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エルーダ迷宮ばく進中(特訓)91

 パスカル君たちがやってきた。先輩を三人連れてきた。のっぽと姉御と異国の少女だ。

 午前中は材料集めをしていたので出迎えられなかった。

 鏡像物質と金塊を落とすサンドゴーレムはどんなに頑張っても一日に一度しか湧かないので、必用な量が取れるまでは毎日相手しなければならない。

 一方、飛行石は穴を掘らなきゃいけないので別の意味で苦労する。まず炎竜をミノタウロスになすり付けてから、採掘開始である。

 金塊がある程度集まったので久しぶりに同じ重さの飛行石を入手することにした。そのせいで帰りが遅れてしまったのだけれど。

 僕が構想していた要塞だったらもう充分な量なのだが、王家からの依頼ではまだまだ少ないようだ。要塞は現在、魔法の塔監修の下、我が別荘地の魔物博物館になる予定地で建造中である。

 蛇足であるが、向こう側に行く第一陣の名簿が発表された。

 年寄りばかりをわざと選んだようで、そのなかに爺ちゃんと近衛第一師団の副団長も含まれていた。総勢、千人が居城とする空中要塞である。転移ゲートさえ稼働すれば、人員の入れ替えは可能になるのだが、問題は現実に繋がるかどうかだ。繋がらなければ、向こう側に渡った千人は戻ってくることができなくなる。

 そう思うと、少しでも多くの資材を、より早く、建造に回したいと思ってしまうのである。

 地上の穴までの要塞の移動は爺ちゃんがしてくれるので、移動の苦労を考えずに済むのはありがたい。ギリギリまで建造に時間を割くことができる。それをやってるのは姉さんたちなのだが。

 ちなみのこちら側の転移ゲートはゲートキーパーさえ設置できれば、どこのポータルからでもアクセスできるようになるらしい。勿論、誰でも、どこでもという訳にはいかないが。

 起動さえしてくれれば、設置さえできれば、増援を送れるのだ。


「要塞の底ができあがったぞ。後は側壁を築いて多層化していくだけだ」

 夜になると姉さんがやってきた。

「飛空艇、何隻持っていくの?」

「隠密船を二隻と中型艇を五隻だ」

「隠密船を造ってるの?」

 後回しにするって言ってたのに。

「今ある船の外装を覆うだけだ」

「こっちから船は持って行けないんだよね?」

『楽園』に入れていけば可能だろうけど。魔石が現地調達できるかどうか。

「物資搬入用のゲートが使えるか未知数だからな。魔力のあるこちら側からなら、一方的に送ることも可能かも知れんが。安全と恒久性の検証が済むまではゲートキーパーに手は付けられん」


「なんだこりゃ!」

 歓迎会がいよいよ始まった。

 初の空中戦ではだいぶ落ち込んでいたみたいだけど、みんな持ち直したようだ。

「姉さん」

「ん?」

「ありがとう」

「早めに気付けてよかった」

 僕と姉さんも食堂に向かう。

 肉に驚いていた面々は、姉さんの登場でさらに盛り上がった。

 姉さんには珍しく、笑顔を多めに振りまいていた。

「あんたの周りにはどうしてこうも美人ばかり増えるのかね?」

 アンジェラさんにからかわれたから「自分も入ってます?」と言い返したら殴られた。

 パスカル君たちに大笑いされた。

 明日のために、パスカル君たちは今日の失敗を必死に笑い飛ばしていた。



 翌日、ロメオ君とロザリアとおまけを加えて、五十階層に潜った。

「この先の扉すべてにドラゴンか竜のどちらかがいる。竜はこちらでやるので、君たちはドラゴンとだけ戦うように」

 そう言って僕たちは狩りを始めた。

 今日のところは午前と午後のおやつを挟んで前後で三回出入りを繰り返して五種類のドラゴンを狩ることにする。

 彼らがドラゴンに対してアドバンテージを獲得することが第一目標である。後は装備を整えるための資金稼ぎだ。

「ブルードラゴンなのです!」

 いきなりの大当たりである。

 まず多重結界を削らなければいけないのだが、まずそれができない。障壁の回復が他のドラゴンに比べて早過ぎるのだ。結界を砕くにはみんなのタイミングを揃えなければいけない。突破できなくても相手の魔力も消費されるので完全に無駄にはならないが、非効率この上ない。

