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エルーダ迷宮ばく進中(雑煮と演習)97

 母さんから三日遅れの餅米が届いた。

 元日から十日。世間では『神様の休日』に入っていたが、世間は忙しかった。

 本来パスカル君がやって来た日が元日なのだが、我が家は餅米を待っていた。というのは嘘。今年は延期になったのだ。勿論、個人が祝う分には構わないが。

「今年はやらないのかと思ったです」

「元日、返上かなと思ってたんですけど」

「政府機関は返上だよ。二ヶ月後に大戦が控えてるから、祝うならその後だね」

 犠牲が多ければそれもなくなるだろうが。

「一日水にさらしますから、お祝いは明日ですね」

 エミリーが言った。

「姉さんにも知らせなきゃ」

「今年はさすがに誰も来ませんね」

「西方は今、大変だからな」

 今年は暖冬だから救われているが、それでも二ヶ月後は西方も雪が深くなる。

 冬の到来は大きな足枷であると共に好機でもあった。魔物の多くが寒さを避けて南下するからである。火竜もこの時期、火山帯から北へは行かないらしい。しかも南下すると言っても、南西方向で、尾根の向こう側なので南部の領地が襲われることもない。

 ルートを確保することが急がれるなか、雪の少ない今こそが最大の好機なのだ。

 橋頭堡ができて初めてこちら側の準備が整うことになる。

「国の政策にも批判が出てきてますよね」とシモーナさんが言う。

「仕方ないですよ、今年は。今は進むしかないんですから」とパスカル君が答える。

 とは言え、日常も大事。前線の人たちには悪いが、祝い事も必要だ。

 村の正月の祭りは『目覚めの祭典』の日。神様が起きてから行なうらしい。聖都に行ってる暇はないな。

「火竜は? いかないですか?」

「帰り、転移して帰れば充分行けるよ。朝、祝ってから行く手もあるけど」

「朝から餅か…… 胃がもたれそう」

 移動してる間にこなれてくるだろうが、ただ祝った気にはならないだろうな。

「お餅はいつでも食べられますから」

「悪いな。一日ずらそう」

 帰ってから祝うことにした。姉さんも来るだろうし、その方がいいだろう。


 翌朝早くに僕たちは出立した。『神の腰掛け』を経由して、高速気流に乗ってリバタニアに。

「なんでちゃんと祝わないの! あんたが横着してちゃ、駄目でしょ!」

 母さんに怒られた。

「リオナちゃん、お雑煮食べる?」

「お雑煮?」

「お餅入ってるわよ」

「食べるのです!」

「ヘモジちゃんもね」

「ナーナ」

「四日遅れのお祝いしましょ」

 屋敷に着いて早々、正月祝いが始まった。これから狩りがあるのに……


「いただきまーす」

 屋敷の食堂では入りきれないので、会議室のテーブルにクロスを掛けただけの食卓で雑煮を頂いた。

「おー、うまい!」

「やっぱりお餅は美味しいよね」

「なんだこりゃ、ふにょふにょだ」

「未知の食感じゃ」

「エテルノちゃんも里から降りてきちゃったの?」

「里は退屈じゃからな。アイシャだけ遊ばせておくのは不公平というものじゃ」

「お知り合いですか?」

 ロザリアが尋ねた。

「昔、遠出をしたとき、たまたま知り合ってね。一緒に旅したのよね。まさか長老になったあなたが息子と連んでるなんて、驚いちゃったわ。長老になれたことも驚きだけど、里の崩壊も近いとか、よく言ってたわよね。里は今、無事なのかしら?」

 エテルノ様も大概だが、母さんも突っ込みが容赦ない。

「そうだ! ターキー」

「ああああ! もう時間ないから、また今度!」

 危機を察して僕は席を立った。

 兄さんも父さんもいないので、情報集めは現地で行なうことにする。ふたりとも駐屯地にいると言うから、寄ることにした。

「じゃあ、これ、お兄ちゃんたちに持っていって頂戴」

 と言われて雑煮セットを渡された。


「ヴィオネッティーって田舎貴族じゃなかったのかよ!」

「あの飛空艇の港なんなの! 飛空艇だけで三隻あったわよ」

「あれ五隻は留められるぜ」

「修理用のドックまであったわよね」

「スプレコーンより凄いんじゃない?」

「新しい食材で儲けたかな?」

「また船、買ったのかな?」

「お餅で儲かったですか?」

「醤油かも?」

 当然、そんなわけないのだが。

「照り焼きおいしいのです」

『どうするの? ヴィオネッティーの駐屯地に寄ると、南から進入することになるけど』

 操縦室からテトが言う。

「兄さんたちが敵もいない南で大人しくしてるとは思えないんだけど」

「聖騎士団の辺りまで来てますかしら?」

「なおさら情報が必要じゃ。ここは宿営地に向かう方がいいじゃろ」

「一気に山越えしたかったけどな」

『手前で下りるよ』

「任せた」

「それにしてもこの気流、凄ーな。西方まで、あっという間だぜ」

 アルベルトさんが言った。

「その分、下りるタイミングが難しいんだよ」

「何か来る!」

「火竜か?」

 全員窓に張り付き、周囲を見渡す。

「見えた! 正面!」

 ピノが見付けた。『鷹の目』は伊達じゃないか。

「戦闘準備!」

「すれ違い様に撃ち落とせ!」

「無理、突っ込んでくるよ!」

『こっちでやるよ』

 展望室のピオトが言った。

「いいぞ、やってくれ。誰か応援を」

「俺が行く」

「わたしも」

 ファイアーマンとフランチェスカが最上階に向かった。

 手の空いたものは窓に張り付き迎撃に備えた。

『バリスタ装填!』

 火竜相手に勿体ないが仕方がない。

 操縦席を見下ろす観覧用の窓から、外を見ると、鳥のような影が接近してくるのが分かった。

『ごめん、降下時間!』

 テトが言った。それと共に船がジェットストリームから抜け出して降下し始めた。

 蛇行していた河川が、整地され真っ直ぐ森のなかを流れていた。そして岸辺には果てしなく長い壁が築かれていた。

「こりゃ凄いな……」

「まだ戦闘中です! 若様」

 チコに怒られた。

「付いてきたのか?」

 多少流されたようで、敵の姿は後方にあった。

『発射!』

 ビュンとものすごい勢いで矢が射出された。

 もっと鈍重な物をイメージしていたが、強化し過ぎたかな。見えない速さで目標まで一直線。敵が回避しようにもその時間は与えられなかった。

 火竜がバンと弾けて空中に四散した。その爆音が森の鳥たちを大空に羽ばたかせた。

「……」

 僕たちは余りの破壊力に言葉を失った。

「あれ何本積んできたのかな?」

 ロメオ君が聞いてきた。

「取り敢えず五十本かな」

 そのせいで格納庫が木材置き場みたいになっているのだが。

「進路半転、南に向かう」



しまった。この世界の正月は…… 一月前倒しだったんだw

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