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コヤンイオーバーヒート  作者: ぼんごれ
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1月28日 きかいのからだ

小説はまだ慣れないので難しいですね。第1話をお読みくださった皆さん、そしてご感想をくださった皆さん、ありがとうございます。成長していけるように頑張ります。

さて今回は魔法少女ものではちょっと珍しいお話かもしれません。話を作ることに尽力しましたので、ぜひお楽しみください。

 沓掛飛鳥博士、何を考えているかはよくわかっているつもりだ。世界を、そしてお前を壊すような真似だけはしないでほしい。

 頼む、お願いだ。


********************

 魔法がまだそこまで有名ではないが使われてはいるようなこの世界だがサイボーグやアンドロイドはそれなりに作られている。

前者は実験台に不治の病にかかった人を使った、いや、それは治療の一環だ…などと議論になることもしばしばある。また宗教的には「神に作られた存在を穢した存在」ともされ、一部の宗教では差別が起きている。さらに言えばそうでなくとも人間でない、として保守派の人から排除されることもある。


 後者はとある携帯電話会社が10年くらい前にロボットを発売して以来開発が続けられ、それなりに世の中のパートナーとして認知されつつある。問題であった不気味の谷現象もデザインに工夫があれば起こらないことがわかった。またいわゆる「ロボット三原則」に則った知能と知性を搭載していれば人間は安心でき、特段大きなトラブルにもならないことがわかった。

 

 チェシャ・ヘップバーンは19歳の女性である。ウェーブのかかった金髪に、優しい顔が似合う、すらりとした長身のイギリス人と日本人のハーフ、そんな少女だ。決して勉強がよくできたほうではないが、大学に通うことは彼女の知的好奇心を満たし、そして友達もできて楽しいと感じていた。しかし彼女は幼いころから不治の病を患っていた。しかも最近、全身に病巣が転移し、大学に通うこともできなくなった。まさに生きるためにはサイボーグ化するしかない状況になっていた。


 そんな娘の様態を父であるシルベスター・ヘップバーン博士は放っておく筈がなかった。また友人の沓掛飛鳥博士の研究室で不穏な実験が行われていることを知り、友人として、そして研究者としてこれらの行為を止める必要があると感じていた。


 そしてその準備、つまりシステムに干渉できる人間、干渉者を作る準備を始めていた。超小型魔力炉、人工知能、人工筋肉…。そして干渉者の要素を娘の回復の為にも使おうと考えていた。


