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閑話 一足早い冬休み3

 昼食になると家主が帰ってきた。

「やあ、パスカル君、みんな、いらっしゃい」

 先輩たちの自己紹介を済ませると、午後から予定通り外出することになった。

『身代わりぬいぐるみ』や落下時の『緊急脱出用の転移結晶』や薬品セットや脱出時の防寒用の火の魔石(大)を渡された。

「エルリン! バリスタの矢を忘れてるのです!」

「あ、そうだった」

 リオナちゃんに言われて、地下に駆けていった。

「なんか普通」とシモーナさんが言った。

「ほんとにお前の兄弟子か?」

 アルベルトさんも信じられないようだ。

「ヴィオネッティーなの?」

 お姉さんを基準にすると、子供にもなめられるレベルのエルネストさんは女帝にも超大人し目に見えるのだろう。

 はっきり言って三人掛かりでも勝てないから!

「お待たせー」

 ピノたちが地下から戻って来た。

「各自忘れ物チェックじゃ」

 子供たちは互いに向き合い、装備のチェックを始めた。そうこうしてるとエルネストさんも戻って来たが、手ぶらだった。

「先行くよー」

 子供たちが先行する。

 ロザリアさんとロメオさんは参加しないのか。

「空中戦か、楽しみじゃの。ワイバーンというのが気に食わんが」

「まあ、訓練ですから。でもレベルは迷宮ととんとんですから」

「ドラゴンの巣があるのじゃろ?」

「ありますけど。あそこで空中戦するのはちょっと無理があるかな」

「なんじゃ、自信がないのか?」

「いえ、全部倒す羽目になるので、資源保護の観点からそれは勿体ないかと。どうせ明日は迷宮で特訓ですから」

「怖いこと話してるよ!」

 ダンテ君が青ざめている。

「相変わらず怖ー」

 ファイアーマンもビビってる。

 先輩たちには声は届いていないようだ。

 リオナと楽しい夕飯の話をしてる。

 子供たちがゲートに消えたので、改めてゲートを発動させ、僕たちは後を追った。


 目の前に以前と少し形の変わったエルネストさんの飛空艇が浮いていた。

「いつでも行けますよ」

 商会の整備担当が言った。

「あの魔導具は凄いですね」

「ブラックボックスですか?」

「ええ」

「量産できないのが難点ですね」

「中、見れませんかね?」

「王家の封印入りですからね。首、撥ねられちゃいますよ」

「棟梁、酒の勢いで開けてくれませんかね?」

「ひどいな」

 ふたりの軽口を聞きながら、船に乗り込んだ。

 最後にエルネストさんが乗り込む。

「ゲート解放!」

 ドックに光が差し込んできた。

「ご武運を」

「ありがとう」

 ハッチがバンと閉められた。

「行こう」

 僕たちは階段を上がって、ラウンジに出た。

 先輩たちは初めて見る飛空艇の内部に目を見張っている。

「やったー。バリスタ付いてる!」

 ピノが飛び跳ねてた。

「うるさい、ピノ。必要な場所にすげ替えられるようになってるの!」

 チコがたしなめた。

『こっちにも付いてるぞー』

 展望室からピオトの声だ。

「全部で四門だ。重さの関係ですべての窓に据え付けられないからな。床のロック用の金具に三脚を固定して使うんだ。今から設置と取り外しの練習しとけよ」

「ロックのある窓も調べておきなさいよ」

 チッタが言った。

「どこだよ?」

「回転窓がある所よ」

『上はターンテーブルが付いてる!』

「セッティングできるか?」

『重い…… 助けて』

「俺が行く」

 ファイアーマンとダンテが螺旋階段を駆け上った。

「船内を案内します」

 チッタが先輩たちを連れて下の格納庫に連れ出した。

 さっきチラ見した感じでは、居住区のオプションが積んであった。

 僕たちも船内を見て回ろうとしたら、動き出した。

 外のハッチを抜けると、そこはもう滝壺だ。

「うわぁあああ」

 足元で先輩たちの声が聞こえた。

 操縦室にいるようだ。

 ここから離陸するときは、ほんとちびりそうになるよな。

 妙な浮遊感に襲われると次は加速と遠心力が身体に掛かる。

『ワイバーンの巣に向かいます』

「了解」

 しばらくすると先輩たちが戻って来た。

「凄ーな、この船」

 アルベルトさんが嬉々として窓を覗き込んだ。

 

『これより限界可動実験を始めます。全員身体を固定してください』

 リオナちゃんがデッキに上がって、すぐ戻ってきた。

 僕たちの私物もすべて固定されたボックスのなかに収められた。

「船内異常なし」

 船内の安全確認が済むと船が加速を始めた。

『オプション加速ユニット、正常作動中、これより試験を開始します』

 突然、遠心力が襲いかかった。

 船が弧を描きながら傾き始めた。

「あわわわわ……」

 急に船首が真下を向いた。錐揉みに入る。

「うわぁあああ」

「凄い! 凄い!」

 手摺りに安全帯を掛けながら、子供たちは身体を宙に浮かせて楽しんでいる。

 船首が上がった。今度はどんどん上昇を始める。そして倒立すると、こんどは重力に引っ張られるまま、後方にずり落ちながら首を振る。

 そこでまた旋回。側面を底にしたまま。船首を下に。

「酔う、絶対に酔う!」

 大きなループを決めながら、最後は最大加速。そして急停止。

『実験終了。各部点検開始』

 僕たちは全員トイレに飛び込んだ。

「なんであいつらは酔わないんだよ」

「どういう神経してるのかしら」

「探索スキルを使って視点を船の外に持っていけって言うけど、無理だから」

「気持ち悪い……」

 デッキに上がった僕たちは全員、床に転がり、干物みたいに太陽を浴びる。

 吹き抜ける風が冷たいけれど気持ちいい。


「いやー、丈夫だな。どこも壊れてないよ」

 船体のチェックにエルネストさんたちがデッキに上がってきた。相変わらず暢気だ。

「これからワイバーンとやるんだろ! 壊れたら困るじゃんか!」

 ピノも元気だ。

「それにしても凄かったのです、今回のカリキュラム。他の船ではやめた方がいいのです」

「テト、凄かったな。ノーミスだったぞ」

「兄ちゃん、テトの試験じゃないからな」

「いやー、ドラゴンに追い掛け回されたら、きっとこんなもんだろうと思ったけど…… ここまではないな。確信した」


 日差しが熱い……

「エルネストさんの馬鹿」



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