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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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閑話 陰謀の陰謀は平常

「これはなんと……」

 ヴィオネッティーの小倅には驚かされることばかりだ。

 堅牢を誇る我が王城の城壁すらも下に見るとは。

「これを造ったと申すか?」

「いえ、複製品だそうです。製造はまだ無理のようで」

 普段冷静なロッジも冷や汗を掻いておる。これで冷静でいろというのが酷な話だが。

「いくら好きにしてよいと言ったからとて、隠しようがないの」

「門番にでもしてはどうかと、彼は言ってるそうですよ」

「どこに置けと?」

「立たせる場所もありませんな」

 内密にと思って競技場に召喚させたが……

「はぁあ」

 溜め息が出るの。

「こりゃ騒ぎになるな」

「今回の大戦用に召喚したことに致しましょう。幸いタイタンですし」

「どうだ? レジーナ」

「だから筆頭に場所を用意させると言ったんだ」

「そう責めるな。起こってしまったことは仕方ない。で、どうする?」

「召喚には魔力がいります。通常の術式よりは遙かに少なくて済みますが」

「どうした?」

「いろいろと問題が――」

「魔法使いでなければ操れぬか?」

「いえ、召喚だけを任せれば、後は登録次第で誰の命令でも言うことを聞きますから」

 城下が騒がしくなってきた。

「陛下」

 わしは巨人を引き上げるよう命じた。

「話は執務室で聞こう」

 野次馬に道を塞がれんうちに退散せんとな。

 わしらは衛兵にこれは単なる余興だから問題ないと伝えるように言って、その場を去った。


 執務室は暖炉も焚いていないのに暖かく感じた。

 レジーナが部屋の障壁を確認して、頷いた。

「それで」

「これを」

 ロッジがよれよれの書類の束をテーブルに置いた。

「清書が間に合いませんでしたので、取り敢えず我々の使用している資料をお持ち致しました。清書した物はいずれ用意させて頂きます」

 頁を開くと、なるほど女の書いた文字だった。いつもいかめしい風を装ってはいるが、なかなかどうして。

「元は古代語か?」

「はい。ご明察の通りでございます」

「小僧の発明というより、元からあった仕組みを解明したと言ったところか……」

「はい。まだ道半ばですが」

「運用方法は?」

「まず所有者を登録します。これは陛下ご自身がよろしいかと思います。次に使用者を登録します。これは所有者の下位に位置するもので複数人登録が可能です。このなかに魔方陣を扱える者を入れておくのがよろしいかと思われます。城の守りとされるのであれば、普段から出しておくのも手でございますが」

「それはさすがに民が怖がるであろう」

「召喚に際し、魔方陣の登録が必要になりますので、この場合、召喚する者のサインが求められます」

「わしではいかんのか?」

「こればかりは術式を展開するために必要になるものですので致し方ありません。『我、ここに命ず』に該当する記述になりますので。ですが、所有者権限は絶対です。『主の名において』という記述が必要となります。初期設定で『我を以て』などと登録しない限り、所有者が認めなければ退去は常に可能です」

「その命令に魔力はいらないのか?」

「本体から消費されるようです」

「なら召喚もそうできないのか?」

「退去もセットで召喚はあるとお考えになられればよろしいかと」

「戦を始めるときはやめ時も考えておけと言うことか…… 続けよ」

「退去命令を受理したゴーレムはその命令が所有者によって解除されない限り、再び召喚されることはありません」

「どうやって解除するんだ? 本体もなしに」

「別の召喚者に名を変えるしかありません。登録は所有者にしかできませんので」

「なるほど。よくできておる。して所有者が暴走したとなったらどうする?」

「他の魔道具同様、倒す以外にありません」

「心しよう」

「操作は所有者、使用者のみが行えますが、命令には序列が付きますので、登録時に序列を間違えませんように」

 ロッジが話の内容に則した頁を開くまで間ができた。

「よくもまあ、ここまで複雑にしたものだな」

「誰もが使えていい代物ではありませんので。ですが登録は難しくはございません。音声による誘導がございますので」

「ほお、それはまた」

「古代語ですが、基本発声はエルフ語とそう変わりません」

「所有権は移譲できるのか?」

「勿論可能です。先程のタイタンはわたしの仮名義になっておりますが、後程移譲手続きを行なえば可能です」

「またあれを出現させねばならんのか」

「どの道、魔法に長けた使用者を選ばねばなりません。選定ができ次第『魔法の塔』においでくだされればよろしいかと」

「日を改めて行なおう」

「かしこまりました」

 ふたりが恭しく頭を垂れる。

 どこか似ておるな、このふたりは。

 話を戻そう。

 わしは手を振って話の先を誘った。

「操作は口頭で行ないます…… が、これも今のところ古代語が必要になります」

 操作にも言葉の壁があったか。

「陛下はエルフ語が堪能であらせられるので、習得には向いているかと存じます。基本となる単語も『戦え』『待機』『退け』など、多くはございませんから。我が愚弟もその場でハイエルフの長老に教授を受けて覚えた次第で」

