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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(ゴーレム製作進展す)6

「Xというのは新作の仮称なのじゃろうな。鏡像物質を見えるように金を混ぜたときにでも、一緒に因子を取り込んだんじゃろう?」

「鏡像物質に反応したんでしょうか?」

「あるいは金か、それ以外か」

「材料となる物に創作段階のデーターに合致するものでもあったんじゃろうな」

「マニュアルは写したのか?」

「はい。持ってるマニュアルと差異のあるところだけ」

「透明なゴーレムでも造る気じゃったのかの? あるいは金ぴかの」

 食後、やっと捉まった姉さんとロメオ君とエテルノ様が宝物庫で額を付き合わせていた。

 混ざると藪蛇になりそうなので、僕は遠巻きに眺めながら宝石を磨いた。


 僕にとって、どんなゴーレムができるかは二の次だった。目的は既存のゴーレムの複製ではないからだ。勿論、ロメオ君の最終目標も自作である。

 だが今、議論すべき問題は他にあった。運用をどうするかである。

 複製が可能だと分かったことは僕たちにとって、とてつもなくめでたいことであった。それだけでも世紀の大発見に値する成果である。

 だが、複製が叶ったそのときから、さらなる現実的な問題にぶちあたることになる。

 それが解決できなければ、どんな強力なゴーレムを生み出したところで僕たちに意味はない。

 攻略に連れて行くにもヘモジのように小さくなるわけでなし、飛空艇に乗せる段になったら軽くなるわけでもない。

 運用方法こそ肝なのだ。

 仮にタイタンが造れたとして、載って平気な橋などこの世のどこにあるのか?

 ゴーレムの歩みに任せていたら、目的地にはいつになっても着かないだろうし、街道という街道は重みで破壊されてしまう。

 どういう理屈であれ、何かしら造れそうな状況になったのだ。

 なのになぜそのことが話し合われないのか? 既に解決策を見出しているのだろうか? それとも僕の『楽園』を当て込んでいるのか?

「姉さん、完成したゴーレムをどうやって運ぶつもりなの?」

 姉さんが開いた頁を下にして、テーブルのマニュアルをこちらに滑らせてきた。

 テーブルは僕の宝石の加工台までは繋がっていないのだが。

 僕はマニュアルを取りに席を立つ。

 まったくもう。

「『起動・待機選択』?」

 なんでこの頁? 聞きたいのは運搬方法なのに。

 完全停止から各種条件付き待機モード…… そこからの起動……

 外部刺激反応…… 固有音声認識…… え?


『注意事項。召喚魔法に対応するには、対応設定前に個体名称を設定し、それから固有音声登録、あるいは専用魔方陣に登録するためのスペル認識が必要です。魔方陣作成に際し、発行される固有名称部分はそれ自体が暗号化されているため、解読はできません。そのままお使いください――』


 召喚できるようになるのか!

「神対応だ!」

 でも何を言ってるのかよく分からない。

「ロメオ君知ってた?」

 ロメオ君は首を傾げた。

「それは翻訳途中の物だ。急ぎ呼び出されたのでな」


 ロメオ君はやはりどこか動揺していた。

 今回の発見があくまで副産物に過ぎないからだろう。誰かが発明したことの後追いに過ぎないことに気付かずにはいられないのだ。

 タイタンが造れたって嬉しさも半減だ。まあ、言うことを聞くタイタンも魅力がないわけじゃないけれど…… 

 違うんだなぁ。僕たちが欲しいものは。

 タイプX…… 製作途中のゴーレムが存在するということは複製などではなく、創造もできるという証でもあるのだから、夢が潰えたわけじゃない。

 仮に製造マニュアルがあったとしても、さすがにコアのなかに塗り込めるとは思えない。

 ここはやはり完全停止状態の実物を手に入れ、調査する方が手っ取り早いだろう。が、現状は複製がなぜできるのかを解明する方が先のようである。

 明日は、僕だけでなくロメオ君も姉さんもエテルノ様もいっしょにサンドゴーレムのついでにタイタン狩りである。

 そのためにも今夜中に回収手段を確立しておかなければいけない。

 姉さんは召喚魔方陣にも詳しいようで、自信があるようだが。

 問題はゴーレム側の設定がうまくいくかだ。声が案内してくれるのでたぶん大丈夫ではないかと、体験した僕は安易に考えている。

「バジリスクの召喚魔方陣が役に立つだろう」

「なんじゃと!」

「大丈夫だ。中身は死んでる。それにねちっこい奴が造っただけあって召喚時の防御も執拗だしな」

 バジリスクの名前を固有名称に換えればいいだけだから、難しくはないだろう。ただ召喚魔方陣にあのチッチがどんな仕掛けを施しているのか、ちゃんと解析したんだろうな?

