表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

番犬と赤

作者: D

女の子がいました。6歳くらいの女の子です。

女の子は赤い家の前に止まって、ごろんと寝転がっている犬に声をかけます。

「お犬さん、どうしてこの家は赤いんだい。」

犬はどうせわからないだろうって考えて、本当のことをついうっかり話しました。

「家族がたくさん住んでたからさ。どうにもたくさん住んでいたからさ。」

少女はそれを聞いて首を傾げて言います。

不思議なこと、心がきれいな子供ってのは、動物とだってお話できるんです。

「どうして家族が多いと家が赤いんだい。」

犬は驚いて、しまったと思います。

「だめだね、お嬢さん。ごめんよ、お嬢さん。君がぼくと話せるなんて、まったく想像もつかなかったんだ。」

どうして教えてくれないの。と少女が言います。犬はまだまだ言い渋っている様子です。

なんどもなんども教えてくれと言ううちに、犬もとうとう諦めて、誰にも言うんじゃないぞって。

女の子が犬に耳を寄せると、ひそひそ声で言いました。

「ぼくが役目を果たせなかったからなんだ。ぼくがだめだめだったから。」

へえ、と女の子は言います。難しいことはわからなかったので、それだけ言いました。

犬はその後は何も言いません。ばうばうと吠えるだけです。

「どうして黙ってしまうの?」と少女が問いかけたって、それでもばうばう吠えています。

犬は思います。君はほんとうのことがわかってしまったんだ。だからぼくとはもう話せない。

女の子だってわかっていました。どうして犬が、うんともすんとも言わなくなったのか。どうして家が赤くなったのか。わかったからこそ涙がほろりと。

ついに女の子は泣いてしまいます。わんわん泣いてへたりと座り込んでしまいます。

それを聞いた女の子のお母さんがやってきて、どうしたのと慰めます。

「犬が黙ってしまったの。それにこのお家、ほんとは赤くなんてないの。」と女の子。

犬はお母さんをみて、さっきよりももっとばうばう吠えます。

「黙ってなんかないじゃない。それにお家は急に赤くはならないのよ、ほら泣き止んで。」

お母さんには伝わりません。なんにも伝わりません。

女の子はもっと泣いて、がんばって言います。

「このお家には家族がいるの、でも犬はだめだめだったの。だから赤いの。」

犬はやっぱりばうばう吠えます。それが反って逆効果。

「もうなによこの犬は、うるさいね。変なこと言わないで帰りますよ。今日のごはんはなんにしましょう。」

お母さんは女の子の手を引いて、くるりと後ろを向いてしまいます。

女の子は最後に振り向いて犬に向かって手を振って、「つぎは気づいてもらえたらいいね。」

犬は小さく頷いて、またごろんと寝転がってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