『その結果、遂に勇者が人間の枠を越えた力を手にしてしまった。このままいけば彼奴は力に溺れ近い未来に間違いなく闇堕ちすることだろう』
『集え! 今こそ魔族全員で結集し哀れな勇者を無力化する! そして世界に平和を齎すのだ!!』
『…皮肉にも、我ら魔族の手によってな』