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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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地下都市探求(略式判決)1

ワッペン→バッジに修正。

「ふざけるな! 俺が何したって言うんだ! なんでこんなことで死ななきゃならないんだ!」

 アガタは椅子を蹴飛ばし叫んだ。

「君が模倣したアイテムは物騒な品でな。それを所持するだけで国家間のパワーバランスを崩しかねない代物なんだよ。国家間の取り決めで、そのアイテムを落とす魔物を狩ることすら制限されている。まあ、そいつはオーガロードエンペラーというオーガ全部族の長でな、S級冒険者が束になってようやく狩れるようなやつなんだが。そいつに辿り着くまでがまた大変なんだ。最深部まではオーガの要害をいくつも抜けないといけないからな。一軍を動員しないと辿り着くことも叶わない」

 リカルドが真顔で語る。

「それほしさに一軍を動かして、オーガ相手に滅びた国も、ボロボロに疲弊して、結果的に隣国との戦に負けて滅びた国もあるって話だ」

 姉さんはチビ姉ちゃんを見上げて「座れ」と脅す。

「そういう物騒なアイテムなんだよ、それはね。過去、確認されただけで百二十七個。現存するのはわずかに十四個しかない代物だ。今日からは十五個だがね」

 あれ? 僕たちが持ち込んだ分は?

 僕の疑問を姉さんが察した。

「お前が本物と判定して持ち込んだこれは、モノとしては本物と遜色がないのだろう。このドワーフ娘の腕を褒めるべきだろうが、そもそもこれがレアなのはそのアイテムの持つ外装ではなく、内包されている力の方だ」

「外装に紋様が刻まれているなら付与されてる力も同じなのでは?」

「忘れて貰っては困る。これは人族の物ではなく、オーガ族の作り出した物だということを。そこに込められているのは付与ではなく、呪詛だということをな。いうなれば呪いだ」

 ロメオ君がビクリとなった。どうやら知らなかったようだ。

「付与ではなく呪いのアイテムというわけだ。呪いは『認識』スキルでは感知できない。教会の管轄だ」

「じゃぁ…… これは本物じゃない?」

 十枚のバッジを僕は見下ろした。

「すべてこの娘の贋作。というより習作か?」

 安心したような、残念なような気分を味わいながら僕は肩の力を落とした。

「俺死ぬのか……」

 ドワーフの姉ちゃんがポロポロと涙をこぼした。

「そもそもなんであんな場所に隠したの? 溶かしてインゴットにして再利用すればよかったじゃないの」

 マリアさんがチビ姉ちゃんを抱きしめながら言った。

「それ合金なんだ。オリジナルと同じ成分で作ろうと思って、成分調べて同じ材質で作ったんだ。でも借りた工房には分離する設備がなくて、再利用できなかったんだ。土魔法が使えればよかったんだけど、俺は魔法使えないから。だったら捨てた方が安上がりだと思って。そしたら鍛冶屋に来た冒険者が教えてくれたんだ。迷宮のなかに捨てればいいって。しばらくすればきれいさっぱり消えてなくなるからって」

 リカルドさんが頭を抱えた。

「どこの馬鹿だ。そんな入れ知恵した奴は」

 迷宮をゴミ箱代わりに使うなよ……

「こんな馬鹿な事件聞いたことないわ」

 姉さんも呆れ気味だ。

「どうする――」

「全然似てないのです!」

 僕の言葉を遮り、リオナが叫んだ。

「このバッジは『リーダーの証』と全然似てないのです! ダメダメなのです」

 リオナが姉さんを真剣なまなざしで見詰める。

「僕も…… 似てないと思います」

 ロメオ君が呟いた。

「似てる似てないの問題ではないんだがな……」

 リカルドさんが頭を掻きながら姉さんの方を見た。

「情報は外部に漏れてないわね?」

 姉さんが他の職員たちに尋ねた。

「我々が捕まえたのは不法投棄した娘とゴミだけです」

 周囲を見渡し、反対がないことを確認すると姉さんは言った。

「鍋や釘だけを作って一生を終える鍛冶屋もいるが、ドワーフは最高の武器を鍛えることを誉れとする種族だ。お前たちにとって鍛冶とは武器や防具を鍛えることだ。言うなれば人の命を預かる仕事だ。戦場で剣が折れて使い手が死んとしたらそれは誰の責任だ?」

