エルーダ迷宮ばく進中(備えあれば)96
朝食後、障壁を破壊するのに必要な魔力量を算定するために、迷宮に入る準備をしていた。
次のドラゴン戦でと思っていたのだが、それが分からないと、今日中にバリスタ用の矢を準備できないから急ぐことにしたのだ。チコにも怒られてしまうし。
測定用のサンプルを何本か作ったので、その鏃を撃ち込んで検証する。
と、朝食のテーブルで伝えたことで、見学したいという者たちが現われた。
同行者はヘモジとオクタヴィア、見学者はパスカル君たち一行と、ピノとレオである。
ピノに関しては戦闘中、扉から内側に入らない約束で連れて行くことにした。実際スキルのないピノに使用させようかとも思ったのだが、さすがに危ないのでやめさせた。
レオに関してはドラゴンにちょっかいだけ出させてサッサと称号を取得させてしまおうということになった。伯母さんが難色を示したが、同年代の他の連中が皆、取得したのにレオだけというのは厳し過ぎると判断した。ハイエルフの寿命からすればまだ早いと言うことになるのだろうが、生きた年月でいったら僕と変わらないのだ。
ついでに弓が得意な彼であるから、彼に『アローライフル』を撃って貰うことにした。
あくまで魔力消費量が分かればいいので、サンプルを撃ち込んで貰えればいい。倒すのが目的ではないから、お互いの目的に適った方法だと判断させて貰った。
見学だけでは退屈するだろうから、竜種が出たら、パスカル君たちにも参加して貰うことにした。そこで精々、新装備の付与効果を確認して貰うことにする。
昼には解散する予定である。
最初のドラゴンはダークドラゴンだった。
ピノは喜んだが、正直やりづらい。
こいつとやるときはロザリアにいて欲しい。
そう言えばパスカル君たちのチームには回復役がいないんだったよな。レベルが上がってきたら考えないといけないなと、思ったところで考えを改めた。
その頃にはみんなバラバラなのだと。
魔法学院に通ってまで冒険者をやる奴はいない。特権を約束されているのだから。皆、家に帰って、領地や家のため、あるいはアルベルトさんのように塔に入り、国のために働くのだ。
寂しさが去来する。
「始めないの?」
オクタヴィアが僕の瞳を覗き込む。
「今回は動き回るぞ。しっかり掴まってろよ!」
レオには扉の外から狙撃して貰う。
野生のダークドラゴンと迷宮補正版がどれ程違うか、見せて貰おうか。
「ヘモジ、危なくなったら頼むぞ」
「ナーナ」
ミョルニルをホルスターからしゃきーんと抜いた。
「行くぞ!」
僕たちは扉のなかに入った。
「あ!」
忘れてた。エテルノ様いないんだった。
思い切り眼飛ばされていた。喉袋は既に満杯。
いきなりのブレス攻撃!
通路側にも炎が届いて見学者は慌てた。
ピノは盾をかざして全員をガードして見せた。
さすが、反射神経が鬼だな。
レオも普段通り、ピノの影に入っている。
あいつが盾を持ってるなら安心だ。
パスカル君たちも付与効果の一端を感じているところだろう。
「魔石補充してあるか?」
「当たり前だろ! それより何失敗してんだよ!」
くそ、失敗だと気付いたか。
尻尾が飛んできた。
結界で防がずに衝撃波を食らわした。
ダークドラゴンはいきなりの衝撃に吹き飛んだ。
扉の後ろで雑音がした。
「レオ! 十三番からだ!」
起き上がると、警戒して距離を取ってくれたのでレオは安心して『アローライフル』を構えることができた。
まずはこのくらいだろうと思うサンプルの矢を撃って貰った。
レオの射た鏃は障壁に命中したが、破壊する前に四散した。
「げっ、まじですか」
ダークドラゴンはこちらをあざ笑うかのようにブレスを喉袋に溜め始めた。攻撃とはこうするんだと言わんばかりに魔力を最大限に膨らませた。
だが、ミョルニルが飛んできて、膨らませた喉袋ごと、首を大きくへし折った。
こちらがガンガンに魔力を放出してるので、チョロチョロしているヘモジに気付かなかったようだ。
「十四番いきまーす!」
二発目が撃ち込まれた。
見事に相殺した!
「記録しろ!」
「りょうかーい」と扉の向こうでレオの声がした。
今度は少しだけ威力の高い十五番で狙わせた。
すると矢は残り、障壁が一枚きれいに破壊された。
「よし、ダークドラゴンはこれでいいかな」
僕はヘモジに合図を送った。
駆け出したヘモジを横目に、僕はダークドラゴンの頭上に雷を落とした。
直撃をもろに食らったドラゴンは叫んだ。
残光のなかでミョルニルの強力な一撃が顔面に入った。
思い切り振り切った!
ズンッと地響きと共に首が石畳みの床にしなだれ落ちた。
「ナーナーナ」
勝利のポーズを決めた。
「前半グダグダだったが、まあいいだろう」
ダークドラゴンは数が取れていないので回収することにした。
「弱かったか?」
ヘモジに尋ねたら頷かれた。
「クラースさんの祠にいたダークドラゴンは一撃じゃ倒せなかったもんな」
測定したデーターをどこまで嵩増しすればいいのか考えてしまうな。
フェイクでも現われてくれたら実測できて、倍率を出せるのだが。
暗黒竜が出現したのでパスカル君たちの出番になった。
本日は闇属性の日か?
僕、抜きでやりたいと言うので任せることにした。
念のためにヘモジを盾役に立たせたが、危なくなるまで手を出すことはない。
皆も、今回は自前の魔法の盾を持ってきたので問題ないだろう。
そう言えば、魔法学院では魔法の盾の講義と演習がカリキュラムに加わったそうだ。どうやら冒険者より早く魔法使いの必需品になりそうだ。
ピノが「俺も!」とアピールしたが約束なので却下した。
「うわっ! 一撃で!」
暗黒竜が空から落ちてきて、命中させたアルベルト当人が驚いた。
這いずりながら、ブレスを吐かれた。が、散開して盾を構えてやり過ごした。
「全然熱くない!」
そりゃよかった。
集中攻撃を一斉に浴びせかけ、暗黒竜を沈黙させた。
そして自分たちも黙り込んだ。
「エテルノ様が国宝級って言ってたけど……」
「本当だったんだ……」
ドラゴンと引き替えだからな。相場だ、相場。
「やっぱ、兄弟子は半端ねーな」という話になっていた。
「地味だけどな」
オクタヴィアがプクククッと笑いをこらえた。
「昨日、ホタテやったろ!」
「地味だって」
「ナーナ」
なんかむかつく。次にドラゴンが出たら派手に葬ってやるからな!
タイミングよく出現してきたダークドラゴンを衝撃波一発で仕留めてやった。
どうだ! 見たか! 僕だって、アイシャさん張りにやればできるんだぞ!
「あの、測定は?」
すまなそうにレオが聞いてくる。
「あ……」
忘れてた。
「なんか、エルネストさんらしい」
「ほっとするわ」
お前ら、僕をなんだと思ってるんだ! ヘモジの付き添いじゃないんだぞ!
午前中をフルに活用して、僕たちは作業を完了した。レオの目的も果たせた。
皆、食事をしてから午後も迷宮に潜るというので、現地解散して、僕はヘモジとオクタヴィアを連れてサンドゴーレム狩りをしてから、一足早く帰宅することにした。




