エルーダ迷宮ばく進中(次なる一歩・その前に)77
町に戻った僕たちはサリーさんにお土産を持たせることにした。
今日の回収品だけでなく、宝物庫で眠っている売却か処分かのボーダーラインにある武器を提供することにしたのだ。
使って貰えるならそれに越したことはない。
「ミスリルがこんなに?」
付与的にはずれなので保留にしていた物だ。
素材の性能だけでも結構使えるはずだが、代わりがないわけでなし、恐らく保管期間を過ぎれば素材に変わっていた代物だ。
迷宮で宝物庫を漁ると、必ず武器も大量に手に入る。
四十階層以上で使えるのはその内の一、二本程度だが、目下、金塊集めに勤しんでいるので、我が家には二十本近いストックが眠っていた。
それらはすべてレンタル行きの予定だが、それ以外の物は売却か処分され素材になる予定であった。
我が家の査定標準は既にソウル品になっていて、レンタル品のレベルもソウル品であるから、守備隊の武器レベルと逆転してしまっていたようだ。
ドロップ品は獣人用という位置付けだから、その差に気付く者は余りいなかった。
元々獣人の身体能力は人族以上だから、個人的に優れているのか、武器が優れているのか、人族側からでは判断できなかったのだ。
まあ、個人的に獣人兵士の何人かはちゃっかりレンタル品を使い始めているのだが。
リオナがレンタル品候補を持ってきた。
「村のレンタル品になる予定なのです」
ドロップ品とは思えない無駄のない、まるで図ったような付与効果が付いていた。
たった今、サリーさんがすべて持ち帰ると言っていた品のワンランク上の品である。
支払いはヴァレンティーナ様ということで、こちらも全部引き上げて貰うことにした。
獣人用の装備は付与なしか、ドロップ品頼りなので、なかなか良品が集まらないそうだ。
人族にばかり魔法装備が供給されている現状をサリーさんなりに危惧していたらしい。これで上級クラスから順にいい物が与えられると喜ばれた。
恐らく過去に『銀団』に卸した物も回り回って騎士団に配給されていたのだろう。
ヴァレンティーナ様が何も言わないところをみると、そういうことなのだ。
僕らからすると、いつも通りの買い手に商品が渡ったということだろう。
いっそこれからは微妙な品の選定は向こうに任せてしまおうか。
「まずは食べてみんことにはの」
エテルノ様が言った。
領主館の大広間に舞台を移して、ドラゴンの肉の試食会を行なうことになった。
余りに多くの種類が獲れてしまったので、値踏みのためにも序列を付けておこうということになったのだ。
旧来品の値段の改定も含めて、結構大事になってしまった。
すべてを備蓄できない以上、選別する指標を設けることは必須であった。
参加するのは姉さんたちと僕たち、料理長以下数名の宮廷料理人と、『アシャン家の食卓』を代表して、ドナテッラ様とアンジェラさん。それとマギーさんたち商会の一部と、味にうるさい連中がこぞって集まった。料理研究家のキャロル女史も王都から飛んできた。御用商人の『肉屋サダキチ』の店主、サダタロウ氏も姿を現わした。残念ながら料理評論家のマーロー氏は不在だったらしい。
出される肉は以下の通り。
ブルードラゴン、レッドドラゴン、ダークドラゴン、ホーンドラゴン、ツインテイルドラゴン、アイスドラゴン、スノードラゴン、ファイアドラゴン、アースドラゴン、コモドにフェイクの十一種類である。
途中経過は抜きにして、保存される肉はブルードラゴン、レッドドラゴン、ダークドラゴン、
ホーンドラゴンに決まった。
他の肉もすべて放出されるわけではないが、比重は大分落とされることになった。
我が家に関しては、ダークドラゴンは加工がいるので、すべて領主館に放出するとして、カラードの二種類とホーンドラゴンに切り替えることにした。