 娘には申し訳ない。倫理的にも絶対に問題がある。しかし娘と世界を救うためにはどうしても必

要なことなのだ。そう思い、ひそかに準備をしていた。


 そして2025年の雪の降る正月、シルベスター博士はチェシャにサイボーグ手術の話を持ちかけた。


 病院からもう治らないからと自宅療法に切り替えられ、白い洋館の自宅で静かに静かに死を待っていたチェシャ。

 チェシャは恐らくこれが最後の正月特番だと思うと涙が出てきそうになっていた。

それでも泣いたらもう負けだ、希望が砕かれたとしても、きっと叩き壊せる何かがあるはずだ、誰かがわたしを待っている筈だ、そう思いチェシャは必死で弱く笑っていた。


 そこにシルベスター博士は彼女の為に彼女の好きな飛び切り甘いお汁粉を持ってきた。

「チェシャ、様子はどうだ。」

「…大丈夫。」

チェシャは彼女なりに精いっぱい笑う。

「そうか。」

「お父さん…わたし、お父さんと、お母さんの間に生まれてよかった…。」

「チェシャ、死ぬんじゃないぞ。」

「わたし…もう…死んじゃうんでしょ…」

チェシャのほおに涙が伝った。

シルベスター博士は改めて顔をチェシャに近づける。

「チェシャ、お前を治療してみようと思う。」

「…。」

「お前を…作り変えるんだ。」

「…作り…変える…。」

シルベスター博士は頷く。

「そうだ。お前に病気もなく、そしてさらに強い人間にしようと思う。」

「強い…人間…。」

「お前を生きることができる、そして何かしらの能力を使えるようにしようと思う。そうだ、お前は優しいから人の心を理解したり、変えたりする能力を与えようか。」

チェシャはじっとシルベスター博士の顔を見ている。

「ただお前はこれから傷つくことが増えるかもしれない。」

チェシャは薬であまりうまく回らなくなった頭を精いっぱい使い、考えているようだった。

「そして一つお前に仕事を与えようと思う。」

チェシャは目をしかめ、一生懸命考えているようだった。

「お前の仕事は簡単に言えば人のよこしまな気持ちを変えることだ。」

「お父…さん…。」

チェシャはか細い声で言う。

「何だ?」

シルベスターは優しく微笑みかける。

「わたしを待っている人は…いるのかな…。」

チェシャは少し泣きそうな表情をしていた。

「ああ、いるとも。お前のことを待っている人は生きていればたくさんいる。そしてお前は今、必要とされているんだ。」

チェシャは少し笑い、そして頷いた。


 1月24日。この日の横浜は記録的な大雪で、交通網が寸断されるほどだった。

その日、チェシャはパジャマから手術着に着替え、ストレッチャーの上にいた。

シルベスター博士は手術着に着替え、助手4人とともに手術台の前に立った。

そしてチェシャは手術台の上に乗せられ、麻酔をされた。


「チェシャ・ヘップバーンの手術を開始する。」


チェシャの身体にメスが入れられた。そして心臓が人工心臓に、肺が3Dプリンタで作られた有機人工肺に、そして特に症状の重い右肺を取り外す代わりに彼女の為に開発した小型魔力炉を搭載した。

魔力炉を搭載したサイボーグは恐らく初めてだろうとシルベスター博士自身も考えているほどの、自慢の逸品だ。


 そして全身の筋肉をまたシルベスター博士が開発した人工筋肉を搭載した。

強くしようとすればいくらでも強くできるが、肉体的強さよりも、彼女の精神的な強さでもって戦ってほしい、そう考えて成人男性の1.5倍に抑えている。もちろんこれでもオーバースペックではあるが、これは何か力のいる作業を行いやすくするためだ。むしろ肉体の回復を促進するシステムを作ることに注力した。


 また目を人工眼に、耳を人工内耳に取り換え、そして最後に脳を操作することになった。

彼女の強化された身体を制御するため、そして人の感情やこの世を覆うコミュニケーションシステムにダイブするための人工知能を搭載するためだ。


最後に彼女を覆う。これもまたシルベスター博士が心を込めて開発した人工皮膚をまとわせ、そして彼女の為に飛び切りかわいく作ったとシルベスター博士が思っている衣装を着せた。


白いカチューシャを彼女自慢のウェーブのかかった髪にのせ、首には首を絞められても窒息しないようにリングをつけた。そして胸を隠す部分を作った。その下からロイヤルブルーというらしい、上品な青いスカートを着せた。

少し露出が高いことをデザインをしているとき、シルベスター博士は思ったが、彼女は強い存在だと思い、そして彼女の戦闘着はおしゃれであるべきだという考えの下、被服会社にオーダーメードしたものだ。しかしチェシャは気に入ってくれるだろうか、少々心配でもあった。また多くの魔法などを使う人は魔法を発散させるために動物の耳としっぽを持つことがある。

しかしチェシャはどうなるのかが全く見えない存在だ。どんな姿になるかが楽しみであり不安でもあった。


そして手術終了から4日後の夜9時。

柱時計の音がなったその時、チェシャは目を覚ました。


「チェシャ、おはよう。」

「あなたは…わたしのお父さん…。」


まだ人工知能がうまく脳とリンクしていないようだった。

チェシャはすぐにまた目を閉じ、人工知能と脳を連結させていた。

「構成が終了しました。」

チェシャの手術はあと少しで成功か失敗かがわかる。

チェシャの元気な姿、強い姿を見るためにできることはすべてやってきたはずだ。

そう、シルベスター博士は思った。


「お父さん…お父さん!」

「チェシャ!目を覚ましたか?!」

チェシャの戦闘着はばっちり似合っているように思えた。そしてチェシャはその名を持つ不思議の国のアリスのキャラクターがいるように、まるで猫のようにとがった耳と、丸いしっぽを持っていた。

