エルーダ迷宮ばく進中(余韻2)95
家に帰ると今までできなかった話題を一斉にぶちまけ始めた。
やれ、カラードは凄かっただの、自分たちの攻撃はダメダメだっただの、喉の奥にブレスの如く溜め込んでいた溶岩をまき散らしながら男性陣は風呂に向かった。
昨夜は女性陣が先だったので、本日、女性陣は後で利用するか、大浴場に向かうかである。
朝方はだいぶ冷え込んできていて、コタツの存在感が日に日に増してきているが、まだこの時間は暖炉だけで耐えられた。
そんななか、ただでさえ混んでいるのにピノたちが遊びに来た。
ファイアーマンがドラゴンを大量に狩ってきたと言ったら大喜びして撥ねた。
「今日もブルー肉だ!」
「まずそうに聞こえるから略すな」
青色の肉を想像すると確かにうまそうには見えない。
「そういえば最近、この町に肉の買い付けに来る人が増えましたよね」
チッタが言った。
「そうなのか? 値崩れ起こしてるとか?」
「値段改定したろ。あれからランク落ちした肉を買っていく連中が増えたんだよ」
「なんかさ、ドラゴンの肉ならなんでもいいって感じなんだよね。あれってよくないよ」
テトが言った。
肉屋はちゃんと考えて値段付けてると思うけどな。
「僕たちが食べる肉がなくなったらどうしよう」
ピオトが本気で心配している。
「兄ちゃんたちはいいけど、俺たち庶民はどうすりゃいいんだぁああ!」
「庶民がドラゴンの肉なんか食べるかよ!」
「いいよ、たかりに来るから」
「在庫がなくなりゃ、値上がりしてその内落ち着くよ」
「それはそれで買えなくなるじゃんか!」
お前、迷宮で稼いだ金を全部、肉に注ぎ込んでるんじゃないだろうな?
「それより明後日、船出すからな」
「バリスタの矢できた? どのくらいおっきい?」
チコが聞いてきた。
そうだ本番用の鏃を用意するはずだった。
「あ、忘れてた」
「もう、しっかりしてください!」
チコに怒られた。
「明日中に準備しておくよ」
「矢の材料持ってきたよ」
それが言いたかったのか。
「ありがとう」
矢と言ってもバリスタの矢だから、シャフト自体、チコの身長より長いし、僕の腕より太い。城塞防衛用のバリスタに比べれば遙かに小型で軽量だが、それでも巨人が使う弓矢程度の大きさはある。鏃の大きさはもはや『アローライフル』の比ではない。
魔石(特大)をそのまま装填しても余りあるが、さすがにそれでは勿体ない。ただ空気抵抗が増す分、射程が短くなるので、誘導型の仕掛けが重要になる。石が大きくなれば魔力の蓄えにも余裕が生まれるので、その辺はもう、やりたい放題である。
ドラゴンを一撃で沈めるためには、多重結界を無効化しなければいけない。禁止されている貫通弾の応用が使えれば楽かと言えばそうでもない。多重結界は個体差があって、五枚の障壁の幅はバラバラである。一枚しかない障壁を突破すればそれまでの闇蠍とは違うのだ。目測で障壁の幅を測り、転移距離を一々調節するなんてことはできないのである。
そこで雷撃の効果時間を延ばして結界を無効化する仕組みを採用しようかと思う。当り判定を増やすことで障壁を破壊し、潜り抜けようというわけだ。
ナガレのブリューナクの攻撃を地で行くのである。それだけの魔力を鏃に仕込めるのがバリスタの長所ということだろう。六発一度にたたき込めれば一発は当たる勘定だ。そうなれば追撃も容易くなるだろう。
「障壁を一枚破壊するのに必要な魔力量の算定が必要になるな」
次のドラゴン戦で確認するか。そのためのサンプルを何本か作っておく。
他にも投下型の巨大鏃や、使えそうな物を幾つか用意する。
「魔法が届かない遠距離は小型バリスタと『アローライフル』の誘導弾で始末できれば言うことないんだけどな」
居間で子供たちとパスカル君たちがカードゲームを楽しんでる横で僕は図面のような絵を描いていた。
「リオナの『アローライフル』でも五十層の敵には通用したのです」
「それは手持ち武器なら使用者のスキルが乗るからだろ? リオナの『ドラゴンを殺せしもの』の称号あってのことだ」
「据え付けのバリスタだとどうなのか、ということか? 一度、試すしかないの」
「もしかして俺たちは使わない方がいいってこと?」
ゲーム中のピノが口を挟んだ。
「『チャージショット』も『鷹の目』もあるんだから上出来だろ? 『結界破り』は魔石に任せりゃいいさ」
「じゃあ、リオナちゃんが使う鏃に関してはその辺は抜いて、威力にでも振った方がいいのかな?」
パスカル君が言った。
「いざとなったら皆で使い回すからの。汎用性があった方がいいんじゃよ。まあ、今回は自重しない宣言もしておるしの、こやつに任せておけばよい」
しないとは言ってないよ。かもって言ったんだ。
「そうだ、宝石を選んで貰わないと。アクセサリー用の」
僕は地下にサンプルを取りに降りた。
デザインは迷宮で拾った、いいなと思える現物を参考に。術式は僕が刻むことにする。姉さんが暇なら頼めたのだが、それともギルドに頼むか。いや、この際、完成まで面倒見ようじゃないか。
「術式の面倒は我が見て進ぜよう」
「え、いいの?」
「石に見合った物を彫って進ぜよう。自慢の石を見せてみよ!」
エテルノ様がサンプルの石を取り上げて、まじまじと見詰めた。
「……」
「固まった?」
エテルノ様が動かなくなった。
「こんなに…… ゴロゴロ……」
危ない人のように独り言を呟き始めた。
ゲームを遊んでいたみんなも視線を向ける。
「なんでじゃあ! 国宝級の石がゴロゴロと……」
「エルリンが加工してるです。リオナたちのとんでも装備はエルリンとレジーナ姉ちゃんの合作なのです!」
リオナのピンク色の指輪を見せびらかす。
自分でとんでも装備とか言わないように。
「まあ、よいわ。後でまとめて刻んでやる! あの女ほどの技量はないが、このなかでは我が一番じゃ」
だそうなので、みんなが選んだ石に刻印して貰うことにした。付与は一律全員同じとした。
「もっといい石あるんだけど?」
「そんなもん恐れ多くて手が出せるかぁ!」
エテルノ様に報酬が発生してしまったので「ブルードラゴン一体でいい?」と尋ねたら「いるか、そんなもん! これでよい」と、恐れ多いと言っていた石を一つパクられた。
ブルードラゴン一体と、その石一つじゃ釣り合いが取れないんじゃないだろうか?
かつてのヘルメス装備が入っていた宝石箱をまねて作った物に収めて、翌日、全員分を提供できた。予定していた能力を十分発揮した物になっていた。




