番犬と赤
女の子がいました。6歳くらいの女の子です。
女の子は赤い家の前に止まって、ごろんと寝転がっている犬に声をかけます。
「お犬さん、どうしてこの家は赤いんだい。」
犬はどうせわからないだろうって考えて、本当のことをついうっかり話しました。
「家族がたくさん住んでたからさ。どうにもたくさん住んでいたからさ。」
少女はそれを聞いて首を傾げて言います。
不思議なこと、心がきれいな子供ってのは、動物とだってお話できるんです。
「どうして家族が多いと家が赤いんだい。」
犬は驚いて、しまったと思います。
「だめだね、お嬢さん。ごめんよ、お嬢さん。君がぼくと話せるなんて、まったく想像もつかなかったんだ。」
どうして教えてくれないの。と少女が言います。犬はまだまだ言い渋っている様子です。
なんどもなんども教えてくれと言ううちに、犬もとうとう諦めて、誰にも言うんじゃないぞって。
女の子が犬に耳を寄せると、ひそひそ声で言いました。
「ぼくが役目を果たせなかったからなんだ。ぼくがだめだめだったから。」
へえ、と女の子は言います。難しいことはわからなかったので、それだけ言いました。
犬はその後は何も言いません。ばうばうと吠えるだけです。
「どうして黙ってしまうの?」と少女が問いかけたって、それでもばうばう吠えています。
犬は思います。君はほんとうのことがわかってしまったんだ。だからぼくとはもう話せない。
女の子だってわかっていました。どうして犬が、うんともすんとも言わなくなったのか。どうして家が赤くなったのか。わかったからこそ涙がほろりと。
ついに女の子は泣いてしまいます。わんわん泣いてへたりと座り込んでしまいます。
それを聞いた女の子のお母さんがやってきて、どうしたのと慰めます。
「犬が黙ってしまったの。それにこのお家、ほんとは赤くなんてないの。」と女の子。
犬はお母さんをみて、さっきよりももっとばうばう吠えます。
「黙ってなんかないじゃない。それにお家は急に赤くはならないのよ、ほら泣き止んで。」
お母さんには伝わりません。なんにも伝わりません。
女の子はもっと泣いて、がんばって言います。
「このお家には家族がいるの、でも犬はだめだめだったの。だから赤いの。」
犬はやっぱりばうばう吠えます。それが反って逆効果。
「もうなによこの犬は、うるさいね。変なこと言わないで帰りますよ。今日のごはんはなんにしましょう。」
お母さんは女の子の手を引いて、くるりと後ろを向いてしまいます。
女の子は最後に振り向いて犬に向かって手を振って、「つぎは気づいてもらえたらいいね。」
犬は小さく頷いて、またごろんと寝転がってしまいました。