「突破した! 今だ!」

 一斉攻撃が障壁を貫通した。

 ワンランクもツーランクも上のパスカル君たちの魔法攻撃がそれなりにダメージを与えていく。

 ブルードラゴンが反撃のブレスを吐こうとするが、なんとかカウンターを当てて凌いでいた。

 接近は僕が障壁を張って防いでいたし、飛び立とうものなら、ナガレの雷撃で羽を焼かれた。

「なるほどの。普通の戦闘だと、こうなるのか」

 エテルノ様が、チキンレースになっている現状への感想を述べた。

 ブルードラゴンの体力は減ってもすぐに元通りになっていく。魔力が消耗しきるまで、まだ大分掛かりそうだった。

 ここで手を貸すことは簡単だが、僕たちはそれを必死にこらえた。

 手を出してしまったら、彼らがドラゴンの手強さを感じずに終わってしまうからだ。これは『ドラゴンを殺せしもの』の称号を手に入れてしまってからでは、経験できないことなのだ。ドラゴンの怖さを目の当たりにするチャンスは今しかない。

 装備が行届いていない以上、守りは僕たちがするが、攻撃に手を貸したりしない。つらいだろうが、このチキンレースを続けることが必要なのだ。

 魔力が尽きてきたようで、順番に万能薬を舐めていく。

 そして大きな一撃を次々かましていく。

 全員汗だくである。

 氷の世界も吐かれたブレスの回数だけ溶けて、蒸気に変わっていく。

 敢て僕はブレスの直撃以外はスルーした。パスカル君たちの冷房の面倒までは見なかった。だから彼ら自身で結界を張ってどうにかするしかない。複数の魔法を同時展開しないといけない。学業トップの彼らにはなんてことないはずだが、現場の緊張感のなかでどこまで冷静でいられるか。

 三人の先輩はドラゴンを見るのが初めてな分、相当焦っているようだ。

 パスカル君たちより上位だということだから、実力が出せていないと見るべきだろう。

「後三割じゃ!」

 エテルノ様が敵の魔力残量を指摘した。

 辛そうな顔をしていた十人の顔に血の気が戻った。

 暗中模索のなか、灯った一筋の光明が見えたのだ。自分たちがちゃんと前進していると気付けば、勇気も湧いてくる。

 追い込みは見事なものだった。

 結界の修復も回復も遅くなり、段々目に見えてダメージが蓄積されるようになると、皆勢い付いた。

 そしてとうとうドラゴンが膝を突くときが来た。

 ズズンと腹に響く衝撃と共に巨大な頭が床に落ちた。

「終わったの」

 パスカル君たちは床にへたり込んだ。

 僕は全員の間を抜けて骸に手をやると、腹を捌き、心臓を取り出した。

 そしてでかい図体と切り出した小片を『楽園』に放り込んだ。

「フェイクと全然違うよ……」

 パスカル君もさすがに愚痴をこぼした。

「まだ手が震えてる」

 ダンテ君もみんなも息が荒れていたが、興奮冷めやらぬ様子だった。

「次もブルードラゴンでお願いするのです」

「お前、鬼だな」

 一時間近く、戦い続けていたので、竜だ、ドラゴンだと言っていられなくなった。次は僕たちが替わることにした。二種目のドラゴンが出るまでだが。


 ワイバーンの群れがいた。

 昨日の今日で、パスカル君たちは深い溜め息をつく。が、戦闘は一瞬だった。

 まとめてナガレが一撃で葬った。

 パスカル君たちはきょとんとしている。

「肉はまずいので魔石にするのです」

 待ち時間ができてパスカル君たちはほっと胸を撫で下ろした。

 


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