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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(ゴーレム製作進展す)5

 祭りは取り敢えずお開きになっていて、臼が転がされて倉庫に移されるところだった。

 昼時も過ぎて、会場は人が疎らになってきていたが、代わりにガラスの棟の売店に長い行列ができていた。

 怪しい壺を抱えて皆、正面玄関から満面の笑みを浮かべて出てくる。

「ナーナ」

 怪しい宗教のよう?

 行列の整理をしているナガレとリオナがこちらに手を振った。

「帰ってきたですか? ヘモジがいなくなったから心配したのです」

「だから大丈夫だって言ったでしょ」とナガレがリオナを諭した。

「心配かけたな。ちょっと頑張り過ぎて、魔力を使い過ぎただけだから」

「強い敵いたですか?」

「いや、間違ってタイタン部屋崩壊させちゃって、生き埋めにされるところだった」

「いつかやると思ってたわ」

 ナガレが言った。

「同情の余地ないのです」

「ナーナ」

 三人が額に手を当て、同じポーズで呆れた。

「それにしても、盛況だな」

 行列を横目に売店に向かった。

「お肉じゃなくてもみんな大喜びなのです! 奇跡なのです!」

 並んでいるお客さんに笑われてるぞ、リオナ。

「毎度ありッ!」

 また商品名『壺あんこ』が売れた。『一家族、一点限り』の限定販売だった。

 臼と杵まで既に『売り切れ』の札が出ていた。

「母さんに連絡してやるか」

 僕はリオナたちと別れて、ロメオ君のところに向かった。

 ギルド通信を使わせて貰いましょう。

 そう言えばロメオ君は? パスカル君たちと一緒のはずだけど。


 冒険者ギルドで、母さんに盛況の旨を伝えた。『壺あんこ』も杵と臼も全然足らないと伝えておいた。

 杵と臼は兎も角、あんこはすぐ来るだろう。

 事務所を出るとちょうど家から出てくるロメオ君とかち合った。

「あ」

 お互い顔を見合わせた。

「パスカル君たちがエテルノ様と迷宮に行くって言うから、僕はちょっとゴーレムの研究をしようかと思って、物を取りに来たんだ」

 エルーダ迷宮をゼロから攻略するのだろう。

 僕たちは宝物庫に戻るべく、我が家を目指した。


「そうだ。タイタンの拳を『楽園』に放り込んできたんだった。大丈夫かな? 消えちゃってないよね?」

 すぐ側でロメオ君が専用のブースに書籍やオリジナルコアをテーブルに並べていた。

「起動してるはずなんだけど、相変わらず反応ないんだよね」

 お、拳がそのままだ?

 取り出した途端に消え始めた! やっぱり駄目か……


『タイプ、タイタン、確認。システムロード』


「しゃべった!」

 ロメオ君がびっくりして椅子から転げ落ちた。

 僕も机の角に脚をぶつけて悶絶する。

「何? なんで?」

 ロメオ君が机の上の薄ぼんやり光り出したコアを掴もうとしたら、コアの周りに砂が纏わり付き始めた。

「何、この粒?」

「タイタンの欠片かも」

「欠片?」

「時間がなくて、アイテムに変化する前に――」

 腹のなかに仕舞う仕草をした。

「そう言うことなの?」

 僕に聞かれても……

「ゴーレムの身体を構成する物質の方にも気を使うべきだったのか?」

「でもこのままじゃコアが……」

「たぶんそれは大丈夫。初期タイプ選択ってこういうことだったのかな……」

 大丈夫と言いつつ、首を傾げた。


『必要素材が足りません。機能一時停止』


「ああ、消えないで!」

 コアの光が薄れて動かなくなってしまった。

「マニュアルの再検討しなくちゃ。お姉さん、まだ会場にいるかな?」

「見なかったけど」

「探してくるよ!」

 ロメオ君が飛び出していった。

 テーブルのコアは果肉を被った種のように、僕が持ち帰った砂を纏わり付かせて、何倍にも膨れあがっていた。

 僕じゃ何もできないので、他の回収品を戻しにブースを離れた。

 鏡像物質を出した途端、またコアがしゃべり出した。


『タイプ、X、確認。システム変更しますか?』


 なんか出てきたッ! 宙に文字が浮かんだ。

 これも魔法?

