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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(西方より帰る)1

 兄さんたちがいる宿営地に寄って、山向こうの様子を報告してから、僕たちは予定通りヴィオネッティーの西部宿営地に向かった。


「何人か先に返したいから」と言って、僕以外の連中を全員、ゲートから帰還させると、僕は船をひとり操縦して、人目に付かない場所まで運んだ。船がなければ一緒に帰るのだが、そうもいかない。

 船を『楽園』に放り込むと、ボードだけを担いで宿営地までこっそり戻り、宿営地に侵入する機会を窺った。

 が、そう簡単にできないことはヴィオネッティーである僕が一番よく分かっている。

 隠れて入れないなら堂々と侵入するしかない。

「おや、坊ちゃん、まだいたんですかい?」

「御免、忘れ物しちゃって」

 わざわざボードを担いで飛んできた風を装った。

 まさか全員が転移ゲートで先に帰還したと思っていない守備隊員は、船が僕以外の者に操縦されて、今も帰路に就いているものと思っている。

 僕は適当に忘れておいた鞄を見付けて「船までゲートを使わせて貰うよ」と言って、スプレコーンまで飛んだ。

 スプレコーンの北口から森に入り『楽園』から取り出した船を浮かべる。

 夕日を背にしながら、僕はドッグ入りをひとりで行なった。

「これは、なかなか……」

 最近、面倒なことはテトに任せっきりだったので、入港がうまくいかなかった。

 改造に次ぐ改造で、感覚が微妙に違っている。

 高度を下げる際、船首が下がり気味になる特有の癖がなくなっていた。『浮遊魔方陣』のバランス調整がうまくいっている証だ。テトたちの日頃の努力の賜物であるが、カウンターを当てるのに慣れている僕は却って船首を上げ気味にしてしまって、天井に擦りそうになる。

 すべての技術は新造船や改修に生かされていく。分かっているが、操る側が取り残されるのは困りものだ。

 ドックに無事着陸すると、先に帰ったみんなが出迎えてくれた。


 あんなとこまで行ったのに何も積んで帰って来なかった。

「もっとやり合いたかったな」

 格納庫には使われなかったバリスタの矢が収まったままだ。

「充分面白かったですよ」

 パスカル君の言葉にみんなが頷いた。

「あんなにいっぱいの魔物見たことありませんでした」

「あんなでかい生きた魔物もな」

「魔物同士の戦いも」

「凄かった」

「魔物たちも生きてるんだなって」

「だから真剣だし、手強いんだ」

 みんな急にしおらしくなった。

 どうやらみんなやるべきことを見つけたようだ。

「明日は遅くなったけど正月をみんなで祝おう。餅食い放題だ」

「やったーッ」と子供たちははしゃいだ。

「じゃあ、日常に戻るかの。お主、迷宮にいかんでいいのか?」

 エテルノ様もパスカル君たちに同じことを感じていた。

 無駄じゃなかった。

 空中戦の不安は残ったままだけれど、代わりに得たものも大きかった。

 安全な世界から真実のありのままの世界に目を向けることができた。世界中の統治者の悩みの片鱗でも感じられたことは大きな前進だ。

 世界は僕たちが信じているより遙かに広い。

「明日餅つきできますよ」

 おかしな感覚だ。西方まで行って帰ってきたのにまだ一日経ってすらいない。

 エミリーは今朝僕たちを見送ったときと変わっていない。

「サンドゴーレムか……」

 さすがにこの時間では気が重い。が、一日も無駄にはできない。

 ヘモジは畑に、リオナも明日の正月祝いの計画を立てに長老の元に向かった。

「誰か一緒に行く?」

 オクタヴィアが肩に乗った。

「ご一緒してもいいですか?」

 ナタリーナさんとシモーナさんが立候補した。

「短期決戦だから、見てるだけだけど、いい?」

「はい。勉強になります」

 たぶんならない。一撃で終わるから。

「見てるだけでいいなら、わたしも行きます」

 フランチェスカが手を上げた。

「警戒だけはしてくれよ」

 僕たちは再び装備を整え、転移部屋からエルーダに飛んだ。


『神様の休日』も今日で四日目、冒険者の姿は疎らになったが、騎士団クラスの団体客は増えていた。

 冒険者ギルドも食堂も本来正月休みに入るはずだが、今年は政府通達でギルドが営業中なので食堂も営業中だった。

 僕的には迷宮がいつも通り使えるのは有り難いことだが、帰省組が多いのも事実だ。が、反面、今年は魔石の増産が叫ばれているし、来たる日を前に、慣れない魔物狩りの訓練に励む騎士団連中も大勢訪れている。差し引きゼロという感じだが、危機感は遙かに増している。