我が家から放出される肉に関しては『アシャン家の食卓』ですべて買い取って貰えることになった。
旧来通りの五種をまとめて、城の保管庫の方に備蓄することに決定した。今回上位に決定した肉に関しては値段が値段なので、単品で供給される量は限定的であると考えられた。必要なときに必要な分だけ我が家から供給することに決まった。
上位四種を今後町の備蓄とし、溢れた物に関しては王都を初めとした各都市にばらまくことになった。
翌日、僕は備蓄の運搬作業に従事することになり、朝から晩まで働かされることになった。
その分解体費用を無料にして貰ったのだが。
リオナたちは『迷宮の鍵』を持って、四十九階層の宝物庫への最短ルートの構築に向かった。
後で持ち帰ったお宝は重量制限一杯一杯の微々たるものだったらしい。
僕のありがたさを痛感したようだ。
一方、僕の方はまず白亜の城に我が家の肉の在庫を移し、追々解体される上位四種類の肉を一体分ずつ保管できる空きスペースを設けた。
町の備蓄倉庫も、新しい四種の肉に切り替えるべく、備蓄を放出し、空きスペースを作った。
もの凄い数の車列が街道に沿ってできあがっていた。
何が起こったのか理由を知らない町の人たちは、引っ切りなしにやって来る荷馬車の列に目の色を変えた。
新しく下ろしたすべてのドラゴンの解体にはその後、一週間を要することとなった。飛空艇の生産も大量に入った『第二の肺』のおかげで、一気に進むことと相成った。
「毎年やってくれんかの?」
備蓄調整が始まった日の夜、我が家で祭り用に分けておいた肉を食ってるおっさんがいた。
「お代わりあるのです。たんと召し上がれなのです」
リオナが甲斐甲斐しく給仕をしていた。
「おお、済まぬな、リオナよ。これはなんの肉じゃ?」
「それはブルードラゴンなのです。ナンバーワンの肉なのです。今のところは」
「ハッハッハッハッ、今のところはか?」
ダンディー親父がお忍びで来ていた。
「さすがは我が―― うにゃうにゃうにゃ、剛毅であるな」
「まだ見たことのないドラゴンが一杯いるのです。楽しみなのです」
「わしも楽しみにしておるぞ」
親子で実に楽しそうである。いっそ、家督を譲って隠居でもしたらどうだ。
いやいや、前言撤回! 我が家に入り浸りになられてはたまったものではない。
「ところでなんで毎年やって欲しいですか?」
「それはな、肉を移送すれば、領境を越えるときに関税が掛かるだろ? そうすると領地からその利益の一部が税金として王宮に振り込まれるわけだ。ただ肉を領地から領地へ移しただけでな。通過するすべての領地からそうやって何度も税金が入って来るわけだ。どうだ、ボロ儲けだろ?」
あんたがそれを言っちゃまずいだろ?
「だから王都で食べる食材はどれも割高なのよ。それにうちも今回、大分税金払うことになるんですけど、減税してほしいわね」
ヴァレンティーナ様とそのお付きも護衛で付き添っていた。
「分かった、上限を設けてやる」
「さすがに今回は額が額だしな。王都の料理店の売り上げからも入ってくるだろうし」
ダンディー親父は食事を終えると、お土産を抱えてそそくさと帰っていった。宰相殿に内緒で来たようだ。
土産に王都で発行される様々な情報誌を置いていった。
「アイシャさんが喜ぶな」
スプレコーンの話題が載った物ばかりだった。
今夜辺り、ピノたちがやってくるだろうと思ったが、さすがにやばいと感じたのだろう。やって来たのはその翌日の夜だった。
リオナを筆頭に『大肉祭り』の計画立案が成された。
「もっと新しい肉が欲しいのです」
やっと落ち着いたのに、しばらく掻き回すのはやめてほしい。
翌日、僕たちは四十七階層に改めて調査に入った。
場所は古のゴーレムがいる北エリア。そのスタート地点が印のある大体の場所だった。




