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企画

仕立て屋と夜鷹

作者:

「離せクソが!」

「鳥の分際でなんて口の利き方だ!」

アドニスにお使いを頼まれて街へ下りて来たのだが、

頼まれた物を買い人通りの少ない路地で男とぶつかってしまった。最初相手も謝ってきたが自分が鳥だとわかった途端いちゃもんをつけてきた。

「薄汚い鳥風情がこの街の道を歩くな!」

このまま服を捕まれたままだと埒があかない。それに今優先すべきなのは頼まれた物をちゃんと持って帰る事だ。

一かバチかだ。

「あっ!ご主人様!助けてくださいっ!」

鳥籠は貴族や富豪なのでその所有物に手を出したらどうなるかわかりきった事だ。

男は咄嗟に手を離す

「まてこのクソ鳥!」

「うわっ!?」

服をもう一度つかまれるが振り切り全力で走る。元きた道ではなく、よくわからない裏路地を通って。


「ハァ、ハァ」

ここまでくれば追ってこないだろう。まったく酷い目にあった。息切れしてあまり回らない頭にアドニスの顔が浮かぶ。彼は自身のことを鳥に主人だと言われることを嫌う。本人がいなかったにせよ、彼に対して申し訳なく思った。帰ったら謝らなきゃ

「しまった」

服が破けている。おそらくつかまれた時に破れたのだろう。帰って自分で直せばいいがやはり落ち込む。そして今重要なのはそこではない。

ここはどこ?

逃げるのに必死だったからまったく知らない場所に出てしまった。この街は道が入り組んでいるため迷うとなかなか元の道に戻ることが出来ないとアドニスから言われていた。しかも自分に土地勘はほとんどない。

「どうしよう…」

元来た道であろう道を歩き出す。喧嘩を売られるし、言いたくない嘘も吐いたし、挙句の果てに服まで破けてしまった。最悪だ

後ろから不意に肩を叩かれる。反射的に飛び退くと見たことのない人が立っていた。アドニスよりも若い男だ。飛び退いた自分を不思議そうに見ている。

「…キミは迷子かな?服が破けているし…何かあったの?」

「あ、これはちょっといろいろあって…」

先ほどあった事をできる限り伝える。男は黙って頷きながら聞いてくれた。

「そうなんだ。ずいぶんひどい目にあったんだね。オレのは、その…仕立て屋なんだ。よかったらキミの服を直してもいいかな…?」

「いいの!?けどオレお金持ってないし…お礼とかもちゃんとできないよ?」

「構わないよ」

そう言われて男の後をついていく。どうやら悪い人ではないようだ。


男の店に着き、店内を見回す。生まれて初めて洋裁店に入った。サーカスにいた時、衣装や服は他の団員が作ってくれていたからだ。

「ここがオレの店だよ。キミが来た大通りはすぐそこだよ。そこのイスに座って。すぐに直すから…」

イスに座って彼の手を眺める。手に絆創膏が巻いてあった。

「この衣装はキミの趣味?なかなかステキだ」

「ううん、これはオレがサーカスにいた時の衣装。いつもは畑仕事するから着れないけど、今日は街に行くから久々に着たんだ。」

「サーカスで働かせれていたの…?」

「働かせれていたって言うか、働いてた。生まれてすぐに親に売られて前の鳥籠が道楽でやってたサーカスに預けられたんだ」

「そうなんだ。どんなパフォーマンスをしてたんだい?」

「空中ブランコ。団長が昔やってたけど歳で出来なくなったからオレがやる事になったんだ。最初怖かったけど慣れたらすげー楽しいんだよ!」

「…それは見てみたいな」

「うーん…それは無理かも。前の鳥籠が死んだからサーカス団は解散してるし、オレも今の生活が好きだからもう戻ることはないよ。それに団長がオレがサーカスで働くことを望まないからね」

「そうなんだ…ほら縫い終わったよ、どうぞ…」

破けてしまっていた所はきれいに縫われ、跡も残っていなかった。

「ありがとう!」

服を着て、頼まれていた物を持って出口へと行く。

「そういえばキミの名前をきいてなかったね…」

「オレはファレノプシス、アンタの名前は?」

「スピンだよ」

「そうなんだ。ありがとう、スピン!」

そう言って駆け出す

「またおいでよ、ファレノプシスくん」

夕陽は少し傾いていた

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