「あの長老は帰らんのか?」

「はい。一件が済むまで、愚弟に付き添って頂けるようで助かっております」

「一度お呼びして、御教授願おうか。いや出向くか。時間を作れ」

「かしこまりました」

 ロッジが頭を垂れる。

 向こうの進展具合もいろいろ見ておきたいからな。


「回復に関しては、二段階考えられます。一段階目は自己回復、二段階目が強制回復になります。自己回復はゴーレムの持つ回復力にのみ依存します。この場合、損耗具合によっては再生が遅くなり、魔力が尽きた段階で欠損が始まります。ゴーレムと戦闘された経験があるようでしたら同じことが起こるとご理解ください。停止させない限り、光の魔石のように徐々に周囲の魔力を吸収しながら回復しますが、結果、失われた部位の回復までには膨大な時間を要することになります。そこで二段階目の強制的に外部から回復させる必要が出て参ります。ですが、その場合、厳重注意が必要になります」

 注意を喚起するため、レジーナは少し間を置いた。

「欠損にもよりますが、膨大な魔力が必要になる可能性があります。片腕と装備品等を欠損した複製元を利用して複製を試みた際、長老とわたし、愚弟とそのチームメンバーで工房の責任者でもあるロメオの四人分の魔力がほぼ全て消費尽くされました」

「なんだと!」

 思わず叫んでしまった。

 が、その面子で魔力が空になるだと? ロメオという少年ですら、その攻撃力は『魔法の塔』のトップランカーレベルだと聞いている。レジーナにしても小僧にしてもその能力はハイエルフに匹敵するはずだ。あまつさえそのハイエルフの長老もいて、全員が同時に魔力を吸い尽くされたと言うのか?

「危うく、ロメオが死にかけましたが、万能薬のおかげでかろうじて助かりました」

「複製とはそれ程魔力を消費するものなのですか?」

 ロッジも青くなっている。

「原材料が過分にあれば、死にかけることはありませんが、足りない分を補おうとするとあの巨大な質量に応じて相応に消費されるものと考えられます。ですので、欠損部位の回復には――」

「危険が伴うか」

「恐らく」

「複製は難しそうじゃの」

「はい。現状では如何ともし難く。今は迷宮に出現する魔物を倒して、原材料としておりますから、どうしても欠損は否めません。破壊した部位が残っていれば、よいのですが。消滅させてしまうと……」

「お前たちの話を聞いているといつも忘れてしまうが、小僧のチームはあれを倒したのだな」

「陛下ならお一人でも可能ではないですか」

「アシャンの気持ちが分かった気がするの」

「筆頭ですか?」

「なぜ今更、あちらの世界に行きたいなどと言い出すのかと思ってな。そうか、向こうに行くと志願した者たちは皆こんな気持ちだったのかも知れんな」

「陛下?」

「冒険者か…… 羨ましい限りじゃな」

「弟の知り合いに長い年月土地に縛られていた老人がおります。彼は引退した今になって、砂漠の遙か先からエルーダまで通いで冒険者をしているそうです」

「わしに引退しろと?」

「楽しい老後のために今はせっせと働いてくださいと言っているのですよ」

「おい! ロッジ!」

 聞き慣れたノックの音がする。侍従長か。

「入れ」

「――様がおいでになりました」

 楽しい時間は終わりだ。

「レジーナ、この資料は預かっても?」

「はい。写しはもう一部ありますので。いずれ完全な物をご用意いたします」

「皆に期待していると伝えてくれ」

「はい」

「娘…… はどうしておる?」

「ヴァレンティーナ様は少し痩せられました。難しい交渉が続いているようで」

 レジーナは『あちらは』と小声で呟いた後「少し背が伸びましたね」と加えた。

「会いに行くと伝えてくれ」

「かしこまりました」

 一礼すると厄介ごとを持ち込んできたであろう人物と入れ替わりに部屋を出て行った。



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