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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(大雪が降った日)17

「ナー」

「雪、降ってる」

 迷宮から出てきたら、ゲート広場が靴が埋まる程、雪で覆われていた。

 しんしんと重そうな灰色の雲から雪が降る。

「こりゃ、やまないな」

 誰も歩いた形跡のない雪野原にヘモジとオクタヴィアは嬉々として飛び出した。が、数歩踏みしめて戻ってきた。

 結界の外は寒かったらしい。

 どこまで寒いのか結界を張らずに僕もちょっと体感してみた。

 風が吹くと体温が一気に奪われる。

「寒っ!」

 身震いする。

 オクタヴィアが早々にリュックのなかに退避した。

「ナーナ」

 ヘモジも耐えきれずに、僕の肩に這い上がってくる。

 ヘモジたちに付いてきた雪が溶けて冷たい。

 諦めて温風を身に纏った。

「ほっとするのです」

 リオナが寄り添う。

「どこにも寄らないで帰るぞ」

 ポータルまでの帰り道、普段目にすることの余りない村の人たちが挙って雪掻きをしていた。

「雪がやんでいますように」と願いながらみんなでゲートに飛び込んだ。


 我が家の窓の外は一層吹雪いていた。

 暖炉の魔石が赤々と燃えている。

 装備品を下ろしに地下に降りると寒かった。

 ピノたちの小さな装備が保管部屋にきれいに並んでいた。濡れた装備をちゃんと手入れしたようだ。

 パスカル君たちはまだ帰ってこなかった。

 何かあったのだろうか?

 僕たちも装備を脱いで、浄化の魔法を掛けて汚れを落とすと、空いた場所に陰干しした。


 回収品を宝物庫に下ろして、地上に戻るとピノたちから湯気が立ち上っていた。

 困った顔で窓の外を見詰めている。

 せっかく風呂に入って暖まったのにこのまま家に帰ったら間違いなく湯冷めする。濡れた髪が凍りそうだ。

「今夜はやむ気配、なさそうだな」

「ご飯食べて行くですか?」

「今日は帰るよ。雪掻きしないといけないし」

 そうだった。こいつらにはまだやることがあったんだ。

 この降りようだと家が埋まるかも知れないからな。太陽が差して溶けて雪が重くなる前にやっておかないとな。

「髪が乾いたら、送ってやるよ」

「やった! ありがとう、兄ちゃん」

 ピノたちはこっそり隠した残り物のターキーを手土産に帰宅することになった。

 必然的に僕は風呂の順番をリオナに譲ることになった。

「チョビたちは大丈夫か? 埋まってんじゃないか?」

「チョビたちなら避難させたぞ。その辺で寝てるよ」

 ナガレが回収してきて、タライのなかに寝床を作り始めた。

『妙に落ち着きます』

 どうやら仮設の寝床が気に入ったようだ。

 パスカル君たちの帰宅と入れ替わりに、ピノたちは家路に付いた。

 レオも付き合うというので一緒に結界を張って、温風をまとった。

 雪は視界を塞ぐ程盛んに降りしきるが、僕たちの肩に落ちることはない。

 五人の家はほぼご近所さんだったので助かった。ピノ、マルロー、ケッチャ、モモイロ、タンポポを手を振って見送ると、レオと僕は帰宅した。

「こんなに降る雪は初めてです」

 そう言ってレオは真っ暗な空を見上げた。

 レオもこんな寒い夜は家族の元に帰りたいんじゃないだろうか? そう思った。


 パスカル君たちは火鼠フロアを攻略できなかったようだ。ギリギリまで粘って、諦めて戻ってきたらしい。

『爆発』の使い方が今一分かっていなかったようだ。

 壁を破壊しない程度に容赦なく、バランス感覚が必要になってくる。

 足元の火鼠は溺死させるのが一番いいのだ。

 食堂でリオナに詳しい話を聞いていた。



 翌朝、雪は上がりソリのコースが早速、造られ始めた。

 ユニコーンも泊まり込んだようだが、朝の散歩は始まらなかった。まずは街道の除雪から始めるそうだ。配達は昼からになるらしい。

 リオナはつきあえないが仕方がない。

 我が家もいよいよコタツが本格的に稼働し始めた。居間のテーブルがコタツ用に置き換えられた。

 早速、ヘモジがマンダリノを大量に購入してきた。

 今年の冬も幸せに暮らせそうだ。

 そう考えたら気が重くなった。

 残り一ヶ月、あれさえなければ。


「状況を見たいんだが、頼んでも構わないか?」

 こんな雪の日に来客があった。宰相のロッジ卿だった。

「プライベートですか?」

「政務の一環だ。この状況での最前線の様子が見たいんだが、王宮の船はなかなか火竜の巣の側を飛んでくれなくてね」

「大戦を前に壊されたくないでしょうからね」

「火竜に負けていては始まらんだろうに」

「うちの領主の船は?」

「既に前線だ」

 僕は全員を呼集した。

 西方視察の第二弾である。

 ロメオ君とエテルノ様も、ロザリアも、パスカル君たちも同行する。

 アイシャさんも作品の舞台はなるべく見ておきたいらしく重い腰を上げた。宰相の視察に同行するだけでも、誰も知らない秘密のネタの宝庫なのだから。

 雪掻きを終えた子供たちも漏れなく参加する。


「冬の航路図だ」

 親方に最新の地図を見せられた。

「凄い! 帰りの高速気流も見付けたんですね?」

 でもそれは遙か彼方だった。

 帰りは素直に今まで通りが一番のようだ。

『発進します』



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