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コヤンイオーバーヒート  作者: ぼんごれ
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1月14日 たびだちのひに

普段は動画を作っているぼんごれです。動画にしたいのですがどうしても動画にできないような話になってしまったので小説というとまだ不十分かもしれませんがこちらに掲載してみようかなと思い立ちました。


イラストもわたしが書いていますが、原案は一部知り合いのイラストレーターさんにデザインをいただきました(みてみんの方に記しています)。感謝いたします。なおパース・パーツがくるっているなどはぼんごれのトレースなどがうまくないためです。申し訳ありません。


繰り返しにはなりますがもともとは動画にしようとして一年くらい考えていたのですが結局こちらにアップロードすることになりました。小説は正直言って初めてですが、よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)


 私達はこのまま生きていく必要はあるのだろうか。尤言おう、わたしたちはシステムにとって必要だろうか。失われた10年で失われた日本人の心は3.11を経験し、そして淋しい心を穢れた言葉と、自国礼賛の下、あるいは無理な経済発展で癒した為に、傲慢で貧相な思想で覆われてしまった。その違和感を訴えるも、違和感を訴える言葉は掻き消され、人は心で、あるいはメディアで自らを辱めている。若しシステムにとって必要だというのならばせめて私は凛々しく生きたい、厭、私だけでなく私たちを律しなければならない。ヒロイックな感情であろうと誰かが、もう行動に出なければならないのだ。しかし誰も根本的な解決を行おうとしない。この思想荒廃にはペンの力など無為かつ無益だ。世界を浄化するのだ。そして恒久平和を作り出すのだ。


 *******

 この世界には意外と魔法がありふれているが、気づかれないものだ。

心が貧しいとかではなく、体質的なものだろう。そしてそれに気づいた人を魔法使いやら超能力者やらといい、意外と身近にいたりする。そしてその魔法に魅せられて研究を重ねる人もそれなりにいるものだ。平和を願うのも、幸福を願うのも皆一緒だ。


 この日の横浜は雪だった。日吉駅のすぐ近くの大学の研究室。一番奥の研究棟の地下のスペースには計測機器などの機械がたくさん並んでいた。その機械類が発する熱が冬の寒さをまるで夏のような暑さに変えていた。そして真っ暗な研究室の奥、ぼんやりとした灯りの下で一人、白衣を着て手紙を認めていた。彼は手紙を封印し、宛先を書き、机の一番目立つ場所に置いた。

 そして彼は深呼吸をし、しばし思いにふけた。


 彼の名前は沓掛飛鳥といった。人間の子として、また3代目の江戸っ子として東京で生まれ、すぐに石川県金沢市に移り住んだ。そしてそこで10年間過ごした。雪と、そして伝統を重んじる社会だからだろうか、空と空気の重い環境だった。東京もの、東京の水は不味いなどといわれ、屈辱を味わってきた。小学校3年生の時、飛鳥は愛知県名古屋市に移り住んだ。中学受験の失敗や教師からのいじめなどつらいこともそれなりにあったが、ここで大きな出会いを果たす。魔法使いの少女と仲良くなったのだ。はじめこそ初めての異質であり、覚えたての口にするのも憚られる言葉で彼女を罵ったりした。

 しかしあるとき彼女に自分の種族を蔑まないでと言われたことで考えは変わった。そして今も飛鳥の中で彼女の言葉は生き続けている。そして魔法使いの世界を、そして魔法使いを理解するために魔術学を学ぶ決意をした。そして魔術書などを読み漁り、中学、高校とすごし、大学生になる。大学の頃に出会った友人の影響も大きかった。彼らから世の中は如何に苦しいか、狂っているかを学んだ。


 飛鳥はそんなことを思いつつ目を開ける。そして鞄を持ち、教壇に立つ準備をする。そして研究室内でもとりわけ巨大な機械、反応炉を見る。結果は上々だった。


 チャイムが鳴る。この日本に魔法少女・魔法少年といわれる人間や超能力者がいくら多いとて、やはりマイノリティであり、さらにスポットで呼ばれる派遣社員のように事件が解決すれば魔法なんて忘れて一般の高校生なり大学生として生きるか、魔法を使う人間であれば異世界へと旅立ってしまうものだ。だから飛鳥の持つ授業は大学の中で最も小さい教室が与えられていた。だがそれでも大きいくらいだった。なぜならばこの授業をとっている学生はたった一人だからだった。


「明けましておめでとうございます、授業を始めます。」

 そして出席簿を開く。


「ユク・ヨウンさん」


 飛鳥にとって彼女はおとなしいがディスカッションには参加してくるいい大学1年生だった。しかしなぜこのような何にも役に立たないような、学校の好意で何とか残っているようなニッチな授業を受けているのかと飛鳥が聞くと、かつて魔法少女として活躍していた時期もあったためだという。どうやら伝説の魔法少女ともいわれていたらしい。

 もっとも彼女曰くもう過去の栄光、そして思い出したくな話らしいが。

 今日はヨウンは冬の寒さに備えてか長袖の白い服を着て、下は茶色のデニムを着ていた。そして眼鏡をかけている、特段魔法少女だと思えるようなものはつけていたりしていない。


