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エルーダ迷宮ばく進中(特訓)92

 次の扉も残念ながら竜種だった。石竜は二度目の登場だ。単発だったのでヘモジが叩いて終わらせた。

「また一撃?」

 ナタリーナさんは悔しさと驚きを綯い交ぜにした表情を浮かべた。


「お?」

「扉が冷たい……」

 僕の言葉にパスカル君たちがゾッとなった。

「ブルードラゴンかな?」

「ナーナ」

 ヘモジと一緒に中を覗いた。

「残念、スノードラゴンだ」

「どこが残念なんですか!」

 新種が出たので、パスカル君たちに頑張って貰うことになった。

「ブルードラゴンよりだいぶ楽に感じるはずじゃ。結界を破る役と、その後にでかい一撃を当てる役を決めておくといい。どこの部位を狙うかもな」

 アイシャさんが珍しく助言した。


 カラードとの差を実感する結果となった。

 結界を破った後の隙は明らかにブルーとの比ではなく、攻撃を何発もたたき込めた。おまけに回復速度も早過ぎるということはなかったので、ダメージの蓄積も早い段階から始まっていた。とは言えスノーの体力はドラゴンのなかでも上位に位置するから、削りきるまでにはやはり時間を要した。結果的に敵の魔力が尽きる前に首が落ちる方が早かった。

 なんか、ナタリーナさんに見詰められているのだが……

「なんだろ? 何かしたかな」

「エルリンが万能薬を一度も飲んでないから、変人だと思ってるのです」

「誰が変人だ!」

 リオナがクスクス笑った。

「回収するぞ」

『楽園』に放り込んだ。


 次に出てきたのはブルードラゴンだった。

 連戦させようかと思ったのだが、休憩時間が迫っていたので僕たちが見本を見せることになった。

 部屋に飛び込むと、いきなりナガレが近接型の雷撃を頭上に放った。

 ブルードラゴンは麻痺して一瞬、固まった。

 ロザリアが光を頭上に灯した。

 次の瞬間、ブルードラゴンの頭が後方に大きくしなった。そしてそのまま長い首が反動で前にしなだれ落ちた。

「大人げないの」

 エテルノ様が呟いた。

 アイシャさんが衝撃波を開いた口のなかで炸裂させたのだ。

「ナガレがうまい具合に口を開けさせてくれたのでな」

「あの雷撃は口を開けさせるために?」

 パスカル君たちが感動する。

「偶然に決まってるでしょ!」

 ナガレが照れた。

「これって、ふたりで倒したってことよね?」

 パスカル君たちがざわつき始めた。

 ロザリアが人数に入ってないぞ。それとも召喚獣のナガレがか?

 自分たちが一時間近く、全力を費やしてようやく仕留めた相手を一瞬で仕留めたのだから当然の反応だが。


 予定通り休憩を挟んだ。

 どうせ全員は入れないので休憩所を出さずに、通路に椅子とテーブルを造った。

 僕のリュックからお茶菓子とお茶っ葉とティーポットが取り出された。

「ポポラのタルトなのです」

「ナーナ」

 ヘモジが甲斐甲斐しくパスカル君たちに皿を届けて回る。

 オクタヴィアはその後に続いてウロウロしている。

 元気を出して貰おうとふたりも気を使っている。

「あの……」

 ナタリーナさんが珍しく僕に話し掛けてきた。

「これって本当に意味があるんですか?」

 さすがにこの問いには驚いた。既に説明はしたし、分かっているものと思っていた。でも当然と言えば当然だった。彼女との間にはパスカル君たちとの間のように信頼関係がまだ築けていないのだ。

 耐えた先に見合うものがあると信じられなければ、人は努力できないのも真理だ。カラード相手に楽しければいいなんて発想は存在しない。

 それに世間一般ではスキルの習得は偶然の産物だと考えられているから、こちらが「がんばってドラゴンを五種類倒せば」と条件を提示しても懐疑的にならざるを得ないのである。

 何より彼女のプライドが言わせたのだろう。学園一の才女が、実戦では思うように戦えない。昨日も今日も。後輩たちにも先を越されているような気がしてならないのだ。

「わたしたちの戦闘が一瞬で終わるのはおかしくないですか?」

 ロザリアが答えた。

「わたしたちの攻撃がドラゴンの障壁に掴まったことがありましたか?」

 余程テンパっていたのだろう。ようやく納得できる答えが見つかったようだ。

「繰り返しますが、あなたたちにこのスキルを取得して貰うのが本日のテーマです」

「リオナたちも全員持ってるのです。疑う余地はないのです」

「取り敢えずお茶でも飲んで、落ち着きましょう」

 パスカル君が場を収めた。

「パスカル、お主たちも相当常識からずれておるんじゃぞ」

 エテルノ様が言った。

「本来ドラゴンがこの人数で狩れる生き物だと思っておるのか? 狩れている段階で異常なのじゃぞ。お前たちの与えているダメージすら常人に比べたら破格なのだ。大軍率いて一日掛かりでやるところを一時間でやってのけたのじゃ。じゃからな娘よ、もっと胸を張れ。今日この場に参加できたことを褒めてやることじゃ」

「たまに長老になる。いいこと言った」

 オクタヴィアが茶々を入れた。

「我はほとんど長老じゃ!」

 いつもじゃないのかよ。

「取り敢えず五種類倒すことじゃ。異論はその後、聞くとしよう。言っておくが名簿に名が刻まれた以上、逃げ場などどこにもないと思え」

「あ!」

 僕のポポラのタルトが!

 モグモグモグと頬を膨らませたヘモジが僕をチラ見した。


 正午まで皆全力で戦った。

 出直して新しいドラゴンとやってもよかったのだが、替えずに戦わせた。理由は、兎に角ドラゴンとの戦闘に慣れさせるためだ。

 二度、三度と同じ相手と対すれば、おのずと見えてくるものがある。それは余裕が生み出す観察眼というものだ。

 敵がよく見えるようになるし、味方を含めた戦況を把握できるようにもなる。たとえ対峙するのがカラードだったとしてもだ。魔法の組み立て、仲間との連携、最善を見付けるために頭を働かせるのだ。

 もはや泣き言を言う者はいない。

 午前の部、最後のとどめを刺したのはナタリーナ・ファーゴであった。

 一旦外に出て、昼食を挟んだら、新たなドラゴンとの対戦が待っている。



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