このことは魔力炉が正常に動いている証拠であった。


「この服、どうしたの?そしてこのしっぽはなに?」

チェシャは驚きつつ、喜んでいるようだった。


「気に入ったかい?」

チェシャは満面の笑みでうなづいた。


「じゃあチェシャ、少し聞いてほしい。」

チェシャにシルベスター博士は落ち着いた声で諭すように言った。


「私が正月に言ったことは覚えているか?」


「ん?」

チェシャはきょとんとした表情だった。やはりと思いつつ少しがっくりきたというのがシルベスター博士の思いだった。


「お前の力と使命、そして代償だ」


「わたしの使命と代償?」


チェシャはなんだっけ、といった様子で首をかしげた。


「チェシャ、お前は人の心に潜って、人の心を読んだり、あるいは干渉することができる。」


チェシャはきょとんとしていた。


「まぁすぐわかるさ。ただその力はとても強い。お前の気持ち一つで人をあやめることすらできてしまう。」

「人を殺すなんて、わたしは馬鹿じゃないよ?」

「もちろんわかっている。人の心を思いやれるから改造して、心に干渉できる能力、サイコメトリーの能力を与えた。だがお前はそのせいで嫌われるかもしれない。」

「人に嫌われるの…それは嫌だな…。」

「それでもお前を世界は待っている。だからつらいかもしれないが頑張ってほしい。お前の使命は『世界に悪意を及ぼそうとする科学者の撒いた悪の種を拾うこと』なのだから」

チェシャは一生懸命その言葉をかみしめているようだった。


「…わかった。わたしを待っていてくれる人の為に頑張る。」

チェシャは少し考え、笑って見せた。

それを見てシルベスター博士は安心したような表情をした。


「チェシャ、早速だが動作確認も込めて潜って戦ってほしいものがある。」

シルベスター博士は資料を見せた。

「『アスカシステム』というものだ。なんでも人と魔法使いを構成するシステムを書き換えてしまうものだ。」

「システム?書き換える??」

チェシャは目を点にしていた。

「簡単に言えば人の心を書き換えてしまう。」

「えっ??」

チェシャは驚いた表情に変わった。

「そうだ。人の気持ちを書き換えれば世の中すら変わってしまう。どうやらそれが目的らしい。」

「あまりよくわからないけど、人の気持ちを急に変えるのは嫌だな。」

「そうだ。だから戦ってほしい。」

シルベスター博士は真剣なまなざしで言った。

「戦い方はお前の身体が覚えている。だから安心しなさい。」

シルベスター博士はチェシャを安心させるように言った。


「わかった」

チェシャはそう言って目を閉じた。

そしてその刹那、床には黄緑の魔法陣がまぶしく展開された。

チェシャは魔法陣が床一面に広まったあと、消えた。


「せ、成功だ!」

シルベスター博士は目を見広げ、そしてこぶしを前でグッと握った。


一方チェシャは初めて見る光景に驚いていた。

水色のグラデーションの背景にパステルカラーのドットと赤と青の線のダンスが目の前で繰り広げられていたからだ。

チェシャにはとても楽しく、特に静かに大きく成ったり小さくなったり、そして時には色を変えるドットには感動を覚えた。そしてその情景に合わせて心臓の鼓動にも似た音が静かに響くのだった。


そしてチェシャはシルベスター博士に伝えられた任務を思い出す。

チェシャは永遠と続く線とドットの世界を進んでいく。どうやら線に触れてはいけないのか、身体は線を避けてその先へと進んでいく。まるでジェットコースターのような、ものすごいスピードだった。


すると目の前を自分よりも速いスピードで通り過ぎるものを見つけた。

「えっ?」

チェシャが気持ちを決めて念じるとさらに高いスピードで線をよけつつ進んでいった。

すると目の前を走っていたものは急に白いドットの前でその動きを止めた。そして魔法陣を展開し、何かを書きこんでいたようだった。


「何やっているんですか?」

チェシャは思い切って話しかける。


「私のほかにもシステムに潜りこめるものがいるとはね。まあいい、いま、この世界を思いやりあるものにするために心を書き換えていたのだよ」

そう言う存在は、間違いなくアスカシステムだろうと考えた。


「自己紹介をしなければだね。わたしはアスカだ。この世界から争いも差別もなくすための使徒、アスカだ。」

赤いマフラーを巻いた白い兎のようなそれは、落ち着いた声でそう言った。


「差別も争いもなくすんですか?」


チェシャはあくまで本気で聞いた。

するとアスカは笑いながらこういった。


「人は種を残すために闘争をする。そしてそのために今まで多くの人が、さらには動物が、植物が消えていった。確かに戦争は一部の文化を除いて起きていない。でもどうだ。君を悪く言うものはこの世の中にいっぱいいる」