「ええと…… 『現行タイプ破棄』…… 『コア複製』……」

 どうしよう。ロメオ君いないし…… 


『どうしますか?』


 数字が出てきてカウントダウンを始めた。

 ええーッ?

 どうしよう! どうすれば?

「えーと、えーと……」

『現行タイプ破棄』? 『コア複製』?

 やっぱり破棄はまずいよな。だったら複製…… 増える分にはまだいいよね。

 十秒切ったよ! 九…… 八…… 七……

「ああああああッ! もう! ロメオ君ごめん! 『コア複製』で!」

 反応がない。

 ええっ?

 カウントダウンはまだ続いている。

 四…… 三…… 

「ど、どうすればいいんだ!」

 そうか! 触ればいいんだ!

『コア複製』の浮かんだ文字に触れた。


『確認しました。原材料で複製は三つ製造可能です』


 原材料って?

 まさタイタンの?

 一から三までの数字が出てきた。

 僕は数が多い方がいいだろうと三を押した。


『システムダウン開始。完了するまで手を触れないでください。周囲に無用な物を置かないでください』


 僕はテーブルの書籍やらを抱えて側の棚に載せ換えた。


『複製開始』


 うっ…… 魔力が吸われる!

 ち、ちょっと! これは! 吸われ過ぎ……

 万能薬。胸ポケットを漁る。

 その間にコアはウィスプの核のように分裂して、四つの球体に姿を変えた。

 そうこうしているうちにロメオ君が戻って来た。

「お姉さん、いなかったよ」

「ロメオ君ッ!」

 僕は泣きそうな声で叫んだ。


 ロメオ君は棚に移したマニュアルを確認している。

「あった。これだよ」

 エルフ語に翻訳された頁を見せられた。

「そうそう、これだよ! 選べって言われて、カウントダウンが始まって」

「カウントダウンは無視してもよかったみたい。機能が一旦停止するだけだから」

「そうなの?」

「でもよかったよ。生きてるコアが三つも増えたんだから」

「一個、がめちゃ駄目かな」

「見なかったことにしよう」

 ロメオ君がきっぱり言った。新しく生まれた三個を加えてふたりで二個ずつ分けた。

 僕は『楽園』に放り込んだ。

 ロメオ君は一つだけ鞄に仕舞い込んだ。

 残る最初の一個について確認する。

「タイプの種別はオリジナルのデーターか、複製体があればできるみたいだね。データーなんて貰ってなかったからなんのことかと思ったけど、ゴーレムその物のコピーを取ることだったんだね」

「それって、こんな方法でいいわけ?」

「正しい手段ではないんだろうけど…… 遺品に情報が残っているのか、近づければ自動で同じ物をコピーするみたいだね」

「Xタイプも? Xって何?」

「研究段階の仮の名称らしいよ」

「鏡像物質が反応したのかな? それとも金?」

「やってみる?」

「鏡像物質だと見えなくなるんじゃ?」

「タイプ別のマニュアルが自動作成されるって」

 マニュアルをめくっていた手が止まった。

「『複製には大量の魔力が必要である。複製器に魔力をチャージしておくこと。作業中、作業員は決して近付かないこと』? 複製器?」

「ポータルみたいなもんかな?」

「そんな物預かってないけど…… 大丈夫だった?」

「殆ど空っぽになった」

 飲み忘れていた万能薬を口に含んだ。ああ、染み渡る。

「僕だったら死んでたね」

「万能薬あるから大丈夫でしょ」

 ふたりでコアを見下ろしながら溜め息をついた。

「複製器って?」

「さあ……」



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