時を待つ日々(闇の信徒・巨人騎士を複製しよう)8
『タイプ、ナイト、確認。システムロード』
『警告。別のシステムが干渉しています』
『別のシステムが干渉しています』
『別のシステムが――』
「ちょっと誰のコアが反応してるの?」
『一度に複数の複製はできません』
『一度に複数の複製はできません』
『一度に複数の複製はできません』
全員が自分のコアに耳を傾ける。
「僕じゃない!」
「我も違う!」
「僕も違うよ!」
「わ、わたしか? どうするんだ?」
「画面に文字が浮いてない? 周りが明る過ぎるから見えにくいんだよ」
ロメオ君と僕が姉さんの手元に影を作った。
「あった!」
「それに触れて。早く承認して!」
「触れればいいのか?」
「そうだよ。早く!」
『複製が承認されました。ダウンロード開始――』
『キャンセルされました』
『キャンセルされました』
『キャンセルされました』
「うるさいものじゃの」
エテルノ様が唖然としている。
あんたのご先祖が造ったんだろうが!
姉さんも戦闘より動揺している。
「エルネスト、また指示が出た!」
「何?」
「素材が足りないらしい」
「姉さんが片腕、吹き飛ばすからだろ!」
「そうじゃ、解除してやらんと」
「もう片方が置きっ放しだよ」
そうだ、拘束してた方の片腕があった。
「姉さんしばらくそのままでいてよ。今、腕を取ってくるから」
置き去りにされた腕を取りに転移して戻った。エテルノ様は既に魔法を解除していて、ただ残骸は砂に埋まった状況だった。
僕は腕を『楽園』に放り込むと、戻って吐き出した。
「おーっ! 警告が消えたぞ」
みんなが姉さんの手元を覗き込む。
広い砂漠で鼻突き合わせて何やってんだろうね。
「『補完しますか?』と出ておるぞ」
「悲観しますか?」
「補完だ、補完!」
「ないんだからするしかないじゃろ?」
「ペナルティーは?」
「何も」
「じゃ、いいんじゃない」
「よし、行くぞ」
『複製が開始されました。離れてください』
僕たちはコアを置いて、後退った。
『離れてください』の警告が消えるまでさらに下がった。
『完了までお待ちください』
側で骸になっていたゴーレムの身体が虚空に消え、新たな姿がコアを中心に形成されていく。
「ミスリルだよ、ミスリル!」
ロメオ君が浮かれている。
「誤解受けそうだね」
「でもさ、このゴーレムって迷宮の外に出せるのかな?」
「それを含めての実験じゃ」
「誰もいない所で召喚しないと、町襲ったりし始めたら大変だよ」
「その前に召喚ができるように設定しないことには始まらんじゃろ」
「まだ時間掛かるのかな?」
「お茶にしようか?」
僕は暑さ対策に魔導具のパラソルを出した。それとテーブルと椅子だ。
姉さんはじっと複製途中のゴーレムの変化を見守っている。
「終わったら声が知らせてくれるよ」
「そんな保証がどこにある!」
しょうがないな。
僕はお茶を入れると姉さんの元に行き、皿を置くスタンドを砂で作った。
そこにお茶とマドレーヌの皿を置いた。
「助かる」
「これくらい、別に」
突然めまいがした。
姉さんを始め、エテルノ様も固まった。ロメオ君も口に手を当てている。
「魔力を吸われてる! みんな万能薬だ!」
僕は元々魔力再生能力の高い装備だから、今回めまいだけで済んでいるが、姉さんたちは膝を突いた。
「ロメオ君ッ!」
胸を押さえ付けたまま、万能薬を取り出せないでいるロメオ君に栓を抜いた薬を投げ付けた。
僕は自分の杖を出して、万能薬片手に、消費の肩代わりをする。
「これは…… きついの……」
全員が装備を見直して、魔力回復重視に切り替えている。
「これなら複製が乱発されることもないの」
死人が出るかも。
ロメオ君は兎も角、ハイエルフ級の魔力を持つ、三人の魔力が空っ穴になってもまだ足りないのだ。ひとりで試みようものならキャンセルするか、間に合わなければあの世行きだ。
「補完のリスクだったんじゃないの?」
「片腕と盾の分か?」
「ただより高い物はないってことだね」
ロメオ君は青ざめた顔で『身代わり人形』を確認する。
「大丈夫、誰も死んでないよ」
「死ぬかと思った……」
「我も抜かったわ。気を付けんとな」
「今思えば、コアの複製も三個じゃなかったら危なかったな」
「今更、何を暢気なことを言っている!」
しばらくして完了の知らせが来た。
そのまま設定作業に移ったが、予想通り何とかなった。
そして音声認識は僕の声で、スペル認証は僕のサインで行なわれた。
かくして『巨人騎士』は僕のものになったのである。
目下、専用の召喚魔方陣を暗記中だ。
「チッチの奴、なんで術式まで古代語なんだよ!」
「バジリスクなんぞ、そうそう容易く召喚されては困るだろ?」
「エテルノ様、ここなんて発音するの?」
収納するまでまだ時間が掛かりそうだった。
「『楽園』に入れちゃ駄目かな?」
「駄目!」
「駄目じゃ!」
「駄目に決まってるだろうが! 一通り実験が済むまで付き合って貰うぞ。終わったら煮るなり焼くなり、好きにするがいい」
その後、僕の努力はめでたく成果を上げた。
起動した『巨人騎士』をこの世から退去させ、さらに召喚することに成功したのである。
固有名称が必要だったので、僕は巨人に『切り込み隊長』と名付けた。
一旦、ポータルまで戻り、姉さんに連れられて『魔法の塔』が直轄している演習施設に連れていかれた。
「へー。こんな所もあったんだ」
そこは本物の巨大洞窟だった。わざとだろう、照明一つ存在しなかった。
「『魔法の塔』の新人研修の会場だ。新人はここの最深部まで自力で到達する試練が与えられる」
「試験会場というわけか」
「魔物は出ないが、難所続きで、深部到達まで早くて丸一日掛かる。ここで適性が測られ、新人たちの評価と配属先がほぼ決まるんだ。もっともここだけが会場ではないがな」
『切り込み隊長』は無事、迷宮外でも起動することが確認できた。
停止や移動、追従、破壊行為など大概の命令を音声だけでこなすことに成功した。
ただ、僕だけの声に反応するというのは結構不便なもので、僕以外の三人の音声も、下位の権限者として登録することにした。
後々、リオナたちの音声も登録しておいた方がいいだろう。
これにより僕が禁止したり、命令を上書きしない限り、姉さんたちの咄嗟の命令も聞くようになった。ヘモジの念話が届くかは疑問ではあるけれど。