 兎に角、今夜は魔法談義に花が咲きそうである。

 僕は退出させて貰うけどね。

「僕はタイタンより古のゴーレムの方がいいけど」と言い放って、その場を去ろうとした。

「なら、自分の分はそうするがいいだろう?」と姉さんが言った。

「え?」

「あッ!」

 僕とロメオ君は開いた口が塞がらなかった。

 姉さんは黙って、きれいな手を差し出した。

 ブラフか? 確信があるのか?

「ここに数が書いておろう」

 エテルノ様がコアを指差した。

「どこ!」

 僕とロメオ君が覗き込んだ。

 が、そこには何もなかった。

「また隠し事か?」

 してやられた!

 振り向けば満面の笑みを浮かべた魔女が仁王立ちしていた。

 僕とロメオ君は青くなる。

「相変わらず単純じゃな。お主らは」

 エテルノ様は正真正銘笑っている。

 ロメオ君と目配せすると恐る恐る予備のコアを提出した。

「ヴァレンティーナにまた怒られるぞ。まったくロメオまでいてなんだ!」

「すいません。出来心で」

「ハハハハッ。まあよいではないか。欲も新たな創造にはかかせぬスパイスじゃ。ちょうど四つある。分け合えば互いの口封じになるぞ」

 そう言ってエテルノ様はロメオ君の一つを手に取り懐に収めた。

 エテルノ様の余りのこじつけに姉さんが舌を巻いた。

 姉さんも黙って僕が出した一つを手に取った。が、姉さんは僕を見て本位ではないぞという顔をした。職業的倫理観から来るポーズだ。内心わくわくしているはずだ。姉さんは僕より好奇心旺盛なのだ。

 複製する方法は既に知っているのだから、ここで騒ぎ立てるのはなしにしよう。

 サッサと帰ろうとしたのだが、首根っこを掴まれ、夜明けの太陽を一緒に拝む羽目になった。



 翌朝、パスカル君たちの同行を振り切る形でサンドゴーレム経由でタイタンの元へ向かった。

 午後からは四十七階層で古のゴーレムを複製できないか試すことになっている。

 残る我がチームの面々はパスカル君たちの迷宮探索に同行することになった。

 今日も空に新造船が浮かんでいた。ハリネズミのように周囲にパイルが施されていた。

「どこの貴族だ?」

「重くなるだけなのに」

「趣味としてはありだな」

「ありだね」

「ほら行くぞ」

 姉さんが催促する。

 タイタンはロメオ君が、古のゴーレムは僕が取得することになった。四十七階層はリセットできるフロアなので、時間があれば古のゴーレムがもう一体ぐらいは取れる予定なのだが、現場に着いたとき、状況は一変していた。

『闇の信徒!』

 タイタンフロアだったおかげで被害も発見もまだだったが、僕たちが突入するとすぐにその異変に気が付いた。それ程の魔力を含んでいたのだ。

「何があった!」

 姉さんがなんの疑念も抱くことなく僕を見た。

 まあ、ここに来るのは僕たちぐらいなものだからね。

「タイタンを部屋ごとぶっつぶした」

「四十六層の『闇の信徒』だと!」

「なんじゃ、それは?」

 エテルノ様は目を輝かせた。

「迷宮を傷付けると出てくる警備兵みたいなものです。フロアレベルより高いオリジナルの嫌な魔物が出てくるんですよ」

「なるほどの。で、レベルはどれくらいじゃ?」

 ここに至ってエテルノ様はまだ迷宮のなかのレベル制に気付いていなかったようだ。順番に下りてきたわけではないので、無頓着なのだろう。

「ここは中・上級者向けの迷宮なので、各フロアの階層プラス二十が敵の基本レベルになります」

「ということは四十六層だから、六十六か。なら問題ないの」

 十上でも八十以下だから、この面子なら何とかなるということだろう。



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