エルーダ迷宮ばく進中(宿営候補地を探す)99
「おわっ!」
轟音で窓のガラスまで痺れた。
「やり過ぎなのです!」
「兄ちゃんの馬鹿ッ!」
「鼓膜破れた!」
チコが耳を押さえた。
会話できてるんだから大丈夫だ。
耳を押さえながら子供たちが猛烈に抗議した。
「ほんと手加減ないんだから」
「これだけ広いから大丈夫だと思ったんだけど」
「広さは関係ないのです! 威力を考えて欲しいのです!」
「でも、見ろよ。火竜が空に一体もいなくなったぜ」
ファイアーマンが感激していた。
「効果覿面?」
「感電したんじゃないの?」
「いや、当たってないはず……」
「若様、自重してください!」
チコに涙目で怒られた。
「分かった。今度は静かにやるから……」
むむむと睨まれた。
「じ…… 自重するよ」
「禁止です!」
ヘモジがケタケタ笑った。
ロメオ君も爆笑した。
「もうその辺にしておけ? 移動するぞ」
なんだか、杖の威力が増してる気がするのだが……
「これで火竜が寄って来なくなったら、ここまで来た意味ないわね」
ナガレが言った。
「兄さんたちの目論見に貢献したってことでよしとしよう」
船は火口を左に見ながら回り込んだ。
火竜たちが首をもたげて横目でこちらを見詰めている。
「迷宮みたいに宝箱あったらいいのです」
「やだよ、あんなうじゃうじゃいる所に取りに行くの」
しかもたまに蒸気、噴き上げてるし!
「そろそろ信号弾上げないと」
パスカル君が言った。
「演習中につき、落下物に注意で」
『そんな信号ないよ』
「じゃあ、お構いなしで」
『演習航行中、上空警戒せよ、打ちます』
信号弾が規定に則り、数発、打ち上げられた。
「カラフルだな」
アルベルトさんを初め、みんな窓から棚引く色鮮やかな煙を見送った。
今度の大戦に合わせて配給されたものだが、指示表と合わせて、色の組み合わせで情報を送ることになっている。
「ご主人、赤くなった」
「レオ、浄化して」
「発射したら、煙がボワッときて、こんなんなったです」
好奇心旺盛なオクタヴィアと信号弾を発射したピノとリオナが、風に流された煙を被って色付いて戻ってきた。
「ああ! もしかして船も色付いたんじゃないか?」
「大丈夫だよ、水で落ちるって言ってたし」
「ならいいけど……」
それぞれアイシャさんとレオと僕に浄化されて、スッキリ、きれいになった。
「ナーナ」
ヘモジがリオナたちが付けてきた床の足跡の上に自分の足裏を合わせた。
「あ」
甲板出口まで足跡が伸びていた。
甲板に出たら船尾に向かって霧を吹いたようなカラフルな彩りが伸びていた。
「今後、船尾以外で信号弾は使わないように」
「穴の出現位置はどの辺だろうな」
地図と睨めっこする。
目印が乏しくてはっきりしない。
足元は深い森と細い河川が枝のように伸びた地形である。
火竜の巣の周りには危険なサイズの魔物たちはいなかった。元々いないのか、南下したのか。
さらに西を見ると結構な数が徘徊していた。
「火竜の巣を警戒しているのか……」
火竜様々だな。
火竜を排除してあいつらを呼び込むのとどちらが増しなんだろうか。
河川に分断された地形のなかで、なるべく広くて安全そうな場所を探す。
「天然の要害なんてそうそうないよな」
穴の出現位置より近くても遠くても駄目だ。
複数の目撃情報から大体の位置が分かってはいるが、それでも予測範囲は広いし、そこから現われる敵がどう動くか見当も付かない。
決め手はやはり兄さんだろうか? 無双持ちの王家の誰かだろうか? 誰にしろ、空から降ってくる柱の塔をどれだけ迅速に破壊できるかが、勝利の鍵になるだろう。
ミノタウロスタイプのタロスの進攻を食い止めるにはそれが恐らく一番だ。
そうなるとやはり飛行タイプの殲滅が雌雄を決する決め手になるのかも知れない。
「あそこどうですか?」
火竜戦のことなどほぼ頭からなくなり、要塞の建設予定地の選定作業をのんびり行なっていたところ、ちょうどよさそうな丘の上の岩場を見付けた。
が、ここで予想外の出来事が起きた。
「金色!」
そこにいたのは金色の怪鳥。それも竜に匹敵するサイズの鷲頭。
「サンダーバード!」
いきなり洗礼の落雷攻撃!
のっそりと巣から起き上がり、一撃目を堪えた褒美に巨大な翼を見せられた。
「うっわー。きれいだ」
暢気な連中である。
「まったくもう、以前、お前たちの子供助けたんだけどな」
『撃っていい?』
ピオトとピノが聞いてくる。
「一体だけか? 仲間がいるんじゃないのか?」
「上にいる!」
「やっぱり番か……」
「基本的に人は襲わないんだけどな。迷宮ならまだしも。よし、諦めた。他の場所を探そう」
取り敢えず、大戦を乗り越えられればいいだけだからな。恒久的な都を造ろうというわけじゃない。
「下がるぞ。火竜の巣とあいつらのテリトリーとの中間に壁を造ろう。でもその前に」
「お返しだ!」
雷には雷を返しておいた。
「飛空艇を舐められると困るからな」
チコに怒られたくないんで、ちゃんと手加減してな。
「なんか態度変わった」
僕のことかと思ったら、ビアンカが窓から覗いていた。
オクタヴィアも窓に張り付いて目を凝らした。窓が割れたら落ちそうだな。
「仲間になった。もう襲われない」
「は?」
何言ってるんだ、この猫は。という目で見られた。
「雷落とす鳥は全部仲間で決定!」
迷宮のサンダーバードにそんな意思表示はなかったけどな。
「単純過ぎんだろ!」
ファイアーマンが突っ込んだ。
「でもほんと。他の船もたぶん平気」
上空で警戒していた一体も巣に下りてきて、こちらに構わず羽を休め始めた。
「ほんとに警戒されなくなったみたい……」
「じゃ、予定通り中間地点に」
釈然としないものがあったが、助けたサンダーバードがうちの別荘に来る船を襲ったという話も聞かないから、案外、単細胞で律儀な奴なのかも知れない。
雪融け後の増水で浸水しないように土を盛って周りより高い地形を築く。
防壁を築いて、飛空艇が充分下りられるスペースを確保しつつ、見晴台も造る。
「いやー、魔法使いが大勢いると仕事がはえーな」
「サッサと手を動かしなさいよ」
ファイアーマンがナガレに怒られた。
みんなが形を作って、僕が強化する。
周囲の地形を削って、土砂を集めると共に、河川を呼び込み濠代わりにする。内側の整備は勝手にやって貰うとして、周囲を囲う壁だけは兎に角、頑丈に造った。宝石並みに堅くしたから障壁を張らなくても頑丈だ。
「魔物発見!」
パスカル君たちの演習は、空中戦から地上戦に移行した。
「これだけ濠が深ければこっちには来られないわね」
壁の上から物見遊山な魔物たちを排除する。やはり怖いのは空から来る連中だろう。
「外周が済んだら、お昼にしよう」




