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げっしょくめがね

作者: sim(原案:sunset77kotoさん、urabettiさん)

――めがねが、きみのぜつぼうなのかい?

 月食の夜に出会った二人の少年の、絶望と、希望と、めがねの物語 (どんなだ)。

 ゆうまはぜつぼうしていた。


 げっしょくのよるだった。

 『げっしょく』というのは、つきをたべるとかいて『げっしょく』とよむ、そのげっしょくである。

 かあさんに、きょうはつきがたべられちゃうひだから、いっしょにみにいこう、と、さそわれて、よるおそくふたりで、かわのそばのはしにむかった。

 つきがあかくかがやいている。

 つきがちきゅうにたべられて、みえなくなってしまうのだそうだ。

 たべられてみえなくなったつきを、どうやってみるんだろうと、ゆうまはおもった。

 おもったけどなにもいわなかった。

 むじゃきにわらっているふりをした。

 おとなは、こどもがなにもしらないふりをして、わらってるとよろこぶ。

 だからわらってるふりをした。

 でも、ゆうまはぜつぼうしていた。

 ぜつぼうというのは、のぞみがないということだ。

 こうなってほしいと、おもうのに、けっしてそうなることはない。

 それがぜつぼうだ。

 はしのところに、ひとかげがみえた。


――あらあんなところにひとが。


 かあさんはいった。


――ふうん。


 ゆうまはつまらなさそうにこたえる。


――どうもこんばんわです。


 かあさんがこえをかけると、むこうのひともこんばんわとこたえた。

 むらさきのふくに、くろいすかーとで、ながいかみのおんなのひとだった。

 かあさんは、くろいずぼんをはいているし、かみのけもみじかい。


――きみのなまえは?


 たかいこえがして、みると、ながいかみのおんなのひとのそばに、おとこのこがたっていた。

 さんかくけいの、ほそいかおをした、やせたこどもだった。

 あごがとがってて、さかさまのさんかくのかたちのかおだ。

 としは、ゆうまとおなじくらいだろうか。


――そちらはなんさいですか?


 かあさんが、いつものあいさつをはじめる。


――五さいです。そちらは?

――こちらも五さいです。おなじですか。おうちはちかいんですか?

――ええまあ。こんなちかくにおないどしのこがいるなんてきづきませんでした。


 ゆうまがおとなたちのやりとりをながめていると、


――かあさん、そのこといっしょに、かわをみにいっていい?


 と、めのまえのこがこえをかけてきた。

 つきのなか、きらきらひかるめで、こちらをきょうみぶかそうに、じっとみている。

 ゆうまも、なんとなくうなずくと、いいけどあしもとにきをつけなさいよといわれつつ、ふたりで、どてのしたにおりた。


――ぼくのなまえはまこと。きみのなまえは?


 ぎゃくさんかくあたまのこは、まことというのか。

 そういえば、まだじぶんのなまえをこたえてなかったことをおもいだして、ゆうまは、ぼくのなまえはゆうま、とこたえた。

 それから、とくになにをしたいわけでもなかったので、きしべにしゃがんで、てでみずを、ぱしゃぱしゃやった。

 つめたかった。


――きみは、ぜつぼうしてるんだね。


 うしろから、さんかくあたまの、まことくんのこえがして、ゆうまは、はっとあたまをあげた。

 どうして、ぼくがぜつぼうしてることがわかったのだろうと、ゆうまはかんがえた。

 よるで、くらいから、きづかれないとおもって、にこにこわらうのをやめてたことに、きづかれたのだろうか。


――どうしてわかったの?


 ゆうまが、はしのうえの、かあさんたちにきかれないよう、こごえでこたえると、まことくんは、さんかくあたまのとがったはなをふんとならして、ぼくもぜつぼうしてるからね、とこたえた。

 そう、とつぶやいて、ゆうまは、だまった。

 まことくんは、うん、とうなずいて、あかくなったつきをみあげる。


――きょうのつきは、きれいだね。ちょっときもちわるいけど。


 ゆうまがそういうと、まことくんは、あははと、わらった。


――おとうとがびょうきでかえってこないんだ。いつかえってくるかわからない。かえってこないかもしれない。


 まことくんは、つきをみあげたまま、ほそいこえでいう。


――そうなんだ。

――おとうとは、うまれたときからびょうきでめがねをしてるんだけど。


 まことくんは、とつとつと、つぶやく。

 ゆうまは、がん、と、あたまをたたかれたようなかんじがした。

 おもわずまゆをよせて、


――めがね?


