第二話
この少年に出会う前、そうだね。
僕はニューオレンジ州で生まれた。
自分で言うのもなんだけど。
正直僕は恵まれている環境だったっと思う。
父は公務員。
母は近くの小学校で先生をしていた。
これまた僕が言うのもなんなんだけどね。
正直僕はすごくイケメンの部類に入るらしい。
小学校も、中学校も。
特に不自由何てなかったよ。
成績も常に学校の上位だったし、スポーツになったら何でもこなせたよ。
中でも好きなのはバスケかな。
まぁでも、高校だったかな……。
僕が“君”に出会ったのは。
そうだね、あれはすごく暑い暑い夏のことだったと、今でも覚えているよ。
※
暑い。
いや、熱い、熱い。
じわじわと照りつけてくる太陽は僕の体の中から焦がしていくようだった。
なぜ外に出たのかは自分でも分からなかった。
いや強いて理由を上げるとするならばただの気まぐれ。
猫が飽きたら寝たりするのと同じ、気まぐれだった。
通っている高校は夏休みに入り、暇を僕はもて余していた。
「あっついなぁ……それにしても」
晴天の大空には雲ひとつ浮かんでおらず、開けたコンクリート道路から立ち上る熱気と日光のダブルパンチは確実に僕の体を蝕んでいる。
ポケットに入れた携帯電話がまた鳴った。
見なくてもわかる。
僕を何処かへ誘うためのメールか電話だろう。
断るために、わざわざ携帯電話を取り出すつもりもなく僕は猛暑の町をゾンビのようにさ迷っていた。
なぜ誘いを断るのか、についても僕は気まぐれとしか答えられない。
夏の午後をやり過ごすために喫茶店にでも入ろうか、と考えたが財布を持ってきていなかったことに気がついた。
「はぁ……」
自分の息すら暑く感じる。
セミは街路樹で必死に鳴いている。
この暑いのにご苦労様だと思う。
ベッタリと汗で湿ってきたシャツを脱いでシャワーを浴びたい欲望に刈られる。
もう、帰ろうかな。
別に理由があったわけじゃないし。
僕は足を止め元来た道を戻ろうとしたその時ある建物を見つけた。
真っ白で少し近代的なデザインの建物はこの町に最近できた施設だ。
州立図書館。
炎天下の中その図書だけは涼しそうにそこに存在していた。
「……行ってみるか」
とにかく暑いし。
図書館と言うぐらいなのだから冷房もついているだろう。
以外と寝るスペースとかもあったりしないかな。
僕は足を図書館へと向けた。
今まで図書館には縁なんてなかったよ。
工事が完了し、出来上がった時にちらっと外から見たぐらいかな。
だって本には興味なかったから。
実際本を読むぐらいなら僕は今でも寝るのを選ぶだろうって思う。
図書館の入り口はガラスで、僕が近づくと勝手に左右に開いた。
外よりも暗い中はまるで悪魔が口を開けているみたいだ。
入り口から流れ出してきた冷気に吸い込まれるように入ってみた。
その突如、静寂が広がった。
紙の独特な匂いが鼻をつき、夏の午後だということを忘れるほど隔離された空間。
僕を遥かに越える大きな本棚がずらりと並び、当然だがその棚にはぎっちりと本が収まっていた。
静寂。
本当に人がいるのか分からないほどの。
本が全ての音を吸いとってしまったかのような沈黙に僕は足音すら躊躇った。
僕が来るべき場所ではなかった、と後悔しつつもあの炎天下へと帰るつもりになんてならない。
外に出るのは夕方になり、涼しくなってからにしよう。
目についた本棚の本を一冊手に取ってみた。
ずっしりと紙の重さがのし掛かる。
ぺらぺら、と捲ってみるが内容は何一つ頭に入ってこない。
「はー…………」
本を本棚に戻すと、頭をガリガリと掻いた。
涼しさの代わりに居心地の悪さも一緒に手に取ってしまった。
本の海。
天井にはどこか大昔の国の絵が描かれており、垂れ下がったシャンデリアはきらきらと美しく光っている。
人が生きている空間ではないような。
そんな気がしてまた僕は一歩奥へと足を運ぶ。
ここまで来たらもう全部見てやろう、という気が起きてきたんだよ。
それにしても、なんと大きな図書館だろうか。
壁を利用して天井にまで本が高く積まれている。
図書館、未知の世界。
目の前の通路に二冊ほど本を抱えた人が歩いており、ここは現実なのだと思い出す。
誰もかもが皆して、礼拝堂にいるように押し黙ってるね……。
僕にはあまり分からない空間だな……。
本棚と本棚の間を要約の思いで抜けると今度は無数の白い机と椅子の並ぶスペースに出た。
窓に面したその場所は直射日光がギラギラと差し込み、本棚の影にずっといた僕の目を強く刺激する。
「読書スペース……」
小さく声に出して天井から垂れ下がっている看板を読んだ。
こんな直射日光が差し込む場所に誰が本を読みに来るんだろうか。
ため息をついて、本棚の影に戻ろうとする。
第一印象は変わり者、だな。
一人読書スペースにいた。
白い机の上で白い本をめくる変わり者。
長い黒髪とは対照の生える白い絹のような肌。
縁がない眼鏡と、その奥で文字を追うこげ茶色の瞳。
ページを捲る手まで白く、本当に同じ人間なのかと思うほど細い。
だからと言って机に向かう体は、華奢というほどではない。
中世的な顔立ち。
正直、美人だった。
おそらく僕と同じぐらいの年齢――。
いや、同じクラスだ。
「シャロン……?」
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ありがとうございます。
うーん。
難しいなぁこいつ。
我ながらなんというかこう難しいこの……。
ううん。