「冬休みどうでした?」

「帰国しまして、ソウルの本家で一族で食事したりしました。」

「よかったですね」

 そしてヨウンはすこしはにかみ、小さくお辞儀をした。だいたいこんなやり取りから始まる。ほとんどいつも通りの授業を予感させる様子だった。

 しかし今日は飛鳥にとって特別な日であることを飛鳥は意識していた。


「システムと倫理、そして魔法については以前話した通りです。この世界の誰もシステムを強引に変えることはできません。システムはアメーバのように変わっていくのみです。仮に任意のシステムをとくにラディカルに、例えば人間の基本の思考パターンを5秒で変えた場合、人間は理性を保てず、気をおかしくしたりしてしまう可能性があります。世界を変えることを願う場合、ラディカルではなく合意形成と、そして人間のニーズによって慎重に魔法を使う必要があります…」

 ヨウンは頷きながらノートを取っていた。


 そして飛鳥はヨウンにリアクションペーパーを書かせ、テストを来週行う旨を伝えたのちに研究室へと戻ろうとした。

 するとその行く先をシルベスター・ヘップバーン博士が立っていた。


「沓掛博士。最近研究室によく籠るようになったな」

「そうですかね。ヘップバーン博士こそ何をなさっていらっしゃるのですか?最近娘さんを見ませんが。」

「娘は今も元気にしている。それにそれはこちらのセリフだ。君がよからぬことを企んでいるのなら、対抗する手段がある。」

「良からぬことなんて企んでいませんよ」

 飛鳥はそう言って立ち去ろうとした。

「沓掛博士の友達として忠告しておく。君の実行しようとしていることは世界だけでなく自分をも破壊するかもしれないことだ。そしてそれをするのなら、君と新型魔力炉を開発したものとして、友人として君を止める。わかったな」

 シルベスター博士の真面目な表情を見て苦笑いをし、そして立ち去った。


 授業を行っていた間の90分間に雪が降り始めたようだった。

 飛鳥は万が一のことを考え、雪の降る日は避けたかった。しかし静かで冷えた環境であれば機械の暴走のリスクは夏よりも抑えられるかもしれない、そうも思った。

 飛鳥は研究室のドアを開ける。もうこの扉を開けることは二度とないのかもしれない。そう思うとノブを回すことすら少し愛おしくなった。

 そして白衣を脱ぎ、服をおろし立ての真っ白のズボンとシャツに着替えた。これから男女も優劣も、二項対立などしないものになるのだ。真っ白のズボンとシャツはそれを決意させるのに十分なものであった。

「システムが自己変革を行うのを待っている間に社会は壊れてしまうんだよ!」

 そう言って今まで着ていた汚らわしいこの世の服を投げ捨てた。それはくたびれていて、そして汚わいのように黒ずんでいた。

 そして研究室で一番大きな機械の前に立つ。

 すると今までの人生の中で一番の喜びを感じた。


 シルベスター博士は飛鳥を止めた。しかしだからなんだって言うんだ。

 シルベスター博士は対抗する手段があるという。しかしだからなんだって言うんだ。

 私には大いなる夢と希望があり、そしてその実現は目の前に迫っている。

 この喜びをどうしたらいいのかわからないのに。

 この誇りをどうしたらいいのかわからないのに。


 飛鳥は万歳を唱え、その機械、超高出力魔力炉の蓋を開ける。

 魔力炉は世の中にわずかに偏在する魔力を濃縮するものだ。2年前までおおむね電球をつけることが何とかできる程度の魔力を作るのが精いっぱいだった魔力炉の出力をほぼ無限にする技術をシルベスター博士と開発したのだった。もっともそのあとシルベスター博士とは思想の違いで少々関係がギクシャクしているのだが。

今回、飛鳥は取り扱いを間違えれば横浜の町を丸ごと吹き飛ばす程度の魔力を生成することに挑戦していた。

この魔力があればシステムになる際に邪魔になる身体から魂や記憶、思想のみを持ちだせ、さらにそれをコンパクトに一つのカプセルのようなものにまとめることができるようになるというのが飛鳥の考えであった。

そして飛鳥は魔力で満たされた魔力炉へと飛び込んだ。


 黄色い魔力が濃縮に濃縮を重ね、液体のようになっている。その中に飛び込む。


 落ちていく・・・


 落ちていく・・・


 そして身体が魔力の液体へと完全に沈む。

 すると白く光が放たれる。

 その光は研究室を優しく、しかし完全に覆う。

 そして白く光る何かが浮かび上がってくる。

 それは飛鳥の身体のようにも見えた。

 その飛鳥のような何かは拡散し、研究室を飛びだした。


 光は日吉の大学を超え、港北区を超え、そして横浜市を超えた。

そしてすべての魔法使いも、人間も何かを心に受け取ったような、温かくも針のようにとがった何かを感じた。

しかしそれは種であるということも同時に感じていた。何かが起こりそうな、そんな漠然とした感情であった。


 飛鳥は身体という重たいものを脱ぎ捨て、身軽になった、そして無限に広がる自身というものの拡張性にすぐ慣れ、次々と人の心に感情の種を蒔いていく。


 飛鳥はアスカへと、実態はシステムへと変わった。

 そして飛鳥は環境へと旅立ったのだった。

如何でしたでしょうか。感想などをいただけると幸いです。

またtwitterもしていますし、動画も作っています。こちらもよろしくお願いします。

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