エルーダ迷宮ばく進中(余韻)94
夕方のおやつの時間は盛り上がった。
オクタヴィアも場の空気に当てられ興奮して走り回った。
「ホタテ、ホタテ!」
なぜかホタテを要求してきた。
干した貝柱を渡してやったら、通路の端まで駆けて行った。
途中でホタテを落としたようで、転がるように反転して確保した。ヘモジを警戒して身構えた。が、ヘモジはパスカル君たちとはしゃいでいた。
貝柱に歯を立てながら、何もなかったかのような顔をして、すごすごと戻ってきた。
女性陣はすっかりケーキパーティーの装いで騒がしかった。
ナタリーナさんもつっかえていたものがなくなったようで笑顔が絶えない。
シモーナさんはまだ戦い足りないようでエテルノ様に指導を受けていた。
シュークリームにパンプキンパイをぺろりと平らげて、後半戦への活力に替えた一行は進化を実感するために積極的にドラゴンに挑んでいった。
「防御は装備に任せるにしても、後は空中戦じゃな」
「団体で飛んでるのってワイバーンぐらいしかいないんだよな、この迷宮」
「火竜の巣に行くしかないね。山の裏側、どこかの管轄になったのかな?」
「まだどこも本隊は辿り着いてないでしょ?」
「穴が開いても誰も現場に到達できないってのはやめて欲しいね」
「一度どうなってるか、確認した方がいいわね」
「西に行くならリバタニアに寄れるから、情報収集してからでもいいかな。でも行きはいいけど帰りが時間が掛かるんだよな」
「飛空艇を飲み込むときが来たの」
「ドラゴンをこれだけ飲み込んでることだしね」
「帰りはヴィオネッティーの自治区から、ゲートを借りて戻るのがいいじゃろう」
「それだったら教会の管理区の方が近くありません?」
「目立つから遠慮しとくよ」
「ですわね。聖都に招待でもされると面倒ですものね」
「ちょっと! 手伝ってくださいよ!」
「しっかりせんか! たかが炎竜三体ぐらい、落として見せよ!」
助けなかったらまんまと三体に宙に逃げられてしまっていた。
「ブレスが来るぞ」
「ちょっと、どれからやればいいのよ!」
入れ替わり立ち替わりで、ダメージを与えても回復されてしまっている。
普段からどんなに連携が取れていても、回復能力の高い敵を複数相手にすると、どうしても翻弄されてしまう。ダメージを与えた敵が後方に下がろうものなら、無理に追い掛けて残りの敵に囲まれる。ごちゃごちゃしている間に復活を果たされ戦線に復帰されてしまってパニックになる。
「まだまだじゃな」
竜は竜でも炎竜が相手だとこうなるか……
僕の結界の練習にはなるけどね。
「加勢する?」
オクタヴィアが聞いてくる。
「僕がやるよ。とどめは任せるから」
珍しくロメオ君が手を上げた。
何をするかと思ったら、電撃を当てて手前の二体を床に落としただけだった。
パスカル君たちの攻撃で疲弊している一体だけが宙に残った。
「パスカル君!」
「あ、はい!」
パスカル君たちが一斉に攻撃を加えた。さすがに全員の攻撃となると一撃である。地上に落ちた二体が息を吹き返した。
ロメオ君は何もしない。手解きはした。理解したかはパスカル君たち次第だ。
パスカル君たちに足りないもの、それは戦況をコントロールをする役者がいないことだ。劣勢に立たされたときほど必要になる役なのだが。元々パスカル君のチームではダンテ君がそれをしていたように思う。でもシャイな彼は先輩たちに気兼ねしているのか声が出ていない。そして先輩たちも数で劣勢であるが故に、主導権をパスカル君たちに預けてしまっている。
現状の攻撃力では個人でコントロールしろというのも無理な話だろうが、できないわけじゃない。なんのために数がいるんだ。
「右を攻撃しろ!」
叫んだのはナタリーナさんだった。
「シモーナはわたしと左の敵を足止めするぞ!」
「はい!」
「了解!」
危なっかしいところはあるが、パスカル君たちの集中攻撃は功を奏した。一方、ナタリーナさんとシモーナさんの方はナガレがたまに手を貸してなんとか抑えきった。
その残された最後の一体がブレスを吐いた。視界が炎に包まれた。
が、炎が引いたとき、炎竜はとどめの一撃を一斉に浴びた。
残されたのは落ち込んだ一行だった。
「浮き沈みの激しい連中じゃの」
攻撃力は付け焼き刃でどうにかなるものじゃないけれど、装備付与である程度は補えるものだ。火竜を狩りに行く前に装備を整えるか。
「明日は休みにしよう。全員にアクセサリーを用意する。代金は今日の狩りの成果だ」
付与は標準的な物でいいだろう。防御力以外は魔力増加と魔法回復力、魔法攻撃力強化で。
「もう少し狩っていくか。サクッと」
結界ばかりでフラストレーションが溜まってないわけではないので、一丁やってやるかと思ったのだが、出番がなかった。
「ゴーレム倒してきたからお休みなのです」
「倒したのヘモジだから」
「じゃあ、ヘモジもお休みなのです」
「ナーッ!」
もう一体の竜種は飛ばない竜だった。
「無翼竜だ! 四体もいる!」
飛ばないってだけで、なんかほっとする。
「それにしても久しぶりだな」
「昔落っことされたのです」
そういや、そんなこともあったっけ。
「ナーナーナ」
ヘモジが抜け駆けした。
「ずるいのです!」
「あ、少し残せ……」と言う前にふたりでサクッととどめを刺してしまった。
「ナナ!」
「リオナの敵ではなかったのです!」
ふたりして得物を収めるポーズを決めた。
「だったら譲れよ!」
「これは食べておいしいですか?」
肉はもう要らないからな。
「ちょっと焼いて欲しいのです」
肉片をファイアーマンにちらつかせた。
「おー、任せとけ!」とファイアーマンも乗りがいい。焼けた肉を一緒に啄んで、「普通」と判定を下した。
全部、魔石に変えた。
次はまたアースドラゴンだった。アースドラゴンはやりづらいからいいってのに。
「ナ」
対峙して睨み合ってるし……
なんだこのチビとか思ってるんだろうなと、アースドラゴンを観察していたら、ナガレの雷が落ちた。
隙ができた瞬間、ヘモジはミョルニルで脳天を叩いた。
「ナーナ」
連係プレイが決まった。
「やっぱり雷撃じゃ即死しないわね」
なんだ、たまたまか。
結局、出番がないままお開きになった。