 僕たちはサンドゴーレムのいるタイタンフロアに向かった。

 タイタン見てみたいかと尋ねたら、今日はいいですと断わられた。

「サンドゴーレムとあんまり変わんないぞ」

「変わるから!」

 オクタヴィアに肉球チョップを食らった。

 女性陣には大受けだ。いつもと勝手が違って、少し恥ずかしい。が、オクタヴィアは却って楽しそうにしてる。

 フロアに侵入すると、あることに気付いた。

「これから転移を繰り返しますから。盾を必ず構えて侵入してください」

 ヘモジがいればよかったのだが。女性陣で盾を持ってきたのはシモーナさんだけだったので、僕の分をフランチェスカに渡した。

「安全が確認できるまでは全開で」

「はい」

「じゃあ、行くよ。砂嵐のなかだから驚かないように!」

 そうして僕たちは数回の転移を繰り返した。

「転移って便利ですね」

「術式だけなら、頼めばうちの姉さんが教えてくれるかも知れないよ」

「魔力消費半端ないんですよね」

「初めて使ったときは一発で空になったかな」

「エルネストさんでもですか?」

「まあね。でも当時は今の付与装備も作れなかったし、今ならみんなでも使えるんじゃないかな?」

「明日会えるんですよね」

「そのはずだけど」

 姉さんは昔から男性陣には恐れられるのに、女性陣になぜか人気があるのだ。

 嵐は収まり、目の前に、サンドゴーレムの影が現われた。

「何、あの大きさ!」

 シモーナさんが声を上げた。

 ゴーレムのイメージから大きく逸脱した存在だが、僕にはこのサイズのゴーレムの方がもはやスタンダードだ。通常のゴーレムはチビゴーレムと呼びたいくらいだ。

「じゃ、倒してくるから、ここで待機。オクタヴィアもな」

 僕は剣を抜いた。

「杖じゃないんですか?」

「この方がいいんだよ。余り破壊したくないからね」

 僕は『一撃必殺』を発動して急所を探る。よりによって本日の急所は頭頂部だ。

「じゃ、行ってくる!」

 僕は風魔法を使った加速式で一気に加速した。

 空は飛べないけど、跳躍と呼ぶには人外な距離を飛べるようになった。

 ゴーレムがこちらに気付いたようだ。

 のっそりと態勢を変えるが、遅すぎる!

 僕は足元の砂を緩めた。

 ゴーレムはバランスを崩して、傾き倒れ込むところを必死に右手で支えた。

 持っていた巨大な石の棍棒を砂の大地に打ち付けた。砂塵が舞い上がった。

 腕を撃ち抜いたことで耐えきれずに顔面を砂にめり込ませた。

「とどめだ!」

 豆腐を切り裂くような容易さで急所に剣を突き立てた。

「終わったぞー」

 僕はみんなに手を振った。

「ほんとに剣で倒した」

 しばらく待たせて、鏡像物質と金塊その他諸々が出現するのを待った。当然、鏡像物質に勘しては国王の名において黙秘して貰おうと思ったのだが、金塊や金銀財宝に目が行ってくれたおかげで発見されずに済んだ。オクタヴィアが何気に誘導してくれたのがよかったか。

 ちょっとわざとらしくはあったが。

「後でホタテな」

「ホタテッ!」

 無茶苦茶幸せそうな顔をした。

「この迷宮ってこんなに財宝が出るんですか?」

「真面目に働く気が失せた?」

「それとこれとは」

 ナタリーナさんが真っ赤になった。

「実際こいつと戦うとなると、何人で挑むことになるか。仮にもここは地下四十七層ですからね。しかもこのタイプはドラゴンと同じで回復持ちだ。とどめを刺せなければ延々と戦うことになるし、その内ゴーレムの魔力が尽きれば報酬も比例して劣化しますよ。こいつを普通に倒そうとすると、魔力の枯渇を待つようだから、量も質も今の十分の一以下です。それを大勢で分けるとなれば、標準的な報酬に落ち着くことになります。それでも数年間、遊んで暮らせるでしょうけど。死のリスクに見合ったものだと思いますよ」

「それを一瞬って」

「用事は済んだけど」

 僕は報酬を『楽園』に放り込んでいった。

 報酬の行き先を疑問に思われることもなくなっていた。

 慣れたということだろうか? それとも誰かが話したか?



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