1月30日 まほうしょうじょのうらばなし
魔法少女の続きってどうなるんでしょうね。そんな気持ちで書きました。
改稿しました:設定に矛盾があったためです。失礼しました。
魔法少女はこの世からは見えないようで意外といるものだ。
授業中に寝ている優しい子、動物に話しかけ、笑っている少女。あるいは生徒会長をしているようなクールな少女かもしれない。
彼女たちはすべてではないが、意外と魔法少女としてこの世を守っていたりするものだ。
そしてだいたい15歳くらいになると異世界の魔法学校へと進学するか、あるいは人しれず引退する。
スポットで呼びだされる派遣社員のように、能力に応じて魔法を開花させられたりするのだから当たり前といえば当たり前のことなのかもしれない。
ただ最近は魔法少女同士でつながろうとする向きもあり、SNSで元魔法少女だったという人同士でつながることも増えてきているという。
ユク・ヨウンもそんな魔法少女だった女性の一人だ。19歳、社会学を学ぶ大学1年生だ。日吉の方にある大学に毎日通っている。ロングの黒髪にやや幼さの残る顔が美しく見えた。服は青色のトレーナーを着て、その上に黒いストールを巻いている。そして白いスカートがその服装にメリハリをつけている。彼女は今日、一つの期待を胸に2限目の授業を受けようとしていた。
彼女は魔法少女として前線に出ていたときのことを、例えば行き帰りに使う地下鉄の車内で眠った時などに、ふと思い出す。
6年前。
東京オリンピックが開かれる前の年。世の中は本当に色めき立っていたような気がした。オモテナシにクールジャパン。そんな時におこった出来事だ。
あの時は宝石回収だった。魔力炉の事故で漏れ出た大量の魔力が、異世界と人間界を隔てる境界を破壊してしまったのだ。割れ目が小さかっただけにかけらの数こそ24個と少なかったが、境界のかけらが刺さった動物や人の暴走で多くの被害が出た。また境界のかけらを別の用途に使おうとしていたライバルがおり、その彼女から境界のかけらを守らなければならなかった。
ただそのライバル、伊奈れとりとの戦いは伝説的であった、と例のSNSで噂になっているのをみたことがある。激しく、そして輝いて見えた二人の戦い、そしてそのあとの2人の関係はまるで
スポーツ漫画や、少年漫画を読んでいるようであったという。そういわれると誇らしい反面、とても恥ずかしい。そう思ってあえて黒歴史にしている。
そんなヨウンに一つ嬉しいニュースが入ってきた。
れとりが同じ学校の、同じキャンパスに通っているということだ。学部こそ文学部英語英米文学科(あの頃の彼女から見ても確かに似合っている、とヨウンは思った)と違うが、同じ学校に通っているという話を聞き、SNSでつながった時はちょっと興奮したものだった。
2限目終了のチャイムが鳴る。
ヨウンは手早く提出物などを出し、準備をして食堂館へと向かった。
食堂館は最近リフォームされたばかりのきれいな建物だ。天井は高く、白い壁紙と、ところどころにアクセントとしてコンクリート打ちっぱなしの部分がある。大きな窓からは坂の上の立地を生かし、日吉の街が見下ろせるようになっている。
また1月後半からヨウンの大学も春休みだが、図書館利用者の為に週3日、営業している。
ヨウンは担々麺を頼み、今一番会いたい人を待つ。ヨウンはこの食堂にくるといつも担々麺を頼むことにしている。ゴマの風味のよく効いたスープとそぼろ、そしてしこしこした麺の相性が完璧であるのにも関わらず280円と価格も手頃であり、気に入っているのだ。
麺を一口、口に運ぶ。やはり麺と汁の相性、そして汁のコクがたまらない。これの為にちょっとだけつらい授業も、通学も耐えられる、そう思った。
するとれとりらしき女性が入ってくる。れとりも気づいたのか、定食を買ってすぐにこちらに向かってくる。
「ヨウン!お久しぶりですわ!」
「れとりこそ今までどこほっつき歩いていたんです?」
「なんですのその態度は!」
「はいはい。」
二人はにやりとし、そして笑いあった。
れとりは相変わらウェーブのかかった髪、とても仕立てのいいコートを着ている。そして眼鼻のくっきりした顔立ちがいかにも英語と気が強そうな雰囲気を出していた。
もっとも背の高いヨウンと並ぶと背の低いれとりはまるでちんちくりんで、また確かにお金持ちなのだが、自慢するほどでもないだろう、とヨウンは思っていた。
それでも人しれず努力を重ね、さらに本物のレディに近づいたような、そんな羨ましさを感じた。
「ヨウンがこの大学に通っているなんて思わなかったですわ。」
