時を待つ日々(鰹節でコラボ)16
「うどんなら僕が作ったことあるけど」
「え?」
母さんがきょとんとしている。
「鰹節は? 昆布使ったの?」
「鰹節なら食品庫に大量にあるけど」
「どうやって!」
「姉さんから貰った」
「なんであの子は言わないのよ! 母さん、わざわざ漁師にお願いして、鰹探しに遠洋まで出て貰ったのよ! 乾燥させるのだって、試行錯誤して大変だったんだから」
「うどんってあれだよね? 太くて白いパスタ」
ピノが言った。
オクタヴィアが頷いた。
「しょうがないわね。アレンジして別の……」
「普通のでいいから!」
僕は思わず叫んだ。
ヴィオネッティーの厨房関係を一手に預かる家政婦長のレシピ以上のことはしないでください! 薬の調合と料理の違いの分からない人にアレンジは無理だから!
「それより、今はターキーだ!」
冷める前に……
「あれ? 皿が減ってる」
「これ、うまいな」
マルローが素直に感想を述べた。
モモイロ、タンポポも頷いた。
「うま、うまッ」
ケッチャががむしゃらに食べている。
その横でピオトとチコが汗を掻きながら負けじと頬張る。
テトとレオも美味しそうに食べているが、量は食べてない。
「おいしい、おいしい」
机の下でチョビたちがいつもより大きな姿で食べていた。
ナイスだ、ナガレ!
既に二皿が完食されていた。
「リオナも頑張るのです!」
僕も席に着いた。
ヘモジとオクタヴィアの皿にもどっさり載せられた。
母さんは本日の目玉だったうどんを作りに少しがっかりしながら厨房に消えた。
その割にアンジェラさんと裏で楽しそうに会話がはずんでいた。
そこへドナテッラ様がやって来た。
「まあ! ドナテッラ、久しぶり!」
「お姉さんも、ご健勝で何よりです」
ターキーの懐かしい匂いに誘われたらしい。
「たまにはこっちにも遊びにいらっしゃいよ」
ロッタとカーターへの手土産としてターキーが小分けにされた。
やった! また一歩ゴールが近付いた。
ドナテッラ様も厨房に入って、レストランのメニューの話などを交えながらアンジェラさんと三人、盛り上がり始めた。
「これ、試しに作ってみたんだけど」
「こ、これは!」
「スープがないのです」
「エルネストに先越されちゃったから、反撃よ!」
どうせ母さんはアイデアだけで、味付けはアンジェラさんとドナテッラ様が考えたんだろ?
「焼きうどんよ!」
「おーっ!」
「何これ?」
「鰹節が動いてる! 生きてるの?」
子供たちはターキーを横に置いて、鰹節のいい匂いがする焼きうどんに釘付けになった。
茶色く見栄えの余りよくない麺をフォークに絡めながら口に運んだ。
「うまい!」
「おいしい!」
「変な味だけどおいしー」
「くにゅくにゅしてる」
「意外においしい」
やはり見栄えがよろしくなかったようで第一印象は問題ありだった。それでも完食しているわけだが。
母さんたちが厨房で熱心に話し込んでいる隙に食べきれなくなったターキーをこっそり地下の保管箱のなかに隠した。
「レオ、明日迷宮に行くんだろ? おやつにでもしたらいい」
タンポポたちがガッツポーズを決めた。
「僕、これ背負って迷宮に行くの?」
「勿論、食べられる分だけだ」
「みんなで背負うから平気よ」
リュックには消臭魔法が施してあるから、そのまま放り込んでおいても大丈夫だが。全部食う気か? まあ、リオナが五人いるようなもんだからな。レオにはこの量は苦しいだろうが、みんながいれば大丈夫だろ。
「明日の冒険、今から楽しみだね」
タンポポが笑うと、全員が笑顔になった。
リオナと目が合った。
弟や妹分に譲ってやれよ。
「まあ、いいのです。でも言っておくのです。お母様はそんなに甘くないのです」
リオナの予言は的中した。
我が家で一泊した母さんは翌朝、ピノのパーティーにも、パスカル君のパーティーにも僕たちにもお弁当を用意していた。
「大きいのです」
ピザでも入ってるのか? どこの世界にお弁当を入れたこんな大きな保管箱を担いで迷宮攻略する奴がいるんだ?
「お好み焼きよ。一人三枚焼いたから、残さず食べるのよ。お姉ちゃんの分もあるからちゃんと届けて頂戴ね」
渡すのはロメオ君の仕事になるだろうか。
僕たちはそれぞれ弁当箱代わりの保管箱を背負って、それぞれの仕事に出かけた。
僕たちの分は全部『楽園』に放り込んだが、パスカル君たちやピノたちは荷物をそれぞれのリュックのなかに押し込んでいた。
ターキーの残り物とのダブルパンチでリュックはパンパン、背負っている本人たちは浮き足立っていた。
「あ、鰹節繋がりか!」
なぜお好み焼きなのか、疑問に思っていたが、そう言うことか……