「……」

「お前は責任ある仕事に就こうとしている。なのに複製禁止第一級特別指定アイテムのことすら知らなかった。あそこの魔法使いの小僧でも知っていたことをだぞ」

「はい……」

「己の不勉強を恥よ。腕はある。『認識』スキルすら欺ける程にな。ドワーフの誇りに掛けて精進するがいい。王宮魔法騎士団の名にかけて、略式判決を下す。迷宮内への不法投棄に付き、アガタ・コンティーニに当地ギルドにおいて一週間の奉仕活動を命ずる!」

「同ギルド長代理として同意する」

 リカルドさんが宣言した。

「エルネスト、あなたも宣言なさい」

 姉さんが言うので僕も「同意する」と宣言した。

「三人以上の騎士と貴族の同意を持って結論となす。以上を持って審議は終了とする。なお拘束中の監視はギルド長代理に一任するものである」

 

 チビ姉ちゃんことドワーフのアガタ・コンティーニの事件はここに集結する。

 姉さんはすぐさま得意の土魔法で証拠の隠滅を謀った。

『リーダーの証』の偽物は成分を分離されて一つ残らずインゴットに変換された。

「さて、困ったわね」

 テーブルの上には正真正銘本物の『リーダーの証』が残っていた。

「お父さんはゴリアテ村にいるのよね?」

 姉さんがアガタに尋ねた。

 ゴリアテは実家の領内にあるドワーフの村の名前だ。

 僕自身まだ行ったことはないが、ヴィオネッティーの領地の武具を一手に扱っている鉄製品の一大生産地である。

 彼らの武具なくして彼の領地の強力な魔物を討伐することはできない。

「村を知ってるのか?」

「ヴィオネッティーは実家だ」

 アガタは椅子から転げ落ちた。

「これはやはり返した方がいいだろう。これの存在がばれたら、お前、どうなるか分かったもんじゃないからな。あの村なら安全だ。うちの実家もあることだしな」

「猫ばばする気だろ?」

 チビ姉ちゃん、命惜しくないのか?

「するわけないだろ! それより早くここから遠ざけたいくらいだ。この村に災いが降り掛かる前にな」

「分かった。もし嘘ついたらあんたが盗んだって言い触らすからな!」

「じゃあ、決まりだ。エルネスト」

 え? なんで僕の名を呼ぶ?

「村まで頼んだぞ」

「ええ? なんで?」

「町の移住開放まであと数日しかないんだ。わたしは仕事が山積している。今日サボった分も含めてな。お前暇してるんだから行ってこい」

「なんでこんな奴に?」

 チビ姉ちゃん、それ以上は死ぬぞ。

「わたしの弟が何か?」

 微笑む姉さんの唇が震えている。

「ええ? こいつが? あ、いえ、このお坊ちゃまが…… いいえ、何でもありません……」

「じゃ、そういうことで」

 何がそういうことだ!

 姉さんは『リーダーの証』を僕に投げた。

「開放式典に間に合いたければ、すぐ行くことだ。リバタニアから村まで馬車で一日掛かるからな」

「今から?」

「ロメオ君は帰りなさい。ご両親が心配するから」

 僕たちは苦笑いするしかなかった。

「あッ、『証』は彼女の父親じゃなく、村の棟梁に訳を説明して預けるのよ。いいわね」



 僕たちは新型結晶を使ってスプレコーンに戻った。

 新型による転移の成功を喜ぶ暇もなく、ロメオ君と別れると、そのままアルガスに飛んだ。そしてアルガスのポータルから僕の実家のあるリバタニアに。


 少し痛んだウェルカムゲートが僕たちを出迎えた。

 日暮れ前、閉門前の慌ただしい時間帯だ。

 僕は急ぎ駅馬車を探した。が、さすがにこの時間から出る馬車はなかった。

 徹夜で馬を走らせる元気はないので、御者込みで馬車を探したが、見つからなかった。暇な連中は既に酒場に直行していたからだ。


 仕方がないので実家に泣きつくことにした。

「これは! おかえりなさいませ、お坊ちゃま」

 いきなり門番のスチアートが出迎えた。

「ちょ、ちょっと声がでかいよ。スチアート」

 大柄なスチアートが腰を折って、僕の背丈に合せてくれる。

「どうかなさいましたか?」

「家への挨拶は後にしたいんだ。急な用事でドワーフの村まで急いで行かなきゃならないんだ。馬車と御者を借りたいんだけどいいかな?」

「それならわたしの馬車を使うといい」

 上から声がした。

 バルコニーから見下ろす影が手を振っている。

「懐かしい声がすると思ったら、当たりのようだね。元気だったかい? エルネスト」

 優しい声が降ってきた。

「アンドレア兄さん!」

 相変わらず優雅な兄だった。

「ただいま。ちょっと用事があって」

 肩まで伸ばしたサラサラの長髪が風になびいて決まっている。


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