「れとりが一緒の大学なんて、何かの冗談かと思った。」
「何がいいたいのよ。」
「嬉しいってことよ。」
「また下手な冗談を言う。腹が立つのでやめでくださる?と昔、何度申したことか。」
そう言うれとりの顔は、笑っていた。
「つぶれそうなパチンコ屋の娘が大手食品会社社長の娘と話すのには勇気がいるのよ。」
ちょっと大手、という言葉を大げさに言った。もちろん、以前の事件以降出会っていないにしろ、やはり拳と拳をつき合わせた仲。こんなことを言いあえる友達だ。
「最近どうなの?」
れとりはきれいな箸遣いで上品にサバの味噌煮を食べる。
「ぼちぼちよ。ただサークルには入らなかったわ。」
「サークルね…。」
いわくありげにれとりは話を一瞬止めて考えた。
「わたくし、テニス部に入りましたの。」
「へぇ。テニス部ね。どうせまた球拾いとか、雑用でもさせられているのでしょ?」
「残念。」
れとりにとっての最大級の嫌味を込めて言った。
「わたくし、こう見えても大会で優勝しましたもの。」
魔法を使って戦った相手だからよく知っている。彼女は裏で頑張るタイプだ。きっと大会に出るために血もにじむような努力をしたのだろう。そう思いヨウンは言った。
「…魔法以外あなたには勝てないわ。」
しかしどこか、切なさに似た感情を抱いた。
「そんなことないわ。ヨウンだって強いわ。剣を握り締めてわたくしにかかってくる姿、とてもすてきでしたもの」
ヨウンは恥ずかしそうな表情をしたが、なんとなく違和感のある感情が心をうごめいていることを感じていた。彼女の言うことはおべっかがある程度含まれている、そう思っていた。
「魔法少女、ね…。」
れとりは窓から外を見て、目を細めた。
「ええ…。懐かしい。」
魔法少女だったころの話を話し始めるとふっと過去の二人が思い出された。
初めて魔法を使ったときの感触、敵に負ける恐怖、最後の日の涙…。
確かに戦った。しかし、それを通じてかお互いの人となりや事情が分かったような気がしていた。
「ヨウン、あの時とても気が強い方でしたし。ただこういうのもあれですけど正義感だけで戦っていたといいますか。」
「正義感で戦っていたのはあなたも同じように思えるわ。お互いがお互いの正義を見つめるのが苦手だったのよ。」
「正義ね…」
大学の授業で習った「ジレンマ」という言葉を、ヨウンは思いだしていた。
共有の牧草地で農民は自身の飼っている牛を増やさないと、農民はほかの農民にその分の利益を取られてしまうと考えてしまう。結果無尽蔵に牛は増え、牧草はなくなる。だからお互いに事情はあるにしても臨界点を見つけなければならない、それが授業を担当していた先生の言葉であり、そして6年前の事件をきっかけに考え始めたヨウンなりの正義であり、それの解決が彼女が社会学を学ぶ理由だった。
またれとりも10年前に流行っていた歌にそんな歌詞があった、と思っていた。
人はそれぞれに正義を持っている。だから戦ってしまうんだ。だけども両者とも尊重されるべきなんだ。そんな内容の歌だった。そして二人の戦いの中でれとりが痛感した、れとりなりの正義だった。そして異質な相手を理解するために始めたものが外国語の勉強であった。
その当時の二人にとっては非常に難しく、そして今、「共有地の悲劇」といった言葉を覚えて、逆にさらに難しくなった。でも焦らなくてもいい。だけどもいつか答えを出したい、それが二人が共通して思うことだった。
「お互いの正義、ねぇ…。どうしてもイデオロギーに汚染されるのよね。」
ヨウンは少しきまり悪そうに話す。自分自身がそうだと知っているからだ。
「そうそう。芯が弱いのかしらね。」
れとりも同じであった。自分自身も正義を信じていた。ひとまず境界線事件と称された事件ののち、れとりとお目付け役で事件を大きくしたジェビの2人が世界に対して責任を取り、れとりは半年、ジェビは2年、世界から隔離された。そしてそこで魔法の使い方、システムとの付き合い方をみっちり勉強し、そして更生した。世界から隔離され、世界のすべてのひと、両親兄弟はもちろん、街ですれ違った人の記憶からも消されていた。その寂しさを乗り越えた、だから自分は強い、そんな自信があった。
「れとり、今日一緒に帰らない?」
「いいですわよ。」
れとりは嬉しそうに言う。
そして二人はそれぞれの教室へと向かった。
帰り道。夕方7時のセンター北駅の街は、クリスマスのころほどではないものの華やいでいた。
その華やいだ街を二人で歩く。ヨウンはこの駅が最寄りだが、本来はれとりはもう少し先の駅まで乗っていく。しかし久しぶりに会った2人の4年分のつもりに積もった会話はとどまることを知らず、ずっと話続けていた。そしてれとりは逮捕された後の話を始めた。
