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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(修正)14

 ソウルの四十八層にも冒険者が現われるかと思ったのだが、そうはならなかった。四十一層からのレイスフロアに踏み込む冒険者は少なく、四十五階層辺りまで辿り着ける冒険者には今回の一件はどうでもいいことだった。彼らは深いフロアでのレアアイテム漁りのリスクを知っているから理由がなければ無理はしない。手頃な魔物を狩って、換金して、その金で自分好みの剣を造る方が遙かに建設的だ。

 でもそれは獣人族でない場合だ。獣人たちはリスクを冒さなければならない。

 リオナがいなければ、僕たちだってここまでしていただろうか? アガタやゴリアテに大金積んで頼み込んで終わりだったはずだ。

 だが、人族だって悠長なことは言っていられない。

 事ここに至って鍛冶屋の絶対数が足りないのだ。魔法攻撃力三百五十超えの武器を造れる優秀な鍛冶屋となると、さらにその数は限られる。各地の領主たちは囲い込んでいる鍛冶屋に自分たちの騎士団のために大量発注を掛けるだろうから、一般徴集された兵士が入手することはぼぼ不可能に近い。

『ユニコーンズ・フォレスト』に属している獣人たちもヴァレンティーナ様が『銀団』の総力を挙げてなんとかしてくれる。問題はフリーで付き合う連中だ。

 一日、数本だけだったとしても僕たちがなんとかしなければ。

 半分はリースに回すか……

 狩り尽くせないから、もう一班ぐらいあってもよかったのだが。

 クヌムの武器屋の秘密を説明する気もないのでこの人数でなんとかするさ。


 最近はみんなやることがあって行動がバラバラなので、夕飯の席が意見を摺り合わせる場になっていた。

「まさかそんなことになっていようとはな」

 エテルノ様もアイシャさんも今回の一件には呆れるやら驚くやら。とんだ落とし穴だったと。

 情報はエルフ側にも伝えられた。

 数日後、アガタの店のエルフを通して我が家のミスリルの在庫を大量に流すことになる。


 ロメオ君とエテルノ様はゴーレムの秘密を暴くために、あの声と会話する手段を構築中であった。階層化した選択肢を選んでいくそのやり方は慣れてみれば分かり易いらしく、音声がなくても、あの宙に浮く文字列を選択するだけで何とかなるらしいことが分かってきた。

 だが本体に関する謎は相変わらずで、関節がなぜ動くのか、姿勢をどうやって制御しているのかなど、ロボット造りに必要なことは何一つ分かっていなかった。

 姉さんの要塞建築は大いに捗っていた。外装はほぼ完成しているらしく、別荘の窓からもその勇姿を拝むことができるらしい。

 差し詰め今日訪れた浮遊城の如しだそうだ。

 ロザリアの所に教会関係者がやって来た。建設地に神樹の苗木を植えるという。我が家の物ではなく、教会経由の物をだそうだ。

 向こうの神樹もしっかり根付いたようだ。今回の一件に備えて各地に苗木を分散させる計画があるらしい。


 ヘモジとオクタヴィアはコタツの卓の上に最近集めていたガラクタをばらまいた。

「ナーナ」

「換金」

「はいよ」

 アンジェラさんが付き合ってくれている。

 火の魔石の屑石を手に取った。

 屑石でも使いどころはあるらしい。火は焚けなくても起こすことはできるから火打ち石代わりになるそうだ。料理に薪を使う獣人たちには重宝するらしく、大概、店先で無料配布されている。

 食器類は売店に並べておけば捌けるようで、大概のガラクタにもコレクターというのがいて何とかなってしまうらしい。

 ふたりは仲良く稼いだお金を、拾ったコインと一緒に怪しい賽銭箱の形をした貯金箱に入れて揺する。

 ジャランジャランといい音色がする。ふたりはうっとり聞き惚れるが、総額にしたら金貨一枚分もない。ふたりの口座の中身の方が遙かに高額なのだが、小銭の音色は何ごとにも代えがたいらしい。

 ふたりがコタツで寝入ったところに飼い主が現われる。貯金箱の底を開けて小銭を抜いて、代わりに銀貨を一枚放り込む。

「ちょっとたばこを買ってくる」

「在庫ありますよ」

「いや、少し頭を冷やしたいんじゃ」

 ふたりの貯金箱が溢れることは当分ない。


「銀貨になった!」

 貯金箱を確認すると中身が銀貨に変わっていることがたまにある。不思議な貯金箱だとふたりは思っているから気にしない。

 だからいつでもすこぶるハッピーだ。


「売れ残った……」

「……」

「ええと……」

 僕が買い取らなきゃ駄目か?



 朝方、昨日の今日で領主館から注文書が届いた。

 売り物ではない投擲用の鏃の増産を頼まれたのだ。

 まったく抜け目がないというのか、昨日、ヘモジが使うところをヴァレンティーナ様はしっかり横目で見ていたのだ。

 ヘモジもヘモジで何も中庭にいる敵までわざわざ倒さなくてよかったのに。昨日の後半戦が退屈だったのは分かるが。

 中庭の敵は上位種だがダメージは当たり前に入っていたし、投擲したにしては『必中』が効いているので射程も長い。有効打になると判断されたようだ。

 当然こちらは普通の魔法の矢の鏃の値段ではないですよ、と断わりを入れた上で注文を受けた。魔法の矢にするには重過ぎる鏃だ。そのための武器が『アローライフル』なわけだが。

 その数一万個。

 二千名の兵士に五個ずつ支給するらしい。一万と聞くと後退りしてしまうが、一人五個と言われると気の毒になってしまう。資金を出すヴァレンティーナ様も気の毒だが、第二師団の精鋭と『ユニコーンズ・フォレスト』の面々の命には替えられない。僕だって彼らに何かあるのは嫌なのだ。

 もうこうなったら奮発してやる。最低でも一人十個だッ!

 当然、投擲用の鏃に使う魔石は魔法の矢の物と違って屑石ではない。最低でも魔石(中)クラスだ。

 魔石(中)の石を二万個用意しなければならない。普通なら尻込みするところだが、あいにく魔石(大)を簡単に両替できる僕たちにはさして問題はない。最悪、屑石から再生もできるわけだし。



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