アスカは映像を見せた。それはチェシャのいないところで親友だと思っていた人同士がチェシャを批判している姿であった。


「そんな…」

チェシャはショックを隠せず、思わず口を手で覆った。


「だがこれが現実だ。逃げることはできない。しかし防ぐことはできる。それが私の使命だ。私が平和の使徒になるのだ」


チェシャは世界が自分を裏切ったような感じがした。


「そういえば君の名前を私は知っている。シルベスター博士のところのチェシャちゃんだね。ここで会うとは思わなかったよ。ここではこういうべきかな。初めまして。」


チェシャは何がしたいのかという、ふつふつと沸いてくる何かを感じた。


「チェシャちゃんは八つ当たりをしたいんだよ。自分を嫌う人がいる世界を、なぜ救わなくちゃいけないのか、と。」


チェシャは血の気が引いたような気がした。


「私はシステムだ。なんでも知っているんだよ。」

アスカはけらけらと笑った。


「チェシャちゃん、でも君は私の目指す平和な世界、恒久平和には足手まといなんだよ。だから消えてもらう」


そう言うとアスカは剣を作り出した。そして…

アスカは宙を舞う。

音もなく、

しかし

小さな体には

想像もつかないような

大きな剣を

振るう。


そしてチェシャめがけてその剣を振りかぶる。


チェシャは避ける。

身体を左にかわす。

そして足が地から離れた瞬間…。


地に剣が刺さる。

その音は耳を低く唸り、

地を割っていく。


「嫌いって感情を消したいんだ。それが自然だとしてもだ。」

チェシャはその言葉を聞き、呼吸が止まりそうになった。

嫌い、という感情をもってはならないのは確かだ。難しいことはわからないが、ピーマンが嫌い、あの人が嫌い、という気持ちを持つことも自然なことであるはずだ。

しかしそれをいざ持ってはならない、といわれたとき、とても心がざらつくような、カーペットを逆なでしたときのような、そんな気持ちがしたのだ。そしてどうしたらいいのかとも思ってしまった。


チェシャはどうしたらいいのか。

しかしそう思う前に両手にはレーザーガンを魔法で出していた。


そして2丁のレーザーガンの照準をアスカに合わせる。

そしてアスカめがけてトリガーを引く。

レーザーはアスカめがけて飛んでいく。

レーザーは空を切る。

そしてアスカの身体に命中する。


やったか…チェシャはそう思った。

しかしどこかからパチ、パチと拍手する音が聴こえた。


「おめでとう。わたしを倒したね。でもわたしは偏在する。倒せなどしないのだ。今から君をもとの世界に戻してあげよう。今回は恩赦だ。」


すると世界は強い光を放ち、チェシャは思わず目をふさいだ。


魔法陣がふたたび展開し、チェシャは戻ってきた。


「チェシャ、大丈夫だったか?どうだった?」

シルベスター博士は心配そうにチェシャに聞いた。


「姿とかはつかめたし、倒したはずなのに…なぜか倒せなかった…。」

チェシャは少し落ち込んで言った。


「そうか…」

シルベスター博士は神妙な顔をした。

そしてシルベスター博士は念のため、ということで用意したサイボーグ用の流動食を準備する。肉体の回復が早く進むように作ったため4日もしたら十分傷は癒えている。しかし念のためシルベスター博士は流動食を準備した。


「こういった手術のあとは目が覚めてもしばらくは食事制限だ。これから食べられるものも少し制限される。まぁチェシャなら大丈夫だろう。」


「お父さん。」

チェシャは食事の準備をするシルベスター博士の姿を見て、そう言った。


「何だ、チェシャ。」

娘の問いかけに答えるかのように、父は答えた。


「わたしのことが嫌いな世界であっても、頑張るよ。」

チェシャはそう言って笑って見せた。

如何だったでしょうか。ご感想などお待ちしています。

Twitterやっています→@bgr_oruka

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