「あの事件のあと、逮捕されてしまいましたの。ご存じかとは思いますが。」
れとりは話を続ける。ヨウンは時折頷きながら話を深く聞こうとする。
「初めは自分は悪くない、悪いのは世界だ、そう思っていましたわ。ですけど考えていくうちに、魔法を習って、世の中のシステムを学んでいるうちに正しい、正しくないという判断の前にシステムを変えることで困る人が出てくることがわかりましたの。」
少し恥ずかしそうにれとりは言う。
「システムを変えて困る人たちね…。」
ヨウンも考えてみた。
25年前の構造改革で起こった非正規雇用の増加、そしてビルに飛行機が突っ込んだテロ…世の中を彼らは彼らなりに良くしようとしたのかもしれない。だが残ったものは絶望的な、それでも回る世の中だった。25年前の結果はその10年後、これは偉い先生の言葉を鵜呑みにしている部分もあるが、ヨウンもコリアンとしてすべてを否定されたかのような絶望をしたコリアンに対するヘイトスピーチに、後者は戦争と殺戮の連鎖に繫がった。
結局システムを変えるなんて簡単にはできないのだ。魔法でできたとしても、それには必ず不幸になる人々が出てくるのだ。その彼らをどう救うかがヨウンたち、社会学を学ぶ人間の使命なのだ、そう思った。
れとりは話を続ける。
「犯罪者になって、魔法を習ったわ。それで最近魔法少女、っていうと恥ずかしいわね。魔法使いとして何か人に夢を与える仕事をしたいって思っていますの。」
その声は夢を語るに相応しい凛とした声だった。二人はまるで舞台で踊るプリマドンナのように、柔らかな街灯の光に照らされていた。
「なにをしたらいいのかわからないわ。だけれども魔法と、英語。何か使えないかしらね。」
れとりは少し微笑んだ。
雪が舞い始めた。
「家庭教師とか?それあまり魔法使えないか…。何がいいんだろうね。」
ヨウンも考えた。魔法と英語を使える仕事なんて世の中に何があるのか、本当にわからなかった。
その刹那、町の灯りがすべて飛んだ。
「えっ?停電?」
れとりは少し取り乱したようだった。
「携帯電話の灯りを使いましょ。」
ヨウンはあくまで冷静でいるようにしていた。
あわただしくれとりは鞄をまさぐり、携帯電話を探した。
「あった!あれ、電池さっきまで70%あったのになんでですの!?」
れとりは完全に取り乱したようだった。
「今手を握ったのはれとり?」
「そうよ。絶対に離さないで頂戴!」
れとりの手はとても強くようんの手を握っていた。
「こういう時は落ち着いて動かないのが一番よ。」
ヨウンはあくまで落ち着いた表情を取り繕った。
すると青白い光が町を照らした。まるで蛍光灯のようにまんべんなく、しかしまるで床が光って居るかのような光だった。
「英語も魔法も使えるお仕事、お探しなんですね」
どこかから女性の声がした。
とっさにヨウンはサッと、れとりの前に出ようとした。しかしその足は震えていた。それを見たれとりはヨウンを押し切った。
「そうよ。あなたは誰かしら!」
れとりはしっかりとした声で言った。
「わたしはアスカ。この世のシステムです。」
何か言わなくちゃ…何かしなくちゃ…。
ヨウンは足がすくんでしまっていた。何もできない無力さ、れとりとの戦闘の日々で学んだはずの勇気を忘れてしまっていることへの情けなさを感じていた。システムのはずがない、そんなシステムがこの世を覆っているわけない、覆っていいわけない…。そう思っているのに恐くて足が動かない。その気持ちにヨウンは硬直し始めていた。
「システムですって?システムは言葉の中にできるものですわ!それにあなたの目的は何?!」
れとりはきつく聞く。
「言葉や概念になる方法はいくらでもあるものです。わたしはあなたをシステムの巫女としてわたしの言葉を取り次いでいただこうかと考えています。」
鈴のように優しいアスカのその声は、まるで直接れとりとヨウンの頭に働きかけているようだった。
「わ、わたしが巫女…ですって…!冗談はよして頂戴!」
れとりは何か自分に変な使命が与えられたような、喜びと背徳感の混じった電撃を受けたような気分になった。自分が必要とされることがとても嬉しかった。
ヨウンは恐怖で怖気づいてしまった。正義は正義で尊重しなければならない。しかしその正義がまるで言いくるめられている…それも願いを使って…。そう思うと怒りも沸いてきた。
「あなたはシステムの巫女として、永遠の命を与えられます。そしてあなたの英語はそこで用いられるのです。あなたの魔法はそこで用いられるのです!」
