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エルーダ迷宮ばく進中(勝利)93

遅くなりました。

「焼き肉定食大盛りで!」

 本日まだ何もしていないリオナがそう言うと、「俺も」「わたしも」と、パスカル君たちのテーブルにはずらりと同じ皿が並んだ。

 そして絶句する。

 この店の料理は冒険者仕様で普通盛りでも充分多いのだ。

「ナー」

「肉食……」

 ヘモジとオクタヴィアが感心して眺める。

 こちらのテーブルは日替わりやら焼き魚やらサラダ大盛りやらでバラバラである。足りないときにはミートパイだ。

 十人の団体客は充分目立つが、全員が学院の制服のままだからなお目立つ。フードを被ったら怪しい集団のできあがり。そのテーブルに焼き肉定食大盛りがずらりと並んでいるのだから困りものだ。

「忘れてたわ」

 ビアンカたち女性陣は既に苦戦することを予感していた。

 必然的に会話が減ることになった。皆、夢中で食べた。

 真っ先に食べ終わったリオナが「ちょっと物足りないのです」と言った瞬間「わたしの上げる!」と女性陣の皿が飛んできた。

「大盛りが一人前できたな」

 ファイアーマンとパスカル君が冷静に見詰める。

「ダンテ、貰ってやろうか?」

「ン、平気」

 今度はリオナが動けなくなった。

「胃腸薬が欲しいのです」

「ナーナ……」

 ヘモジが鞄から取り出したる物は。

「ば!」

 先輩たちは「万能薬!」と言い掛けて口籠もった。落ちてこない餌に背伸びする鯉のように口をパクパクさせながら指差した。奇跡の薬が胃腸薬である。

 大抵リオナも別の理由で薬は使わないのだが、さすがに今回は家のようにソファーに転がるわけにもいかないので無理はしない。末端価格いくらだか、とんでも薬をジュースを飲み干す気安さで飲み干した。

 それで思い出したかのように皆、自分たちが当たり前に受け取っていた万能薬の価値を再認識したようだ。午前の戦闘中に舐めながら戦っていた小瓶が一人頭、もう二瓶空になっている。一瓶いくらと換算したら、ドラゴン戦がいかに持ち出しが多いか気付いたようで青くなった。

 これから装備も整えていかなければいけないのに、懐具合が心配になったようで、本日の稼ぎの話をしようとした。

 話題を口に仕掛けたところで、エテルノ様がストップを掛けた。当然こんな場所でドラゴンの話をされては困るのである。

「あ……」と気付いて、パスカル君たちは口をつぐんだ。

 時間が時間なので客がゾロゾロ増えてくる。

 支払いはすべて阿吽の呼吸で僕持ちで、待ってる客に冷たい視線を向けられるその前に早めに席を立った。


 地下十一階の眠り羊のフロアーで、食後の休憩を取って貰う。草の上で膨らみ過ぎたお腹を今のうちに凹ませておいて貰おう。

 僕はこの時間を利用して、ヘモジを連れて僕自身のノルマ、サンドゴーレムを一体倒しに行くことにした。


 最近、横着を覚えて、砂嵐を転移して越えられるようになったので、フロア到着後、転移を挟んで即戦闘に入る。

 さすがに同じ場所で狩りを繰り返せば土地勘が芽生えるわけで『竜の目』と合わせ技でポイントを作ることが可能になったのである。

 ただ、鏡像物質を見付けるのだけは時間が掛かる。

 凍らせてやれば霜が付いて多少発見し易くなるので、最近は局地的にブリザードを起こしている。

「よし、帰るぞ」

「ナーナ」

 ヘモジを肩に担いで、脱出する。


 午後の部はいきなり攻撃の効きにくいアースドラゴンから始まった。

 結界がないから喜んだのも束の間、他のドラゴン同様手こずっていた。急所の位置を教えても、なかなかうつむいて貰えず、苦慮していた。

 結局、持久戦になった。

 ヘモジとリオナが加勢する気満々だったが、なんとか倒すことができたようだ。

 彼ら曰く、結界がない分、楽だったそうだ。

 そういうことになるのだろうか。

 しばらくドラゴンは出てこなくなり、竜種とばかり戦う羽目になった。僕たちが特訓してどうするんだという感じだったが、本日はスピード重視なので仕方がない。

 長い間、救援のために待機していて、フラストレーションが溜まっていたふたりに任せた。

 物理的に竜を葬っていくふたりの姿を見て、パスカル君たちはこれまた驚愕の眼差しで見詰めていた。

 二種目が現われたのは大分経ってからだった。その間、アースドラゴンと三戦していた。

 現われたのはコモドだった。長く待たせたお詫びに現われたかのようなタイミングだった。

 パスカル君たちは同じドラゴン種でも弱過ぎるこいつに驚いた。とはいえブレスも結界もあるし、空も飛ぶ。僕たちのサポートがないと少々危なっかしいのは変わらないが、さすがにここまで来ると三人の先輩との連携も取れてきた。

 これでパスカル君と数人はフェイクを以前から狩っていたので、スキルを手に入れることとなった。

 そしてその結果を次の戦いで披露したとき、十人の魔法使いは歓喜に沸いた。

「うおぉおおおおお!」

「通ったぁあああ! 結界を貫通した!」

「ダメージ増した!」

 え? そうなの? 僕とロメオ君は顔を見合わせた。

 たぶんそれは気のせい。

 ブレスにも強くなってると思うが、今は実感させられない。

 残りのメンバーのやる気が俄然上がった。

 おやつの後にと思っていたが、勢いを消すのもどうかということで、休憩を挟まず、このまま済ませてしまおうということになった。

 一旦外に脱出して、もう一度入り直した。

 そして、記念すべき五種類目。ファイアードラゴンと戦うことになった。

 数人貫通する攻撃が繰り出せるようになっただけで、戦いは円滑に進むようになった。まず、ナガレがやっていた飛び立たせないための対処もブレスに対するカウンターも、自分たちでこなすようになっていた。障壁を気にしなくなった分、目一杯の攻撃ができるようになったせいで、確かに攻撃力も増していた。

 暑苦しい敵にほぼ何もさせずに、戦闘を終えたことにこちらが思わず感心してしまった。


 そして、待ちに待っていたその時が来た。

 全員が泣き叫んだ。喜びの涙だ。それはドラゴン戦の苦しさから解放された反動であったが、僕たちにはなかった感動だ。仲間と一緒に勝ち得た報酬だった。

 ナタリーナ・ファーゴも泣いていた。他のふたりも照れながら涙を拭った。

 エテルノ様とロザリアももらい泣きしていた。

「おめでとう」

 僕たちは感動を邪魔しないように小さな声で彼らの勝利を讃えた。

 


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