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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・次なる一歩、その前に)76

 ピノ以外の子供たちが固まっていた。

 ヴァレンティーナ様がいるので食堂を避けて、わざわざギルドハウスで食事を取ることにしたのだが、なぜかピノのチームがタイミング悪く席に着いていた。

 突然の領主、というよりここではギルドマスター、というよりやっぱり王女様? ヴァレンティーナ様の登場にその場にいた連中が萎縮してしまった。

 レオでさえ言葉を失ったが、ピノだけは相変わらずだった。

「兄ちゃん! 食堂じゃないのか?」

「それはこっちの台詞だ。なんで今日はこっちなんだ?」

「美味しい食後のデザートが付くって言うからさ。こっちにしたんだ」

「デザート?」

「なんだ、知ってて来たんじゃないのか? 今週は『食後のデザートどれでも一品無料ウィーク』なんだぜ」

 勿論、デザートだけが無料で出てくるわけではない。銀貨一枚以上、食事を注文したお客様へのサービスだ。定番のランチメニューだったらそこまで高くない。無駄な注文をして差し引きゼロという奴だ。

 全員大盛りを頼んでいるようだから、お互いいい関係を築けたようだ。

 でも甘い物を食べるとお茶が欲しくなるんだよな。

 本来『銀花の紋章団』の団員はこちらを利用するべきなのだろうが、僕は付き合いからあちらを利用している。

 他の客たちも魔女に王女様に町の守備隊長の登場に神経を尖らせている。

 せっかくの昼食が喉を通らないだろうが、申し訳ないとしか言いようがない。

「リオナ姉ちゃん、肉取れたか? 肉」

「フフフフ、大量なのです」

 周りの客たちの目の色が変わった。

「みんな肉祭りのファンかな?」

「たぶんね」

 ピノの言う『肉』がドラゴンの肉を指すかはふたりの暗黙のうちであるが、迷宮でドラゴンが獲れる事実は冒険者ギルドでも秘匿事項に該当しているということを忘れないで貰いたい。

 一定レベルの冒険者にしか情報が下りてこないようになっているのだから。

「言っておくけど――」

「分かってるって」

 ピノの言葉に全員が頷く。

「ばらすなよ」

 姉さんも釘を刺した。

「分かってるって、姉ちゃん」

 ピノが言った。

 周囲の人間が一瞬、凍りついた。

「姉ちゃん」とは侮って言ったのではなく、あくまで僕の姉という意味で言ったのだが、僕たちの関係を知らないとこういう反応になる。

「魔女に向かってなんてことを、殺されるぞ!」と。

 遠巻きにされがちな姉さんやアイシャさんにとって、実際のところピノは可愛い奴なのだ。

 そもそも僕を『兄ちゃん』と呼んでいる時点でこういう反応が欲しいところではあるが。

 てっきり仕事があるだろうから帰ると思っていたのだが、三人はその素振りも見せない。

 最後まで付き合う気だろうか?

 たぶん今日中に四十七階層には行けないと思うが。


 さて午後の部、開始である。

 また新しい魔物の登場だ。

 火竜にアイスドラゴンとアースドラゴンが出た。

 全然目新しくなかった。

 その分、迷宮補正を実感した。

 唯一、石竜という奴が出た。

「大したことなかったのです」

 通常硬くてとてもやりづらい竜らしいのだが、余り違いは感じられなかった。

 今回一番大変だったのは、アイスではなくアースドラゴンだった。

 なんでと思う程、頑丈だった。いつもなら落石攻撃でイチコロなんだが、天井が低いせいで使えなかったから苦労した。

 というよりまさか落石攻撃が最良の攻撃手段だとは思っていなかった。

 最初に落石を使ったアイシャさんですら、単なる偶然だと知ったのはついさっきだ。

 兎に角、結界を捨てた潔さの分だけ硬かった。魔法も物理攻撃も利きづらかった。

 頭上からの鈍器による衝撃攻撃に弱いと気付くまで随分と時間が掛かってしまった。

 ヘモジのミョルニルに活躍して貰った。

「ナーナーナ」

 ご機嫌であった。

 

 休憩時間になった。

 外で休もうと思っていたのだが、敵の交替を考えると面倒臭くなってしまって、中で休むことにした。

 休憩所を出すべきか悩んでいたら、リオナとヘモジに「なんで出さないの?」とじーっと見られてしまった。

 呆れられるのは今日に始まったわけじゃないしな。

 ででーんと休憩所を出したら、やっぱり呆れられた。

 何もしていない癖に一番いい場所を取られた。

 なんか、中間管理職みたいで胃が痛い。

 お茶くれ、お茶。

「バウムクーヘンだ」

 まだ残ってたのか……

 少ししぼんでた。

「人数分足りなくなったから、特別なのです」

 リオナとふたりバウムクーヘンだったが、他のみんなはカヌレだった。

 数が足りなくなったか…… リオナが我慢してるんだから残り物でも文句は言うまい……

 なぜ背を向ける?

 覗き込むと……

「あー、そっち砂糖付きじゃないか! 半分寄越せ、リオナ」

「しょうがないのです」

「……」

 一個丸々くれた。

「気前がいいな…… て、お前! なんで二個持ってるんだ」

「リオナはこれからおっきくなるのです。ハンデなのです。いいから半分寄越すのです」

「べつにいいけどさ」

 僕のバウムクーヘンを半分にして、リオナに渡した。

「これが公平というものなのです」

 どの口が言うか!

 その口がパクついた。

「やっぱりそっちの方がいいのです。交換して欲しいのです」

「食い掛け寄越すな!」

「ケチなのです」

「分かったよ。砂糖付き半分やるから」

 結局こっちは一個分だけか。

「溜め込んでる物を出せばよかろうに」

「ああ! そうだった」

 シュークリームがたしかあったんだ!

「人数分ないから、リオナだけ一個だな」

 みんな二個ずつ受け取った。

「そっちの方がいいのです」

「だから食い掛け、寄越すなって」


 予定通り、定時を以て五十階層攻略を完了した。



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