アスカの言葉にれとりは今すぐに叶いそうな喜びを感じ始めていた。
「システムは…コミュニケーション…です。それにシステムの中にコミュニケーションがあると同時に、コミュニケーションの中にシステムがあります。あなたはシステムではないはずです、いいなれば妖怪でしょうか。」
ヨウンは自分でもよくここまで言えたと思うくらいに言った。
「何ですって?あなたはわたしの恒久平和を作るシステムに盾をつくのですね?」
アスカの声は優しくも緊張感を持ったものになった。
「…わたしは魔法少女だったという誇りを胸にあなたに申します。彼女を放してください。彼女をシステムの「奴隷」にするのなら、わたしはあなたを地獄の果てまでお連れします。」
そう言うとヨウンは星の絵を空に描く。するとその形に光が放たれ、その刹那、ヨウンを覆った。
6年ぶりの変身、うまくできる自信は正直、ない。それでもれとりを助けるためだ。何としても成功させなければ、そしてアスカと名乗る妖怪を倒さなければならない。
まずチョゴリに似た服の上部分が形成される。
桔梗色ともいうべき青い服だ。
次にチマに似たロングスカートが形成される。
そしてスカートの上にくるエプロン。
胸の部分のリボンのようなもの。
頭の黒いカチューシャ。
最後に狐に似た耳としっぽが9つでき、髪が金色に変わると光から解放される。
「れとりを、彼女を離しなさい!」
彼女は剣を呼び出し、手に持った。
「そうですか、そうですか。あなたが望むのならこちらにも手段があります。」
するとれとりは急に恍惚とした表情になった。その急変にヨウンは目を大きく見開いた。そして服がはだけ、新しい服があてがわれた。
両手両足はサソリのような外骨格になり、胸は赤茶色とビビットな黄色の輪で覆われていた。
そしてその胸から下腹部にかけてサソリを模した姿になっていた。さらに尾てい骨のあたりからサソリのしっぽが伸びている。普段れとりが変身した時の、あの黄色主体でまるで向日葵のような、素敵な衣装ではない。何とも形容しがたい姿だった。
「御覧なさい!この芸術を。」
アスカは誇らしげに言う。
しかしヨウンには悪趣味にしか見えない。ヨウンの恐怖がふつふつとした何かに変わったのに気が付いた。しかしヨウンはそれと同時に一つ嫌なことにも気づく。
システムは顕在していないため、見ることができないため倒せない。一方で危害を加えそうな存在がいるにはいる。しかし彼女を今倒せば恐らく彼女を殺してしまう。しかし彼女を倒さなければ自分が死んでしまうかもしれない。
「いい感じだわ。今あなたはジレンマに陥っている。あなた、友達を棄てていいのかしら?でも彼女を救ったらこんどはあなたが死んでしまうわ。」
アスカは意地が悪そうに聞いてくる。
「あなたが平和をかたるのはまだ早い気がするわね。」
「どんなシステムにも罰はあるものよ。」
そう言うとれとりだったサソリのような何かに言う。
「彼女への思いを表現しなさい」
するとサソリは頷き、ヨウンのいるところへとワープした。
そしてれとりの口はヨウンの口をふさいだ。
ヨウンはめまいがした。
「わたしの思い。あなたは今までで一番の友達で、一番大嫌いな人。」
彼女は非常に意地の悪い目をしていた。
「ヨウン、あなたが大好きだった。そして、あなたが憎かった。」
「れとり…れとり!」
それ以降の言葉が思い浮かばなかった。
ようんは自分が情けなく思えた。
「このゲームはわたしの勝ちみたいね。嬉しいわ。だからあなたに甘い毒二つを差し上げるわ。ゆっくり味わいなさい。」
そしてれとりはヨウンに口づけをした。
それとともに目の前が真っ暗になった。
目が覚めると目の前には昨日と変わらないれとりがいることに気づいた。
「ヨウン!心配しましたわ。」
れとりはヨウンを抱きしめようとした。
しかしヨウンはその手を突き離した。
「あっち行って!この怪物女!」
ー彼女に襲われるかもしれない…。
ヨウンがその感情が「毒」であることに気づくのに、時間はかからなかった。
れとりの顔が悲しげになり、そして正気が失われた。
そしてれとりは寂し気にその場を去っていった。
しかしヨウンにはなぜか謝罪するという気持ちになれなかった。
謝罪しようと考えると、身体が固まるのだ。それも毒であるのかと考えた。
その後、れとりとは連絡がつかなくなった。
魔法使いになったヨウンの話はまだ続きます。
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