エルーダ迷宮ばく進中(報告後)85
帰りは警備も関係ないので、ゲートで一発、帰宅した。
「それにしても聞いてないぞ」
狭い転移部屋に出て早々、アイシャさんがエテルノ様に突っかかった。
「そりゃそうじゃ。言っておらんからの」
「僕もびっくりしましたよ。里と航路を繋ぐなんて」
「我もびっくりしたぞ!」
え? エテルノ様がなんでびっくりするわけ?
「いやー、嘘も方便じゃと思ったのじゃが、話がでかくなってしもうたな。いやー参った、参った……」
全員が沈黙した。
「嘘?」
「そうなんですか?」
「思い付き?」
「はったり?」
「嘘でしょ?」
「今頃、王宮は大変なことになってますよ!」
「困ったことになったの……」
「『困ったことになったの』じゃないだろ! どうする気じゃ!」
何もない所に煙は立たない。エテルノ様は少なからず、内心では考えていたはずだ。ただ、それを口にするのはずっと先になるはずだった。何を好き好んで騒動のど真ん中で、新たな騒動を引き起こそうというのか?
「どうすると言われても…… もはや撤回できんじゃろ?」
「当たり前じゃ! お前がお調子者だと言うことを忘れておったわ!」
「宰相様たち帰っちゃいましたよ?」
「どうするつもりじゃ! 里になんて報告する?」
「このままでいいんじゃないかな」
僕は言った。
元々僕を助けるためについてくれた嘘だ。もしエテルノ様の一芝居がなかったら今頃、集めた飛行石も鏡像物質も、金も含めて丸ごと没収されていたかもしれない。後は自重しろの連呼、下手したら今度こそ『災害認定』されてたかも知れない。
「決して悪い計画ではないと思うし、里と直接というのは無理だとしても、エルフの前線の村辺りとならありだと思うけど。隠密船はハイエルフの所有に限って認めて貰ったら? いや、そもそもエテルノ様は治外法権みたいなもんだから、許可なんてそもそもいらないんじゃないかな? なんだったら王国じゃなくてもミコーレでいいわけだし。当然、秘密の港も」
「その辺は国も考えるんじゃないかな?」
ロメオ君が言った。
「僕は駄目でも造るけどね」
「大丈夫なの?」
「運用するかは兎も角、なきゃ困るだろ? ロメオ君のゴーレムどこに置くのさ。町の地下に眠らせておくつもりじゃないよね」
「あれはまだ完成してないし」
「コアを貰ったってことは、今度の戦いに間に合わせろってことじゃないの?」
ナガレが言った。
「そうかな…… でも確かに運用しようと思ったら、移動手段は必要だよね。飛空艇じゃ運べないし」
「『楽園』で運べるのは起動前の物だけかもしれないからな。一度起動したゴーレムを『楽園』に回収できるかはやってみなきゃ分からないし。停止ボタンでもあればいいけど」
「二ヶ月で完成すると思う?」
「最低一体はできるんじゃないかな?」
「そう言えばゴーレムの件は報告しなかったわよね」
ロザリアが言った。
「襲撃に間に合うか微妙だし。それに僕としては穴の向こうで活躍して貰えればそれでいいと思ってるんだよね」
「ええ? そうなの?」
「僕たちがゲートキーパーを向こうに設置して要塞造っても、向こうの防衛まで僕たちがするわけじゃないからね。ゲートの維持自体は管理人がしてくれると言っても、外敵の面倒までは見てくれないでしょ?」
「確かに四十九階層のミノタウロスみたいな集団やドラゴンの類いが襲ってきおったら、西方遠征にすら手を焼いておるような連中では心許なかろう」
「そもそも我らが向こうに出向くことになるかも疑問じゃ。こう見えて一介の冒険者じゃからな」
「よくよく考えたら、その要塞も結局、僕たちの物じゃなくなるんだよね?」
「ああッ」
「何? 今、気付いたの?」
みんなに見られた。
「要塞の移動だって魔法の塔が付いてるんだから、僕たちの出番はないと思うよ」
ロメオ君が言った。
爺ちゃんがいるからな。
「じゃあ、ゴーレムの話はなしで。そうか…… 僕たちの分と二つ造らなきゃいけないのか……」
「いい性格してるね」
「ゴーレムは将来、ロメオ工房の大事な商品になるんだから。買って貰えるなら別だけど、ただでくれてやる気はないよ」
「ゲートキーパーって一つしか貰えないのですか?」
「そういう話だけど」
「てことはその要塞の中立性って相当重要な課題になるわよね。こちら側は王国の管理になるわけだし、他の国が納得するかしら」
「嫌な予感がするの」
エテルノ様が言った。
「お前が蒔いた種じゃろ!」
「こりゃ急いで里に帰らんとな」
ふたりはお鉢が自分たちに回ってくると確信したようだった。何せゲートキーパーの技術はハイエルフの物であると大嘘をつくわけだから。保守点検だけでなく、維持管理までこれ幸いにと丸投げされる可能性は大であった。
その場合、僕たちが同行できる可能性は増えるけれど。拠点防衛なんて冒険者のすることじゃない。
話は尽きなかったが、夜明けは待ってくれない。結局、散々空論を戦わせておきながら、僕たちだけじゃ何も決まらないと結論付けて話を切り上げた。
「明日は肉祭りの相談もしないといけないのです」
リオナは言った。
確かに今を謳歌するのも大事だな。
「そうだ、解体した肉、もう届いてるのかな?」
ま、いっか。もう寝よう。