 と、かすれたこえでいった。

 まことくんがふりかえった。


――めがねが、きみのぜつぼうなのかい?


 とがったあごに、てをやりながら、まことくんは、きらきらひかる、くろいめでゆうまをみつめてくる。

 うん、と、ゆうまはうなずいた。


 ゆうまは、めがねがきらいだった。

 ゆうまは、ほんがすきだった。

 かあさんがよんでくれたほんや、ようちえんでもらったほんを、すみからすみまでじっくりよむのがだいすきだ。

 そのかわりに、ともだちとそとにあそびにいったりするのはにがてだ。

 かあさんが、そんなにほんばっかりよんでると、そのうちめがねになっちゃうよ、といったことがある。


 ゆうまは、めがねがきらいだった。

 てれびで、まるいかおのおとこのこが、まるいめがねをかけているのをみたことがある。

 みらいから、ろぼっとがやってきて、たすけてくれるはなしだ。

 めがねをしているおとこのこは、ちいさくて、よわくて、わがままで、ごりらみたいなおおきいおとこのこに、いつもいじめられている。

 それに、まるいかおにまるいめがねって、だんごみたいで、ぜんぜん、いまいちだった。

 あんなふうにはなりたくないと、ゆうまはおもった。

 ゆうまは、からだがふとくて、かおがまるい。まるいかおに、めがねはにあわない。


 べつの、めがねのはなしのえほんでは、じょん・れのんというひとが、まるいめがねをして、すごく、かっこよくみえた。

 でも、じょん・れのんは、じぶんにあうめがねをさがして、かっこよくなったわけではない。

 いぎりすでくばられた、ただのめがねをしたら、たまたま、あっただけである。

 ゆうまは、じょん・れのんには、なれない。

 あんなふうに、めがねのにあう、とがったかおになれたらよかったのに。

 めがねは、ゆうまには、にあわない。

 でも、だいすきなほんをよみつづけてると、いつかめがねになってしまう。


 のがれえぬ、ひごうのうんめい。


 だから、ゆうまはぜつぼうしていた。

 ゆうまは、はじめてあったのに、まことくんにそんなはなしをした。

 『げっしょく』のよるだったからかもしれない。


――ふうん。


 ゆうまのはなしを、じっときいていたまことくんは、さいごにそれだけいった。

 おもったほどのはんのうがなくて、ゆうまはがっかりした。

 さいごまできいてくれたのはうれしかったけど。

 ゆうまは、そのばでさけびごえをあげたくなった。

 うわああああと、いいたいきぶんになった。


――そろそろかえりますよ。


 うえから、かあさんのこえがして、ゆうまは、われにかえった。

 みあげて、うん、わかった、とこたえる。

 ゆうまは、さけぶのをやめた。

 どてをのぼる。

 まことくんも、うしろからついてくる。


――ゆうまくん。


 うしろから、たかいこえがして、ゆうまはふりかえった。

 まことくんが、たちどまってゆうまをじっとみつめている。


――しかくいめがねなら、にあうかもしれないよ。


 そういわれて、ゆうまは、いままでずっと、めがねといえば、まるいものしかないと、おもってたことに、きがついた。


――じょん・れのんは、とがったかおに、まるいめがねだから、にあったんだ。

 おとうとは、まるくて、さるみたいなかおだったけど、しかくいめがねをしたら、かわいかった。

 きっときみも、しかくいめがねをしたらかわいいとおもうよ。


 ゆうまは、おんなのこでもないのに、かわいいよ、といわれてどきどきした。


 *  *  *


 かあさんと、てをつないでいえにかえる。

 まことくんもいっしょに、ながいかみのおんなのひとと、いえにかえる。

 とちゅうまでいっしょで、わかれみちで、たちどまった。


――また、あしたおあいしましょう、かわらのところの、こうえんにいらっしゃいます? ええ、ぴくにっくでもしましょう。


 かあさんたちがはなしをしている。

 まことくんが、ゆうまにかけよってきて、そっとささやいた。


――きみがもし、めがわるくなって、めがねになることになったら、いっしょに、めがねをさがそうよ。


 まことくんはそういって、にっこりとわらった。

 ゆうまは、いつかめがねになるのが、ちょっとたのしみになった。

 ……それからふと、おもいたって、


――こんど、おみまいにいこうよ!


 ってこえをかけててをふった。

 まことくんと、かみのながいおんなのひとはかおをみあわせて、それからにっこりわらって、


――またこんどね! ありがとうね、ばいばい!


 っていって、てをふりかえしてきた。

(◎x◎)

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