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フォフォのちいさな冒険  作者: 南瓜川くろ
1/1

1.――ヒトとめんどくさがり屋の神様

この度はこれでも読んで頂きまして、感謝の常でございます。

申し遅れました、拙作「フォフォのちいさな冒険」作者、南瓜川くろと申すものです。

気のゆるいものを目指して書きましたがそうなったかどうか。ともあれ、わずかの暇つぶしにでも読んで頂けるとうれしい限りでございます。


それでは、どうかお楽しみください。


※この小説には限りませんが、読む際は休憩を挟みながらお読みください。

※この小説を読んでいて気分が悪くなった時は、すぐに読むのを中止し、程度に合わせてしかるべき処置を取ってください。

※この小説の著作権は作者、南瓜川くろにある気がします。だからってどうって事はありません。


「ねえ、死んじゃうの」


少女はそう言った。

音のゆく先は病に伏したヒトである。

ヒトはゆっくりとその言葉を聴いて、これまたゆっくりと口を動かした。


「ああ、そうだよ」


ヒトはそういって、ゆっくりと笑った。

ヒトの口の端が吊りあがって行くのに、少女は首をかしげた。


「あなたは」


ひとつ、息を吸う。


「―――悲しく無いの?」


実に少女らしい疑問である。ヒトはそう言って顔をただした。

マクロのひとみに、少女は体幹が曲がるまでに大きく首をかしげる。


「いいや」


「いやじゃ、無いの?」


「いいや」


「・・・ なんで?」


少女は体を逆エルの字にしていたけれど、やがて重さにふらついた。

ヒトはその様子に腕を伸ばそうとしたけれど、それは動くことを拒んだ。

少女は床に頭をぶつけて、にぶい音がした。


「だいじょうぶかい?」


「……… うん」


「そう」


少女は頭を抑えて立った。黒髪越しに額から流れる金の紫にヒトはうなづく。


「じゃ、さっきの質問に答えようか」


「――いいかい、良く聞きな、フォフォ。

 ヒトはねえ、死んだらどこに行くかっての、知ってるかい」


「…ん、 天国と、地獄?」


「ああ、そうさ。それのどっちか、だ。

 …そいじゃ、フォフォ。どうやったら天国にいけるか、地獄にいけるか。

分かるかい?」


「… いきてるときに、良いことをすると天国に行って、

 わるい事をすると地獄におちる?」


かか、と愉快げに、軽快に、どこか耳障りにヒトは笑った。

少女はなあにと首をかしげる。額の金流はいつしか消えていた。


「――… フォフォ。そんなめんどくさい方法を、神様はおやりにならないよ」


「そう、なの?」


「ああ、そうさ。神様はとってもめんどくさがりや。

 だからね、そいつが神様の前に来たときに、眠っていたかどうか―――で、決めるのさ」


「、 眠って、いたか?」


ヒトはそうだ、とうなづいた。


「――神様のお目に触れたときに、眠っていなければ上、眠っていれば下。

 …ほら、どうだい?一目でわかって、簡単だ。」


「…本当だ」


「だから言ったろう、神様はめんどくさがりや何だって」


けけけ、とヒトは笑った。

良く笑うね、と少女がこぼせば、ヒトはさらに笑う。

それを暫く聞き眺めていた少女は、ふとしたさまに声をかけた。


「――でも、どうやったら眠れないでお空にいけるの?」


「なんだ、知りたいか?」


「うん」


「そうか、そうか! じゃ、教えてやろう。

 それはな、死んだそのとき、眠っていたかどうかだよ」


「眠、って?」


「そう」


少女はヒトのいう答えに、いちいち不思議そうなまなこで小首をかしげた。

今回もそうで、そんな少女にヒトが忠告を投げかけた。そんなにかしげたら、悪魔が果実だと思って首を狩っちゃうよ、と。

少女はそれを耳入れて、あわてて姿勢を正した。以降、少女が首をかしげることは無かった。


「…でも、死ぬときにねむる、 …って」


「なぁんだ、意識がなけりゃあ眠ったも同然だよ。

 にしても眠りながら死ぬなんて、さぞ心良いでしょうに」


「………そう、なの?」


「あぁ」


少女はそれを聞いて、狭い部屋の隅まで駆けた。

壁に針で留めてあったポーチをひっつかんで肩に回す。

ヒトの戸惑う声をそも知らず、ドアを開ければどたりどたりと階段を滑った。


降りた先、ちいさくて華奢な部屋の、ちいさくて脆い台所。

少女はそれに足をひねって駆け込んだ。


少女は手を伸ばして手繰って、

彼女に愛を教えた人が最後に燻した肉を掴んで、

彼女に情を教えた人が最後に打った銀を掴んで、

彼女に感を教えた人が最後に眠った布を掴んで、

彼女に技を教えた人が最後に残した金を掴んで、

彼女に疑を教えた人が最後に持った水を掴んで、

彼女に法を教えた人が最後に捧げた袋を掴んで、

最後に彼女に言を教えた人が最後に磨いた魔法瓶を掴んで、

彼女に闘を教えた人が最後に煮込んだスープを注いで魔法瓶を満たした。


「…よいしょ、」


それらを包んで、ポーチに突っ込んで、或いは持って或いは掛けて。

少女はひたりとかかとを鳴らして、木のドアノブを掴んで引いたのである。



――――少女の些細でちっぽけな冒険がはじまった時。


「…はい、おしまい。」

「えぇー、続きも読んでよ」

「…………」

「こら、もう夢を見る時間よ。」

「ええええーっ」

「……モリア」

「何だよ、グリア!」

「……おかーさん、困らせちゃ、め。」

「…っもーっ!妹にさとされるなんて思わなかった!」

「うふふ…… さ、ふたり。寝室に行ってなさい。」

「ぶー、ママと一緒が良いよ」

「………いっしょ、」

「そんなに心配せずとも後から行くわよ」

「ほんとぅ!?」

「ええ、本当よ」

「ょしゃぁーっ!じゃ、じゃ、グリア!いこーぜー!」

「……はぁ…… うん」

「ふふ、おやすみ。」


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